【遊戯王5D'sタッグフォース】小波シリーズ〜時間跳躍(タイムパラドックス)とコナミ〜 作:ふれれら
WRGPに向けてパーツを補充すべく、遊星はジャンク屋で掘り出し物を漁っていたその帰りだった。
つまり、いささか治安の悪い地区に足を踏み入れた遊星が『そいつ』を見つけたのは、純粋に偶然だったのだ。
「……? あれは、小波と……」
小波の姿はどこにいてもよく目立つ。
赤い帽子と赤いジャケットの背中は、人混みの中で、一人の男性に、肩に腕を回されていた。
その男の横顔には見覚えがあった。
頬のマーカーと蒼い髪、細身だがそこそこの体躯、いささか柄の悪い振る舞い。
遊星は記憶を辿った。あれは、サテライトを飛び出す直前の夜のことだった。
「アレは、確か……」
雑踏の中、肩に腕を回された小波は、困ったように首を横に振ると、するりと上手く腕を抜け出して、横断歩道の向こうへ逃げて走っていった。
男は小波を追いかけようとしていた。
そこで、遊星は表情を厳しいものに変えた。
取り巻きこそ居なかったが、あいつは、確か。
「待てよ、小波! ……って、あん?」
小波を追おうとしていた男の肩を、背後から素早く捕まえる。
男──
「げっ、お前、不動遊星…!?」
「おい、どういうつもりだ」
瓜生。遊星がサテライトを飛び出す直前、タカたちに因縁を付けて殴りかかった男。
問題になった腹いせに遊星たちのDホイールまで奪おうとした、パワーインセクトデッキの使い手で、シティで問題を起こしてサテライトに流れてきた後、あちこちでサテライト住民に絡んでいた。
自分たちのDホイールの夢を嘲笑ったその男を、かつて遊星は、デュエルで正面から打ちのめしたのだ。
「小波に何をしていた。返答によっては──……」
「えっ、ちが、……あっ!?」
瓜生は雑踏を慌てて振り返った。
遊星の登場に気付くことなく、小波は人混みの中に紛れて行方をくらませてしまった。
瓜生は落胆したように「ああああ〜…」と失意の声を上げて、再び遊星を振り返って、凄んだ遊星に表情を引き攣らせた。迫力負けした男が、じり、と後退する。
「か、関係ねえだろ! 離せよ」
「そうはいかない。小波は、オレたちの仲間だ」
遊星は鋭く男を睨んだ。
「ナーヴやタカたちにしたように、因縁を付けて絡む気なら……」
「ち、違えよ! デュエル! ただのタッグパートナーの申し込みだ!」
「……なに?」
いわく、瓜生と小波が出会ったのは、サテライトが解放されてまもなくのことだったという。
シティとサテライトを繋ぐ『ネオダイダロスブリッジ』の建設現場で、シティの連中と揉め事を起こした瓜生は、セキュリティに処罰される所を、小波のデュエルの仲裁で事なきを得たのだと。
「またタッグ組むって約束なんだよ! けど、なかなか捕まんねえから…」
瓜生は、捕まえた遊星に強制的に洗いざらい吐かされて、うろうろと視線を彷徨わせた。
「約束があって急いでるって断られたんだよ。けど、約束ならオレだってずっと前からしてるだろ、さっきは、ちょっと強引だったけどよ……悪気は無かったんだよ!」
「そうか」
実際、小波とタッグパートナーを組みたいデュエリストは、この街にごまんとあふれている。
小波の隣は常日頃から奪い合いで、ちょっとした小競り合いは絶えない。あくまでその一環に過ぎないことだったらしい。
まるで嫌がって人混みに逃げたように見えたが、実際は単に他に先約があって急いでいただけだったようだ。小波のことだ、恐らく誰かとのデュエルの約束だろう。
因縁でも付けられているのかと思ったのは、遊星の早とちりだったらしい。
