ただ痛いだけの生意気な小娘だと思ったら、その正体は僕の想像を遥かに超えてきた。。。【貴族教師マリア、君との約束】 作:村上しんご
先生の魔法で転移した僕たちは、目の前に広がる壮大な光景に一瞬言葉を失い、ただ呆然と見つめた。
いくつもの高層ビルが聳え立ち、アスファルトで舗装された道には車が走り、大型ディスプレイが広告や天気予報を映し出す街並みは、僕らの見慣れた普段の光景で、とても異世界とは思えなかった。
僕たちの世界とフェルナス公国の交流は、僕らの想像以上に進んでいて、ここフェルナス公国の首都は見事な発展を遂げていた。
中世のヨーロッパのような街並みが所々に残っているが、先生たちが持ち帰った技術は、ここの文化と融合して、新たな文化を作り上げていた。
「ここが公国の首都ハウゼンです…まだ地方の領地には行き届いていませんが、あなたたちの文化は、この国に少しずつ広がっています…」
そう言って誇らしげな顔をする先生は、自分の成し遂げた功績に満足しているのか、その顔には清々しさまで現れている。
相変わらずのポーカーフェイスだが、この光景を僕たちに見せることが出来て嬉しいのか、その瞳もキラキラと輝いていた。
何かを言って欲しいと期待しているその様子は、まるで子供のようで、普段は見られない先生の姿に僕や生徒たちは吹き出しそうになりながらも、思ったままの感動を口にした。
「すっげぇーーーー!」
「まるで渋谷みたいだね!」
「帝国はこんなんじゃなかったよ!」
そう言って、はしゃいでいる生徒たちの姿に、先生は満足そうで、その顔には少し笑みがこぼれていた。
その時、佐藤さんが「あれ見て!凄い!」と指さした。ビルの群れの中央に堂々とそびえる王宮は、高層ビルにも負けないくらいの圧倒的な存在感を示していた。
石造りの尖塔と城壁を堂々と構え、風に揺れる旗やステンドグラスの輝きが、中世のヨーロッパを思わせる。
ハウゼンの近代的な喧騒の中で、王宮だけが歴史の重みを静かに刻み、威厳に満ちて力強く佇んでいた。
「あれは、これからお前たちが滞在するフェルナス王宮です…」
先生の言葉と共に生徒たちは「わぁ~!」と声を上げ、口をポカーンと開いたまま、呆気に取られた様子で王宮を眺めていた。
その時、街の光景に圧倒されたテント村の子供たちが、ぼろぼろの服を着たまま、互いに寄り添い小さな手で裾を握り、怯えた目で僕を見つめていた。
僕はその不安そうな視線に胸を突かれて、子供たちを安心させようと恐る恐る先生に尋ねた。
「江洲小原先生…帝国から連れてきたテント村の住民たちも、連れて行って構わないでしょうか?」
「もちろんですわ…この者たちが生活の基盤を築くまでは、フェルナス公国が守ります…」
先生の言葉に、今まで不安そうだったテント村の住民たちは、胸をなでおろし、涙ぐむ者さえいた。
帝国の圧政に耐えてきた人たちにしてみれば、ハウゼンの自由な光景は夢のようで、希望の地だと感じているのだろう。
そんなハウゼンの住民たちは誰もが生き生きとしていて、道行く人々でさえ活気が溢れて輝いている。
僕は迷宮に住むクラゴールたちの事も含めて、帝国での出来事を江洲小原先生に包み隠さず話した。
「全て分かっていました…これから、お前たちを元の世界に帰すことも議題に入れて、国政会議を開きます…」
そう言って鋭い眼差しで毅然と立つ江洲小原先生は、この国の頂点に君臨する皇帝そのもので、今までの教師の顔はどこにも無かった。
いつの間にか、僕たちの周りを何台ものリムジンが静かに取り囲み、ドアから執事のセバスチャンと護衛の騎士たちが降り立った。
懐かしく思えるその面々に、生徒たちは思わず駆け寄って声を掛けるが、先生は「再会の挨拶は王宮に着いてからになさい…」と言って急かしている。
僕や生徒たち、安堵した表情のテント村の住民たちは、それぞれのリムジンに乗せられ、遠くに聳える王宮へと向かっていった。
リムジンがフェルナス王宮の中庭に静かに停まり、僕たちが降り立つと、目の前に壮麗な大門がそびえていた。
白亜の大理石の柱が陽光を浴びて輝き、門の上には公国の紋章が金色に浮かんでいる。城を守る騎士たちが整列し、鎧の音が静かに響いた。
「うわ、めっちゃ豪華!映画のセットみたい!」佐藤さんが叫び、伊藤君は「これ、絶対現実じゃないよね…」と呟いて目を丸くした。
生徒たちはキラキラした目で王宮を見上げ、テント村の住民たちは圧倒されつつも安堵した表情で小さな子を抱きしめた。
江洲小原先生は、そんな中で堂々と広間へと進み、鋭い眼差しでセバスチャンに命じた。
