オーバーロード ナンム・ドゥルアンキ   作:SIN罰

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 第一話と打って変わって善の波動。
 とはいえ原作から大きな変化のある話ではありません。


04 王国戦士長

「――私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らして回っている帝国の騎士達を討伐するために王の御命令を受け、村々を回っているものである」

 

 部下の戦士たちを連れて馬を走らせ、騎士に襲われているであろう村を助けに来たガゼフは意外であったが喜ばしいものを見た。

 

 いくつかの家は崩れていて、血の跡が残っているため犠牲者は出たのだろうが……この村は誰かの手で助けられたのだとわかったからだ。

 

 ガゼフは馬上からその()()に声をかける。

 

「王国戦士長……どのような人物で?」

 

「商人たちの話では、かつて王国の御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭兵士たちを指揮する方だとか」

 

 その誰かの傍らで控える村人が質問に答える形でガゼフのことを話す。

 

 見事なローブだ。恐らくは魔法詠唱者(マジックキャスター)だろうとあたりをつける。

 

「目の前にいる人物が本当にその……?」

 

「……わかりません。私も噂話でしか聞いたことがないもので」

 

「王国の兵士か。まあ、ずいぶん遅かったじゃないか」

 

「……それについては申し開きもない」

 

 緑の髪の男の言葉にガゼフは小さく頭を下げる。

 

 自分たちがどれだけ急いできたとしても、それが事実だからだ。

 

(素足……飾り気のない服だが、上等な布だな。彼も魔法詠唱者(マジックキャスター)だろうか。あるいは、テイマーだろうか)

 

 かすかに視線を左右に動かす。

 

 見たこともない不気味な外見の魔獣が十二体。大きさはそれほどでもないが、目立った外傷がない。

 

 少なくとも帝国の騎士を相手に無傷で圧倒できる強さがあると見ておくべきだろう。魔獣を短く観察したガゼフはそう判断した。

 

「この村の村長だな。横にいる彼らは一体誰なのか教えてもらいたい」

 

 この場で自分たち戦士団を待ち構えていた面々の中で唯一平凡な、この村の村長と思しき男に視線を向ける。

 

 村長が話し始める前に仮面をつけたローブの魔法詠唱者が一歩前に出て口を開く。

 

「それには及びません。初めまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われておりましたので、助けに来た魔法詠唱者(マジックキャスター)です」

 

 その言葉を聞いて、ガゼフは馬を降りる。

 

 そして頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉もない」

 

 ざわりと空気が揺らいだようだった。部下と村長が驚いている。

 

 しかし、これは曲げられない。

 

 王国戦士長という国王陛下より与えられた地位にいるものが素性も知れないものに頭を下げたと聞けば、貴族たちがうるさいだろう。それくらいのことはガゼフにもわかっている。

 

 それでも、それでも彼らが村を救ってくれたことに感謝していることを伝えたかったのだ。

 

 平民出身であるためガゼフはこうした村での生活を良く知っている。

 

 村の生活は死と隣り合わせだ。モンスターに襲われるのも珍しくはない。

 

 そういう時、力を持つ貴族や冒険者が助けてくれることを期待した。多くの場合、実際に誰かが現れることはない。

 

 ガゼフは示したかった。

 

 危険を承知でも、弱き者を助ける強き者の姿を。

 

 だからこそ、感謝を告げたかったのだ。その姿を彼らに見出したから。

 

「……いえいえ。実際は私も報酬目当てですから、お気になされず」

 

「ふっ……。いや、善意がないとは言わないよ。せっかく人助けをしたなら報酬がほしいって話さ。ああ、すまないね。僕の名はエルキドゥ。そこの魔獣たちは僕の支配下にある。僕が命令しない限り、人を襲うことはないよ」

 

 やはりテイマーだったかとガゼフは納得する。

 

「ほう」

 

 もう一人の人物にも一瞬視線を向けた。微動だにしない漆黒の鎧の騎士。こちらは名乗る様子がない。

 

 その様子から、彼らの中での上下関係を考える。

 

 黒騎士は二人に従っている立場であり、アインズ・ウール・ゴウンとエルキドゥは対等な仲間だがリーダーはアインズ・ウール・ゴウンである。ガゼフは会話の主導権からそう考えた。

