東方二次SS でぃぺんどおんゆー 〜紅ex〜   作:赤井せりか

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 でぃぺんどおんゆー(下) 〜異聞紅魔郷えくすとら〜

 

 レミリアの話はこうだ。

 

 紅霧異変のあと、魔理沙が紅魔館へ頻繁にくるようになった。

 来ては館を破壊して(特に外壁と図書館)困る。

 ―――来るのはまあ構わないが毎回壊されては修理するのも大変、とこれは咲夜の感想だが。

 

 門番はどうしたの? と霊夢が問うと、レミリアはつまらなさそうに鼻を鳴らしただけで何も答えようとしなかった。咲夜を見ると、相変わらずクールで澄ました表情をしていたが、その頬に流れる一筋の汗を霊夢は見逃さなかった。

 

 レミリアは続ける。しかも最近は、パチュリーだけでなくレミリアの妹、フランドールとも仲がいい、という。

 とどのつまり、レミリアの言葉を要約すると魔理沙はなんだかんだ毎日のように来ては皆と仲良く(?)やっているということのようだった。

 

「で?」

 

 カップを傾けながら霊夢は半眼で問う。

 

「結局なにが言いたいわけ?」

 

 しかしレミリアはただただ薄い笑いを浮かべるだけで、

 

「別に」

 

としか答えなかった。

 まるで、霊夢の反応を楽しんでいるように。

 それがわかるから、余計に腹が立つ。

 ひとしきり言いたい事だけ言うと、レミリアは再び満月の夜空へと帰っていった。

 咲夜もテーブルセットとともにいつの間にか消えていた。

 

 残ったのは霊夢ひとり。

 ひとりだった。

 

「何よ……」

 

 俯いてポツリと呟く。

 昔はそんなことなかったのに。

 いつだってひとりで生きてきたのに。

 なんだか苛つく。

 それというのも魔理沙と出会ってからだ。

 

「ばか……」

 

 本当にバカだ。

 誰が?

 魔理沙が?

 それとも私が?

 

「気が合う、だなんて―――何よ調子のいい事ばっかり言って」

 

 魔理沙と一緒だと楽しかった。

 いつもの幻想卿が全てが新しく感じた。

 それもこれも魔理沙がいたから。

 

「もっといいのが見つかったらすぐにそっちへ行くって訳?」

 

 ようやく気がついた。

 霊夢が自分で考えている以上に、魔理沙に依存しいたということに。

 こんな事で心が揺れるなんて、情けなくて切なくて涙が零れそうだった。

 だから、霊夢は思わず叫んでいた。

 だから?

 違う。

 叫ばずにいられなかっただけ。

 ちょっとした八つ当たり。

 

「……魔理沙の……魔理沙の……魔理沙のバカぁっ!!」

 

「―――バカで悪かったな」

 

 頭上から声。

 

「へ?」

 

 間の抜けた声を出す。

 見上げたそこには、

 

「よう、霊夢」

 

 箒に跨った魔理沙が―――当たり前のように浮かんでいた。

 

 

「よっと」

 

 箒から降りると、にっ、と屈託の無い笑顔で笑う魔理沙。

 霊夢はわざとらしくぷいとそっぽを向いてしまう。

 

「なんだよ霊夢。せっかく来たのにその反応はないぜ?」

 

「知らない」

 

「まあいろいろと忙しくてね、こう見えても」

 

「知らない」

 

「何怒ってんだよ」

 

「怒ってないもん」

 

「あのなあ、言いたい事ははっきり言わないとわからないぜ?」

 

「…………」

 

「………はあ。じゃあいいや、どうやら私は邪魔みたいだからもういくぜ?」

 

 帽子を目深にかぶりなおし、魔理沙は霊夢に背を向ける。

 

 その背中をチラと見て霊夢は肩を震わせる。

 

 ――違う。

 違う違う。

 私はそんなことを魔理沙に言いたかったんじゃないのに。

 それなのに、どうして―――、

 

「……勝手にすれば」

 

 しかし口から出たのは裏腹な言葉。

 

 ―――そう。私はひとり。

 ひとりでこの博麗神社にいるの。

 ひとりで―――。

 

 この間の、はじめての弾幕ごっこの時のやりとりは、あれはただの気まぐれ。ただ、魔理沙のスペルカードを受け止める、と言っただけの話。

 

「別に構わないけどさぁ」

 

 魔理沙が振り向く。彼女にしては少し、悲しそうな笑顔だった。

 霊夢の目元が、震える。

 

 ―――なんで、なんでそんな顔をするの?

