ただ痛いだけの生意気な小娘だと思ったら、その正体は僕の想像を遥かに超えてきた。。。【貴族教師マリア、君との約束】 作:村上しんご
大会当日、王宮前の広場は大勢の民衆が埋め尽くしていた。しかし、粗末な服に身を包み、肩を落とした民の姿には希望の欠片すら無く、どんよりと曇った目は輝きさえ失くしていた。
煤けた顔で子供の手を握る母親や、使い古された道具を手にしたボロボロの服を着た職人が、重い足取りで次々と集まってくる。
彼らの視線の先に堂々と聳える王宮のバルコニーには、豪奢な貴賓席が設けられ、フローレス公爵とその側近たちが、宝石をちりばめた衣装に身を包み、蔑むようにその光景を見下ろしていた。
公爵はワイングラスを傾けながら、隣の貴族にニヤリと笑みを浮かべながら囁きかけた。「所詮は愚民だ」と漏らすその声は、広場には届かずとも、彼らの傲慢さを際立たせていた。
広場の周りには武器を携え、黒い甲冑を纏った帝国騎士団が取り囲み、武力の脅威をチラつかせて国民たちを威圧していた。
抵抗しても無駄だと言わんばかりの重圧は、この国の現状を象徴してるかのようで、国民たちは怯えと諦めが入り混じった虚ろな顔で途方に暮れていた。
一方、イレーネ率いる近衛騎士団は、バルコニーに陣取る貴族たちの警護に立っているが、その目は高飛車な態度を取る貴族たちを鋭く見据えていた。
銀色に輝く鎧に身を包んだその姿は、唯一の希望のようにひときわ輝いているが、その場のどす黒い雰囲気の中では不釣り合いにしか見えなかった。
大公率いる諜報部は、建物の屋根や櫓の上から民衆たちの警戒をしているが、バスタ自身は立場上、貴族たちと席を連ねている。
相変わらず、険しい顔をしながらも何を考えているのかわからない大公の存在に、周りの貴族たちは少し委縮しているようだ。
そして中央には、皇帝の冠と赤いマントを羽織ったリカルドが玉座に座り、難しい顔をしながら民衆の様子を見まわしていた。
決意を固めたその表情は、今までとは明らかな違いを見せているのに、フローレス公爵たちは気付きもしない。
僕と佐藤さんと伊藤君は民衆の中に紛れて、そんなリカルドを見守っていた。そして大会の開催が高らかに宣言され、民衆が見守る中、リカルドが壇上に上がる。
感情のない冷え切った目で見ている民の視線に、リカルドは何を思っているのだろうか。
諦めと虚無の入り混じった感情の中、リカルドは堂々とした態度で穏やかに言った。
「長い間、お前たちに目を向けられずにすまなかった…」
リカルドの一声に国民は何が起こったのかとざわめきだした。煤けた顔の母親が子供の手を握りしめ、職人が道具を握る手に力を込めた。
「皇帝…本気なのか?」と呟く声が、瞬く間に広場に広がった。高みの見物で寛いでいたフローレス公爵も、リカルドの変化に気付き、慌てて立ち上がろうとする。
しかし、大公バスタが彼の肩を押さえ、静かに言った。
「まあ、ゆっくり話を聞こうじゃないか…」
笑顔でそう語るバスタの落ち着きように、呆然とするフローレス公爵は、何が起こったのかと混乱しているようだった。傀儡のはずのリカルドが自らの意志を持ち、奴隷として見ていた民衆たちに謝罪の言葉を贈ったのだ。
ざわめく貴族たちを背にして、リカルドは更に言葉を続けた。
「かつて、この国は汝らの笑顔が溢れていた…だが、無能な私が皇帝になり、この国は闇に包まれ、お前たちから笑顔は消えていった…無能であることを理由に、私はお前たちから目を背け、現実から逃げていたのだ…心から詫びる!」
そう言って深々と頭を下げるリカルドの姿に、国民たちは言葉も出せずに呆然としていた。しかし、今まで淀んでいたその目には、少しだけ光が宿り始めていた。
バスタに肩を押さえられたままの、フローレス公爵は「ば…馬鹿なことを…」と言って口をパクパクさせている。
しかし、混乱し始める貴族たち中で、頭を上げて民衆を見据えるリカルドは、厳格な顔で更に言葉を重ねていった。
