普通ではない鮮花の普通ではない友達   作:星乃 望夢

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 あっちだとふじのんのお友達、こっちでは鮮花の友達になったらというお話。


プロローグ

 

 二度目の人生というものは得てして苦痛でしかない。

 

 再び得た生に諸手を上げて喜べるのなら良かったのかもしれない。

 

 両親を騙すのは良心が堪えてしまう。

 

 子供が無知であるのは、親から貰う愛情を素直に享受する為だと理解する。

 

 前世というものを持ってしまっている自分は無垢に産まれて育つ筈だった子供を奪ってしまったようで、申し訳なさに苛まれる。

 

 そして自分は他人と関わるのがとても苦手だ。

 

 自分の殻に籠っていることで平穏を感じられる典型的な陰の者だ。

 

 そして、学校に通う歳になってもそれは変わることはない。

 

 小学生に話が通じるわけがないから無駄なことだ。

 

 だから本の虫となって現実から逃避していれば。

 

 何が面白いのか、こちらを指差したり、本を取り上げれたと思えばキャッチボールの道具にされたり。

 

 上履きを隠されたり、傘を盗まれていたり、筆箱や給食に使う箸もなくなっていたり、果てには机の中に画鋲を仕込まれたり。

 

 社会の中で生活する事の重圧に耐えられずに自分を終わらせた罰なのか。

 

 前世では経験の無かったイジメというものを受けた。

 

 家庭でも学校でも追い立てられる様に降り掛かる精神への負荷は積りに積もって、自分の堪忍袋の尾はある日唐突に切れた。

 

 どんな人間にも我慢の限界は存在する。

 

 それは二度目の人生で内面は成人であるはずの自分でも例外ではなかった。

 

 むしろ我慢の上限値が高いだけに、その堤防の決壊は己の感情をコントロール出来ずに激情に身を任せるだけだった。

 

 気づけば自分をイジメていた数人の同級生を病院送りにする不祥事を起こしていた。

 

 一通り暴れて冷静になった頃には既に遅かった。

 

 身体は子供でも中身は曲がりなりにも大人であり、身体の動かし方はわかっているから単なる子供のケンカにすらならず一方的に殴り倒してしまった。

 

 イジメられていても手を出してしまった方が悪になるのが今の世の中だ。

 

 それこそイジメ問題が社会的に取り上げれる年代であれば被害者として情状酌量の余地はあっただろうが、80年代や90年代だとまだイジメられた方が悪いという風潮が強かった。

 

 だから両親に迷惑を掛けてしまった自分は、逃げるように遠く離れた祖父母の家に転がり込んだ。

 

 両親は気にしなくても良いとは言ってくれた。しかし自分の所為で生活基盤をズタズタにしてしまった。

 

 いくらイジメられていたとはいえ、病院送りにする程に暴力を振るってしまった事に、躾や教育はどうなっているんだと両親は非難の的になってしまった。

 

 申し訳なさと罪の意識がから回って、両親と話すだけでも眩暈を起こす程のストレス過多になっていた。

 

 一度、心を落ち着ける意味も込めて、自分は祖父母の預かりとなった。

 

 両親に比べても遜色ない愛情をくれる祖父母に対しては、それでも両親よりは少しだけマシ程度に良心が痛かった。

 

 新しい生活環境。

 

 都会とは違う、緑のある生活はゆったりとしていてのんびり過ごす日々のお陰か、一年経つ頃には大分顔色も良くなった。

 

 勉強については引っ越しの時に持ってきた教科書で自習していた上に、小学生の勉学程度なら独学でどうにかなる。

 

 けれども、流石に中学生になるとそうもいかないだろう。

 

 分数とか因数分解とかまた覚え直しだ。

 

 社会に出てなんの役にも立たなかったからとっくの昔に忘れていることだってたくさんある。

 

 だから復学する事にした。

 

 いつまでも塞ぎ込んでいても始まらないのは世の常。

 

 転校生というのは興味の対象だ。

 

 だけれども、誰とも仲良くする気はなかった。

 

 したいとも思わなかった。

 

