【遊戯王5D'sタッグフォース】小波シリーズ〜時間跳躍(タイムパラドックス)とコナミ〜   作:ふれれら

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不動遊星から見たコナミ君
タッグフォース4隠しシナリオ「リーダー鬼柳京介」
タッグフォース5「プラシド」
WCS2010リバースオブアルカディアに準拠



不動遊星とコナミ編〜小波の眠りと目覚めの話〜

 

 

小波ってよ、死んだみてーに寝るよな。

 

雑魚寝が珍しくなかった頃、不意に鬼柳がそう言った。

 

 

 

あれは、まだチームサティスファクションが瓦解する前のことだ。

 

サテライト制覇は大詰めに差しかかっていた。

辺りを牛耳っていた大きなチームをひとつ潰し、そいつらのアジトからぶん取った酒を祝いに空けて、夜が明けるまでちびちびと呑んでいた。

 

といっても、酒を呑んでいたのは年長の鬼柳とジャックだけで、アルコールにあまり強くない遊星は呑まなかったし、クロウはアジトの子供たちが心配だからと先に帰った。

残った小波は、呑んでまもなく眠った。酒で潰れたのか、それとも眠気に耐えかねたのかよく分からない。小波は時間が来ると必ず寝る。

 

 

潮風に晒されて風化した、半壊したビルの四階が俺たちのアジトだった。

まだ過ごしやすい季節だった。薄っぺらなボロ毛布一枚で、小波はピクリとも動かず、仰向けに眠っていた。

まるで気絶しているみたいだった。寒がる様子もなければ、寝息すら聴こえない。本当に密やかな眠りだった。

 

「縁起でもないことを言うな」

 

ジャックがそう言って、鬼柳の言い様に顔をしかめた。

サテライトの環境はあまり良くない。薬も少ない。軽い風邪を拗らせて、朝には冷たくなっている、などということは、はっきり言ってそう珍しいことでもなかった。

 

鬼柳は酒の缶を揺らしながらこう言葉を継いだ。

「けどよー、そう思うだろ〜? オレ、コイツ拾ったとき『あ、死んでる』って思ったもんよ。じゃあ金目のモン漁っとくかーって近付いたら、生きてたけど」

「最低だぞ鬼柳……」

「ばーか、仏さんが金や食いモン持っててもしょーがねーだろ。生きてるヤツが生きてくべきなんだよ。おかげでオモシレーヤツ拾ったんだからいーじゃねえか」

 

そう、小波はある日、鬼柳がどこからか突然連れてきた。

「オモシレーヤツ見つけたぜ!」

と、そう言って。

似たような経緯で同じように鬼柳に拾われた遊星もジャックもクロウも、強い既視感(デジャヴ)を感じたのを良く覚えている。

 

 

小波は、記憶喪失の決闘者だった。

赤い帽子と赤い厚手のジャケットと、寄せ集めのデッキだけが持ち物の全てだった。

目深にかぶった帽子の下で、どこかきょとんと、遊星たちを見つめながら、トコトコと鬼柳に着いてきた。

 

『デッキ持ってるからよ、そこらのチームの残党かと思ってデュエルけしかけたら、寄せ集めのカードで強えのなんの。まぁ勝ったけどよ、そしたらコイツ、デュエル知らねえっつーんだぜ、訳わかんねえだろ!?』

 

鬼柳がハイテンションでまくしたてるのを、訳が分からない顔をして聞いていたのは、遊星だけでなくジャックやクロウも同じだった。

鬼柳が連れてきた見知らぬチームメイトは、確かに『デュエル』という言葉すら初耳のように首を傾げていた。

だが、ルールも分からないのにデッキの回し方だけは完璧だった。まるで指先が何もかも覚えているように。

 

どこから来たのかも、歳も、名前すら、何もわからない。

 

素性の知れない者など、サテライトでは珍しくもなかったが。

遊星たちが後からどれほど調べても、そいつがどこから来たのかはさっぱり分からなかった。

まるで、鬼柳に会う寸前、突然どこかから現れた、という方が自然なほど、何の痕跡も無かったからだ。

 

遊星たちに分かったのは、そいつがどうやら本当に何も憶えていないらしい、ということ。

デュエルという言葉すら忘れているのに、どうやらデッキの回し方だけは身体が憶えているらしいことだけだった。

 