「今ここに、汝らの笑顔を取り戻し、新しい帝国を築くことを誓う! 我々はフェルナス公国と手を結び、誰もが望む国を作るのだ!」
その瞬間、【皇帝の威光】が眩く輝き、広場を金色の光が包んだ。民衆の冷え切った目が希望に変わり、「あのフェルナス公国…」と呟く声が広がっていた。
誰もが憧れを抱く【フェルナス公国】という言葉に、人々は期待せずにはいられなかったのだろう。
骸のように覇気の失くした民衆の姿は、少しずつ活気が漲り、リカルドに向かられる目は羨望へと変わっていた。
「私は、もう今までの過ちを繰り返すことはない!これからは民の為に国を豊かにし、誰もが笑顔になれる国にすると約束しよう!」
その力強い言葉に母親が子供を抱き上げ、職人が道具を掲げ、若者が拳を振り上げた。民衆から「皇帝! 皇帝!」と叫ぶ声が少しずつ広がっていった。
貴族たちのざわめきは驚愕に変わり、帝国騎士団さえも動揺を隠せなかった。
そんな中で、苦渋の顔をするフローレス公爵が叫ぶ。
「何を勝手なことを!お前たち、皇帝をひっ捕らえろ!」
フローレス公爵が近衛騎士団にそう命じるが、イレーネの部下たちは誰も動こうとはしない。
その時、イレーネが一歩踏み出し、剣を抜いて高らかに宣言した。
「フローレス公爵、貴方たちの時代は終わった…真の皇帝はリカルドだ!」
彼女の声が広場に響き、近衛騎士団が一斉にリカルドの側に立つ。銀色の鎧が陽光を反射し、希望の光のように輝いた。
しかし、フローレス公爵は直ぐに広場を取り囲む帝国騎士団に向かって声を上げる。
「お前たち、こいつらを何とかしろ!」
その声で帝国騎士団が王宮のバルコニーに向かって駆け付けようとした時、聴き慣れた声が広場に甲高く響いた。
「お待ちなさい!我がフェルナス公国は、皇帝リカルドが率いる帝国と同盟を結びました…フローレス公爵に付く者は反逆の意志があるとみなし、拘束いたします!」
そう言って颯爽と現れたのは、フェルナス公国の軍勢と、公国に残してきた生徒たちを引き連れた、江洲小原先生だった。
生徒たちは少し懐かしく感じるが、精悍な顔つきで先生の後に続くその姿は、逞しくさえ感じた。
宅間君を筆頭に山下君や白石さん、田中君や林さんなどの見慣れた面々が軒並み顔を連ねている。
佐藤さんと伊藤君がこっそりと手を振っているが、フードを被った僕らには気が付かないようだった。
広場に集まった大勢の民衆は、その姿を羨望の眼差しで見つめ、まるでモーゼの海割れのように群衆の中に道が開けていく。
その中を彼らを率いて堂々と歩む先生の姿は、威厳に溢れていて、いつもと違う白のドレスを風に靡かせている。
トレードマークの扇子を片手に、ツインに束ねたドリルのような巻き髪を揺らす姿に、広場に居る誰もが圧倒されていた。
「あれが…マリア・エスコバル様…」
そんな声が民衆の中に広がっていく中で、先生は彼らを引き連れたまま、王宮に向かって歩み続けた。
先生とリカルドが手を取り合えば、民衆に希望が生まれ、この作戦は終わりを迎えるが、フローレス公爵がそれを簡単に許す筈が無い。
「これはフェルナス公国が企てた反乱だ!奴らを迎え撃て!」
フローレスの声で、たじろいでいた帝国騎士団が、先生たちに向かって一斉に襲い掛かっていった。
だが、先生は動じることも無く、持っていた扇子をサッと開いて、お構いなしに前に突き進んでいた。
「螺旋翔 古の舞い…」
そして先生は、そう言って持っていた扇子を使いながら、まるで日本舞踊のように優雅な舞いを始めた。
すると風が唸りを上げながら、木枯らしが渦を巻いて、帝国騎士団の先頭が弾き飛ばされる。
兵士たちが螺旋を描きながら宙を舞い、地面に叩きつけられると、悲鳴と金属音が響き渡った。先生はそれと同時に扇子を掲げ、広場を震わせるような声で宣言した。
「フェルナス公国の名の下に、立ち塞がる者を排除します!」