 人付き合いに対して、自分は最早致命的に希望を持つことが出来なくなっていた。

 

 だからクラスで孤立するなんて当然の事だった。

 

 ハッキリと拒絶の意思を放っていたからか、転校して一月もしないで自分に声を掛ける同級生など居なくなった――と、思っていた。

 

「お昼、一緒に食べましょ!」

 

 転校生の自分には席順が当て嵌まらないので窓側の一番後ろという絶好の昼寝ポジションが自分の席だった。

 

 そんな席だから給食の時間でも他の同級生と席をくっ付け合うなんてしなかったし、担任は自分がイジメを受けて一年休学していたのを知っているから無理に他の同級生と積極的に交流をさせる様な事もなかった。

 

 その気づかいはとてもありがたいことだった。

 

 なのにこのクラスには一人だけ、めげずにというか、諦めずに自分に声を掛ける同級生が存在した。

 

 名は黒桐(こくとう) 鮮花(あざか)

 

 名札にはそう漢字とひらがなで御丁寧に書かれていた。

 

 いや、まさかとは思いつつ、それでも自分に関わろうとする彼女の事が不思議だった。

 

 毎回返事も聞かずに、自分の席から椅子を持ってきて、小さい机に二人分の給食が並ぶから狭くて食べ辛いだろうに。

 

 なのに自分がクラスで孤立を始めた頃に彼女は自分と関わり始めた。

 

「ねぇ、何読んでるの?」

 

「コズミックホラー小説…」

 

「こずみっく、ほらー……? ホラー、つまり怖い本ね!」

 

 もし彼女が本当に自分の知るあの黒桐鮮花であるのなら。

 

 同級生を拒絶して、難しい本を読んでいる自分が何か特別に見えたのだろうか。

 

 彼女はとある創作物に出てくる人物だ。

 

 特別な事に惹かれる性質を持つ彼女は、なんと実の兄に恋愛感情を抱いている女の子でもある。

 

 兄に自分のことを妹として認識されないように叔父の養子になったり、全寮制の学校に入ったりと様々な工作をするちょっと歪んでいるものの、その真っ直ぐな所は好感が持てる娘だった。

 

 そんな彼女と同級生になったからなんだというのかと思いつつ、そんな彼女にライバル視されたり、好敵手と書いて友となるのはもう少し先の事だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 (さかい) 織姫(しき)

 

 織姫(おりひめ)さまと書いて織姫(しき)と読むのに納得できるくらい、彼はキレイな人だった。

 

 そして、誰も近寄らせない変わった人でもあった。

 

 転校生だからみんな仲良くなってみようと話し掛けるけれど、その度に「僕には構わないで」とか言っていれば、みんな気分を悪くするし、クラスでひとりぼっちになるのは当たり前だった。

 

 ただ、わたしはどうして自分からひとりぼっちになろうとするのか興味が湧いて来てしまった。

 

 だってみんなと仲良くするのは普通だし、自分からひとりぼっちになろうとする人なんて居ない。

 

 だからどうしてなのか気になった。

 

 でも織姫はその事を話してくれない。

 

 それでも最初に比べて話をするようになった。

 

 誰が話し掛けても自分には構わないでという返事が返ってくるのに、わたしだけは一応会話が成立する。

 

 織姫は休み時間になってもわたし以外とは話をする事もない。

 

 自分の殻に閉じ籠るみたいにずっと本を読んでいる。

 

 織姫が読む本はどれもが難しくて子供が読む本じゃなかった。

 

 背伸びをして大人っぽく振る舞うのとは違う。

 

 織姫と話していると大人と話している気分にもなるし、同級生とは話しても無駄な事、たとえばもっと先の勉強のことだとかを話してたりもする。

 

 優秀だと自覚のあるわたしと並び立てるくらいに織姫は勉強が出来て、テストの点数は常に二人して満点。

 

 それも当たり前。

 

 みんなが遊んでいる間に、わたしは織姫を巻き込んで勉強していたからだ。

 

 織姫は最初は嫌がったけど、テストの点数でわたしが勝って自慢してあげたら直ぐに追いついてきた。

 

