あの後、何故か心配そうにしているマルルゥを村へと帰らせ。拠点へと戻り準備して決戦場である暁の丘へとやってきました。
「副隊長、結局奴らとは戦う事になるんすね」
「ああ」
小隊メンバーにそう言われ俺は溜息みたいな返答を返してしまった。少しばかり先ほどのやり取りで自棄になってるのかもしれん。
「気になることがあるんですか」
「……まぁな」
「深く考えちゃ駄目っすよ。世の中なるようになるんですから」
気楽すぎるその言葉に一瞬ムッとしたが、これもしかして俺は気を遣われてるのか?
あー本当に申し訳ねぇ…ごめんよー不甲斐ない副隊長で。
「すまん」
「気にしないでください」
部下のこういう大人な対応に涙腺が刺激される。本当に立派になって…
と、そんな事をしていたらレックスが隊長に島の事情を話し終えた所だった。
「帝国にとってこの島を接収する利益は計り知れん!」
マジかよ隊長この島を帝国に報告するのかよ…と思いがちではあるがアレはレックスに対しての嫌味じゃないだろうか。
この島の管理なんて特大の爆弾を管理するようなもの。利益よりも損益の方が強そうだが?
制御できない喚起の門。使い手の精神を蝕む魔剣。オマケに曰く付きってレベルじゃない厄ネタの宝庫である遺跡。
「この功績は今回の失態を補って余りあるものとなるだろうな」
そうかなぁなんて。言えるはずもなく。……もしくはレヴィノス家のことがあるから焦ってあんなことを言ったのかな?
「実際、そこんとこどう思いますか副隊長?」
「……この島を制御して管理できたならばの話だな」
「なるほど…」
俺に政治の話は難しいからどうなるかはわからん。と言った話をしていたらレックスが腹を決めた様だ。
「見てください、交渉が決裂したようです」
見れば、レックスに怒鳴る様にしてアズリア隊長が剣を抜いた。
「総員、攻撃開始だ!今よりこの者達を帝国の敵とみなす!!」
これはもう無理ですね。さぁお仕事をしましょう。
事前に打ち合わせでもしてたのか。やってくる4人にさてどうしようかと、考えながら構えを取った。
「うーんと。今日は豪勢にするとしてお肉を多めにしようかな?」
レシィは今日の夕飯となる献立の段取りをしていた。今日は帝国軍が島の住人達と決戦をすると聞かされているのだ。
争い事をしてほしくはないが、軍隊とはそういう物だ。それに事前に主人であるギャレオが降伏勧告をしたがそれも断られた為、もはや戦闘行為をして魔剣を取り返すしかなかったのだった。
レシィに政治事は分からない。軍人の面子というのも少しばかりわからないがそれは大切な物なのだろう。
と、色々と考えつつ夕飯の準備をしていく。勝利を見越してというと変だが今日は宴会とは言えずともせめてお疲れ様という事で慰労をしたかった。
『超満腹グリル』と名付けられた肉!肉!肉!おいもぉ!と呼ばれた肉尽くしの料理の下ごしらえをしつつ。
『激辛バーベキュー』と呼ばれたスパイス抜群のホットな串焼きも作っていく。これで疲れも吹き飛べばいいが。
『ビタミンサラダ』はこのお肉ばかりの料理だけでなく新鮮な野菜も食べて欲しいために準備する。
「皆さん怪我無く帰ってきてくれたらいいなぁ」
仕込みをしつつ、部隊の皆の事を想う。戦うのだから無理な願いだとは承知しつつもし何かあれば『セイレーヌ』にお願いしてみようと緑のサモナイト石をちらりと取り出す。
ギャレオから召喚石を譲り受けたのだ。レシィが持ってた方が良い。自分にはストラがあると。
(ギャレオさん浮かない顔だったな…やっぱり話し合いって難しいんですね)
そんなギャレオは浮かない顔で陣地へ向かっていった。大丈夫だろうという信頼と心配が混ざり合うこの感情を何と言うのか。
「……うん?」
そんな時、ふと船の方を見ればビジュが何やら黒い大きい物を汗を流しながら押しているのが見えた。
料理の準備を終わらせ様子を見に行く。ビジュは怖い人ではあるが嫌な人ではないのだ。
「ビジュさん、何をしているんですか?」
「あぁ?チッ 誰かと思えばテメェか…」
それがレシィには何なのか分からないがやたらと重そうなものだとは理解できる。
「……仕方ねぇ。おい、てー空いてんなら手伝え」
「分かりました」
即答しビジュと一緒になって押していく。一応台車があるとはいえ中々の重労働だ。
「ビジュさん、これなんですか?どこに運ぶんですか?」
「うるせぇ…必要ねぇって言いてぇ…」
汗を拭い森の中へ運び、獣の道を四苦八苦しながらも運んで…
ついたのは、かなり広い空き地。遠くには部隊の皆がいる。その中にはもちろんギャレオも。
