【遊戯王5D'sタッグフォース】小波シリーズ〜時間跳躍(タイムパラドックス)とコナミ〜   作:ふれれら

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ジャックアトラスルートED2

 

テーブルの上にズラリと並べた度数の高い酒を、二人して浴びるように飲んでいた。

ウィスキーの匂いが部屋に充満している。しこたま呑んで呑んで、頭に程よくアルコールが回り切った頃、酒瓶を片手に「ハァ!?」と鬼柳が叫んだ。

「おま、小波のこと好きだったんじゃねーの!?」

「真に愛する者は別にいる」

 

恥じることなく堂々と、きっぱりとそう告げたジャックに。

どんな顔をしていいか分からず、鬼柳は百面相した。

 

「は…? じゃあ……なら、何であんなに邪魔したんだよ!!?」

「キサマ、小波と二人きりにしても遊星と二人きりにしてもロクなことをせんだろうが!!!!」

 

ぐうの音も出なかった。

ド正論に撃沈した鬼柳が、喉の奥から唸るように負け惜しみを絞り出す。

 

「マジかよ……ジャックが、二股……」

「人聞きの悪いことを抜かすな!」

 

ゴッと容赦なく殴った。鉄拳を喰らった鬼柳が「ぐえっ」とテーブルに沈む。

 

「ぐおお、いってぇ…!」

「俺が惚れていたのは、あくまで小波のデュエルに対してだ。……実際、ギリギリまで迷っていた。この先もタッグで共に頂点を目指すか、ライバルとして向き合うかをな」

 

それを聞き、鬼柳の背筋はヒヤリとした。

武者修行の旅に小波を連れて行ったと聞いた時点で予感はあったが、ジャックが本気で小波とタッグリーグを目指すとなれば、あいつの一番のパートナーの座を奪い返すチャンスは無くなるも同然だ。

 

まばゆい栄光の舞台のスポットライトを浴びながら、最高に息の合ったタッグデュエルを世界中に披露し続ける、ジャックと小波。

そんな美しい夢は、テレビ越しにそれを観る他無い鬼柳にすれば悪夢に他ならなかった。

 

「俺が勝っていれば、共に頂点を目指しただろう。だが、結果は俺の負けだ。俺は再び自分を磨き直す。ライバルとしてな」

 

ジャックの宣言は迷いなかった。

こうと決めれば決して迷わず、選んだ道を全力で走る男だった、昔から。

この先、目標を叶えるその日まで、ジャックが止まることはないだろう。その迷いない背中に惹かれる連中が後を絶たない理由が、よくわかる。

だからこそ、恋敵になられると、正直自信がない。

 

「本当なんだな? 本当に恋じゃねえんだな?」

 

小波を巡る諍いは水面下で後を絶たなかったが、戦線から最有力候補の一人だったジャックが脱落するとなれば、誰よりも安心できるのは他ならぬ鬼柳自身だった。

だが、ジャックは「ふん」と腕を組むと、口角を引き上げて流し目をくれる。

 

「キサマがうかうかしていれば、かっさらうかもしれんがな」

「……うーわー、どこまで本気だよ……」

「ふむ、そうだな。俺が正真正銘世界のキングになった暁には、再びタッグで頂点を目指すのも悪くないか」

 

冗談じゃない。

たちまち嵐のように荒れる鬼柳の内心に対して、ジャックは底意地悪く笑ってまた酒瓶を煽った。ゴクン、と喉仏が上下して、喉を通り抜けて頭に回るアルコールを味わう。

 

「そのツラを拝ませたいものだな。嫉妬する暇があればアイツに甲斐性の一つでも見せてみろ。泣かせたら容赦せん」

 

鬼柳はうめいた。

最近では会う奴会う奴この調子だ。町の酒場じゃ町長の色恋沙汰はすっかり酔っ払いの賭けの肴だった。人の気も知らずにどいつもこいつも好き勝手に騒ぎやがって。

 

ジャックは度数の高いウィスキーをぐっと煽ると、少しだけ赤くなった顔で「……そうだな、」とグラスを傾けた。氷がカラン、と静かに空気を軋ませる。

 

「ヤツのデュエルに惚れていた。まっさらで、楽しげで、幼い子供のようだった、あのデュエルに。あのデュエルに傷を与えた全てが恨めしかった。ヤツのデュエルを守ってやりたかった」

