オーバーロード ナンム・ドゥルアンキ   作:SIN罰

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06 アミノギアス

 ニグン・グリッド・ルーインの心は晴れ渡るように爽やかだった。

 

 先程までの恐怖はない。苦悩も消え去った。

 

 まさしくニグンは生まれ変わったような気持ちである。

 

「真なる神の降臨に、我らが信仰と忠誠を捧げます」

 

 自らの主に陽光聖典一同は膝をつく。

 

 言葉がなくともニグンは部下たちが同じ想いであることを理解した。

 

「……こんな感じだったかな?」

 

 ()が首を傾げる。

 

 愛らしい姿に忠義が溢れそうになるのをニグンは堪えていた。

 

「ふむ……まあ実験になったのでいいですが」

 

「すみません。切り札を、使うような、雰囲気、だったので、つい」

 

「彼らの手札を見ておきたかったですが、普通に眷属化できたようですし大丈夫でしょう」

 

 母とアインズの会話を聞いて、先程の泥を浴びたことで自分が女神に支配されたことを理解した。

 

 現象としては吸血鬼(ヴァンパイア)が吸血した相手を下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)として従えるのと近しい現象だろう。吸血鬼(ヴァンパイア)如きと母の力を比較するのはおこがましいことだとも思ったが、ニグンはそう納得した。

 

 自らが異形種となり、眷属として支配されたことに否やはない。

 

 かつての己の精神であれば唾棄すべき状態として見ていただろうが、支配された今となってはむしろ至福の瞬間に感じられた。当然眷属化とはそういうものだと知識でわかっている。

 

「でもさっき、殺すって、決め台詞で、言ってた、よね」

 

「元々情報源として捕らえるつもりではありましたよ」

 

「ノリかな……?」

 

「そうですね。さて、お前たち。こうして我々の前に膝をついているわけだが、お前たちが忠誠を誓っているのは誰だ」

 

「無論我らの母上でございます」

 

「母、か……。その辺りはファムさんの設定に準拠してるのか……」

 

 アインズの質問に対して敬語でニグンは答える。

 

 母と対等に会話し、母自身も対等な相手として敬わっている気配を察してニグンはアインズも上位のものとして話すべきだと感じていた。それは間違いではなさそうだ。

 

 小さくアルベドから殺気のようなものを向けられている。

 

「なるほど、わかった。お前たちが私に忠誠を誓う必要はない。これからは彼女に仕えてくれ」

 

「はっ」

 

 これはアルベドのようなアインズに忠誠を誓うものたちへと向けた言葉でもあるのだろう。

 

 視線は感じるもののアルベドからの殺気が薄れる。

 

「私の名は、ファム・ファタール。指揮官の男、名乗りなさい」

 

「母上の尊名をお聞かせいただき、感謝を申し上げます。ニグン・グリッド・ルーイン。スレイン法国の特殊工作部隊群、陽光聖典の隊長をしておりました」

 

 母の名前を聞くことのできた喜びを嚙みしめながらニグンはかつての自分の所属を話す。

 

「ですがグリッドは偽りの神の洗礼名であり、この時を持って捨てさせていただきます。私のことはニグンとお呼びください」

 

「よろしい」

 

「この世界の神か……」

 

「それについては、あとで資料として書き上げて、もらう。それ、ちょうだい」

 

 ファム・ファタールの言うそれが何を指すのかニグンは即座に察して差し出す。

 

 天使召喚の魔法が封じられたクリスタルだ。

 

「アインズさん、鑑定して」

 

 片手でクリスタルを掴み、ファム・ファタールはクリスタルをアインズの前に出す。

 

「<道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)>……。うん?」

 

「どうしたの?」

 

「封じられている魔法は<第七位階天使召喚(サモン・エンジェル・7th)>ですね。そうだな、ニグン」

 

「はっ。その通りでございます。先程は威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を召喚するつもりでありました」

 

 スレイン法国に伝わる最高位天使の名を告げる。

 

「それは……なんというか、もったいなくないか?」

 

