東方二次SS でぃぺんどおんゆー 〜紅ex〜   作:赤井せりか

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 これは、幻想郷を覆った紅い霧が晴れた後の話。

 博麗神社の巫女、博麗霊夢と、
 普通の魔法使い、霧雨魔理沙の

 ふたりのおはなし。



 でぃぺんどおんゆー(上) 〜異聞紅魔郷えくすとら〜

 

 

 参拝客の殆どいない博麗神社に、連日のように足を運んでいた少女がいた。

 全体に白のフリルをあしらった黒いワンピーススカート姿に、やっぱり黒い帽子を被った少女。

 

 そう―――、霧雨魔理沙であった。

 

 用事があっても無くても魔里沙は博麗神社にやって来ていて、そうこうしているうちにいつの間にか入り浸るようになっていた。

 

 

 まあ、そんなところを前提に話は始まる。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 博麗霊夢は箒と塵取りを持ったまま、境内を歩き回っていた。

 

 これは毎日の儀式の様なもので、霊夢曰わく『掃除』との事。

 「掃きもせずに歩き回っているだけだぜ?」とこれは魔理沙。しかし霊夢は頑として『掃除』と言い張っているのだ。

 

 ぼんやりと境内を歩き回って、気が済んだら止める。

 

 幻想郷の住人らしく、全く暢気なものである。

 

 しかしこの頃の霊夢は少し様子がいつもと違った。

 どこかそわそわと辺りを伺い、溜め息さえついている始末。

 

 これもまた霊夢は否定するが―――、

 

 実のところ、境内の『掃除』を口実に魔理沙が来るのをこうして心待ちにしているのであった。

 

 魔理沙が来る時間はその日によってバラバラで、朝日と共に霊夢を叩き起こした事もあれば、夜空に流れる箒星と共に飛んできた事もあった。

 初めは魔理沙の勝手な振る舞いに霊夢はやれやれと溜め息をついていたが、それが何度も続くうちに、彼女がいつ来るか予想したりして楽しみにするようになっていた。

 

「相変わらずいつ来るか読めないんだから……」

 

 霊夢の声のトーンは迷惑そうに聞こえなくもないが、その表情はどこか楽しげにも見える。

 

「全く私だって暇じゃないのに―――」

 

 そう言いつつも、霊夢は先程からかなりの時間、『掃除』を続けていた。

 

 朝食を終えてしばらくしてから始めたのだが、気がつけば太陽は一番高いところにあった。

 霊夢は恨めしそうに太陽を睨みつける。

 

「もうお昼の時間じゃない。ああ全く忙しい」

 

 ()()()()()()()()()()()霊夢は、『掃除』をいい加減止めにすると昼御飯の準備に取りかかった。

 

 今日の昼御飯は肉じゃが。のつもりだったが、ついキノコを沢山入れてしまい、キノコの煮物のと呼んだ方が正確な代物になっていた。

 しかも量は明らかに多い。霊夢の食事量なら2、3日はこれだけで暮らせそうなくらいに。しかもこれを、昨日の夜から3食続けて食べている。

 

 もちろん霊夢の好物というわけではない。曰わく、()()()()()のだそうだ。

 まあそんな訳で、もはや飽き始めているキノコの煮物を食べながら、霊夢はポツリと呟いた。

 

「―――来ないなぁ」

 

 そう、それまで連日のように博麗神社を訪れていた魔理沙が、急に来なくなったのだった。

 

 今日も昼になっても姿を現さない。

 

 ……とは言っても、来てないのは昨日一日だけなのだが。

 

「用があるなら一言くらい言ってくれてもいいのに。そうすれば―――」

 

 麗霊はまだまだ大量に残っているキノコの煮物に視線を落とし、溜め息をついた。

 

「こんなにいっぱい作らなかったのに」

 

 好物だって言うから。

 

 ―――結局、その日も魔理沙は来なかった。

 

 

 

 そんなこんなで、次の日も、その次の日も魔理沙は来なかった。

 やがて、魔理沙はぱったりと来なくなった。

 霊夢も一日中『掃除』を続ける事も無くなったし、もうおかずを多く作る事も無くなった。

 

 

 元のひとりに戻った、ただ、それだけの事。

 

 

 いままでと変わらない、ひとりの気ままな時間が戻ってきた、それだけの事だった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 そんなある日の事。

 

 霊夢は久し振りに妖怪退治に勤しんでいた。

 

