【遊戯王5D'sタッグフォース】小波シリーズ〜時間跳躍(タイムパラドックス)とコナミ〜   作:ふれれら

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※ジャックがコナミとタッグリーグ目指すか独りでシングルリーグ行くか悩んでいたのはTF6、ジャックがコナミを武者修行に連行したのはTFSP、クロウがコナミをチームに誘ったのはTF6、鬼柳とのプロ荒らしはTFSP鬼柳ルート、遊星が街を出ていくコナミを見送ったのはTF6遊星ED
※B・チャリオットについてはWCS2010です。
※コナミがDホイール持ちなのにDホイールに乗らないのはTF5偽ジャックルート。アーククレイドル落下の裏で鬼柳や牛尾さんと一緒にゴーストと戦って街を護ってたのはTF6牛尾ルート、WRGPの裏でやってた毎回パートナーが変わるタッグデュエル大会はTF5と6のDR2ルートです。



エンディング①牛尾 哲END〜首なしDホイーラーと幽霊の話〜

 

「乾杯!」

黄金の泡が弾ける。グラスの音が、騒がしい居酒屋に高らかに響いた。

牛尾はビールを一気に煽ると、「ぷはっ!」とジョッキを置いた。

 

「ちょっと前までガキだったのによ。一丁前に酒なんざ飲めるようになりやがって」

 

言葉とは裏腹にひどく上機嫌に響く牛尾のセリフに、遊星は口許に笑みをはらって、牛尾と同じようにグラスを煽った。

 

ジャックにクロウ、アキ、龍亞、龍可。

皆、それぞれの道へと旅立っていった。寂しくもあるが、ひどく誇らしい。

 

カウンター席に牛尾と二人。並んで、酒を煽った。

旅立っていった仲間たちの、思い出話は尽きない。

 

「もう三年近くになんのか。ったく、年を食うわけだぜ」

「あの頃のオレたちが見たら、なんて言うだろうな」

 

牛尾と出会ったとき、遊星もジャックもクロウもまだ未成年だった。

サテライトとシティは断絶していて、ダイダロスブリッジは伝説のまま。差別も激しく、牛尾はサテライト育ちの遊星を見下していたし、遊星もセキュリティと笑って杯を交わす日が来るなんて思わなかった。

 

「お前と並んで飲む日が来るなんてな」

「そりゃこっちのセリフだ」

 

キンッ、とグラスが二つ揃って音を立てる。

飲みに誘ってきたのは牛尾の方で、行きつけの店を選んだのも牛尾だった。

明るくて軽やかで良い店だ。それなりに有名な遊星がいても、やたらと騒ぎ立てるような様子はない。

 

「ジャックも、クロウも、アキも、龍亞も、龍可も。みんな自分の道を走り出したばかりだ。オレも負けてはいられない」

 

遊星の所属は海馬コーポレーションの開発部だ。新型モーメント制御装置『フォーチュン』は稼働を開始したばかりだが、順調に動いている。今後は、同型のシステムが、モーメントを扱う世界のあらゆる都市に流通することになるだろう。それが未来を守ってくれるはずだ。

 

「次はなに作ろうってんだぁ?」

「まだ絞り切れてないが、プロジェクトはいくつか動いている。どれかの専属になるだろうな」

「よくやるぜ、俺にゃあサッパリだ。昔からオメーは器用だったな。なんにもねえあの頃のサテライトで、デュエルディスクどころかDホイールまで作っちまうんだからよ」

「そうでもない。最初は上手くいかなかった。今のDホイールは三代目だ。最初のDホイールはジャックが壊してしまったし、二代目は小波が改造するまで本当に最低限の性能しかなかった」

「小波か…」

 

ふと呟いた牛尾は、物思いにふけるように少し黙り込んだかと思うと、ビールをまた一気に煽った。ゴク、ゴク、と喉仏が上下する。

 

「小波のヤツ、今どこで何やってんだろうな」

「きっとどこかでデュエルをしているさ」

「はっ、違いねえや」

 

小波はデュエルを求めてこの街を旅立っていった。

また突然ぶらりとこの街に現れるかもしれないし、生涯現れないかもしれない。

だが、いつか再び出会うだろう。デュエルをしていれば、必ず。遊星はそう、確信している。

 

「ネオドミノシティは平和になった。今のこの街は、小波には静かすぎるのかもしれないな」

「ま、アイツはとにかく神出鬼没だったからなあ。なんつーか、まだこの街にいるような気がしてくるぜ」

「そうだな、今にもひょっこり顔を出しそうに思える」

「しばらくツラ見ねえと思ったら、ジャックの武者修行について行ってたって?」

「ああ。オレもジャックが帰ってきて初めて知った」

 