先生の掛け声とともに、フェルナス公国の軍勢が、帝国騎士団に立ち向かっていった。
宅間君が「了解!」と叫びながら、【閃光の剣】で光の斬撃を放ち、帝国騎士団の隊列を乱した。
針を手にした裁縫師の林さんが【影縫い】で帝国兵の足を止め、ヒーラーの白石さんの【癒しの光】が見方を包み込んだ。
鍛冶師の田中君の【鉄槌の一撃】が敵の盾を砕き、山下君のスキル【波動拳】が甲冑を粉々にする。
そして『こんな僕でも剣を使ったり、魔法が使えたりできるの…?』と言っていた、商人ジョブの小林君が光魔法【シャイニングアロー】で敵の陣形を分断し、農民のジョブの三上君が剣を構えて【一閃】を繰り出し相手を怯ませる。
この場に居る生徒たちの誰もが成長していた。あれほど、己の非力さを悲観していた白石さんたちでさえ、自分の出来る事をしようと努力を積み重ねていたのだ。
僕はふと彼女らが「役に立たない人間などこの世に居ない!」と、先生に怒られた事を思い出し、胸が熱くなっていた。
先生の教えは、大勢いる生徒たちの一人一人の胸に、深く刻まれていたのだ。
そんな中で、王宮のバルコニーにも帝国騎士団が押し寄せていた。イレーネと近衛騎士団がそれに立ち向かい、大公バスタがリカルドを守っていた。
そして、バスタは逃げようとしていたフローレス公爵の首根っこを押さえて、「そろそろ、潮時じゃのぉ~」と言ってニヤリと笑う。
しかし、フローレス公爵は不敵な笑みを浮かべながら、太々しく言った。
「神を恐れぬ愚か者どもめ…神罰を受けるがいい!ミルガルドの神よ、我に力を!」
フローレス公爵はそう言ながら、ミルガルド神をモチーフにしたペンダントを、懐から取り出して頭上に掲げた。
それと同時に、ペンダントから発せられる淡い光が上空へと伸び、そこに異様な輝きを放つ大きなトンネルを思わせるほどの、不思議な空間がポッカリと出現した。
僕と生徒たちは輝きこそ違えど、その空間には見覚えがある。それは先生が僕たちの世界に来ることの切っ掛けとなった、学校の裏山で見たあのゲートと瓜二つだった。
やはり、裏山のゲートが出現したのも、アヴァロン王国と聖ミルガルド神殿が何かしら絡んでいたのだろうか。
僕と生徒たちが元の世界に帰る為には、ゲートの存在が不可欠らしいが、僕はその禍々しさに嫌な予感が抑えきれなかった。
案の定、渦巻く神聖な光の中から、天使のような羽根を生やした、白い物体が次から次へと飛び出てくる。
「はははっ!天使様だ!お前ら報いを受けるがいい!」
その光景に目を輝かせるフローレス公爵は、嘲笑いながらそう言った。そして、バスタの手を振り解き、勝ち誇るようにその場で仁王立ちをした。
神官の法衣を纏ったような形をしたそれは、とても天使と言えるような見た目ではなく、ロボットのように無機質で、まるで人工的に作られた兵器にしか見えなかった。
空中をフワフワと飛び回り、僕たちを見付けるとフードに隠れた目が怪しく光り、それは徐々に輝きを増していく。
民衆たちも、その異様な物体の禍々しさに、ただ事ではないと察したのか、悲鳴を上げながら逃げ惑っていく。
広場は一転してパニックになり、フローレス公爵の甲高い笑い声が、辺り一面に響き渡った。
しかし、僕はそれを見て咄嗟に、佐藤さんと伊藤君に向かって叫んだ。
「よし、今だ!佐藤さんは【聖なる守り】、伊藤君は【広範囲多重シールド】だ!」
僕の言葉と共に、僕と2人は羽織っていたフードを颯爽と脱ぎ捨てる。そして、佐藤さんは持っていた杖を天にかざして【聖なる守り】を繰り出し、伊藤君は手を前方に突き出して【広範囲多重シールド】の詠唱を唱えた。
そして、僕は「螺旋翔 守護の風!」と叫び、先生から譲り受けた扇子を手にしながら、クルクルと回り始めた。
佐藤さんの【聖なる守り】が広場中を優しい光で覆い尽し、伊藤君の【広範囲多重シールド】が逃げ惑う民衆を守るように展開し始める。
