見えない目   作:アペ子

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次でラストなので少し起伏を付けたかった回



六話

「おはよ神田……って雰囲気で何があったか分かるのある意味すごいね……」

 

「矢島か……俺はもう駄目かもしれない」

 

「神田さワンパターン過ぎない……?でも告白した勇気は認めてあげるよ、ご愁傷さま」

 

机に突っ伏しているせいで、俺の上から矢島の声がする。

 

相談した手前、一応は報告しようと思ってはいたのだが、その必要もなかったようだ。

 

だが待て、奴の中ではフラれたことになっている気がする。

 

「違うんだ矢島フラれたわけじゃない」

 

「そんな見え透いた嘘言われてもね、だったらそんなオーラ出してないでしょ」

 

「いや確かに上手く行かなかったのはそうなんだが……何ていうかだな……逃げられた」

 

「もっと上手に嘘吐きなよ、神田はただでさえ分かりやすいんだからさ」

 

「はぁ……そう思うよな……そうなら良かったんだけどな」

 

「いやその顔はマジっぽいな、そんなことある……?」

 

当事者の俺ですら混乱しているわけで、そんな反応になるのも当然だろう。

 

「私だって年頃の女子として、色々と恋バナは聞いてるんだよ?でもそんなの聞いたこと無いし、リアクションに困るんだけど。どうやったらそんなことになるの」

 

「どうもこうも返事を聞く間もなく逃げられたとしか言えねぇし、俺だって困ってんだよ」

 

「かわいそう……でもほら、機会があればだけどそれとなく聞いてみてあげるからさ」

 

「頼むわ。このままだと何すりゃいいかも分からん」

 

「一応だけど行け!って煽った手前、そのくらいはね。でも同じクラスなのは伊吹先輩も知ってるしなぁ……私も逃げられるかもだし、あんま期待しないでね」

 

「自分で言ってて泣けてくるが、そんなことあるか……?」

 

そもそも部活以外での接点がないのは、俺と変わらないはずだ。

 

結局は自分でなんとかしないといけない気はする。

 

だが待つのが正解なのか、それとも積極的に行くのが正解なのか分からない。

 

というかまた逃げられたら、今度こそ立ち直れないダメージを負う気もする。

 

本当にどうすればいいのやら。

 

「また面白い顔してるよ神田。これでも食べて元気出しなよ」

 

ウンウンと唸る俺の手に飴を押し付け、楽しそうに話をしている女子グループの方に矢島は行ってしまった。

 

あいつに悪気はないのは分かるが、飴を見ると先輩のことを思い出してしまう。

 

視界に入らないようにとすぐ口にいれるが、レモンの酸っぱさのせいか、それともややこしい状況のせいか、泣きたい気持ちになってきた。授業も部活もサボってやろうか。

 

 

 

それでも授業を受け放課後になれば、いつも通り美術室へと向かってしまう。足は重いがしょうがない。先輩と話をしないことには何も動きようがないのだ。

 

「酷い顔をしてるね、もしかしてフラレたりしたのかな?」

 

挨拶しながら扉を開けた俺へ、部長が開口一番そんな事を言う。

 

そんなに分かりやすいのか……。

 

「フラレてはないんですけど……まぁ色々ありまして」

 

「ブッキー絡み以外で、そんな顔になる理由も浮かばないね。ここは先輩に相談してみてもいいんじゃないかな」

 

絶対面白がってるだけだと思うので躊躇ってしまう。

 

だが一応この人なりに応援してくれていたなと思い出した。

 

「相談しようにも俺も混乱してまして」

 

「なら最初から順番に話してみればいいよさぁ」

 

本当にこの人に話していいのだろうか……。

 

玩具にされるだけな気もする。そうこう考えながら適当な席に着くと、教室のドアが開き、元気な挨拶と共に矢島が入ってきた。

 

そのまま俺達の方へ向かってくるが、嫌な予感がする。

 

「聞いてくださいよ部長、神田がついに告白したんですよ」

 

「それは初耳だね。でどうだったのかな」

 

「返事も貰えず逃げられたらしいですよ」

 

「いきなりチクるとか……最低だな矢島」

 