ジャックは最後までタッグリーグかシングルリーグか迷っていたが、シングルリーグのライドエースを選んだらしい。

小波と共に歩むのではなく、ライバルとして向き合う道を選んだのだと聞いた。

 

逆にチームリーグを選んだクロウは、小波をいち早くチームに誘ったらしいが、クロウは「振られちまったぜ」と苦笑していた。

 

しばらくは鬼柳と組んで、世界中のプロチームを荒らし回っていたと小耳に挟んだが、その後の消息はわからない。

あの日、最後に遊星とデュエルして、街を旅立っていった後の小波を、誰も見ていないのだ。

 

「小波…小波なぁ」

ぐび、とビールの泡をすすった牛尾が、物言いたげにそう呟いた。

「まぁたどっかで事件にでも首突っ込んでんじゃねーかと思って、セキュリティの共通データベースを覗いてみたんだが」

「まさか、何かあったのか?」

「逆だァ逆。なーんもねえ。影も形もねえよ。名前すら引っかからねえ」

 

牛尾はパッと手を開いて、指先をプラプラと振った。

 

「アイツのこたぁ、この街でタッグデュエルをするヤツなら誰でも知ってる。だがよ、アイツ、どこにも公的な記録(ログ)が残ってねーんだよな」

 

遊星はきょとんと瞬いて、首を傾げた。

 

「どういうことだ?」

「サテライト時代のおめーらのチーム、サティスファクションっつったか、セキュリティのデータベースだとメンバーが4人になってて小波がいねえんだよ」

「ああ……そうか、小波がチーム入りしたのは、解散する間際だったからな」

「でだ。WRGPの『チーム5D’s』には、アイツの名前が入ってねえだろ」

「それは…小波は他のチームの控え席(ピット)にもあちこち出入りしてデュエルしていたから、大会規約の関係で都合が悪くて」

「WRGPの予選の裏でやってた、ほら、タッグデュエルの親善大会あったろ」

「小波がパートナーを毎回変えて15部門全部で優勝したアレのことか?」

「アレ、記録されんのって代表者とチーム名なんだよな。だから小波が参加してたっつー記録がどこにもねえ」

 

遊星は目を見開いて、思わず酒を飲む手を止めた。

 

「街を歩きゃあ、小波の知り合いなんざ、わんさか見つかるだろ。けどよ、結局、誰にもこの街に小波がいたっつー証明ができねえんだよな」

「アーククレイドルの件は? セキュリティと協力して、街の騒動を抑えていたと聞いたが」

「あんときは非常事態だったからよぉ。現場も完全に混乱してて、一般人の協力者数名、っつー記録以外、なーんも残ってねえんだよ」

「Dホイールのライセンスは? アレが無いと、Dホイールで公道が走れないだろう」

「アイツ、Dホイールの公的ライセンス、取ってねえんだよ」

 

Dホイールの公的ライセンスは、ネオドミノシティがサテライトと一つになって生まれ変わった時に、運転免許証どころか身分証にあたるものがほとんど存在しないサテライト住民の証明目的で整備された制度の一つだ。

元々シティで活動していたジャックは別として、遊星もクロウも、WRGPに参加登録するために必須だったからすぐに資格を取った。だが、正式なピットメンバーでなかった小波は、ライセンスを取得しなくても困らなかったのかもしれない。

 

「そうか、言われてみれば確かに、WRGPの予選が始まる頃にはもう、小波はDホイールを封印してタッグ専門になっていたな」

「だからセキュリティのデータベースにも載ってねえし調べることもできねえ。つーわけでアイツの足取りを追うのは無理ってワケだ」

「そうか……」

「あんまり綺麗に記録が消えてるもんだからよ、なんつーか、最初からアイツ、いつか綺麗さっぱりこの街を出ていくつもりだったんじゃねーか、って勘ぐっちまうんだよな」

 

遊星は、思考を巡らせた。

小波と過ごした時間を思い、記憶をたどる。そんなそぶりがあったかと、どれだけ思索を巡らせても、返ってくる答えはNoだった。

 

「俺にはそうは見えなかった。あまり名前を残し過ぎると、アングラな場所でデュエルがしにくいとは思っていたかもしれないが」

「はっ、確かに、ンな小難しいこと考えてねえか。デュエル馬鹿だったしな」

 

「それに、小波は確かにこの街にいた。たとえ記録が残っていなくても、オレたちの絆がその証だ」

 

迷いなく告げた遊星に、牛尾は「へっ」とまんざらでもなさそうに肩をすくめた。

 