 巫女としての務めは勿論の事、あと多少のストレス発散に。

 妖怪の本陣を叩いて、その帰り。

 遥か視線の先、通り過ぎる影がひとつ。

 

「あれは……」

 

 霊夢が目を凝らして見つめる。

 流星の如きその軌跡は、黒と白のツートンカラー。

 

 見覚えがある。

 

 あるなんてもんじゃない。

 そう、

 

「魔理沙……?」

 

 そう、極光のブレイジング魔法少女、霧雨魔理沙であった。

 呼び止める間もあらばこそ、彼女はあっと言う間に遠ざかっていった。

 

「あっちは……」

 

 飛び去って行った方がまた問題だった。

 湖の畔にそびえ立つ、幼き不死女王(ノーライフクイーン)の館、『紅魔館』。

 

 紅い霧はとうに収まった。

 ならば何故?

 霊夢は思考を巡らせ―――、ひとつの可能性に思い当たる。

 

「ヴワル魔法図書館か」

 

 そう、禁書忌書聖典魔道書の類が古今東西南北中央全土から集められた伝説の魔法図書館。

 そこにある貴重な本目当てで入り浸っているのかもしれない。

 それと図書館の番人ともまんざらでは無いような話も聞いているので、まあ、そんなところなんだろう。

 

 霊夢は嘆息する。

 

 ―――まあ、ね。

 あの火力馬鹿がそこらへんで野垂れ死ぬとも思ってなかったけど。

 気が合うのがいるのは結構だわ。

 でもそれならそれで、顔くらい見せてもいいでしょうに。

 

 なんだか面白くない。

 

 霊夢は、ふんと鼻を鳴らすと紅魔館がある方に背を向けた。

 

 ほんの少しだけ後ろが気になったが―――、

 

 振り向かなかった。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 さて。

 

 それから数日後の夜。

 満月の夜。

 

 麗夢はひとりの夕飯を終え、お茶なんぞすすりながらひとりくつろいでいた。

 

 と、

 

 不意に博例神社を物凄い圧力の妖気が包んだ。

 

「―――この妖気は」

 

 湯飲みを置き霊夢は立ち上がると、障子をすぱんっ!と開け放つ。

 

 空には満月。

 

 その満月を背に―――、

 

「こんばんは博麗霊夢」

 

 かわいらしい少女の声。

 しかし、それとは裏腹に背中には異形の翼

 逆光でよく見えないが、それでもなお輝きを放つ紅い瞳。

 彼女の周囲の空間がぼんやりと紅く染まっている。

 

 

「レミリア・スカーレット……」

 

 

 ここまで強烈な妖気を放てるのは幻想卿でも数少ない。

 最強の一角、紅、最強の吸血鬼、不死女王、夜の王。

 そう、レミリア・スカーレットだった。

 

「何の用?」

 

「随分な出迎えね」

 

 そう言って笑うレミリアを霊夢は睨みつけた。

 

「アレだけ強烈な妖気を放っておいて。何? この前のリベンジのつもり?」

 

「リベンジ? まさか」

 

 レミリアはすーっと高度を落とし、着地する。

 

「妖気もわざと放ったのよ。まあ、いわばノック代わり、かしら? ここはノッカーも無ければ扉すらも無いから」

 

「そんなことはどうでもいいわ。一体ここに何の用なのよ」

 

 ひたり、近づいてくるレミリア。

 

「こんなに月が綺麗な夜だもの。散歩のひとつくらいしてもいいじゃない、ねえ?」

 

 一歩下がり、霊夢は身構える。

 

「こんなに月が綺麗な夜だもの。屋敷にでも引きこもって夜空でも眺めているべき、だわ」

 

「それは随分と粋じゃないわね」

 

「私はそれがいいの」

 

 霊夢の答えにレミリアは嘆息する。

 

「今夜は本当になんでもないのに」

 

 ぱちん、と指を弾く。

 

「咲夜」

 

「はい、お嬢様」

 

 霊夢の背後から声。

 驚いて振り向くと、一体いつからそこにいたのか。

 全く気配を感じさせずに、紅魔館のメイド長 十六夜咲夜がテーブルと椅子のセット、そして紅茶の準備を終えていた。

 

 レミリアが笑う。

 

「こんなに月が綺麗な夜ですもの。

 

 ちょっと、お茶にでも付き合わない?」

 

 

 

続く。

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