E級ハンターなので続きやります。
日本にはとある異世界じみたものがある。
例えば、異次元と現実世界を繋げる路。
俺達は基本、「ゲート」と呼ぶ。
このゲートが何時現れ何処に出るのか、何故出てくるのかは分からない。
俺も分からない様な事だ。真相が分かったところで誰も気にしない。
それよりももっと重要なことが2つある。
その1、ゲートの向こう側にはとある存在がいる。
それは「魔物」だ。魔物にはしっかりと住んでいる?存在している場所があり、それを「ダンジョン」と呼ぶ。
人は様々な現代武器を以て魔物の殲滅に測ったが、彼らにはそういうものは通用しなかった。
俺達はこの時点で、今まで作り上げてきた文明の火器や武器を投げ捨てた瞬間でもある。
そんな魔物に対抗する為に、人は集まり組織を作った。
その組織に所属し、魔物を狩りダンジョンを攻略する人間を「ハンター」と呼ぶ。
ハンターには多種多様な人間がいる。それは性格もさながら持っている才能や力さえ違う。
もちろん、力を得る為にハンターをする奴もいれば金の為にハンターをする奴もただの暇つぶしの野郎だっている。
そして、今こうして説明している俺……
比企谷八幡も、ハンターだ。
―――「ハンター」とは強くあるものだが。
その中でも、低い階級のダンジョンすら命を顧みなければならない程の弱い立ち位置にいるハンターもいる。
それを、人は侮辱と軽蔑の言葉で……E級ハンターと呼ぶ。
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そんな千葉に住む俺は、高校卒業時に出現した「ゲート」という存在によって勉学なんかしていられなくなった。
何故なら、男がいつかは夢見た異世界からの扉。
そこに入っている圧倒的ファンタジーな要素と夢と希望にがっついて。
まぁどの道、俺はそうせざるを得なかった訳だし。
ゲートの出現によって、人の生活は多く変わった。
それは誰も彼もそうだった。
何せ根本的な「仕事が出来ない人」という存在を救ってくれる、命を繋ぐ最後の手綱でもあったからだ。
―――しかし、騙されてはいけない。
あくまで、命を繋ぐ最後の手綱。
その手綱から手を離せばいとも簡単に職なし宿なし飯もなしの絶望のどん底の様な生活を送るか……
要するに命懸け。現場職だってまだ人の命を重んじる事だろう。精神力とやる気、筋肉が必要だけど。
「今こうして、俺が死にかけてなきゃな……」
*生存者ペナルティが発生しました。レベルがダウンします。
やらかした。
今の状況は、自分が限りなく死に瀕している。
周りを見渡す。大量の魔物。
それも多くの存在が上位の可能性がある。
こんなE級ハンターに残されたただやれる事は。
最後までみみっちく抗うか、魔物のご飯となってやるかだ。
そんな状況になっても、俺はこうして抗う気もなくただ魔物を見るしかなかった。
どの道魔物の餌しか末路が残っていないのだ。魔物でも見て気分を落ち着かせようとしていた。
けど、千切られた腕の痛みすら忘れて傍観の姿勢は貫いた。
こうして天にくたばれと言い残した俺の余生は終わる。
最後まで逆転劇さえなかった俺の人生は、お試し気分で持っていた5円を握る。
ご縁がありますようにってか。ふざけんな。
こんなご縁なら京都で縁切りの神社に行ってるよ。悪縁
「けどまぁ……悪くはなかったんじゃねぇの」
途中までは、上手くやれてたんじゃないか。
そもそもゲートというものがなきゃ俺はいい人生だった。
クラスで1番有名なあいつに告白されて。
俺はそれを受けた。冴えない拗れたぼっちの俺が。
周囲からは何よあいつやらお前なんかがやら釣り合わないやらと言われたがそれでもよそはよそ、うちはうちだった。
そんなんで別れてたら俺はとっくに人をやめてる。そんなんで別れてやると思う俺の意識がアホだから。
けど、あの決断は明確だったな。
『比企谷君、お願い。あなたには生きて欲しいから…………』
*生存者の肉体損傷が60%まで達しました。ペナルティーを消費して適応後に再生します。レベルがアップしました。
生きて欲しい、か。
語るまでもない。
ゲートが存在しなきゃ命なんて失われる事なかったよな。
お前の親が、今一番娘を裕福にさせる相手と結婚させるとか言ってたからな。
こんな弱い俺が、お前を守れれば……
こんな酷い俺が、力を持っていれば……
たった独りの俺が、誰かに慕われる人間だったら。
何か運命は変わっていたのだろうか。
いやない。恥の多い人生だったし……俺がモテないのは周囲がリア充を優先してるとか思ってたヤツだし。
違うんだ、現実は。どう足掻いても俺を拾うやつはいなかったし、手を差し伸べるやつもいない。
経済的な援助?それはギブアンドテイクが成立するか?