先ほど遊星から小波にメッセージを飛ばしたが、少し経って戻ってきた小波の返答はYESだった。瓜生が小波の知り合いというのは、真実だったようだ。小波はアウトローな人種も含めて、とにかく顔見知りが多い。
「すまなかった。小波の周囲はとにかく派手だから……何か良くないことかと」
「いや、その、あー……まぁ、俺も誤解される心当たりはあるしよ……」
謝られた瓜生はバツ悪げに、頬のマーカーを掻いた。
遊星が詫び代わりに奢ったコーヒー缶を開けながら、瓜生は花壇の端に腰かけた。
プシュ、とコーヒーのプルが鳴る。高圧的に怒鳴るでもなく素直に引き下がった、毒気の無い横顔に。遊星は、少しだけ訝しく思った。
「……少し、変わったか」
瓜生は、遊星の問いに、苦笑した。
「自分に何が欠けてるか、直視するのってキツイよな」
瓜生はぐいっとコーヒーを煽り、腰のデッキを自分の前に掲げて、感慨深げにした。
「お前にコテンパンに負けて、自分のデッキに何が足りねえのかずっと考えてた。何か足りねえのは分かってたんだ。でも、それが何なのか分かんなくて……けど、小波とデュエルしてるとよ」
グッとデッキを握り込んで、瓜生は表情を改めた。
「お前、言ったよな。デュエルはモンスターだけじゃ勝てないって。マジックだけでも、トラップだけでも勝てねえってさ。小波のやつとデュエルしてると、最高のタイミングで最高のサポートカードがパスされるから、ああオレのデッキにはこれが足りなかったんだ、ずっとこれが欲しかったんだって、分かるんだよな」
瓜生の横顔は、まるで熱に浮かされたようだった。
小波のデュエルにこういう目を向ける連中はとにかく多い。
小波のパートナーの座には、街中で奪い合われるだけの魅力がある。
「俺さ、嵌められたんだよ。シティで暴力沙汰起こしてサテライト送りになったけど、本当はダチを庇ったんだ」
瓜生は、空っぽになった缶を、公園のゴミ箱に放った。
缶がダストボックスにシュートされて、カランカランと虚しく音を立てる。
「けど、庇ってやったアイツは、あっさり俺を見捨てて逃げ出した。おかげでマーカー付き、俺の人生はめちゃくちゃさ」
軽く土を蹴った瓜生は、ひどく空しそうに、はっと自分を嘲笑した。
「ムカついて、腹が立って、どーしようもなくて、サテライトの連中に当たり散らしてた。けど」
瓜生は曇天を仰いだ。
「けど、俺は腹が立ってたんじゃない。哀しくて、情けなかっただけだった。泣きたかっただけだった。小波とデュエルしてたら、それが分かった。だから……再出発するなら、あいつのデュエルがいいんだ」
そう言い切った瓜生は、少しだけ照れ臭げにして、誤魔化すようにタバコを吸った。
「そうか」
「あー、お前、
「分かった。伝えておく」
「じゃあな」
照れくさげにタバコをふかしながら、逃げるように雑踏の中に消えた瓜生を見送って、遊星は花壇の端に置いた袋を、再び抱えた。
重めの荷物を抱え、遊星は帰路への足取りを早めた。
何だか無性に、Dホイールで走りたい気分だった。
《瓜生と小波.END》
▼ [不動 遊星]ルートへ戻りますか?
はい
→ いいえ
▼ [十六夜アキ]ルート幕間へ向かいますか?
→ はい
いいえ
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※こぼれ話
この瓜生編では、遊星がジャンク屋のパーツを茶袋に入れて抱えているが、アキ編で登場する遊星も同じ茶袋を抱えている。
つまり二つの話は同日に起きていて、遊星は瓜生と会った帰りに鬼柳からの連絡を受け、迎えにきたと言うこと。小波は瓜生の誘いを断った後に約束していた原麗華たちの待つアカデミアで合流し、パートナーの座の取り合いとなったということ。