アインズは自室に入り、その後ろからフィースも入室する。
そのまま2人はいつも座っている椅子に座って向かい合い、アインズは早速フィースに問いかけることにした。
「フィース。一体アルベドと何があった?」
フィースは少し俯き、申し訳なさそうにした後、アインズと視線を合わせる。
「はい、実は──」
アインズはフィースから事の顛末を聞き、腕を組む。
「なるほどな。それでアルベドは泣き始めてしまったのか」
「はい。その、も、申し訳ございませんでした!!」
フィースは椅子から立ち上がったかと思えば、流れるようにアインズに土下座をして謝罪する。
そんなフィースを見て、アインズ罪悪感を覚える。
(完全に俺の責任だ。俺がアルベドにあんな設定を書かなければ…)
いくら出来心だったとはいえ、アインズがアルベドの設定を捻じ曲げたことは事実であり、それによってアルベドは振り回され、悲しませてしまった。フィースに責任など一切ない。もちろん、アルベドにも。
アインズはフィースの腕を取って立たせてやり、向かい合う。
「フィース。謝らないでくれ。全部俺の責任だ」
「いえ、そのようなことは──」
「俺の責任なんだ」
アインズはフィースに有無を言わさず、自分の責任だと主張し、フィースに頭を下げる。
「フィースもすまなかった」
「あ、頭をお上げ下さいアインズ様!!私のことなどお気になさらず、アインズ様がそのようにお考えであるのならば、アルベド様のところへ一刻も早く赴いてください!」
アインズはその言葉に頭を上げる。フィースの言いたいことがわかってしまったからだ。
フィース多分──身を引こうとしている。
何故アインズがそう思ったのか、それは定かではない。強いて言えば勘のようなものだろう。それでも恐らくその勘は外れていない。
ここでアインズがアルベドの元に行けば、フィースは離れることだろう。夜のベッド番はしてくれても、アインズに気持ちに応えてくれることはない。
そう直感したのだ。
アインズは悩む。確かにフィースの言う通り、アルベドの元へと向かった方がいいことは分かっている。でも、フィースに対するこの気持ちはどうすればいいのだろう。
(いや、俺だけじゃない)
フィースの気持ちも、今後どうするのだろう。
昨晩フィースと愛し合ったアインズは、彼女も自分のことを愛してくれていると言うのは分かっている。
しかし今アインズが行ってしまえば、それがたった一夜限りの出来事となってしまう。
正直な欲を言えば、アルベドなど放っておいて、このままフィースと戯れていたい。今日はホムンクルスには変身できないから、一晩中お喋りでもしていればいい。フィースと話をしていれば、アルベドに対する罪悪感など忘れて、心の底から楽しめるはずだ。
だがそれはそれで、フィースの心はアインズから離れるだろう。
自分の責任だとか言っておきながら、何も行動せず、現状維持を良しとするだなんて支配者のする事ではない。いや、支配者など関係なく、1人の男として行う行為ではない。
それにアルベドだって大切な人物だ。恋愛感情はなくとも、彼女は友人が残していった子供の1人であるし、アルベドにたくさん支えられた事もあった。
ならばいっそ、フィースとアルベドを愛せばいい。
アインズはその可能性を考えるが、やはりそれは切り捨てられる。そもそもが誰1人として愛するつもりなどなかった。例え愛したとしても、行動に移すような事などしたくはなかった。
フィースは例外、なんて言うつもりはない。覚悟が甘すぎた、感情に流されすぎた、欲に溺れすぎた。
フィースの創造主、ホワイトブリムさんに何度謝ればいい事だろう。
(ああ、そうか…そういうことか…)
アインズはそこまで考え、漸く、何故自分がそうしたくなかったのか考えが至る。
友人の娘にいかがわしいことをさせるのは嫌だった。
友人の娘を恋愛対象として見たくなかった。
自分は友人の代わりに、残されていった子達の面倒を見なくてはいけない、だから手を出すなんて、もっての外だと──そう思っていた。
だが実際には──この責任を負いたく無かっただけなんだ。
アインズはそれに気がつく。
覚悟も無いくせに、一丁前にフィースを愛して、アルベドの事を棚に上げ、愛などという言い訳を使ってフィースをベッドに誘った。
その行いがどれ程愚かな事なのかを考えずに。
本来であれば、まずはアルベドの問題を解決してからでないといけなかった。シャルティアもそうだ──最近は何故か何もしてこないが。
彼女達との問題を解決してから、それから堂々とフィースの事を考えれば良かったのだ。
だがそれはやはり、責任を負う覚悟を持ってからでないと出来ないわけであり、ここまで逃げ続けていたアインズにそれが出来たのかと聞かれれば疑問は残るが、アインズはもう逃げるつもりはない。