能力的な援助?お荷物を抱えて一緒に働いていけるの?
家族的な援助?一人の妹さえ守れなかった俺がなんで?
考えれば考えるほど、生きて欲しいと言った理由が分からない。
自分を犠牲にして生きれるならどれだけ生きれたか。
でもそれってただ動いただけだろう。
自分は普段から自分を犠牲にしている。毎日自己犠牲、俺だけが損をし続けながらもその損を取り返すために働いている。
利子が取れなかったらそれまで。全損の始まりだ。
こうしてギャンブルにハマっていく人間がいるのだろう。
ああ、思い残しが多すぎる。
あいつら大丈夫かな。雪ノ下、由比ヶ浜、一色、戸塚、材木座、あとは葉山とか戸部とか三浦とか。
葉山は人生最盛期かってくらい強いしさ。
やっぱ出来てるやつは出来てんだろうな。
「……ご縁もねぇわ」
*対象のアンラックが向上しました。ペナルティを付与します。レベルがダウンしました。
ピン、と五円玉を指で弾く。もうこれしか力が残っていない。
もし指を鳴らしたら魔物全員消滅とかあるかな。
生命を大量殲滅。何処の無限なガントレットだよ。
そうだな、そんなヤバい力があればいいよな。
一発逆転……
一発逆転……
チリン、と五円玉が地に落ちる音と共に、俺は千切れた左腕を見る。
もはや腐食して酷いことになっているあの腕を取りに行きたい。元の持ち主が俺だからな、流石にこれ以上は奪われたくない。
そうして俺は息をするのを忘れそうな体を起こしてふら、ふらと
よろめきながら左腕を拾う。
俺がやれることはたった一つ。
一発逆転。よく考え、逆転の一手がないか探し続け生きて帰る事。
さぁ五円玉、俺に逆転出来る運命をご縁で引き寄せてくれ。
目の前から迫る大量の魔物と、俺は右手に持った一本のナイフで懸命に立ち向かった。
*損傷ペナルティが発生しました。レベルがダウンします。
結局、最後に叩き潰され食い破られる俺の最後を自覚するまでは、立ち向かった気分が終わらなかったが。
*死亡ペナルティが発生しました。レベルがダウンします。
そういえば、さっきからこの俺の目の前に出てくる文字は、なんなの―――
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「……ちゃん!」
「………………」
「……ちゃん!」
「ん…………?」
「お兄ちゃん!おっそいよ!」
「は……?」
目が覚める。何処だここは?俺は?