こいつを信じて相談した俺が馬鹿だったかも知れない。

 

遅かれ早かれ自分で伝えていたとは思うがどうなんだ。

 

「まぁ言われなくても分かってたことだし、いいじゃないか」

 

「そうだよ神田3人寄れば何とやらだよ」

 

胸を張りながら言う矢島を見て、流れで部長も見る。

 

駄目かもしれない……思わずため息が出てしまう。

 

「部長!コイツら駄目だ……みたいなため息ですよこれ!」

 

「ブッキーに関する重要な情報を持ってるんだけど、忘れてしまいそうな気がしてきたね」

 

「すいませんでした謝るので教えてください部長様」

 

重要とまで言われると内容が気になる。

 

これでしょうもなかったら、またデカいため息の一つや二つ出てしまいそうだ。

 

本当に重要な話であって欲しい。

 

「うん素直なのは良いことだよ。ブッキーは家の事情で今週の部活は休むそうだ」

 

「とりあえず話だけでもしてみようと思ってたんですけど」

 

「残念ながらそれすら出来ないねご愁傷さま」

 

クソデカいため息をつきながら机に突っ伏す。

 

そんなんありかよ先輩……。

 

「神田……さすがにかわいそう……」

 

「内容までは聞いてないけど、今までも何回かあったからね。今回のは都合良く逃げる理由にされてるかもしれないけど」

 

家の事情で思い当たるのは例のアレだが、確かめようが無い。

 

こんな状態で来週まで待たなければと思うと、それだけで鬱になる。

 

「いっそ昼休みとかに先輩のクラスに突撃してみたら?」

 

「それでもし逃げられたら、先輩のクラスメイトによからぬ噂をされそうで嫌なんだが」

 

「まぁ来週まで待てば部活で話せるだろうし、無理する必要もないかな。ブッキーにも時間が必要なのかもしれないしね。そっとしておいてやろうじゃないか矢島ちゃん」

 

肩に手を置きながら、部長が矢島を止める。

 

嫌ではあるが待つのがベストだと俺も思う。

 

それでも一週間は長すぎないだろうか、それだけ待ってフラレた日にはもう二度と立ち上がれない気がする。

 

そうしてダラダラと話したりしているうちに、クロッキーの時間になった。

 

これ以上イジられるのも嫌ではあったので、いいタイミングだ。

 

 

 

描き上げて外へ向かう準備を始めたはいいが、当然今日は俺独りである。先輩が居ないのに行くのもなぁ……とサボりたい気持ちはあったが、気づけば結局いつもの場所へと向かっている。

 

「こんなに遠かったか……?」

 

歩きながら思わず呟く。今日はやたらと遠く感じる。

 

しかし到着してから時計を見ると、いつもより早く着いている。

 

先輩がいないと歩調は早いのだから当然ではある。

 

感覚なんて当てにならないものだ。

 

ベンチへ座る前に、辺りをキョロキョロと見渡す。

 

「そりゃ居るわけないよな……」

 

先輩だって俺がここに来る確率が高いのは分かっているはずだ。

 

さすがに居るはずもない。

 

ため息をつきながら座って、準備をしたまではいいが、なかなか筆が進まない。

 

少しは絵を描く事も好きになったと思っていたのだが、まだ先輩を追っかける手段に過ぎないということか。

 

少し描いてはダラダラとスマホを見てを繰り返していた。

 

何回目か分からないSNSのチェックを終え、また描くか……そう思い顔を上げると、景色に違和感がある。

 

まさかまただろうか、どうせなら発生する瞬間を見たかった。

 

そんなことを考えながら少し探すと、少し遠くにモヤ……先輩風に言えば小さな歪みを見つけた。

 

「あそこって何があったっけな……」

 

たしか病院だったような気がする。

 

自分の絵を見て比べてみたが、距離があるせいか、下手なせいか何が描いてあるのか分からない。

 

一応試しにと描いてある線をそのままなぞって描き足してみたが、特に何も起こらなかった。

 

先輩と違ってやはり俺は見えるだけのようだ。

 

だが俺が出来ないなら先輩がやるしかないわけで。

 