「もったいない、ですか?」

 

 思わぬ反応にニグンは首を傾げる。

 

 まるで想像していたよりも弱いものだったかのような反応だ。

 

威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)は二百年前、魔神の一体を滅ぼしたとスレイン法国で伝えられている最高位天使です。人間では決して到達しえない第七位階魔法を使う天使を召喚できる魔法ですよ」

 

「えぇ……」

 

「第七位階ね。第十位階魔法は、どう伝わっているの」

 

「偽りの神である六大神、そして八欲王が使ったと言われております」

 

「なら、その六大神と、八欲王は、プレイヤーと、想定するべき、みたいね」

 

「そのようですね」

 

 まさかという思いがニグンの胸の内に湧き上がった。

 

 ファム・ファタールとアインズは第十位階魔法を使えるのではないか。そんな考えが浮かんでくる。

 

 かつての常識はありえないと言っているが素直に信じられた。もしそうであるなら素晴らしいことだ。

 

 ――まさしく神。

 

 すでに喜びで張り裂けそうな胸にさらなる忠誠心が湧いてくる。

 

「魔封じの水晶って、一度魔法を入れたら、変更、できなかった、な……。使っても、いい?」

 

「別にいいですけど、今からですか?」

 

「召喚モンスターに、スキルが、使えるか、試してみたい」

 

「なるほど。どうぞ」

 

 あっさりとした口調でスレイン法国の秘蔵の宝を消費することが決まる。

 

 クリスタルが砕けると共に、夜の闇の中で太陽が出現したかと見紛うほどの極光が煌めいた。

 

 無数の翼を持つ威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)が召喚される。

 

 かつてのニグン、そしてかつての部下の隊員たちであればその光輝く翼の集合体に神々しさと美しさを感じていただろう。

 

 しかし、本当の信仰を知った今の彼らにはただの派手な召喚モンスターに過ぎなかった。

 

「<細胞強制(アミノギアス)>」

 

 どこからともなく現れた膨大な量の黒泥(こくでい)が渦巻きながら立ち上がり、威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を瞬く間に包み込んでしまう。

 

 数秒後、黒泥の中から主天使が姿を現す。

 

 輝く白い体は漆黒に染め上げられ、放たれる光は暗い暗黒のオーラに変わっていた。ところどころ血管にも傷跡にも見える赤い線が浮き上がっている。

 

「……見た目が変わっていますね」

 

「完成度が、上がった」

 

「あとは時間が経過しても帰還しないかですか。前はどうでしたっけ」

 

「召喚時間が、過ぎると、消えてたわ」

 

「ならしばらく放置ですか」

 

 白から黒へと変わり切った主天使を見て、ニグンは自身の手をちらりと見下ろす。

 

 黒く染まった肌が装備の隙間からかすかに窺える。

 

 この主天使と同じように、ニグンの体もまた黒く染まっていた。

 

 ファム・ファタールの出す黒泥と同じ色だ。最高位天使とスレイン法国で知られている存在もファム・ファタールの前では自分と変わらない。その強大な力の一端を知ってニグンは歓喜する。

 

 変わったのは肌だけではなく能力もだ。

 

 己の内にかつてはなかった特別な力を感じる。それは母であるファム・ファタールの力の欠片のようなものだ。

 

 例えフル装備のガゼフであっても一対一でやりあえば今の己が勝つニグンは確信した。

 

「……アインズ、私に対して情報系魔法が使用されたわ」

 

「何?」

 

 手を翳してアインズは魔法を唱え始める。

 

 五つほどの魔法を使用したが、ニグンの知識にない魔法だ。

 

 直後、空が割れる。

 

 まるで陶器の壺のようなヒビが空間に広がった。しかし瞬きの間に元に戻る。

 

「五つほど攻性防壁に魔法を追加しておきました。もう少し追加しておきたかったですが……」

 

「十分ね」

 

 どうやらスレイン法国本国からのものだろう。

 

 クリスタルを使用したのを感知したのかもしれない。

 