名前を訊ねても困惑するばかりなので、機転を効かせた遊星が

「何か憶えていることを書いてみろ。何でもいい」

と木の枝を渡したところ、拙く「名前…」とおうむ返しして、たどたどしく「573」と数字を書いたので、四人でしばらく首を捻った。

 

鬼柳がふと閃いたように「あっ、なあ、これじゃね?」と握っていた寄せ集めデッキの一番上のカードを指した。

 

そこにあったのは、『大波小波』のカードだった。

水属性モンスターを全て破壊して、同じだけの水属性モンスターを大量展開する魔法カード。

 

『ほら、5・7・3(ゴー・ナナ・サン)で、小波って読めんだろ?』

『ダジャレかよ!』

 

やたら自信満々にドヤ顔をする鬼柳に、そうツッコんだクロウはあきれ顔だったが、そいつは、しばらくじっと鬼柳と大波小波のカードを見つめると、こくん、と小さく頷いて「……小波」と静かに名乗った。

 

本当に記憶のどこかに引っかかったのか、ただそう名乗ることにしただけなのかは分からない。

だが、それ以降は、憶えていることを訊ねても首を横に振るばかりで、名前を訊ねれば、やはり「小波」と名乗るので、それからみんな小波と呼んでいた。

 

 

デュエルのルールは、遊星が教えた。

恐らく、記憶を失う前に知っていたことをなぞっただけだが、小波は興味深そうに、だが、たどたどしくルールを吸収した。

 

遊星が小波にあれこれとルールを教える間、ジャックは何をするでもなく、ただ、じっと、小波を観察していた。

今思えば、あれは監視だったのだろう。ジャックは最後まで小波を他のチームのスパイだと疑っていた。

 

それからは、あっという間に、己が手足のようにデッキを操るようになった。

記憶喪失ということなど、小波自身も忘れたかのように生き生きと、本当に楽しげにデュエルしていた。

カードに初めて触れた子どものような、無邪気で心惹かれるデュエルだった。

 

デュエルをすれば何か思い出すかと思ったが、結局それは徒労に終わった。小波の素性は不明なままだった。

 

だが、鬼柳の人を見る目は確かだった。

拾ったカードを好んで使う遊星以上の寄せ集めデッキだったのに、何度もヒヤリとさせられた。

その度に鬼柳が「な? 面白いデュエルするヤツだろ?」と得意げに笑った。

 

鬼柳はソイツを、五人目のチームサティスファクションのメンバーにする気だった。

 

小波が最初の数日に寝泊まりしていたのは半壊したアジトだったが、しばらくすると急に鬼柳が態度を変えて「なあ、クロウ。ついでだからお前のとこでガキどもと一緒に面倒見てやれよ」と言い出した。

最初の内は「ハァ!?なんでだよ!」と渋っていたクロウも、鬼柳にあれこれと押し切られ、結局なんだかんだと丸め込まれて小波を引き取った。

 

 

 

「人が悪いぞ、鬼柳。お前、アイツをクロウに引き取らせた時にはもう()()()()いただろう」

「だってよー、気付いちまったら、さすがにこんな吹きっさらしに独りで置いといてなんかあっても寝覚め悪りーじゃん。クロウ気付いてねえし、まあアイツもガキだしよ、ちょうどいいかなって」

 

 

眠気も相まって、思い出の中に意識が飛んでいた遊星は、二人の会話にふと顔を上げた。

酒の缶をフラフラ揺らしながら、鬼柳とジャックは大して酔ったふうもなく、平然と会話を続けていた。

意味は良くわからなかったが、気楽に酔っていられるのは平和な証拠だった。

 

「で? 疑り深いジャック様よ、結論は出たか?」

「……実力は認める」

 

ジャックは眉間に深く皺を寄せ、眠る小波の方に視線をやった。

 

「だが、素性も分からんのだ。思い出す記憶が、オレたちに都合の良いものとは限らん。その時はチームに入れたのが吉と出るか凶と出るか分からんだろう」

「信じてやらねえと信じねえんだよ、人間ってヤツは」

 

鬼柳はふっと笑いながら、口角を吊り上げて、目を伏せると、揺らしていた酒を一気に煽った。

 

「ジャック、お前は最初からオレを信じてたか。違ぇだろ。遊星やクロウもだ。もしコイツが敵チームのスパイだろうが世界の敵だろうが、オレたちを選ぶまで一緒にデュエルすりゃあ良いだけだろうが」