そして、僕の【守護の風】が辺り一面に微風となって舞い上がり、広場全体を包み込んでいった。
その時、天使の目から放たれた光線が地面を焦がし、熱風を巻き上げた。だが、僕たち3人の力を合わせた結界は、その光線を完璧に塞ぎきった。
恐怖を感じて逃げ惑う民衆たちが、一瞬、驚愕の表情を浮かべるが、次々と光線を弾く光景に次第に落ち着き、安堵の表情を見せていく。
それを見ていたイレーネが、バルコニーで敵と立ち向かいながらも、「よし、良くやった!後は我々に任せろ!」と力強い声を上げた。
そして剣を振り上げ、「放て!」と叫ぶと、近衛騎士団の矢が一斉に空を切り裂き、天使の体に火花を散らした。
しかし、いくら矢を打ち込んでも、天使たちにダメージを与えた様子はない。奴らは空中を優雅に飛び回り、目につく敵に目掛けて、手当たり次第に光線を打ち込んでいる。
イレーネは苛立ちを押し殺し、「チッ!」と軽く舌打ちした。そして深く息を吸い込み、胸元に剣を構える。
次の瞬間、彼女の体が光り輝くオーラに包まれた。長い金髪が風に靡き、凛とした姿はまさに【太陽のイレーネ】という呼び名に相応しいもので、誰もがその神々しさに目を奪われた。
彼女は構えた剣を天に突き上げ、ゆっくりと円を描いて一周させると、カッと目を見開き大きく叫ぶ。
「瑠璃鳳、グランドクロス!」
イレーネの叫びと共に、聖獣【瑠璃鳳】の形をした斬撃が、天使に向かって轟音とともに突き進む。
広場の石畳が砕け、砂塵が舞い上がった。斬撃が一体の天使に命中し、深い傷を刻み、回路がショートしたような火花と煙が上がった。
その光景に僕らは息を呑んだ――しかし、次の瞬間、天使の傷が淡い光とともに修復され、無機質な金属音が響いた。
それを見て、イレーネが悔しげに声を上げた。
「あの修復機能…上空にいる以上、我々には不利だ…せめて、地上に落とすことが出来れば…」
宅間君の【閃光の剣】が光を放って飛んでいき、小林君の【シャイニングアロー】や林さんの【ファイアーボール】も天使に命中するが、傷一つ付けられない。
このままでは僕らの力が尽きて、広場を覆う結界は消滅してしまう。ピンチを感じて僕らが悲観していると、民衆の中から「あ、あれは!?」と言う声が響いた。
声の上がる方向に目を向けると、そこに白のドレスを纏った江洲小原先生が、上空にプカプカと浮かんでいた。
先生は天使たちの光線を、手にした扇子で軽く弾きながら、涼しげな顔付きで奴らを見据えていた。
「あれは、失われた古代の浮遊魔法!?」
そんな声が何処かから聞こえるが、先生は天使の攻撃を華麗に躱しながら、空を自在に飛び回り、奴らを牽制している。
白いドレスに身を包み、オーラを纏いながら大空を優雅に舞う姿は荘厳で、どちらが天使か分からないほどだった。
天使たちが一斉に狙いを定めたその時、先生は瞬間移動のようにパッと消え、いつの間にか一体の天使の背後に回っていた。
「螺旋降 裁きの軍扇 …」
先生は静かにそう呟くと、テニスのスマッシュでもするように、手にした扇子を天使の頭上から思いっ切り振り下ろす。
すると『バチーン!』という音が小気味よく響き渡り、天使は螺旋を描きながら、真っ逆さまに地面に叩きつけられた。
それはクレーターが出来るほどの威力で、広場は粉塵と砂埃が舞い上がっているが、結界の中にいる民衆に被害はない。先生は考えなしに天使に攻撃したように見えたが、人気のない所を狙って螺旋降を打ち込んでいた。
そんな先生の圧倒的な強さに、帝国騎士団は戦意を失っていた。驚愕するフローレス公爵は声も出せずにワナワナと震え、その顔を真っ青にしていた。
自分たちが誰を敵に回したのか、それを見て漸くわかったのだ。近衛騎士団やフェルナス公国の軍勢と相対していた兵士たちは、降参するようにゆっくりと剣を下ろした。
しかし、フローレス公爵はまだ諦めてないのか、「何をしている、馬鹿どもめ!」と声を荒げる。
先生は、そんな声など聞こえていないように、ふと宅間君に目を向けた。