「?皆さんがいる…これをどうするんですか?」
「もういい。テメェはそのまま帰れ」
一緒に持ってきた黒い球を並べてビジュは部隊の皆を見ている。その目は厳しい。
「分かりました。それでは」
「おう」
厳しくても返事は返すあたり律義な人だと思って、そのままレシィは拠点へと戻ることにした。
「…野郎、手加減しやがって」
そんな小さなビジュの呟きを聞こえたが、邪魔になると思って帰ったのだった。
レックスと帝国軍との交渉は決裂に終わり戦闘が開始された。
島の護人である、ファルゼン、アルディラ、キュウマ、ヤッファの4人もこの戦闘に参戦する流れとなった。
参戦したのはレックスたちを島の住人として、仲間として受け入れたのもあるし、帝国軍によって島の安寧が崩れるのを危惧したというのもある。
カイル一家とレックスが隊長であるアズリアに向かっていく中、副官であるギャレオを足止めする、それが4人の作戦であった。
『彼は、頭一つ飛びぬけている。気を付けて』
レックスの忠告の通り、なるほど仁王立つ巨漢は中々の圧があった。
「ギャレオさん、はぐれ召喚獣?が来ます!」
「知的美人!知的美人じゃないか!怖っ!?」
「虎と忍者と鎧と美人?変な組み合わせ!」
「ファルゼン!あの喚いている馬鹿共を蹴散らしてちょうだい!」
『任セロッ!』
何やら好き勝手ほざいている兵士たちにアルディラは召喚術を放つことにする、ファルゼンはその間に敵の注意を引き付け壁となってもらう。
ただ、今回ばかりは相手も相応の覚悟があった。
「させるかっ!」
『ヌゥ!?』
間に割って入った大剣持ちの兵士がファルゼンとかち合い大剣の音が鳴り響く。力量はファルゼンが上だが、それをカバーする様に他の兵士も動き始める。
「ギャレオさん!この鎧と美人は俺達が相手します!」
「へっへっへ、ねぇちゃん精々可愛がってくれよな!」
「この鎧、なんかいい匂いがするぅ!?」
「オラッ召喚士が前に出てくんじゃねぇよ!せめてドリルでも持ってくるんだな!」
「悪いけど乱暴なのは好きじゃないの」
周りを囲もうとする兵士たちに牽制としてアルディラはゴレムとライザーを召喚する。2機とも盾や牽制として役に立ってくれる頼りになるユニット召喚獣だ。
「キュウマ、ヤッファ!私たちはコイツ等の相手をするわ、そこの巨漢は頼んだわよっ!」
「おうよ!」
「任されました!」
誰が誰を相手するのか、戦局が動く。
「そうか、お前たちが俺の相手か…」
アルディラに頼まれ、ヤッファとキュウマは巨漢であるギャレオと対峙する。深く静かに呟かれたその言葉から何を考えているのかわからない。
強面だからか表情の変化が少ないのだ。
「ヤッファ殿、自分は」
「おう、任せろ」
小声で何をするのか、決める。そしてヤッファは果敢にギャレオに飛びかかる。
ヤッファの武器はメイトルパンの獣人に相応しい爪だった。殺す気はなくてもそれ相応の威力を誇る爪を振り下ろす。
「うおぉぉお!」
「……」
が、ギャレオは躱す事無く受け止めた。一瞬の動揺を見逃さず返しとばかりに突き出された拳がヤッファに迫る。
(っ!やっぱ本格的なヤバさだな!)
無理矢理体を動かし躱したが、それでも鍛え上げたその躰から鳴る拳の威力は恐ろしい物だ。
とはいえそれで怯むほどヤッファは腑抜けてはいない
「そらそらっ!」
爪による乱舞。幾度となくギャレオの鍛えた体に傷がつくが、違和感を感じ即座に飛びのいてヤッファは気が付いた。
(コイツ…全く動じてねぇ!?)
巌の身体に傷がついても、まるで気にした風でもなく、静かな佇まいを見せていた。
ギャレオは血を流しながらもただヤッファの攻撃をその躰で受け止めたのだ。
「何のつもりだ」
「……我々はこの島に侵略をしに来たのではない」
わざと注意を集める為、そして時間を稼ぐ為。ヤッファは言葉を投げかけることにした。勿論なぜ黙って攻撃を受けるだけなのが気になったのもあるが。
「が、先ほどのレックスの言葉で隊長はこの島に興味を示したようだ」
「……」
戦いが始まる前レックスはこの島の事情を隊長であるアズリアに説明したのだ。ヤッファとしては黙っていて欲しかったが遅かれ早かれ帝国側が気付く可能性もあったので仕方がない面もあるが。
「さっきのは詫びのつもりだ。これから我々はお前たちの平穏を脅かすことになるからな」
「じゃあ、さっさと倒れてくれねぇかよっ!」
未だに不動、そのギャレオの挑発とも取れる言動に怒りと僅かな敬意を抱き、ヤッファは力の限りの爪を振るう。
「無理だ、何せ貴様は――ー」
(今だキュウマ!)