「鬼柳……」

 

ジャックが、感慨深そうな声を出した。

寝たふりをして聞いていた遊星も、同じように感慨深く思った。

 

ああ、そうだ。

仲間は、デュエルと信じる心で創るのだと、鬼柳はオレたちに示してくれた。

 

小波はもうオレたちの大事な仲間だ。

鬼柳が「拾った」と嘘をついてデッキから譲ってやったカードを、小波がどんな上級モンスターやレアカードより大切にしているのを知っている。

今回だって、敵チームのトラップで、頭上から瓦礫が遊星めがけて降り注いだ時、小波は迷わず身を挺して庇ってくれた。

 

小波はとっくに、オレたちチームの絆を信じている。

きっと、思い出せない過去よりも。

 

オレたちのリーダー、オレたちの救世主。

自分たちも、ここにいないクロウも。オレたちを見つけたのが、この鬼柳京介という決闘者でよかったと、心から思っている。

 

その鬼柳が信じると決めたのだ。

その選択が、間違いであるはずがない。

 

「おら、そろそろ狸寝入りも仕舞いだ、遊星。そいつをクロウのとこまで送っていけ」

 

ぴく、と遊星は肩を跳ねさせた。

テーブルにうつ伏せになったまま、寝たふりをして聞き耳を立てていた遊星のことも、お見通しだったらしい。

遊星は、のっそりと起き上がり、鬼柳たちと小波を交互に見渡した。

 

「だが、鬼柳もジャックも相当呑んだだろう。オレぐらいここにいなければ、もし襲撃でもされたら……」

「オレもジャックもそんなやわじゃねーよ」

 

ふっと笑って、鬼柳はフラフラ手を振った。

 

チームが瓦解する少し前のことだった。

その頃のオレたちは、鬼柳の選択に間違いはないと盲目的に信じていた。

 

 

遊星は、仰向けでピクリとも動かない小波の腕を取って、背中に背負い上げた。

ふらりと遊星はたたらを踏んだ。

 

「見た目より重いな。男にしては細いから心配していたが、着痩せするだけかもしれないな。……? どうした、鬼柳、ジャック」

「いやぁ……」

「………」

 

鬼柳とジャックが、塩でも舐めたような微妙な顔でこちらを見るので、遊星は首を傾げた。

 

「お前、頭は良いのになぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルーノ、お前ってさ、死んだみてーに寝るよな」

 

不意にそう言ったのは、クロウだった。

 

 

 

遊星は徹夜明けの倦怠感を肩に負いながら、顔を上げた。

ブルーノと二人で再調整したプログラムは無事に完成を迎えた。一度奪われてしまった最高傑作のプログラムには劣るが、ギリギリ遜色ないレベルまで持ち込めたと思う。

 

記憶喪失のブルーノがポッポタイムにやってきてまだ間もなかった。

だが、記憶喪失の仲間を受け入れるのは初めてじゃない、慣れたものだ。

正式な部屋は無いままだったが、ソファーでも問題ない体質らしく、最終調整をしたかった遊星と入れ替わりにゆっくり仮眠を取っていた、はずだ。

一方、遊星は結局完徹だったので、ブルーノが寝ているところは見ていない。

 

「ピクリとも動かねーから、マジで死んだかと思ったぜ」

「ええー? そう? 普通に寝てたつもりだったんだけどなぁ?」

 

軽やかに階段を降りてくるクロウとブルーノの声が、爽やかな朝に響く。

 

「ま、ホントに死んでたら放り出すだけだけどな!」

「ええー! ひどいよクロウ!」

「うおっ、危ねえな! 階段で引っ付くんじゃねえよ! お前見た目より重ぇんだからよ!」

 

 

遊星は、徹夜明けのボーっとした頭に、強烈なデジャヴを感じた。

 

 

(…………? なぜだろう、今、なにか)

 

 

正体の分からない、だが強烈な既視感だった。

 

 

不意に、白昼夢のように

赤い帽子の下で微笑む、小波が

遊星の脳内で、ふっと振り返って、口を開こうと────

 

 

「あーっ!! 遊星お前、あれだけ言ったのにまた徹夜しやがったな!!!」

 

 

クロウの怒鳴り声が、キーンッと耳に響く。

遊星は、徹夜の頭に響く大声に、思わず眉間を押さえた。

 