 

 話をするならアインズとするべきだろう。エルキドゥもリーダーを立てているのか、口は挟んでも話の主導権を取りに来ない。

 

 とはいえエルキドゥにも礼儀は払うべきだろうとも思う。彼にも発言力があると見た。

 

「報酬と言うと、冒険者なのかな」

 

「それに近いものです」

 

「旅人さ」

 

「ふむ……なるほど。王国には来たばかりなのかな。寡聞にしてゴウン殿らの名は存じ上げない」

 

「ええ。たまたま通りかかったものですからね」

 

 どこから来たか語るつもりはないようだと感じた。

 

 だが人々を守るために来た責務として、ガゼフは質問を投げかける。

 

「旅人の時間を奪うのは少々心苦しいが、村を襲った輩について詳しい説明をお聞かせいただきたい」

 

「もちろん喜んでお話させていただきます、戦士長殿。この村に来た騎士の大半は命を奪いました。しばらくは暴れないのではと愚考します。その辺りのご説明も必要でしょう?」

 

「命を奪った……貴殿が殺したのかな、ゴウン殿」

 

「私は少しだけですよ」

 

 アインズの言葉に含まれたニュアンスを察してガゼフは視線を横に向ける。

 

 エルキドゥが支配しているという魔獣の方だ。

 

 血の残り香が強いとは思っていたが、あの魔獣だけで騎士を倒したのだろうか。

 

「もう一つお聞きしたいのだが、その仮面は?」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)的な理由によって被っているものです」

 

「仮面を外してもらえるかな?」

 

 念のため素顔を見せてもらえないか問いかけてみる。

 

 怒っているとも泣いているとも取れる表情を模した仮面だ。顔を隠す冒険者はいないわけではないがかなり珍しい。

 

 知った仲ではないが仮面の冒険者と言えば頭をよぎる人物はいる。王国でも有名な高位の冒険者だ。

 

 しかしその人物以外には聞いた覚えがない。

 

「お断りします。決められた手順で取り外さなければ魔法の力を失ってしまう仮面でしてね」

 

「なるほど。そのようなアイテムもあるのか。さぞ強力なアイテムなのだろう」

 

「ええ。もう二度と手に入らないものですから」

 

 決して詳しくはないが決まった条件を満たしている者でなければ力を発揮できないマジックアイテムのことはガゼフも知っていたため、アインズの仮面の下は気にはなるが諦めた。

 

 最後に一瞬エルキドゥが笑いをこらえるような素振りを見せていたことに首を傾げそうになる。

 

 入手の経緯に笑い話でもあるのだろうか。

 

「おっと、状況が動いたようだね」

 

「状況?」

 

 不意に遠くを見るようにエルキドゥは右手を顔の前に持っていく。

 

「囲まれているよ」

 

 咄嗟にガゼフは後ろを振り返る。

 

 見れば、息を乱しながら村の外に待機させていた部下の戦士が馬を走らせてこちらに向かってきているところだった。

 

 外に待機させていた部下がそんな様子で来たということは、つまり問題が起きたということだ。

 

「戦士長!」

 

 馬を止めて部下が声を張り上げる。

 

「周囲に複数の人影、村を囲むような形で接近しつつあります!」

 

 

 

 

 

 

「なるほど、確かにいるな」

 

 家の影からガゼフは村の周囲に現れた人影を窺う。

 

 見える範囲では三人。等間隔を保ちながらゆっくりと村に向かってきていた。

 

 武器は持っておらず、重装備もしていない。しかし、その意味は彼らの隣を見ればすぐにわかる。

 

 光り輝く翼の生えた存在。鎧のようにも見えるが、それらが何であるのかガゼフも知っていた。

 

 天使。

 

 信仰系魔法によって異界より召喚されるとされるモンスターであり、神に仕えているとスレイン法国では信じられている存在。

 

 王国の神官は単なる召喚されたモンスターに過ぎないと言っているが真偽は不明である。そうした宗教論争が国家レベルでの睨み合いの理由の一つではあるが、問題なのは強さだ。

 