「宅間、それはお前に任せましたよ…」
先生の穏やかな声が広場に響き、宅間君が「了解!」と叫ぶ。そして、宅間君は剣を振り上げて「【閃光の剣・連刃】!」と声を上げ、握りしめた剣を思い切り振り下ろした。
すると光となった無数の刃が、煙を上げる天使の体を次々と切り裂く。そこへ、追撃するように田中君が【極・鉄槌の一撃】を繰り出し、山下君の【破壊の鉄拳】が天使の体を貫いた。
回路がショートしたように天使の体が感電し、やがてフードの下の眼が輝きを失って、ピクリとも動かなくなった。
それを目にした民衆から爆発的な歓声が上がった。「やった!一体倒したぞ!」母親が子供を抱きしめ、職人が道具を掲げ、広場に希望の炎が広がった。
空中では先生が【螺旋降】で、天使を次々と地上に叩き落している。邪魔な虫を排除するように、やみくもに払っているようにも見えるが、状況に応じてイレーネの近くに叩き落したり、大公バスタの下に落として均衡を図っていた。
地上に落とされた天使たちは、もう彼らの敵ではない。イレーネ率いる近衛騎士団が、彼女の華麗な剣技を中心に天使を撃破すると、大公バスタが斧を使って一刀両断し、諜報部の面々がそこにとどめを刺す。
そして、フェルナス公国の軍勢も僕の生徒たちを中心に、次々と天使を撃破していった。
消えゆく天使たちを目にして、絶望するフローレス公爵の声が壮絶に響いた。
「何故だ!天使様は神の国から舞い降りたのだぞ!お前らごときにやられるはずがない…」
その言葉と共に、フローレス公爵はその場にガクリと崩れ、それを見ていた江洲小原先生が冷たい目をして口を開く。
「何を期待していたのか知りませんが、お前の陰謀はここで終わりです…」
全ての天使を叩き落した先生は、そう言ってゆっくりと地上に降りた。上空はゲートの脅威も消え去り、澄み渡る青空が壮大に広がっていた。
称える歓声が広場に響く中、先生はその足で王宮のバルコニーに立つ、リカルドの元へ向かう。
そして、2人はガッチリと握手を交わし、その堂々とした2人の皇帝の姿に民衆が湧いた。
「これまで、あなた達を苦しめる貴族たちの行いを知っていながら、我がフェルナス公国が何もできずにいた事を、私からも心から謝罪いたします…」
そう言って先生は、リカルドと同じように国民に対して深々と頭を下げた。今まで苦しみに耐えてきた民には、思う所もあったはずだが、不満や皮肉の声は一切上がらなかった。
希望に目を輝かせ、先生やリカルドを称える声援を送っている。そんな歓声の中で、先生は再び声を上げた。
「しかし、我がフェルナス公国とディルファス帝国が同盟を組んだ今、同じ過ちは二度と繰り返しません…これから、あなた達一人一人が輝ける国を作ると、私、マリア・エスコバルと皇帝、リカルド・マルチネスが共に約束いたします!」
その言葉に民衆が「マリア・エスコバル!リカルド・マルチネス!」と歓声を送り、子供たちが旗を振り、老人が涙を拭った。広場は熱気を帯びて、興奮の渦が巻き起こっていた。
そして、顔を青くする貴族たちと、崩れたままのフローレス公爵を前に、リカルドが更に言葉を重ねる。
「新しい帝国を築く為に、古い考えの膿は全て排除する!イレーネ・フォン・エスターライヒ、この者どもを拘束しろ!」
その言葉に、イレーネを筆頭にした近衛騎士団が、フローレス公爵とそれに味方する全ての貴族をひっ捕らえた。
拘束されたフローレス公爵は、虚ろな目で民衆の歓声を呆然と聞いていた。彼のペンダントが地面に落ち、微かな光を放っている。
宅間君が剣を下ろし、林さんが仲間と笑顔を交わした。僕はそんな生徒たちを見つめながら、一仕事を終えた満足感に胸を熱くさせていた。
マリア・エスコバルがいる以上、もう、この帝国に脅威はない。それを祝福するかのように、王宮の屋根から白い鳩たちが大空に一斉に羽ばたいていった。
第二章 〈ディルファス帝国編〉 Fin