「小波ほどの腕なら、きっとその内、噂が聞こえてくる。それを楽しみにするさ」

「Dホイールは乗って行ったんだろ? アイツのDホイール、違法スレスレのド派手だしな。捕まってなきゃいいけどな」

「洒落にならないことを言わないでくれ」

 

遊星は苦笑した。

小波のDホイールは、基礎こそ遊星が組んだものだが、魔改造されてとんでもない代物になっている。

ネオドミノシティはDホイールの改造にまだ寛容だから良かったが、国によっては間違いなく捕まるだろう。久しぶりに見る小波の顔が、逮捕者の中というのは中々ありそうで笑えない。なにせ小波は、デュエルさえできれば刑務所の中にも積極的に突撃しそうな危うさがあった。

 

「あのDホイールは、今でも旧サテライト地区の語り草だからな……本当に捕まってなければいいが」

「見たガキが軒並みトラウマになっただの、壮絶すぎて夢に出るだの、後は宇宙にも行けるんだったか?」

「さすがに最後のは噂だと思うが……小波なら何でもアリかもしれない」

「違いねえや!」

 

酒が回った牛尾が、軽快にテーブルを叩いて陽気に笑った。

つられて遊星も微笑んだ。

 

「何だか不思議な感じがするな。ついこの前まで一緒にいたのに、もう思い出話をしているなんて」

「アイツはとびきり派手だったからなあ。ま、俺からすりゃ、お前やジャックやクロウたちも似たようなモンだったけどよ」

「それは心外だが……」

「なーにが心外だ。だいたい、あの化け物Dホイール組んだのお前だろ? なぁに他人ごとぶってんだ」

「それは風評被害だ……確かに基礎を組んだのはオレだが、他のパーツは小波が誰かに貰ってきたものばかりだ。小波は顔がとにかく広かったから」

 

遊星は記憶を辿りながら苦笑した。

 

「オレがしたのは、あのとんでもない数のパーツを全て載せるための無茶の最終調整くらいで……普通はあんな量のパーツを載せたら、暴れて扱いきれずにクラッシュするんだが」

「あー、アイツ、貰ったカード全部使いたいなんてアホみてえな理由でホントにデッキ何十個も使い分けるヤツだったしなあ」

 

牛尾の相槌に、遊星は苦笑した。

小波のタッグパートナーは街中にいたが、その一人一人全員に専用デッキがあると聞いた時は、遊星も開いた口が塞がらなかった。

 

「小波がどんなふうにカードを使うのか、見たくてオレも皆もつい小波にカードを譲っていた。Dホイールのパーツを譲った小波の知り合いたちも、同じような気持ちだったのかもしれない」

「だからってやることが極端なんだよ」

 

それは否定しないが、と遊星は内心で呟いた。

それを言う牛尾だって、小波を構っていた内の一人だったのだから、同罪だろう。だが、それを言うのは野暮というものだ。

 

遊星はグラスを傾けて、ぼんやり居酒屋の天井を仰いだ。

 

「そういえば……」

 

小波、Dホイール、出処不明の、貰い物のカードやパーツ。

酒の回った遊星の脳裏に、記憶がよみがえった。

 

そう、確か。

 

「牛尾、お前、『B・チャリオット』という名前を知らないか」

「なんだぁ? 知らねえなあ」

 

牛尾が肘を付いて、グラスを揺すった。

 

「誰だァ、そいつ?」

「昔、小波のDホイールを調整した時、そう刻印されたパーツがあったんだ」

 

遊星は記憶を辿った。

小波のDホイールを整備したときのことだった。

 

「妙に禍々しい、おかしなパーツだった」

 

 

使われている素材は何の変哲もないのに、性能が明らかに常軌を逸していた。

 

 

「気になって小波に出所を聞いたら、困ったように笑って『首無しDホイーラーの幽霊にもらった』と……」

「Dホイーラーの幽霊ぃ?」

胡乱に聞き返したかと思うと、牛尾は笑い飛ばして「はーん、なるほどなあ」とビールを煽った。

「もしかしてアレかぁ? ほら、アレだよ、ダークシグナーとの戦いが終わってすぐの話か?」

「そうだが……何か知っているのか?」

「昔そーゆー迷惑な悪戯野郎がいたのさ。BADエリアで首無しDホイーラーが出るって噂になっててよ」

 

牛尾はジョッキのビールを飲み干すと「女将さん、おかわり頼むわ」と機嫌良く手を振った。

 