 ガゼフの知る限り天使や悪魔は同程度の魔法で召喚されるモンスターと比べて少し強い。様々な特殊能力に加えて魔法も使うため、総合的に厄介な敵という認識だ。

 

 今回の天使は赤く燃え盛る炎を宿したロングソードを持っている。ガゼフの知らない天使だ。

 

 種類によっては勝てない相手ではないが、知識にないため強さを測りかねている。

 

「あれは信仰系魔法で召喚できる炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)だね」

 

「エルキドゥ殿。知っているのか」

 

「ああ。第三位階の天使召喚で呼び出せる、と言って君に通じるかな」

 

「第三位階か、厄介だな」

 

 軽装で武器も持っていないとしても、魔法が使えるものにとっては問題にはならない。むしろ魔法詠唱者(マジックキャスター)は重い装備を避ける傾向にある。

 

 それこそエルキドゥのように。

 

 相手の強さを予測してガゼフは考え込む。

 

 第三位階は常人が到達できる最高位の魔法だと聞いたことがある。

 

「それで、彼らについて心当たりはあるか」

 

「あるよ。というよりも、村を襲った騎士を尋問して聞き出しているからね」

 

「教えてもらえるか」

 

「君さ。彼らはスレイン法国から来て、村を襲ったのも君を誘き出すためだったと白状したよ」

 

 強い焦りと憤りがガゼフの頭をよぎる。

 

「まさかスレイン法国にまで狙われているとは……」

 

「憎まれているのですね、戦士長殿は」

 

「困ったものだ。戦士長と言う地位に就いている以上仕方がないことだが……本当に困ったものだ」

 

 今着ている鎧も腰に帯びている剣も、自身の使える最高の装備ではない。

 

 ガゼフが王から貸し与えられた王国に伝わる五宝物は今回装備することを許されなかった。

 

 貴族に働きかけた妨害だろう。スレイン法国がここでガゼフを殺そうとしている。

 

「第三位階魔法が使える魔法詠唱者(マジックキャスター)がこれだけ揃えられていて、このような任務に従事していることを考えれば……スレイン法国の特殊工作部隊群、噂に聞く六色聖典か」

 

「そんな部隊があるんだね」

 

 焦りはなくならないがガゼフは肩を竦めた。

 

「……本当に炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)なのか。何故同じモンスターが……口振りからして位階魔法はあるようだが、同じもの? だとしたら……」

 

 何やらぶつぶつとアインズは呟いている。

 

 仮面で声がくぐもっていることもあってよく聞こえないが、思案している様子から魔法詠唱者(マジックキャスター)として分析しているのだろう。

 

 わずかな期待を抱いてガゼフは問いかけた。

 

「ゴウン殿。良ければ雇われないか?」

 

 返事はすぐには返ってこない。ただ仮面の下から凝視されているとガゼフは強く感じる。

 

「報酬は望まれる額を約束しよう」

 

「……お断りします」

 

 断られたことそのものに驚きはない。

 

 アインズが慎重な人物であることは薄々理解していたからというのもある。

 

「そうか……ではエルキドゥ殿の魔獣を貸していただくことはできないだろうか」

 

「それもお断りさせていただきます」

 

 第二の問いかけにエルキドゥではなくアインズが答えた。

 

 視線をエルキドゥに向けるが、笑みを浮かべながら肩を竦められた。

 

「そうか……王国の法を用いて強制徴集というのはどうだ?」

 

「……最も愚劣な選択肢を選ぶものだ……などと暴言を吐く気はございませんが、国家権力も含めまして何らかの力を行使されるならばこちらもいささか抵抗させていただきますよ?」

 

 静かにガゼフはアインズを見つめる。

 

「……怖いな。スレイン法国の者とやり合う前に全滅する」

 

 素直にガゼフはそう思った。

 

 アインズたちはこちらの戦力を、ガゼフを脅威と捉えていない。それこそ、このスレイン法国の特殊部隊に包囲されているという状況でさえ、アインズは自分たちで対処可能だと考えているのだ。

 

 魔法詠唱者(マジックキャスター)の実力は見ただけではガゼフにはわからないが、彼らはガゼフより強い。

 

 戦士として相応に自信もあったガゼフだが、ショックと言うほどではないもののそれなりに思うところは頭をよぎった。

 