 

 魔理沙の表情に心が激しく揺さぶられる。

 

 そんな霊夢に近づくと魔理沙は顔を覗き込んで、言った。

 

「それならどうして霊夢、お前は泣いているん――」

 

 その瞬間。

 霊夢は魔理沙の胸に飛び込んでいた。

 

「お、おい霊夢?!」

 

 珍しく慌てた魔理沙の声。

 

「――ばか」

 

 霊夢は泣きじゃくりながら「ばか、ばか」と呟くばかりで何も答えない。

 

 魔理沙は溜息をつくと霊夢の頭を撫でた。

 

「なんだよ急に……そうやって泣くのはお前らしくないぜ?」

 

 魔理沙のちょっと困ったような声。

 

 ―――わかってる。わかってるけど―――、

 

「しかたっ……ひぐ……ないじゃ、ないっ」

 

 一度口を開いたら――止まらなかった。

 

「さいきん、ぜんぜんこなかったし……ぐすっ、それに、ごはんだってつくっ……ひぐ、て、まって、ぇぐ、たのに、ずっと、ずっ……とっ、ひとり、でっ、、まってたのに……こうまかんにずっといってたって、きいてっ、ぐす……ばか、ばかばかばか――」

 

「あー」

 

 ぽりぽりと頬をかく。

 

「なんだ霊夢お前―――、ヤキモチ妬いてたのか」

 

 認めたくなかったが、図星だった。

 

「―――ばかぁっ!!」

 

と叫んで顔を上げた霊夢。

 

 瞬間。

 

 霊夢の口唇に何かやわらかいものが触れる。

 驚いて目を見開く。

 

 目の前にある顔が、魔理沙の顔だと理解するのに5秒かかった。

 

 霊夢の口唇に触れているのが、魔理沙の口唇だと理解するのにさらに5秒かかった。

 

 それが()()という行為だと理解するのにはそこから更に5秒かかった。

 

 そして、口唇の間から侵入してくるやわらかくてあたたかいものが、魔理沙の舌だと理解するのには――

 

 これはすぐにわかった。

 

「ちょ―――魔理―――!?」

 

 ぷはっ、大きく息を吸う。

 後ろに下がり、引き剥がそうとするが――腰を抱かれ再び捕らえられてしまう。

 

「だめだぜ? お前の方から逃げちゃ―――」

 

 再び目の前に魔理沙の顔。

 吸い込まれそうな瞳。

 魅惑的な口唇。

 

 思わず目を閉じる。

 

「や――むぐっ――」

 

 ―――。

 

 時が止まる。

 

 

 そうすることしばし。

 ようやく霊夢から離れる魔理沙。

 ちょっと濡れた唇に、悪戯っぽい笑いを浮かべて。

 

「ばーか。私はどこへも行ったりなんかしないぜ?」

 

「―――なっ!?」

 

 ―――ぼっ。

 

 霊夢の頬が、顔が、首元までが真っ赤になった。

 何か言い返そうと思ったが言葉が出てこない。

 しばらく口をパクパクとさせていたが――諦めた。

 

「―――あうぅ」

 

「にひひ、どうだ?」

 

「な、にが、どうだ、よ!?」

 

「それに言ったのは霊夢、お前じゃないか。『覚悟してね』って」

 

「……うん」

 

 しおらしく頷く霊夢を見て魔理沙は満足そうな表情で笑うと、彼女の指にリングを嵌めた。

 

「あ―――」

 

()()()()()()()()()()

 

「―――ぴったり」

 

 美しい宝飾がその指輪は、霊夢の左薬指にピッタリと嵌った。

 

「だから、さ。これはその―――証だぜ」

 

 黒みがかった石がついたリング。

 霊夢はまじまじとそれを見つめる。

 

「これは…?」

 

「ああ、『図書館』で文献を見つけてな、私が造ったアミュレット。石は『ブラックスターサファイア』だぜ?」

 

「え、じゃあ?」

 

「これを造る為に、少しの間留守にしてたんだ。悪かったな、霊夢」

 

「………」

 

「なんだよ、気に入らなかったか?」

 

「ううん 嬉しい……」

 

 霊夢はそのリングを大切そうに眺める。

 

 それはなんだかとてもくすぐったい感覚で――でも嬉しかった。

 