考え事は霧散して、何を考えていたのかもあやふやになった。

 

 

「WRGPまでに体壊したら元も子もねーだろうが!! おら、工具置いて寝ろ!! 今すぐ寝ろ!!」

「いや、後はここを調整したら終わるから、」

「寝・ろ!!!!!!」

 

 

工具はぶん取られ、しっかり者のクロウの説教を食らった遊星は、なすすべなく撤退することとなった。

現在、安定して稼いでいるチームの大黒柱はクロウだ。逆らえる道理はない。

 

 

ポッポタイムのドアが、カラン、カランと音を立てた。

 

クロウに背中を押し退けられながら上の部屋に戻ろうとしていた遊星はベルに振り返って、見知った来訪者に「ああ」と声を上げた。

 

「アキ、どうした。学校じゃないのか」

「ええ、これからよ。行く前に、少し寄ってみたの」

 

学校鞄を手に下げて、紅い髪を耳に掻き上げたアキが、遊星に笑った。

新しい制服に身を包んだアキからは、出会った頃の危うさはない。学校は楽しく通えているようだ。

 

「それで、その……放課後……そう、学校の物とか! えっと、色々買いたいの。それでね、遊星……」

 

アキがためらいがちに言い淀んだ。

朝方の通学路は寒かったのか、頬は赤らんでいる。

 

近くでブルーノが、はたと気付いたように、アキに向かってぐっと腕を曲げて応援するジェスチャーをしきりにするので、クロウが余計なことをするなと言わんばかりにブルーノの頭を後ろからはたいた。

 

「い、一緒に来てくれないかしら…!」

「ああ、構わない。一緒に行こう、アキ」

 

アキは遊星を見上げて、パッと表情を明るくした。

そこに出会った当初のような影がないのは、ひどく喜ばしいことに思えた。アキの学校生活は応援してやりたい。

 

「なら、龍可と龍亞に声を掛けておこう。サテライト育ちのオレやクロウでは、荷物持ちには良いが学校の物の良し悪しは分からないからな。みんなで行こう」

「えっ。……ええ…そう、ね……ありがとう遊星……」

 

アキを応援してやりたい気持ちを持っているのは自分だけではないことを伝えたくて、そう付け加えると、なぜかアキはひどく肩透かしを食らったような顔をした。

背後でクロウが顔に手をやって、深い深いため息を吐いた。

ブルーノがこそこそとクロウに耳打ちした。

 

(ねえ、アキさんがわざわざ人が少ない朝に来たのってさ)

(そぉーーなんだよなあ……)

 

クロウが手で目を覆って、天を仰いだ。

 

「遊星お前、頭は良いのになあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、当たり前の日常に紛れた、運命の一欠片だった。

 

ここにいる誰も、知らなかったのだ。

ブルーノが左利きの理由を。

 

ここにいたのがもし、勘の優れたジャックだったら。

あの時、鬼柳とジャックの話を聴いていたのが、クロウだったら。

ブルーノが記憶を取り戻すのが、あと少し早ければ。

 

誰かが、真実に辿り着いたかもしれない。

遊星は、そのチャンスを、永久に逃した。

 

 

 

 

 

未来から来た彼らは全員、機械の体を手にしている。

生前右利きだった彼らは、記憶を移植したコピーとなった時に、左利きとなった。

 

その機械の体は、血肉と血管で出来た人の体より比重がずっと重く

メモリ整理のための強制休止で、皆死んだように眠ることを。まだ誰も知らないのだ。

 

 

 

 

────コイツが敵チームのスパイだろうが世界の敵だろうが、

 

 

 

誰も知らない。

これから訪れる試練も、別れも、何もかも。

 

 

 

 

────オレたちを選ぶまで一緒にデュエルすりゃあ良いだけだろうが

 

 

 

 

 

目覚めの日は近い。

 

 

やがて答えを選び、手にする者は

赤い帽子のその下で、微笑みながら、運命の日のデュエルを待っている。

 

 

 

 

 

 

《小波の眠りと目覚めの話〜決闘機械(デュエルマシン)の見る夢は〜》

 

 

 




▼[不動 遊星]ルート幕間(瓜生編)へ進みますか?

はい 
→ いいえ

▼ [ジャック・アトラス]ルートへ向かいますか?

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