責任を負う覚悟をしたのだ。しなければ話にならない。
むしろここまで追い込まれた状況で無ければ、アインズは覚悟をすることは愚か、自分が逃げていると認識する事も無かったかもしれないが、結果的には覚悟ましたのだし、それで万々歳という事にして欲しい。
アインズは一度深呼吸して、フィースの目を捉える。
「フィース」
「はい」
「これからアルベドのところへ行ってくる」
「かしこまりました…。お待ち、しております」
「その前に、1つだけ聞いてくれるか?」
「は、はい?」
「俺と結婚してくれ」
「ふぇっ?」
フィースは唐突なアインズのプロポーズに、変な声で驚いた。
アインズとしては、もしプロポーズをするのであれば、人生最大の山場であるはずなので、せめてロマンチックなタイミングでしたいと思っていた。
それがどういうわけか、ロマンチックなムードは一切なく、しかも寝室で、フィースはいつもよりも元気がないようなタイミングでのプロポーズとなってしまった。
だが、フィースはアインズのプロポーズの言葉を噛み締めるように、真っ直ぐアインズだけを見つめ、両手で口を抑え、目元を見ると涙が溜まってはいるが、少し皺ができて笑っているのが分かる。
フィースは返事を溜めに溜め、その間アインズはひたすらフィースの言葉を待つ。
そしてフィースの口元の手が外され、小さな声で答えた。
「喜んでお受け致します。アインズ様」
アインズはその返事を聞いて笑顔を──骨なので顔は動かないが──向ける。
(まぁ、ロマンチックは無理だったけど、俺らしいっちゃらしいとも言えるか)
アインズはフィースの顔に手を伸ばし、今は骨である事に気がつき、やはり手を止めてしまう。しかもフィースも今回はその手を取らない。
その代わり、アインズの首に手を回し、少し背伸びをしてアインズに──キスをした。
骨とのキスはどんな感触なんだかアインズには分からないが、フィースの顔は真っ赤なので不快には思っていないのだろう。
フィースがアインズから一歩下がり、アインズは「待っててくれ」と伝え、部屋から出てアルベドにメッセージを飛ばす。
アルベドはすぐに応対して、思っていたよりも元気そうな声だったが、とりあえず執務室で会う事になった。
アインズは執務室に入り、アルベドを待っていると彼女はすぐに来た。目は腫れており、赤くもなっているが、その表情はどこか吹っ切れているようで、いつものような微笑みを絶やさず、アインズのところまで歩いてくる。
「お待たせ致しました。アインズ様」
いつもと同じ口調でアルベドは頭を下げ、その頭を上げると同時に話し始めた。
「そのご様子ですと、フィースと結ばれたのですね。おめでとうございます」
「えっ」
アインズは思わず驚いてしまう。
何故分かったのか、いやそれよりも、何故アルベドがそんな風に言えるのか、とアインズは困惑するが、アルベドはにこやかに笑いかけ、語り始めた。
その内容はアインズとしてはかなりの驚愕なものであった。
もし至高の41人の誰かが見つかれば殺すつもりだった、ということや、ユグドラシル最終日のアインズの気持ちが流れ込んできたこと、そしてアルベドのアインズに対する気持ち、など今までアインズが知らなかった事をアルベドは語る。
そして、アインズを愛していない、とも。
これら全てを語るつもりになったのはフィースに言われたことが原因だと言う。アインズはフィースからある程度は話を聞いていたが、アルベドが何を考えていたのかまではフィースも知らない。
アルベドは何度もアインズに謝った。守護者統括から降ろしてくれとも言ってきた。
だがアインズはアルベド以上に守護者統括という地位に相応しい人物を知らない。
「アルベド。それは出来ない相談だ」
「しかしアインズ様!私は御身の御心を鑑みず、不敬なことを──」
「良い、良いのだアルベド。それに、私だってお前に謝らねばならない」
アインズはアルベドの設定を書き換えてしまったこと、それがほんの出来心であり他意は無かったこと、そしてその気持ちに応えられなかった事に対して謝罪をした。
「──本当にすまない」
アインズは頭を下げ、アルベドは慌てて頭を上げるよう言うが、許してもらうまで頭を下げ続けるつもりだ。
「お願いしますアインズ様。許します!許しますので、頭を上げてくださいませんか?」
アルベドは涙ぐみながらそう言い、アインズは漸く頭を上げる。
その後アルベドと話をして、彼女が心の底からアインズとフィースの結婚を喜んでくれているのが分かり、アルベドの最後のお願いとして「モモンガ」と呼ぶ事をこの日だけは許す事にしたのだった。
アルベドをとっとと脱落させたかったので、こんなに短い話を書く事にしました。
さらばアルベド。きっといい人が見つかるよ。