「ファムさんは情報系魔法対策は何か入れていましたか」

 

「<真なる狂気(トゥルー・インサニティ)>と召喚スキルを仕込んでるわ」

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国にて。陽光聖典に切り札として渡した魔法封じの水晶が使用されたのを感知したため、土の神殿は慌ただしくなっていた。

 

 もしもに備えて準備はしていたが、それを使うことになるとは思いもよらなかったためだ。

 

 即座に土の巫女姫を中心に、神官たちの手で情報系魔法<次元の目(プレイナーアイ)>が行使される。

 

 <次元の目(プレイナーアイ)>は第八位階の魔法であり、この場に集まった神官がどれだけ力を合わせようとも本来であれば使えない。限界を遥かに超えた魔法だ。

 

 ならば何故神官たちは第八位階魔法を使用できるのか。

 

 それは巫女姫が身に着けた神器、叡者(えいじゃ)額冠(がっかん)の力によるものだ。

 

 着用者の自我を封じることで、人間そのものを高位魔法を吐き出すためのマジックアイテムへと変えることができる。

 

 自我を封じるだけでなく取り外せば着用者が発狂するという厳しい使用制限こそあるが、この秘宝によってスレイン法国は強力な魔法を使うことができていた。

 

 しかし。

 

 <次元の目(プレイナーアイ)>を発動した瞬間、阿鼻叫喚の地獄絵図が生まれる。

 

「メェェェェェェエエエエエエエ!!」

 

「テケリ・リ!! テケリ・リ!!」

 

 突如として現れた怪物たちによって土の神殿は蹂躙され、神殿は爆発四散した。

 

 

 

 

 

 

 ユグドラシルにおいて、ファム・ファタールはチートプレイヤーの類だった。

 

 当然、運営の存在するMMORPGであるユグドラシルでチートを使用すれば遠からずBAN、アカウントが削除される。

 

 だがファム・ファタールは長年ユグドラシルをプレイし続け、アカウント削除の危機に会ったことはない。

 

 その理由は、チートはチートでも公式チートだからだ。

 

 世界級(ワールド)アイテム。

 

 全アイテムの中で頂点に位置する二百種存在する特別なアイテム。

 

 世界、ワールドという言葉に特別な情熱をかけていたユグドラシルの開発陣が用意した公式チート。世界樹から落ちた葉から生じたという設定を持つこれらのアイテム群はそれぞれがゲームバランスを破壊しかねない破格の性能を持っていた。

 

 ファム・ファタールの能力の基礎となっているのもこの世界級(ワールド)アイテムである。

 

 世界級(ワールド)アイテムはユグドラシルには一定数存在する。アインズもまた所持者の一人だ。

 

 しかしそれらはあくまでもユグドラシルの設定に根差したアイテムであり、設定はユグドラシルの世界観に準拠する。

 

 <細胞強制(アミノギアス)>などというものはユグドラシルには存在しない。

 

 このスキルはユグドラシルではなくファム・ファタールのアバターのモデルの設定に準拠したスキルだ。

 

 Fate/Grand Orderのティアマトが持つ、Fateの世界観に存在するものである。当然、ユグドラシルに存在するものではない。

 

 では何故そんなものを、ファム・ファタールは使用できるのか。

 

 転生者であるゆえの転生特典……などではない。

 

「あっ。情報系魔法対策越しにも<ケイオスタイド>を使用できるように要望を出しておけばよかった」

 

「あれだけ改造しまくってまだやりたいこと残ってたんですか……。口調戻ってますよ」

 

「……しまった。もっと、ゆっくり、しゃべる、ように、しないと。情報系魔法を、受けたから、気が抜けて、忘れてた、みたいね」

 

「いやしょっちゅう忘れてるでしょ」

 

「NPCは、身内だから、いいの!」

 

 それもまた、世界級(ワールド)アイテムが答えとなる。

 

 

 

 

 

 




 ニグンは基本的にはweb版吸血鬼ブレインと同じ状態です。
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