ただ痛いだけの生意気な小娘だと思ったら、その正体は僕の想像を遥かに超えてきた。。。【貴族教師マリア、君との約束】   作:村上しんご

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<episode3> 先見の明 (前編)

「美濃又、参りました…失礼いたします…」

 

 そう言いながらドアをノックすると、江洲小原先生の在室する執務室の扉はゆっくりと開かれて、その中の光景を見た僕は余りの豪華さに言葉を失っていた。

 まるで学校とは思えないほど煌びやかに彩られた執務室は、校長室など遥かに凌ぐ程の装いで、それこそ時空を超えて異世界の王宮にでも居るかの様だった。

 執事とメイドが部屋の入り口でお辞儀をしながら僕を出迎える様子は、まるで異国の映画の一場面の様でとても現実とは思えない。

 

 真っ赤なカーペットを敷き詰めた部屋の壁際には、アンティーク調の本棚が所狭しと並べられ、その中には難しそうな文字の書かれた書物がギッシリと詰まっていた。

 部屋の奥には壁一面を覆うほどの誰かの肖像画が堂々と飾られて、その前の豪勢な造りの机には、江洲小原先生がいつもの扇子を手にしながら腰を掛けている。

 

「何をしてるの?まずはそこにお掛けなさい…」

 

 そう言って僕を見据える江洲小原先生は相変わらずの無表情で、僕はその貫禄にたじろぎながらも彼女に向かって歩み寄っていった。

 部屋の中央には落下したら徒では済まないと思えるほどの、大きくて煌びやかなシャンデリアが吊るされて、その真下には接見用の応接ソファーが大きく陣取っている。

 僕は物々しいその場の雰囲気に怯みながらも、その応接ソファーに腰を掛け、何を言われるのだろうかと頭の中をフル回転させていた。

 

「美濃又…ワタクシがこの学校に着任してから1週間が経ちますわ…」

 

 そう言いながら僕の座っている応接ソファーに向かってくる彼女は、いつもの様にパーティーにでも出席するかの様な装いで、ツインに束ねたドリルの様な巻き髪をユラユラと揺らしている。

 穏やかな声色と対照的な氷の様に冷たいその顔は、何か含みがあるようで僕の不安な気持ちを更に加速させていた。

 なぜ呼ばれたのか見当も付かない僕は、心の読めない彼女の様子に怖気づき、何も悪い事はしてないのに何故だか後ろめたさまで感じ始めていく。

 

 そんな僕を一瞥しながら、対面のソファーに腰を降ろす江洲小原先生は、閉じていた扇子をパッと開き、自分の口元をゆっくりと隠し込んでいった。

 

「アナタもそろそろこの状況に慣れて…ワタクシと意思疎通が図れる頃合いだと思っていたのですが………どうやら見当違いの様でしたわね…」

 

 ふんぞり返りながらそう言って、僕を見つめる奥深い眼差しは何処か悲しげで、諦めにも似た感情まで滲みでている。

 まるで母親が子供を叱る時の様な、彼女のそんな態度に困惑する僕は、オロオロして顔も真面に直視できずに視線を漂わせていた。

 

「ど…どういう事でしょうか…?」

 

 そう言いながら額から汗をダラダラと流し、ハンカチでそれを忙しなく拭い続けているのに、彼女は蔑んだ目で僕を見つめながら、持っている扇子でパタパタと自分を扇ぎ始めていく。

 

「アナタ………ワタクシに何か隠してる事がありますわよね?」

 

 彼女のその言葉を聞いた僕は頭の中が真っ白になり、動揺して震えだす身体を何とかして収めようと、必死になって平静を装っていった。

 

「な、何の話でしょうか?…僕には心当たりがありませんが…ハハ…」

 

 そんな風に言ってはいるが僕はこの時、教師生活を脅かす程の窮地に立たされていて、自分自身では解決で出来ない程の闇を抱えていた。

 しかしそれは自ら墓穴を掘った自分自身が悪いのであって、誰かに何とかして貰うような話では無い。

 まして出逢って1週間しか経っていない職場の仲間に相談したところで、何とかなるだろうと思う程厚かましくも無い。

 

「そうですかぁ………あくまで白を切ると言うのですね…」

 

 そう言って少し残念そうにする彼女の顔は本当に悲しげで、いつもの様な氷の微笑みは浮かんでこなかった。

 

「隠してる事など何もありません…もし何かあったとしても自分で何とかしますので!」

 

 強気の態度を見せてはいるが、この時の僕にはそれを解決する糸口さえ見えてはいない。

 

「分かりましたわ…そこまで仰るなら後は何も聞きません………異国から手に入れた紅茶を用意致しましたの…飲んでいって下さいまし…」

 

 しかし彼女はこれ以上僕を追求することも無く、メイドが用意した紅茶を勧めながら、何事も無かった様に他愛無いお喋りを始めていった。

 愛想よく相槌を打ってはいるものの、僕は心ここにあらずで彼女の話しなど、全く耳に入ってはいなかった。

 江洲小原先生はハッキリとは言わなかったが、僕が隠している秘密の事を知っている。

 

 どんな経緯でその情報を掴んだのかは分からないが、それが学校中にも知り渡ってしまうのは最早時間の問題だろう。

 早急に解決しなければ学校に居られなくなってしまうのは勿論で、僕はもう二度と日の当たる世界すら歩けなくなってしまう。

 放課後になり学校を退勤した僕はこの状況を何とかしようと、いつもの様に繁華街の路地裏にある裏カジノに足を運んでいった。

 

 

 

               ~to be continued~

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