見えない目   作:アペ子

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いいぞもっと行け


五話

「おう矢島、俺はやるぜ」

 

「このパターンなんか覚えがあるんだけど……で、朝からいきなり何なの」

 

週明けに登校するやいなや、矢島に絡む。

 

あんなことがあって、告白のことなど一瞬忘れていたが、家に帰って思い出した。

 

今の俺はやる気に満ちている。

 

今日は突然会うわけでもないし心の準備も問題ない。

 

「まさかとは思うけど先輩に告白する気になったってこと?」

 

「そのまさかだ。悪いな俺は一歩先に進むぜ」

 

「うざいんだけど……フラれるとか考えてないの?」

 

「おいなんてこと言いやがるんだ、考えないようにしてたのに」

 

「えぇ……無計画すぎない……?でもまぁうだうだしてるよりいいと思うけど」

 

一応こいつは背中を押してくれたわけだし、感謝の一つでも伝えようかと思ったが、余計なことを言ってきたので黙っておくことにする。

 

「俺から行けってのは、まぁ……その通りだと思ったからな」

 

「だからそう言ったんじゃん。でもどちらにしても結果は教えてね。……どうせ雰囲気ですぐ分かる気はするけど」

 

「俺も隠せる気はしないが……そうだな」

 

そうしてだらだらと話していたら、ホームルームの時間になった。

 

だが今日一日全く授業に集中できる気がしない。

 

じゃあいつもは授業に集中しているのかとなると怪しいが。

 

 

 

そして待ちに待った放課後、早足に教室を飛び出し美術室へと向かう。

 

どうせクロッキーを終わらせてから外へ出るので、急ぐ意味はないのだが気持ちの問題だ。

 

「お疲れ様でーす」

 

「おぉビックリした、やたら早いねお疲れ」

 

ウチのクラスよりもホームルームが早く終わったのだろう、扉を開けると既に部長が教室にいたので挨拶を交わす。

 

「部長こそいつもこんなに早いんです?」

 

「これでも一応部長だからね、可能な限り早く来るようにはしてるよ」

 

「そういうとこ意外とちゃんとしてますよね」

 

「まだ君には敬意が足りてないね……どの口がそんなことを……ってなるほど、何かいいことでもあったのかな?それともこれから何かあるのかな?」

 

俺の顔を見てそういう部長。自分では分からないが顔に出ていたか?

 

妙に鋭いところがあるし、この人ならそうでなくても気づきそうではある。

 

「今日先輩に告白しようと思うんです」

 

「遂にその時が来たのか、と言ってもまだ君が入部してそんなに経ってないけどさ」

 

「気持ちに時間は関係ありません!」

 

「無駄にいいこと言ったような雰囲気出してるね、そのとおりだとは思うけど」

 

確かにきっかけは一目惚れだし、時間も経っていないのもそうだ。

 

それでも先輩のことを知れば知るほど好きになるのだからしょうがない。

 

「部長も告れって煽ってくれたんで、ありがとうございました」

 

「何かトゲを感じるけど……まぁいい。前も言ったけど、これでも君を応援してるんだよ」

 

話しているうちに他の部員も揃い始めたようだが、先輩の姿は見えない。

 

「部長……まさか今日休みだとか、聞いてたりします…?」

 

「そんなわけ無いだろう。それなら最初に言ってるよ」

 

結局開始時間ギリギリになるまで、先輩は現れなかった。

 

 

 

いつものようにクロッキーを終わらせ、手に馴染んだ画板を引っ張り出す。

 

同じように準備を終えた先輩に話しかけようかとも思ったのだが、緊張して話しかけられないまま、準備を終え外に出た。

 

「じゃあ行こっか」

 

「オッケーです」

 

元々は口数少ない俺達ではあるが、最近は割と話していただけに少しだけ気まずさを感じる。

 

だが告白についてあれこれ考えているせいで、話をするだけの余裕が無い。

 

こればかりはどうしようもないと思う。

 

言葉は……前に考えたのでいいとして、告白するタイミングはいつがいいのか。

 

帰る前に言うのが一番いい気はする。

 

「……君!神田君!歩くの速いんだけど、置いていかないで欲しいな」

 

「あっ……すいません、考え事してました。気をつけます」

 

足を止めて振り返ると、少し離れた場所に先輩がいた。

 

「いつもは結構ゆっくり歩いてくれてたんだね」

 

「ガタイに差がありますからね……当然だと思います」

 

「私だってそんなに小さいわけじゃないと思うんだけどな……でもありがとう」

 

足を止めて先輩が追いついて来るのを待つ。

 

テケテケと歩いて来て横に並んだかと思うと、そのまま追い抜いていく。

 

「……やっぱり前のことが気になってる?」

 

「それはそうなんですけど、そのうちって約束ですから。もしヤバいものだったなら、先輩はすぐ教えてくれそうだし、そのうちが来るまで気長に待ちますよ」

 

「優しいねありがとう。一応今日話そうと思ってたんだよ?でも待っててくれるならまたにしようかな?」

 

先を歩いているせいで背中しか見えないが、冗談めかした言い方でそう告げられた。

 

「なんかすごい聞きたい気持ちになってきた気がします。今日聞かないと俺はもう駄目かもしれません」

 

「ふふっ冗談だよ。上に着いたらまた話すから、それまでは待ってね」

 

「わかりました」

 

俺が覚悟を決めていた裏で、先輩も悩んでいたのだろうか?そうなら少しだけ嬉しい。

 

そんなことを考えながら先輩に追いつき、今度は並んで歩き出した。

 

 

 

間もなくして到着し、いつも通りに並んで座る。

 

「どうしよう、何から話そうかな……ちょっと長くなるかもだけど、分からなかったらまたその時に聞いてね」

 