 

ぽつぽつと降り注ぐ雨のような、染み入るような慈愛の言葉の雨だった。

 

「できれば、この先もあいつのデュエルを隣で見てみたかったが、あそこで負けるようでは隣に立つ資格は無い。他の男にやるのは癪だが、ヤツが心から望むなら送り出そう。……何よりも幸せを望んではいるが、その相手が俺でなくても構わない」

 

ぐいっ、とジャックがショットを一気に煽った。

爽やかな樹木の香りが、琥珀色の酒に溶け込んだまま、爽やかに通り過ぎていく。

 

「愛はあるが恋ではない」

父親(パパ)かよ」

軽口めいた突っ込みに、ジャックはすっぱいものでも食べたような微妙な顔をした。

「……知らんものを引き合いに出されても困る」

珍しく、ジャックが困惑していた。

 

(それって、充分、恋っていうんじゃねーの)

 

そう鬼柳は思ったが、ライバルが増えても困るので黙っていた。こちとらズルい大人なので。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「で? 真に愛する者って?」

 

結局、お互いに朝方近くまで散々呑んで呑んで呑んで、ぐらぐら回る頭も歩行もおぼつかなくなって、正真正銘へべれけに酔った頃、鬼柳が不意にその話題をテーブルに乗せた。

 

鬼柳(コイツ)のこの感じでは、答えても翌朝覚えているかどうかも怪しいと思ったが、ジャックもしこたま飲んでいたので、口が軽くなっていた。

誰にも明かさなかった積年を、ジャックは静かに言の葉に乗せた。

 

「事情があってな。共にはおれんのだ」

 

鬼柳がダークシグナーの記憶を思い出したのはデュエル中だったという。

幸い、記憶を忘れたカーリーはデュエル初心者に近い。

 

だが、ジャックとデュエルは切り離せない。

共にいれば、カーリーはまた、夫婦(めおと)タッグデュエルがどうのと騒ぐだろう。あれでひたむきな女だ、ジャックのそばにいれば、共にいるためにデュエルを志すだろう。それは何としても避けたかった。

あれは心優しい女だ。人の幸せを願わず、自分の幸せを願ったから罰が当たったなどと、心からそう言える、優しくも脆い女だ。ダークシグナーとして周囲を生贄にささげたことを思い出せば、あの能天気で幸せな笑顔に傷が付く。

 

それは決して、決して看過できない。

その原因がジャックにあるなど、己を何度くびき殺しても飽き足らん。

 

ジャックがプロの世界を走っていれば、カーリーは慣れない決闘者よりも記者としての道を走るだろう。プロの道を往くジャックに接触するには、記者として成長するしかないからだ。

 

カーリーはジャックをひたむきに追うだろう。そしてジャックもまた、カーリーを追わせ、走り続ける。

カーリーがジャックを記者として追う限り、あの忌まわしい記憶にカーリーが捕まることはない。

 

だから、共にはいられない。

たとえ二度と抱きしめることが叶わなくとも、カーリーをあの悪夢に二度と捕まえさせはしない。

 

命を賭して、走る。

それがジャックの誓いで、真実の愛だった。

 

「ジャック、おまえ……」

 

鬼柳が顔を上げて、物言いたげにジャックをじっと見た。

 

ジャックは、口が滑った本音を振り返り、片眉を跳ね上げた。勘付かれたか。

 

鬼柳はダークシグナーとしてカーリーと接点がある。

鬼柳には、記憶を思い出したシチュエーションについて根掘り葉掘り聞き出したこともある。気付かれてもおかしくはなかった。

 

「ジャック、お前の相手って、もしかして────」

 

勘付かれたか、とジャックは構えた。

鬼柳がゆっくり、口を開く。

 

 

 

「───人妻か!? おま、熟女趣味か!?」

 

 

全力で殴った。

ビール瓶で頭を殴られ、鬼柳は「ぐあっ」と間抜けな悲鳴を残して昏倒した。

 

ゼーゼーと息を荒げたジャックは、床に沈んだ鬼柳を腹いせに足蹴にしてからテーブルに突っ伏して寝た。色々なことがバカらしくなった。

気付けば雀の鳴く朝だった。

 

 

 






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