このまま毎日来ていれば、ここで出会えるのではないか?そんなことをふと思った。

 

上手くいくかは謎ではあるが、賢いかもしれない。

 

少しだけ軽くなった気持ちで、やたら遠く感じる道を帰った。

 

 

 

そうして次の日。

 

弾む気持ちで行けども当たり前のように誰もおらず、来ることも無かった。

 

進まない絵とスマホを眺めてその日は帰った。

 

更に次の日。

 

期待半分程度の気持ちではあったが何も結果は変わらなかった。

 

ただモヤは明らかに大きくなっている。

 

つまりは先輩が描きに来るはず。そうでないと困る。

 

そうして何もないまま今週最後の平日になった。

 

ここで遭遇できなければ週末に突入してしまう。

 

学校がある日は授業をサボりでもしない限り、放課後だけいればよかった。

 

だが休日は朝から晩までいなければ、仮に先輩が来たとしてもすれ違う可能性があるわけで。主人の帰りを待つ忠犬のごとく待つしかないだろう。

 

断じてストーカーではない。

 

普段より優しい矢島と、やたらと絡んでくる部長から逃げるように部室を飛び出し、今日も坂を登っている。

 

何故あんな態度なのか考えるまでもない。

 

奴らの中では既に失恋扱いなのだろう、失礼過ぎないか。

 

そんなことを考えながら歩いていたら、気づけば目的地の近くまで来ていた。

 

「いやまさか……」

 

人影らしきものが見えた気がするが、都合の良い幻覚かもしれない。

 

足を早めて歩くがそれすら遅く感じる。ダッシュで残りを駆け上がった。

 

そうして自分の見たものが幻覚で無かったことに安堵の息を吐き、胸を撫で下ろした。

 

「あー……お疲れ様です」

 

「神田くん……お疲れ様」

 

挨拶を返してくれた先輩は、今まで見たこともない暗い空気を纏っていた。

 

何か言おうと思ったが、結局無言のまま横に座って絵を描く準備を始めた。

 

先輩もそんな俺へ少し目線を向けたものの、すぐに前を向いてしまった。

 

しょうがないので手を動かし始めたのだが、こんな気まずさの中で集中などできるはずもなく。少し描いては止まりを繰り返していた。

 

その合間にチラチラと横目で先輩の様子を見ても、全く手が動いていない。

 

同じ様な状況なのだろうか?

 

しばらくお互いそうしていたが、何とかして話をしないとずっとこのままでは……?

 

「うっ……ぐすっ……ぇっ……」

 

そんなことを考えていたら、唐突に先輩が泣き始めた。

 

俺が何かしただろうかと考えるも、何も原因が思い浮かばない。

 

ここにいることが空気読めないから駄目だと、そう言われればそれまでだが。

 

「あの……先輩?大丈夫ですか……?」

 

だけど目の前で泣きじゃくる先輩を放っておくわけにもいかない。

 

戸惑いながら声をかけるも返事はなく、俯いてしゃくり上げ背中を震わせている。

 

背中をさするとか、そんなことも考えたが結局はやめた。

 

「……ここにいます。迷惑なら言ってください」

 

理由も分からないし、何もしてあげられない。それでも傍にいることはできる。

 

そうして少しだけ座る位置を先輩の方へずらし、横で何もせず街を眺めていた。

 

しばらくそうしていたが、泣きやんで顔を上げた先輩と目が合った。

 

奇麗だなと、そう思った。

 

「私ね……見えなくなっちゃった……」

 

「見えなく……ですか」

 

話し始めてくれたはいいが、何がの部分がなかったせいで分からなかった。

 

「うん……ここに来たはいいけど、神田くんが言ってた違和感が近いかな……風景の何かが変だなって感覚はあるの。けどその原因の歪みが見えなくて……だから消すこともできないの……」

 

全く描いていなかったのはそれが原因だったということだろう。

 

一度吐き出し始めて止まらなくなったのか、視線を逸らして先輩は続ける。

 

「昔から義務的に描いてきたけど……描けない私には何ができるのかなって。でもそんなものは何も無いなって……そう考えたらぐわーってなっちゃった」

 