「当然ンな悪質な悪戯はとっちめてやろうとしたんだが、セキュリティの前にはとんと姿を現さねえ。んで、たまたま出くわした小波に、そーいう野郎がいるから気ィ付けろって注意したんだが、小波のヤツ、次の日ぷらっと俺の前に現れて、『昨日の夜、首無しDホイーラーを捕まえた』っつーんだもんなあ」

 

遊星は眉間にシワを寄せた。小波は遊星の知らない所で危ないことに首を突っ込みがちだった。

 

「んで、その悪戯ヤロウはどこだって聞いたら、小波のヤツ『本物の幽霊だった』ってよ」

「なに……?」

 

話の雲行きがおかしくなってきて、遊星は聞き返したが、牛尾は吹き出して「幽霊なんざいるわけねえだろうが!」と豪快に笑い飛ばした。

 

「どうせ注意だけして見逃してやったんだろ。優しいっつーか甘いっつーか、アイツはセキュリティには向かねえよ」

 

牛尾は枝豆を口に放り込むと「女将さんこっちも頼むわ」と空の皿をカウンターに置いた。

 

「ま、そーいう甘っちょろい所が、あのわけわからん顔の広さの理由だったのかもなあ。つーことは、その幽霊に貰ったDホイールのパーツだったか? 反省した犯人が詫び代わりにでも置いて行ったんだろ。賄賂もらって見逃してやるような器用な性格じゃねえからな、アイツは」

 

なるほどな、と遊星は得心して首を捻った。

 

小波は昔からとにかく色んなことに首を突っ込みがちな所があったから、牛尾から首無しDホイーラーの噂を聞いて、大方自分からデュエルでもしにいったのかもしれない。

 

BADエリアで悪質なDホイーラーに遭遇した小波は、デュエルに勝ってそいつを捕まえたが、セキュリティに突き出さず、見逃してやった。反省した犯人が詫び代わりに置いていったパーツがアレだとしたら、出所を聞かれて困ったのかもしれない。反省した犯人を庇ったのだろう。

牛尾の言う通り、確かにお人好しの小波にはありそうな話だった。

 

(だが……小波は、そういう冗談でお茶を濁すタイプでは無かった気がしたが)

 

遊星はあの、妙に禍々しく、常軌を逸していたパーツを思った。

 

使われている素材は何の変哲もないはずなのに、明らかに異常な性能を持っていた出所不明のパーツ。

そう、本当に幽霊にもらったとでもいう方が納得のいくような。

 

「……なあ、牛尾。俺が昔、BADエリアで父親に会ったことがあると言ったら、信じるか?」

「もう酔ったのかぁ? ハハハ!」

 

牛尾は笑い飛ばして、機嫌良く遊星の肩に腕を回した。

 

「怪談には早えぞ!幽霊なんざいるわけねえだろうが!」

 

 

 

 

 

《首なしDホイーラーと幽霊の話》

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「つーかよ、俺よ、小波のこと、結構最近までおめーらと同じマーサハウスの出だと思ってたんだよ。マーサに笑われたがな」

 

遊星は、お猪口片手に目をぱちくりさせた。

 

「なぜそんな勘違いを?」

「どーしても何も、お前もジャックもクロウもこーんなガキの頃から一緒にいるっつー話だったろうが。で、小波も昔からおめーらと一緒にサテライトで暴れ回ってたんだろ? てっきり幼馴染だと思うじゃねえか」

「ああ、そういうことか」

 

ごくん。飲み込んだ日本酒に、くらっと頭の芯が回る。度がキツイ。酒の回りが早かった。

 

「小波と出会ったのは、マーサハウスを出てずっと経ってからだ」

 

思い出は後から後からあふれた。

鬼柳の懐かしい快活な笑顔が、遊星の脳裏によみがえった。

 

「小波は鬼柳が連れてきたんだ。チームサティスファクションの五人目のメンバーとして」

 

 

 

鬼柳がどこで小波を見つけてきたのかはわからない。ただ、『面白いデュエルをするヤツ』だと言って、突然遊星たちの前に小波を連れてきた。チームが瓦解する少し前の、今思えばいちばん幸せな時期のことだった。

 

「それで鬼柳が、ついでに面倒見てもらえと。クロウのアジトに転がり込むように言って…」

「はぁ!? クロウのヤツ、小波と二人で暮らしてやがったのか!?」

 

酒も進み、時間は深夜をとうに越え、ベロベロになるまで酔った後のことだった。牛尾が素っ頓狂な声を上げたので、酒に浸かってフラフラし始めた頭をカクリと起こしながら、遊星は眠気と闘って眉間を揉んだ。

思い出のついでにこぼした話は、いささか余計だったかもしれない。

 