目が覚めた俺は全身の確認をする。噛み付かれて砕けた俺の右足と潰されてぐちゃぐちゃになった左足から体全体。
魔物の剣戟によって斬られた俺の右腕と吹き矢トラップによって千切れた左腕。
そしてもうない顔は、しっかりとあった。
体を急にぺたぺたと触る俺を不審に思ったのか、聞き覚えのある存在によってはっきりと現実を理解した。
「お兄ちゃんどうしたのさ、まるで魔物に食べられたような凄い表情してたよ?昨日も仕事から帰ってすぐベット行くからご飯不味くなってたよ?」
「……小町か。ビックリした、魔物かと思ったわ」
「小町魔物じゃないよ、お兄ちゃん……呆れる前に早く朝ご飯食べてねー」
「分かったよ」
そう言いながら俺は、目が覚めてはっきりとした俺の部屋のベットから降りる。
あの夢はなんだったのか。あまりにも酷い夢を見た気がした。
いや、夢であれば本当に良かったと思うほど生々しい。
確実に俺はあれで死んだと思っていた。
何せ様々な場所がはっきりと痛みを感じたし、死んだにしても意識が切れるまで遅すぎた。
明晰夢とでも言うのか。
そう考えながらリビングに降りる。
「……おはよう親父」
リビングから降りて近くの玄関には、遺影と共に花が添えられていた。
俺の親父は、ゲートが出現して混乱していた家族の家計を支える為に2ヶ月ほどハンターをした。
その親父が2ヶ月後に帰ってくる時、それなりの額の金と遺品だけが帰ってきた。
そのショックで俺の母さんは精神を病んでしまい今は精神病院にいる。
俺と妹の2人暮しな訳だが、この10年を贅沢しなければ普通なら生きていける。
普通なら、だが。
そうさせないのが現実だ。
リビングの真ん中にある机と椅子まで歩き、椅子に座って机に置かれた日本人らしいラインナップを見る。
白飯と味噌汁と焼き魚。肉や卵焼きがないことを除けば非常に日本人の好みにあった食事だ。
……ゲートが出現してから人々の生活は変わった。
まず、酪農家の2割ほどが失業した。ゲートが出現したことにより牛らなどがゲートから漏れ出す魔物の気配など様々な原因で生態系が変化。この変化に対応できない酪農家が次々と失業した。
そして農家も大体2、3割が失業した。魔物が存在するゲートが自分の田んぼや果物を育てている木々などの近くに出れば魔物が汚したり台無しにする可能性があるからと。
もちろんの如くこの変化に対応できなかった農家や魔物を恐れた農家は失業した。
さらにさらにと例を上げていけばキリがないほどに人は職も生活も脅かされた。
しかし、政府はここまでやられるまで黙っている訳じゃなかった。
内閣はすぐさま魔物の生態や有効的なものを知っている専門家たちを呼び、魔物を討伐または撃退する組織として『日本ハンター協会』が設置された。
白飯をこうして食べれて、焼き魚と付け合せの野菜に味噌汁が食い飲めるのも治安を守りながらゲートを閉ざし魔物を狩って経済を成り立たせるのもハンターを管理、運営する日本ハンター協会のお陰だ。
「美味い」
「お兄ちゃん、よく味飽きないよね」
「小町が作るものならなんだって美味いだろ」
「もーお兄ちゃんはそんな事言っちゃって」
自分のおかずを机に置いて、いただきまーすと言って食べ始める妹を見る。
比企谷小町は俺に似てたり似ていなかったりする妹だ。今年で高1になって一番大変だ。
何せ俺が卒業した日にゲートが出現し、無事に学校が通えるのかと怪しくなっていたのに。
今ではゲートを対処するハンターのお陰で、上手く学校生活を送れている。
「そういえばさ、今日もハンターの仕事行くの?」
「行くわ。てか、行かないと俺無職だし」
「まぁねー。まさか今の今まで働く気のないお兄ちゃんが働くなんて小町思ってなかったけど」
「当たり前だろ。親父が遺してくれた家族の金だけで生き延びられたって…………親父がいない事は変わりない。その代わりが務まるのは、男の俺しかいないだろ」
「お兄ちゃん、雪乃さんにそう言っておけば振られなかったのにね」
そう小町が言うと、俺は箸を止めて悔しさを噛み締める。もちろん小町には黙っているように見えるが。
「………………言うなよ。こんな事が起きるなんて分からねぇんだから」
「あ…………ごめんなさい、お兄ちゃん」
「んまぁ、次から言わなきゃ大丈夫だ。さて、飯食ったし仕事行くか……」
申し訳ない表情をする小町の頭を軽く撫でてやった。
ある程度食い終えた食事を運び、俺はキッチンまで向かってラップを取り出してかけた。
こうやって昼、夕飯用に残しておけばおかずを少し足すだけで満足感も上がる。死ぬ気で働く俺が、昔みたいに死ぬ程甘いマッ缶を買えなくなった事を認識して編み出した唯一の楽しみだ。
小町からの言葉に食う気を無くした、というのは付け足す必要はない。