そんな前置きをして、街を見下ろしながら先輩は話しだした。

 

「まず神田君が黒いモヤって言ってたアレなんだけど、私たちは歪みって言ってて。ほっとくとどんどん大きくなって、アレが覆ってたものを世界から消しちゃうんだ」

 

「なんか……スケールのでかい話ですね」

 

想像していた以上にヤバい内容が出てきて、内心かなり驚いていたが、出来る限り顔に出ないように返事を返した。

 

「で私たちの家系……今は私とお母さんだけなんだけど、アレが見えて、しか元に戻すことができるの」

 

「もしかして絵を描くっていうのが……」

 

「そうだね考えてるとおりだよ。観測して修復……って言い方が正しいのか分からないけど、そうやってアレを消してるの」

 

だから主に風景画を描いているということだろう。

 

「でも毎日描いてるわけじゃないですよね?」

 

「一週間に一回くらいで、無視できないくらいの大きさのものが出てくるというか、育つと言うか……だからそうだね、そこまで忙しく描いてないかな」

 

それはそうだ。そうでないと俺を描いている時間なんてないだろう。

 

「だから終わったって言ってた絵に手を入れてたんですね」

 

「手直ししたいのも嘘じゃないけど、そうなるかな」

 

頷いた先輩はそこで一息ついて、俺に向き直りまた続ける。

 

「ここまでが大雑把だけどアレの説明になるね。ここまでで何か聞きたいこととかあるかな?」

 

少し考えるが、唐突な話なのもありすぐには何も出てこない。

 

「無いっぽいね、まぁ後にまとめてでもいいけど。とりあえず続けるね。」

 

そう言って視線を外す先輩に俺も釣られて前を向き、街を眺める。

 

「でさっき私たちの家系がって話をしたと思うんだけど、力を使うとき、側にいる人に力が移るって言うのかな……誰でもってわけじゃないみたいなんだけど。お母さんとかもお父さんに移ったことがあるって言ってたかな」

 

「じゃあ俺がアレを見れるようになったのは、先輩の力が関係あるってことですよね?」

 

「そういうことになるね。でも普通は神田君も言ってた違和感があるってとこくらいで止まるはずなの。だから二人に話したら凄くびっくりしてたよ。もしかして家系に陰陽師とか霊媒師とかいたりしない?」

 

「そんな面白い職業の祖先はできれば居ないで欲しいです……実際は分かりませんけど」

 

少なくとも親や祖父母にはいないはず、本人たちが隠してなければだが。

 

一応顔を思い浮かべてみるものの、そんな能力などなさそうな面構えばかりが浮かぶ。

 

「一応前例のないことではあるから、年頃の男の子として喜んでいいんじゃない?ほらなんていうか、クッ俺の右目が……的な」

 

「そんなのどこで覚えてきたんですか……でもほら見えたところで今何の役にも立ってないんで、そういうのは先輩に任せます」

 

「物心ついたときから見えてたから何も特別感ないんだよね。だから私もいいかな」

 

そんなくだらないやり取りをしながら先輩を見る。

 

ちょうど先輩も俺を見ていたようで、今日初めて視線が交わった。

 

正面から見る顔もやっぱり可愛らしくて、いつもそうだがまたもや見とれてしまう。

 

それでもこうして横並びで会話してきたわけで、容姿以外の好きなところだって、その中でたくさん見つけてきた。そうやってもっと先輩のことを好きになってしまったわけだ。

 

先程知ったことは今までで一番の衝撃だったが、それでも俺の気持ちには関係がない。

 

やっぱり俺は先輩のことが好きだ。

 

ゴチャゴチャ考えたところで、ただそれだけのことだ。

 

「俺……俺も先輩に言わなきゃいけないことがあります」

 

「うん?実は陰陽師の身内がいたりしたけど隠してたとかかな?」

 

「いえそういうのではなくてですね……」

 

なぜ目を輝かせてるんだ……実はその手の話が好きだったりするのだろうか。

 

そんな側面を新しく知れて嬉しいのは確かなのだが、今はそんな場合ではない。

 

「色々と……いやさっきのことなんですけど、聞いて……すごいなって思いました。知らないところで誰かのために、そうやって描いて来たんだなって。最初は一目惚れだったんですけど、それ以外のとこだってもちろん好きで……ってそうじゃなくて、いや合ってるんですけど!つまり……アレです、先輩のことが好きです!俺と付き合ってください!」

 

勢いよく言いながら頭を下げる。もちろん顔を見るのが恥ずかしいのもある。

 

結局はグダグダと考えたことをそのまま喋って、意味不明な流れで告白してしまった。

 

何のために昨日色々と考えたのか。こうなってしまえば全く意味がない。

 

「ぇ……はぇ……?あわわわ……わたっ、私!今日はもう帰るね!バイバイ神田君!」

 

そんな挨拶に釣られて恐る恐る顔を上げると、今まで見たことのない俊敏な動作で先輩が去って、というより逃げていく背中が見えた。

 

「えぇ……そんなことあるか……?」

 

確かに告白した後のことを色々と考えはした。

 

上手くいくことも、フラれることもだ。

 

だがこれはいくらなんでも考えてなかった。まさか逃げられるなんて

 

「そんなの思わないよなぁ……」

 

一人ベンチに座り街を見下ろすも落ち着かない。

 

先程話をしたモヤがあるせいかと思ったが、今日は風景には違和感がない。

 

あるとすれば俺のメンタル面に、ということだろう。

 

「どうすりゃいいんだよ……」

 

ため息を付きながら、しばらく今後どうしようかと考えていた。

 

経験不足の俺がいくら考えたところで、結局何も浮かびはしなかったのだが。




何となくパイセンは逃げそうって偏見
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