言葉を吐くギャレオにヤッファは攻撃する。それはギャレオの背後に移動していたキュウマと同じタイミングだった。
キュウマはシルターンの忍びだ。気配を隠し奇襲と得意とする強者。ヤッファに注意を向けた奇襲として理想的な局面。
「グォォォオ!」
「滅せよ!」
正面からの爪の猛撃、背面からの必殺の一閃。それらは吸い込まれうようにギャレオに迫り
「貴様等は弱いから、な」
当然のように受け止めたその躰に、浅い傷を残すだけだった。
「なっ!?」
ほぼ、死角からの一撃を背中から受け、それでなお当然のように聳え立つ巨体、一瞬その姿がまるで倒れぬ巨岩のように幻視したキュウマ。
「もっと気配を殺せ、それでも忍びか?」
「ぐっ!?」
身体を大きく捻りながら繰り出した裏拳が正確にキュウマの身体に迫る、飛びのいたおかげでわずかに掠るだけに持ち込んだが。
たったそれだけでキュウマの身体は倒れ込みそうになる威力だ。
「そして貴様は…何もかもが中途半端だ」
対するヤッファは、キュウマが確認した時にはすでに地面に膝を立てていた。裏拳を繰り出す前に正面にいたヤッファを沈めたのだ。
「護人といったな。一体その実力で何を護るのだ……いや、そうか」
一人納得がいったようにうなずいたギャレオ。隙だらけに見えるが、爪で切り裂こうに相手の強度が大した威力を出さないのは先ほど身に染みた所だ。
「何が…言いてぇ?」
「今まで平和だったのだな。そうか…だから」
ヤッファはそのギャレオの目を見た。こちらを見下すのではなく失望でもなくその目は…。
唯々穏やかだった。
「貴様らは平和ボケをしているのだな。外見も内面もいい男達だが、ただ実力が伴わないだけで」
慈しむように穏やかでどこまでも納得した顔だ。その強さに相応しいどこまでも超越した強者が弱者を見る目。
「ああ、後声も良いな。非常に良い。惚れ惚れする――」
「ヌォォォオオ!!」
「ムッ?」
1人頷いていたギャレオに白銀の鎧が迫る。振りかぶった大剣はされどギャレオに片手で止められた。訝し気な顔したギャレオがファルゼンが来た方を見てはぁと溜息を吐いた。
「そうか、我が部下達を退けたか」
「随分と訳の分からない変人達だったわね。もっとも今頃は伸びているでしょうけど」
そう言いながらサモナイト石に魔力を込めるアルディラ。強気で言い放ったが実のところ苦戦したのは間違いではない。
訳の分からないことを宣いながらもなぜか連携がうまいので流石に苦戦したのだ。
「ファルゼン、その子たちと一緒に踏ん張って!」
「きゅいー!」
「ピピー!!」
返事をしたのは機属性ユニット召喚獣のゴレム、そしてファルゼンが戦闘中に呼び出した霊属性ユニットペコだ。ライザーは先ほどの戦いで負傷し送還されてしまった。
ファルゼンが大剣を振り回しギャレオをけん制し耐久力が秀でているゴレムが壁となる、そしてその隙にペコが遠距離から光を放ち確実にギャレオを攻め込んでいく。
「ヤッファ!キュウマ!しっかりしなさい!そんなところでへばってどうするのよ!」
「ああ、チクショウ!こっちだって真面目にやってるさ!」
「ファルゼン殿気を付けてください!その者は出鱈目です!」
アルディラからの檄を入れられ男どもは食いしばり立ち上がる。目の前にはファルゼンの攻撃をいなしながらなぜかペコの光にはまともに食らっている巨漢の姿があった。
「ヌォォォオオ!!」
「ピーガッ!」
「キューピ!」
「これは、中々にうッとしい」
ギャレオはファルゼンの攻撃やゴレムの攻撃には耐えられるもののペコの光には苦手な面を見せている。
これが勝機とばかりにヤッファは果敢に攻め込みキュウマは後ろへと回り込む。
「シマシマ君と下忍も参戦か。これがモテ期か」
「おい誰がシマシマ君だって!?」
「げ、下忍!?自分が下忍だと…!?」
「良いから手を動かしなさい!」
ワチャワチャとしているその場所へアルディラは魔力を高める。そしてこの場面を変える一撃を放つ。
「きなさい!『ドリルハリケーン』!」
彼女の持つ召喚獣ドリトル、その高位召喚術は呼び出されたと同時にギャレオに突撃、ドリルが回転しながらギャレオを貫こうと一気に押し込む。
「ぬぅううう!フンッ!」
「耐えきりやがった!?」
「だが効いてるのは間違いありません!」
ドリルを受けたギャレオはいまだ健在であった、だが確かにダメージは効いているのは間違いない。
このまま数の力を生かして全員で、そう思ったとき、別の場所からキィンと甲高い音が鳴った。
「…我らの負け、か」
見れば帝国軍隊長アズリアの剣がレックスによって弾き飛ばされていたからだ。
戦後処理及び夜会話は次回ですね。
ヤッファとキュウマのフォロー?は次回で