 満点のわたしに追いついて満点を出す織姫。

 

 だからはじめて気の抜けない相手だと思うようになった。

 

 ライバルだと意識する様になった。

 

 それでいて、話していていても退屈しない友だちでもあった。

 

「ねぇ、どうして織姫はみんなと仲良くしないの?」

 

「…別に、仲良くしないとダメなんて決まりは無いし。それに話が合わないし」

 

 わたしの質問に答えた織姫は心底他人に興味なんてないと言うように言い放った。

 

「でもそれじゃあひとりぼっちになって困っちゃうわよ?」

 

「その時はその時で良いよ。苦痛を感じてまで他人と関わりたくない」

 

 ハッキリとした他人への拒絶、他人嫌いの織姫。

 

 どうしてそうなったのかは、織姫は話そうとはしてくれない。

 

 わたしは自分を特別だと思っていた。

 

 自分の容姿や能力や精神年齢が他の同年代の子より高い事を理解していた。

 

 そんな自分と対等に並び立つ織姫も特別だと思っていた。

 

 そんな織姫が見せる憂いと拒絶は、ともすればわたしにも理解の及ばないものでもなかった。

 

 自由気儘に振る舞う同年代の同級生と会話を合わせる大変さはわたしも経験している。

 

 でもそれで他人を拒絶するまでには至らない。

 

 社会的な孤立は学校生活を送る上で不利である事を知っていたからだ。

 

 それでも織姫は他人と距離を置く。

 

 先生とは最低限の会話をするけれども、わたしの様に話したりはしない。

 

 そう、わたしとだけは割りと普通に会話をする。

 

 と言っても、わたしが話題を振ると応える感じで、織姫から話題を振ってくる事はあまりないけれど。

 

「鮮花はさ…」

 

「ん?」

 

「どうして、僕に関わってくるの…?」

 

 その時の織姫は、不安に揺れながら、それでも少しだけ期待を含ませた視線を向けてきた。

 

 この問いに対する最適解を、織姫と少なからず関わっていたわたしには瞬時に導き出せた。

 

 でも、それを簡単に口にする事はしない。

 

 そうすると何だか負けている気になるからだ。

 

「織姫はわたしと居てどう思うの?」

 

「どうって……」

 

 質問に対して質問で返すのは失礼だし悪手ではあるものの、まだ子供であるわたしたちなら構わないだろうし、そうすることで織姫に対して優勢に立ち回れる。

 

 織姫は良くも悪くも流され易い。

 

 だからこうやって織姫はわたしの質問に対して考え込む様に黙る。

 

 そして、何処か発する事を躊躇う様に俯き加減の顔から視線だけは上目遣いという、天然でやっている少しあざとい仕草は、男の子だとわかっているのに可愛いと思ってしまった。

 

「…っ、……と、……とも、だち…、って、言ったら、イヤ、かな……?」

 

 織姫は時々、生まれてくる性別を間違えたんじゃないかって思わされる時がある。

 

 ただそうか、織姫も普通に友達は欲しいのね。

 

  周りと話が合わせられないから、合わないから遠ざけていただけで、話が合うならそれは別ってところは、わたしにもわからない事じゃない。

 

 同年代の男子はまるっきりガキで、女子にしても耳年増でまだまだ子供。

 

 こうしてわたしと対等に話せる織姫は、その時点である意味特別とも言える。

 

 織姫を相手にすると、わたしでさえまだまだ子供みたいだと思わされる時もある程、織姫は大人びていて思慮も智識も深い。

 

 そんな織姫が、わたしを友達に欲しがっている。

 

 悪い気はしないわね。

 

「酷いわね、織姫。わたしはとっくの昔にあなたの友達でいる気だったんだけど、わたしの勝手な思い込みだったのね」

 

 ちょっとだけがっかりという風に演技をすると、織姫は分かり易い程に狼狽える。

 

「あ、いや、その、……ぅぅ…」

 

 大人びているのに極度に自分に対して自信を持てない臆病な人。

 

 そんな織姫が、わたしは嫌いじゃなかった。

 

 ま、友達としてってだけどね。

 

 

 

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