持つべき荷物を持って、俺はとっとと家に出た。
「行ってきます、親父」
俺の親父が死ぬ気で頑張って手に入れた金をただただ消費し続ける人間ではなかった。
ハンターとして命を繋いだ親父の名誉と、そして覚悟の為にも俺は働かなければならない。
本音を言えば、働きたくはない。何もしないで強くなれたのならどれ程良かったか。
でもそうは言ってられない。
あの時に、金と遺品を持ってきたハンター協会の無慈悲は宣告は今でも覚えている。
母さんがへたりこんで泣き崩れ、小町は俺の手を握り締めて離さず、俺はその報告を聞いてただただ悔しさと、覚悟を噛み締めていた。
もう、甘い生活は終わった。
何処までも間違っている現実は俺達を助けてくれない。
誰かが立ち上がらなければ、あの様に帰ってくることを知った俺は……
例え『E級』と呼ばれる様な存在であっても、必死で生き続けると決めたのだから。
*ペナルティークエストが発生しました。
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日本ハンター協会は全ての都道府県に存在している。
その中でも千葉支部と東京支部は非常に大きい。隣県としてハンター同士のプライドバトルがあるのもそうだが……
やはり人の流れが強いからだろう。
大阪支部もそうだが、こういった大都市近くの支部はいい案件も多いが酷い案件もある。
例えば使い潰す気満々の「タンク募集!」と言った依頼や確実に危ない予感のする「運び屋-人員募集!」と言った依頼など。
こんな人を資材とか使い潰しの残機としか思ってない依頼を、俺は受けている。
何故か?そんな扱いは昔からだったしな。
人を人として見ないような奴らは多く見てきた。
それは俺の父に対する境遇もそうだった。
親父が死ぬ1か月前、休みを貰えて(もちろんハンターとしての仕事の中では休憩などもあったが)帰ってきた親父が酒を飲みながらこう語った。
『いいか、八幡。お前がハンターをやったとして……高望みだけはするなよ。ハンターなんてブラック企業で働くと同じだ。
なんでか、って言いたそうな顔だが俺はこの身で痛感した。ハンターは、甘くない。なんなら死ぬ程辛いぞ。
魔物に襲われ、死ぬかもしれない恐怖と四六時中見張り続けなければいけないという極限の状態の中最善の選択をしながら魔物と戦って、しかもただ倒して終わりだけじゃない。奴らを解体して素材などを集めないと働いた収入すら稼げない。ただ倒して終わり、だったらどれ程楽か。
だから八幡。俺にもし何かあっても……
お前に愛しい小町を任せた。絶対手を出すなよ』
うるせぇよ親父、とその時は返したが。
もしかしたら、もっといい返事を返せば運命が変わったんじゃないかと思う。
例えば『手を出したら、死ぬほどキレながら俺を殴ってくれ』とか。別に小町の事をそんな目で見てないが、もし俺が手を出した暁にはキレながら帰ってくることを考えた。
けど、杞憂だった。
死んだ人間は帰ってこない。死んだらそれまでだ。
死ねば守りたいものだって守れない。
最後に残るは、後悔と生きたいという無茶な願い。
それだけしか、残らない。まるで夢の時の俺の様な結末になる。
俺が夢で抗ったのは、せめて親父に立派な男として見せたかったからなのだろうか。
どう転んでも考えすぎなのは間違いない。
普段からこんな事を考えながら歩いていたせいで、俺は目の前に開閉式のドアがあることを知らずにガン、と頭を打ってしまった。
「いって……」
そうして、痛みに抑えながら俺は顔を上げる。
*ペナルティークエスト開始まで残り15秒です。
こんな通知が、扉に写っている事をやっと俺は認識したのだった。
「は…………?」
なんだ、これ?
待て、俺は何をしている?なんでこんな物が見えている?
その前に、俺は思い出した。
『お兄ちゃん、昨日仕事から帰ってきてすぐベットに』
俺は昨日何をしていた?
小町が言っていた事の記憶が、全くない。何故だ?
そもそもこの通知の様なものはなんだ?誰が見せている?
俺がさっき飯を食って外に出た全ては、夢か幻覚?
それともダンジョンなのか?
そう頭で考え、考え、考え考え考え抜いて……
*ペナルティークエスト、開始します。
無慈悲な謎の通知が、俺の未来を別の光景で遮った。
比企谷八幡
E級ハンター。高校卒業後にゲートが出現した世界で、過去に父親がハンター業によって命を落とした事をキッカケに自分自身もハンターの道を歩んだ。
現在は精神病院に入院中の母親と、学校に通う妹の小町の為に例え父親のような様になっても家族の為に命を懸けてハンター業をやっている。
過去の卒業した友人や、別れることになった恋人とは連絡は取っていない。