「ありがとう魔理沙」

 

 嬉しくてまた涙が出てきた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――それから。

 

 魔理沙は連日のように博麗神社へ来た。

 次の日も、その次の日も。

 

 やがて、魔理沙は神社に入り浸るようになっていた。

 

 霊夢も一日中『掃除』を続ける事も無くなったし、もうおかずを作り過ぎる事も無くなった。

 待たなくても魔理沙がいる。

 作っても魔理沙が食べる。

 まあ、そんな奇妙な二人の暮らしが始まったわけで。

 いままでとは違う、ふたりの時間がゆっくりと始まった。

 

 それだけの事だった。

 ただそれだけのことが――霊夢は嬉しかった。

 

 二人でいられる事が――。

 

 

 

 

―――STAGE CLEAR(終わり)

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

EXTRA STAGE ―― START!

 

 

 

 そうして、『紅魔館』には魔理沙はぱったりと来なくなった。

 

「ところでお嬢様」

 

「なにかしら?」

 

 窓辺で紅い月を眺めながら、レミリアは意識だけ咲夜の方を向いた。

 

「ひとつ疑問なのですが」

 

「ひとつだけ、なら答えてあげるわ」

 

「では無礼を承知で。今回、どうして霊夢にあのような事を話に言ったのですか? あれじゃあまるで―――」

 

「ひとつだけって、言ったわよね」

 

 くるり、レミリアが咲夜に体ごと向き直る。

 

「答はいつだって簡単(シンプル)よ?  ただ単にこれ以上あの黒白魔法使いに屋敷で暴れられるのが嫌だっただけ。それ以上でもないしそれ以下でもない。はい、質問の答え終わり」

 

 そうとだけ言うと、レミリアはまた窓の外へ視線を戻す。

 

 紅い月に右手を差し伸べて―――。

 

 

 主の様子に咲夜は小さく息を吐いた。

 

(……これ以上は何も答えてくれなさそうね)

 

 紅霧異変以来、レミリアはすっかり霊夢の事が気に入ってしまったのだ。

 だから霊夢に会いに行くと言った時も、むむっ? 随分とご執心なものね、と内心少しヤキモチを妬いてみたものだったが……。

 

(そういうわけではなかったのね)

 

 そんな主人の様子に咲夜は諦めたのか一礼すると部屋を後にした。

 部屋を出る際、もうひとつ気になる事を思い出した。が、質問はひとつだけ、と言われたので胸の奥にしまっておく事にした。

 

(そういえばお嬢様の右手に光るリング、ルビーの――)

 

 レミリアの右中指は、月光に照らされ紅に光っていた。

 自分の右手を見る。

 

 淡い真珠の光。

 

 魔理沙が「お近づきのしるしだぜ」とくれたリング。特に宝飾が施されていないシンプルなデザインだが、悪くはないわね、と思って嵌めていた。

 よくよく思い出してみれば、石は違えども同じ造形のリングをレミリアもパチュリーも美麗も、フランも、小悪魔すら嵌めていた気がする。

 

 咲夜は小さく苦笑いをした。

 

(あの娘、全員にリングを贈っているわね)

 

 しかも、微弱ではあるが何かしらの魔力も籠められている。その()()()()には、これと言った悪意は感じられない。

 

 恐らくはアミュレット、お守りのようなものだ。何かの加護がかけられているのだろう。

 そこに恐らくは他意は無い、はず。しかし。

 

(―――全く、指輪なんてチョイスはよろしくないわね。あの黒白魔法使いったら。まるで天然の思わせ振りだわ)

 

 最近パチュリーの様子がおかしかったのは、恐らくは()()のせいだろう。

 

 噂をすればなんとやら。向こうからパチュリーが歩いてきた。

 その指に光る指輪を見つめながら、夢心地の表情だ。

 咲夜のことなど全く気づく様子もない。

 

 右へ左へと蛇行しながら、 廊下の先の曲がり角を―――、曲がらずに壁へと顔から突っ込んだ。

 

「ぎにゃっ!?」

 

 変な声を上げ、もんどり打って倒れ―――

 

 かちり。

 

 ―――そうになったところを、咲夜は抱きとめた。

 

(やれやれ、だわ)

 

 しばらくは紅魔館は浮ついているかもしれない。私の仕事も増えそうね、と自分の指にも光る指輪を恨めしそうに見つめる咲夜なのであった。

 

 

 

――被弾(終わり)

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