「国政会議の準備を急ぎなさい…」
「公爵様たちの到着が遅れています…まずは謁見の間で過ごされた方が宜しいかと…」
僕たちはここで初めて見る、皇帝としての江洲小原先生の姿に息を呑んだ。以前、僕らの世界で総理大臣と会話していた時に垣間見えた堂々とした振る舞いが、ここでは完全に皇帝としての貫禄として滲み出ている。
王宮の荘厳な佇まいに負けないその存在感は、統治者の威厳をまざまざと示していた。
そんな江洲小原先生が急に遠くに感じてしまい、僕たちは声を掛けることすらできなかった。
そして僕たちは無言のまま先生の後に続き、セバスチャンの案内で謁見の間の重厚な扉をくぐった。
無数のシャンデリアが大理石の床を照らし、広大なドーム型の天井には星空のモザイクが輝く。壁には迷宮の民を刻むタペストリーが厳かに掛けられ、クラゴールの記憶を呼び起こした。
高くそびえる玉座にはフェルナス公国の紋章が金色に輝き、その背後に飾られた一枚の肖像画に、僕たちは更に息を呑んだ。
そう、それは先生との別れの間際に僕たちがプレゼントした、貼り絵で作った江洲小原先生の肖像画だった。
金色の枠に収められたそれは、僕たちがまた先生に会えますようにと、願いを込めて一つ一つ張り合わせて作ったもので、お世話になった先生への思いが込められていた。
丹精込めて一生懸命に作ったとはいえ、素人の僕と生徒たちで作り上げたそれは、作りも粗末で人前に出せるようなものじゃない。
しかし、それはまるで国宝のように丁寧に保管され、国を象徴するこの謁見の間に大切に飾られていた。
あの裏山で号泣した、先生の「あなたたちの先生になれて良かった」という言葉が、胸の奥に熱く蘇る。
一瞬、肖像画に目を向けてフッと見せる笑顔には、裏山での温かさがそのまま宿っていた。
僕たちの思いを大切にしてくれる江洲小原先生は、どこに居ようと、どんな立場であろうと、僕らの事を一番に考えてくれる担任の先生だった。
僕は少しでも先生に疎外感を感じてしまったことを恥ずかしく思った。
先生と僕たちの絆は、どんな時も、どんな試練があっても決して揺らぐことはないのだ。
テント村の住民たちが、希望に満ちた目で肖像画を見つめ、子供の一人が「きれい!」と囁いた。
「先生…その絵って…」
その時、佐藤さんが涙を浮かべた瞳を見開きながら、震える声で呟き、身体を硬直させた。宅間君も「先生、僕たちの絵を…」と声を詰まらせ、他の生徒たちも一心不乱にその絵を見つめながら、声も出せずに涙ぐんでいる。
感動に浸る僕たちを前にしながら、先生はゆっくりと玉座に腰を降ろし、皇帝としての言葉を僕たちに投げかけていった。
「この度、この世界に召喚されてしまったあなたたちに、つらい思いをさせてしまったことを、心から謝罪いたします…しかし、私とフェルナス公国が、必ずあなたたちを元の世界に帰すと約束します!」
その力強い言葉に、僕たちは今までの不安が一瞬で消し飛んでいった。これから、どうなるのだろうと巡らせていた悲観的な考えなど無用だったのだ。
江洲小原先生に会えれば何とかなると思っていた希望は間違いじゃない。どんな状況に陥っても打開して未来を切り開くのが江洲小原先生なのだから。
「そして、帝国から来たテント村の住民たちよ…長きにわたり苦難を耐え抜いたその勇気に、フェルナス公国は敬意を表する! この地に至った今、苦労は終わりを迎えた!」
謁見の間が静寂に包まれ、住民たちが息を呑んで先生を見つめた。子供の一人が母親の手を握り、希望に満ちた目で小さく頷いた。
すると、先生はふっと肩の力を抜き、まるで教室で僕たちに語りかけるような柔らかな笑みを浮かべた。
「…本当に、みんなさん大変でしたね…でも、もうそんな心配はいりません…これからは、このフェルナス公国で、私たちと一緒に新しい未来を切り開きましょう!」
テント村の住民たちの目から涙が溢れ、子供が「やった!」と手を叩いた。佐藤さんが「先生…!」と声を詰まらせ、伊藤君も「やっぱり先生だ…」と呟いた。
謁見の間は、クラスの絆と住民の希望が溶け合い、新たな未来が輝き始めた。
「閣下、公爵様たちがご到着されました…」
そんな時、扉からセバスチャンが落ち着いた足取りで現れ、穏やかな声で告げた。
「美濃又、帝国の話を色々聞きたい…お前も会議に出席しなさい…」
先生の言葉と共に謁見の間の空気が静かに張り詰め、国政会議の幕が今まさに上がろうとしていた。
僕は意を決して、先生の後に続き国政会議の会場へと向かった。
~to be continued~