「二人じゃない……クロウはその頃、もう子供たちを引き取って育てていたから……確か……あの時は小波を入れて四人だった……」

「オイオイ、そうは言ったって男と女だろ!?」

「別に色めいた話じゃない、あの頃クロウはまだ15で……十代前半(ローティーン)だ……サテライトは治安がひどくて、特に女子供は身を寄せ合わないと生きていけなかったんだ……クロウが引き取った子供も、確か七人中三人は女子だったはずだ……あの頃は寝床があるだけで贅沢で、雑魚寝なんて珍しくもなかった……」

 

かくん、かくんと船をこぐ頭を懸命に引き上げながら遊星は答えた。

 

あの頃のサテライトでは、寄る辺のない女子供は日常的に食い物にされていた。だからマーサもクロウも、今思えば特に女の子を優先的に保護していたように思う。

最初にアジトに小波を受け入れた時は、クロウも小波を男だと思っていたはずだが、仮に知っていても同じようにアジトに住まわせてやったと思う。あの頃のサテライトでは、自分たちの身は自分たちで守らなければならなかった。

 

「小波が初めて鬼柳に連れてこられた時も、赤い帽子で……もっとボロボロで厚手の服を着込んでいた。みんな最初は小波を男だと思っていたし、女だとわかってからも気にしていなかった。身を守るために男のふりをするのなんて、あの頃のサテライトじゃたいして珍しくもなかった…」

 

眠気を振り払って首を振った遊星を、牛尾が何とも言えない顔で見つめていた。

ぐい、とお猪口で牛尾が日本酒を煽る。

遊星がほとんど突っ伏しながら、無言でお猪口を差し出すので、牛尾は呆れたように「おいおい、潰れんなよ?」と言いながら要望通り酒を継ぎ足した。

 

「だからってなぁ」

「仕方ないだろう、オレだって、小波が男じゃないと気付いたのはずっと後だったんだ……ジャックとクロウには散々あきれられたが……」

「あ? いつの話だ?」

「WRGP予選の少し前……」

「ハァ!?」

 

牛尾が手を滑らせて、慌ててグラスを引っ掴んだ。中身は少しだけテーブルにこぼれた。

 

「おっ、ま、それまで気付かなかったのか!?」

「ポッポタイムに部屋を借りた時、小波も誘おうとジャックとクロウに話したんだ。小波のDホイールのセンスは本物だし、きっと開発に力になってくれると……」

「いや、それは、ダメだろ……」

「ジャックにもクロウにも、さすがにそういうわけにはいかないと猛反対されて……オレは、何がダメなのかさっぱり分からなくて……それでようやくオレの思い違いに気付いたとクロウが……」

「オイオイオイオイ、マジかよ」

 

牛尾が「信じられねえ」と顔にデカデカと書いたまま呆れ声を出した。

チーム5D'sの全員に、一度は向けられた顔だった。特にブルーノには「遊星ってすごく鈍いんだね」と悪気なくストレートに呆れられて酷くへこんだ。

 

「逆になんで気付かねえんだ」

「性別以前に仲間だったんだ……確かに男にしては線も細いし華奢だったが、固定概念が出来てしまったらもう『そういうもの』としか……お前は細すぎるからもっと鍛えて食べて太れと言ってよく困らせた……」

 

牛尾が、うわ、という顔をした。

遊星はテーブルに突っ伏したまま唸った。

わかっている。デリカシーのなさは自覚している。でも、本当に疑問に思わなかったんだ。小波は出会った時から『小波』という決闘者で、鬼柳やジャックやクロウと同じかけがえのない仲間だった。

 

「お前って、そーいうとこあるよな……」

「小波は何も変わらないから、かえって距離感がわからなくなって困っている間に、鬼柳とどこかに消えてしまって……」

 

居酒屋のテーブルにゴン、と額を押し付けて、遊星は反省を酒の上に乗せた。

 

「色々と困らせたことを謝りたかったが、すぐに鬼柳が記憶を取り戻したからクラッシュタウンのゴタゴタでタイミングを逃して、小波自身が気にしていないふうで、キッカケが掴めなくて……」

「あー、まぁそんな落ち込むなって。どうせアイツも気にしてねえよ。あんな格好だしよ、男だと誤解されることに抵抗はねんだろ。……まあ、いくらなんでも鈍すぎじゃね?とは思うが」

「ぐっ……」

 

フォローのつもりだったが、トドメを刺してしまったらしい。

遊星は居酒屋のテーブルに沈んだ。

 

 





▼ [不動 遊星]ルート幕間2へ進みますか?

はい https://syosetu.org/novel/222308/
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▼ [エンディング②イェーガーEND]ルートへ向かいますか?

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