「そうだったんですね……」

 

先輩はそこで話すのを止めて、また俯いてしまった。

 

「あー……俺はまだ絵を描き始めたばかりですけど……教えてくれた先輩が義務だけで描いてるようには見えなかったというか、絵の話をしているときは楽しそうだなって。そんな風にも見えてたし……描くことが嫌いになったとかじゃないんですよね?」

 

「ずっと描いてるから自分じゃよく分からないかも……でも昔はともかく今は嫌いじゃない……と思うし、そんなこともないかな」

 

「だったらそれでいいと思います。歪みだって見えないだけで、描いてどうにかできないわけじゃないんですよね?」

 

「多分……?全く描けてないから分からないけど……」

 

また顔を上げた先輩の潤んだ瞳と目が合う。

 

「だったら!俺が先輩の目になります!だから先輩は描いてください。そうすれば分かるはずです。ほら先輩、見てくださいこの場所です。ここを描いてください」

 

目の前の景色ではかなり大きくなってしまった歪みのせいで、その場所に何があるのか分からない。だが先輩の絵にはしっかりと建物が描かれている。その箇所を鉛筆で指し示す。

 

「でも、怖いよ……これで何も……起こらなかったら、わ……私には……本当に、何もないんだよ……?」

 

「そんなことはありません!もしそうだったとしても、先輩は沢山のものを持ってます!」

 

「わからないよ……」

 

「それでもいいです。分かるために描きましょう」

 

しばらく先輩は無言で固まっていたが、いつもよりゆっくりとしたペースで描き始めた。

 

時折手を止めて辛そうではある。それでも描くことを投げ出すこともない。

 

五分ほどの短い時間ではあるが、思った通り変化はあった。

 

「先輩……歪みですけど……ちゃんと薄くなってますよ」

 

「ほんとに……?嘘ついてない?」

 

「ほんとです。だから描きましょう、何もできないけど隣にいますから」

 

「うん! 描く……だから見ててね」

 

そう言ってまた先輩はいつも通りのペースで描き始めた。

 

とはいえ今日はかなり時間が経っている。

 

見える景色にもポツポツと明かりが灯っている、ここは街灯が少ないので結構暗い。

 

だが今の先輩を止めるのは無理だ。大人しく横で待っていよう。

 

「全く見えなくなりましたよ先輩」

 

「なんとなくだけどそんな感覚は分かるよ。でもやっぱり見えないね……」

 

「それでも時間がヤバイんで、今日のところは帰りましょう」

 

「そうだね、じゃあはい。私の画板もついでに持ってくれるかな」

 

何回か持とうか聞いたことはあったが、その度に断られれていたので少し驚いた。

 

「珍しいですね。全然いいですけど」

 

言いながら片付けて、自分のものと重ねて右手で抱える。

 

サイズが大きく、かさばるだけなので重くはない。

 

そうして歩き始めようとしたのだが……。

 

いい匂いがしたかと思うと、左手に柔らかい感触が触れる。

 

両手が開いた先輩が、抱えるように俺の左手に掴まっていた。

 

なんでだ?

 

「じゃあ帰ろっか」

 

「……そうですね?」

 

そのまま歩き出すも、当然のように歩きづらい。

 

「別にいいんですけど。そのままでいいんですけど、どうしたんですか急に」

 

「ほら……私の目になってくれるって話だったよね?」

 

「そうですね」

 

「ってことは体の一部ってことだよね?」

 

「そうとも言えますね」

 

「目は体から離れたりしないよね、じゃあ引っ付いてても普通じゃない?」

 

「そうですね?……そうなんですか?」

 

色々と間違っている気はしなくもないが、嬉しいといえばそうなのでそうかもしれない。

 

そして気づいた。結局告白の返事は貰ってない。

 

でもこの状況ってそういうことなのか?これで勘違いなんてことありうるか?

 

先輩の感触を左手に感じながら、悶々としながら坂を下った。

 

もとより時間が経っていたのと、歩くペースが遅かったのもあり、当然校舎は閉まっていた。

 

画板は文化棟の入り口へ雑に置いて帰ったが、それでいいのだろうか……?




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