 だが先程の言葉は冗談などではないと勘が告げている。法国の特殊部隊より、目の前の彼らを敵に回す方が非常に危険だと勘が強く叫んでいた。

 

 特に命の危険が差し迫っている時の勘は下手な考えよりも信頼できるものだ。

 

「全滅など……御冗談が上手い。ですが、ご理解いただけたようで嬉しく思います」

 

「別に受けてもいいと思ったけどね、僕は。相変わらず石橋を叩くのが好きだな」

 

 余裕の口振りを見せるエルキドゥの様子から考えて、一つの思いが去来する。

 

 凄まじい実力者と思しき彼らの支援を受けられないという事実にガゼフは深く気が沈みそうになるが、一つだけ彼らなら引き受けてくれるのではないかという希望があった。

 

「いつまでもこうしていても意味がない。ではゴウン殿、そしてエルキドゥ殿。お元気で。この村を救ってくれたこと、感謝する」

 

 ガントレットを外してガゼフは手を差し出す。

 

 幸いにもアインズはそれに応えて手を握り返してくれた。

 

 本来であれば礼儀としてガントレットを外すのが正しいが、アインズはガントレットを嵌めたままだ。しかしガゼフは握手を返してくれたことが嬉しかった。

 

「本当に、本当に感謝する。よくぞ無辜の民を暴虐の嵐から守ってくれた!」

 

 アインズの手を両手で握りしめ、心の底からの思いを吐露する。彼らなら引き受けてくれると希望を込めて。

 

「そして……我が儘を言うようだが、重ねてもう一度だけ村の者達を守ってほしい。今差し出せるものはないが、このストロノーフの願いを何卒……何卒聞き入れてほしい」

 

 地に伏せる勢いでガゼフは頭を下げようとするが、アインズの手がガゼフの肩を押さえた。

 

「そこまでされる必要はありません。了解しました。村人は必ず守りましょう。この……アインズ・ウール・ゴウンの名にかけて」

 

 その言葉から、ガゼフは強い誇りを感じた。

 

 己の名への強い誇りを。

 

「いいのかい、アインズ」

 

「無論です」

 

「感謝するゴウン殿。ならばもはや後顧の憂いなし。私は前のみを見て進ませていただこう」

 

 心が軽くなるようで、ガゼフは笑みを浮かべた。

 

「……ではこちらをお持ちください」

 

 微笑んだガゼフに何を思ったのか、アインズが何かを渡してくる。

 

 受け取ったのは小さな木彫りの彫刻だ。変わった見た目で特別なものには思えない。

 

「君からの品だ。ありがたく頂戴しよう。もし王都に来られることがあれば私の名を出してほしい。では、ゴウン殿、エルキドゥ殿。名残惜しいが私は行かせてもらう」

 

 部下たちが待っている広間の方へとガゼフは足を向ける。

 

 彼らを死地に連れて行かなければならないのは心残りだが、それらは飲み込む。

 

 共に来てくれた戦士に贈るべきは、謝罪などではない。

 

「夜闇に紛れて、ではないのですか?」

 

「<闇視(ダークヴィジョン)>などの魔法がある。夜闇はこちらの不利にはなってもあちらの不利になる可能性は低かろう。それに……私たちが逃げ出したところを視認してもらわねばならん」

 

「へぇ。高潔だね、ストロノーフ。いや、ガゼフと呼ばせてもらおうか」

 

「賞賛していただき感謝する」

 

 悪い気はしなかった。

 

「ご武運を、戦士長殿」

 

「あなた方も無事に旅を続けられることを祈っている」

 

 馬に跨ると、部下の戦士たちと共にガゼフは死地に向かって駆け出した。

 

 

 




 ガゼフ・ストロノーフとスレイン法国特殊部隊の熱き戦闘は、原作か漫画を読むかアニメを視聴してくださると幸いです。
 このお話では誤差がないため、残念ながらスキップさせてもらいます。
 次回はガゼフの死闘が終わったところから始まることを予告させていただきます。

 それはそれとして、作者は誕生日と言う日を今回ガゼフと言う男と一緒に向かえることとなりました。
 なんでだろう(笑)
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