「……む?」
先日の戦いから少しばかり日がたった時、朝食を終え買い出しに出かけ帰って来たらどうにも違和感があった。
拠点にいる部隊の人数が明らかに少ないのだ。朝食を摂っていた時には揃っていたのに。
「訓練か?いや勝手に許可なしには…」
偵察や訓練などそう言った場合は部隊から離れることはあるにはあるが、それにしては報告などの連絡がない。
報連相はしているはずだが…。
「あ、ギャレオ副隊長」
「どうした」
「それが何ですが、ビジュさん達をみませんでしたか?」
近づいてきた部下達に話を聞けばどうやら部隊の何名かがビジュを含め出かけたらしい。
てっきり訓練か何かだと思っていたらしいがそれにしては、どうにも様子がおかしかったようだ。
確か朝ビジュと会話した時は俺の私物を持って行くと言ってたが…?その時は普通に了承したが私物って何のことだ?
「…隊長に報告してくる。一応備えておいてくれ」
「了解しました」
ともかくこれはあの話が始まったと確信した俺は隊長を呼ぶことにした。
「……ビジュたちを捜索するぞ」
報告を受け、少しばかり考えた隊長はビジュの達の捜索をすることを決意したようだ。
緊急とは言え備えていた部隊を編成し、いざ島の中へ。
確かこれは原作8話で放火があったあれだ。ビジュとイスラが率いる部隊が放火で先生たちを撹乱して、その隙に風雷の郷の住人を人質にとるという作戦だ。
(……黙っておくか)
隊長や部下達には非常に申し訳ないがビジュたちの居場所や目的を報告する気はない。彼らは彼らのやり方で魔剣を奪還しようとしているのだ。
それを俺が不意にするのも考え物だ。郷の住人には非常に申し訳ないが。
(しかし、イスラが指揮権を握るのはどうなんだ?)
段々と思い出してきたが、アレほとんどイスラが主となって動いていたよな。流石に指揮系統を無視すぎじゃないか?
現場判断は時には必要とは言えど連絡も無しで勝手に事を進めるのは、どうなのだろうか?
なんて、そんな阿保なことを考えていれば上空にこちらを見ている気配を感じた。
恐らくフレイズ。という事はそろそろ接敵か。出来れば道を譲ってくれれば良いのだが、はたして?
「どこへいくんだアズリア」
「…!」
思った通りに会敵しましたレックス一行。ピリついているのは放火の犯人探しか。警戒は分かるが道を譲ってくれ~。
「それを、何故答えねばならん」
「そういうわけにはいきませんよ、貴方方にこれ以上狼藉を働かせるわけにはいきません!」
キュウマ、めっちゃ警戒してるやんけ!アレか自分の郷に火を放たれたからか?
忍者だろうに対応が後手後手だから…諜報は如何した諜報は!戦うだけが忍びじゃないぞ!
「狼藉だと?」
「とぼけないでください!」
「あちこちの集落に火をつけて回ったのはお前たちの仕業なのか?」
ふむ、ややこしくなる前に匂わせぐらいはしておくか?
「火?…なるほど、そう言う事か」
「知っているのかギャレオ」
「さて、どうしますか隊長」
ここでどうするかの判断を隊長に委ねるのが俺の選択よ!俺はあくまでも副隊長、決定権は隊長にあるのだフハハ。
「…貴様ら相手に下らない事を論じている暇はない、道を開けてもらおうか」
「と、言う事だ。大人しく道を譲ってもらおうか?」
警戒度がピリリと上がる。上から目線の挑発行為に聞こえるからね。実際は部下達を探しています。
「……分かった」
と、ここでレックスが道を譲る選択をした。ぃよっし良いぞ!周りは騒ぐが、レックスは隊長を見ている。
「自分のした事には責任を持つ、決して誤魔化したり逃げたりはしない。誰かさんの口癖でだったよね」
「さぁ、な」
君達ホント仲良いよね。懐かしき友人との青春を思い出してか隊長のその愁いを帯びた表情。
これからもっと曇るのかと思うと本当に不憫だ。
「全隊、行動を再開せよ!」
「了解!」
隊長の合図とともに進軍を開始、レックスが道を譲る選択したおかげで攻撃される事も無くそのまま森の中へ。
良かった。ひとまずは、だが。
そしてしばらくしてから気付く。隊長って道、正確には島の集落の場所知ってるのかなと。
「……大丈夫だ」
心配だ。道に迷いまくってまさかの現場にたどり着けないとかお話にならない。
でも俺も風雷の郷がどこにあるか知らないし……。
「副隊長、なんかこう匂いで場所が分かるとかは無理ですか?」
流石に心配になったのだろう部下がそんな事を俺に聞いてきた。ふむ、風雷の郷、つまりシルターンの匂いか…。
「無茶を言うな、いくらギャレオをとて流石に無理が」
「スンスン……む!?」
鼻をクンクンをすれば匂うものがあった、この匂いは…。
「何?まさかビジュの居場所が?」
「しばらくしたら雨が降りそうですな。大雨でしかも雷も発生しそうです」
雨が降る直前のあの独特の匂いを微かに感じたのだ。何故か報告したら隊長が呆れた顔をしてきた。
「はぁ…バカなことをやっていないで急ぐぞ」
「了解です」
とまぁそんな事をグダグダしながら、なお島を探索。ようやくシルターン風の雰囲気を感じる場所。
風雷の郷へ着いたのだ。
思った通り大雨が降り肌を刺す冷たさの中それは聞こえてきた。
「うん?アレは…」
「誰かが騒いでいる?」
部下達が怪訝な顔をして、それが戦闘前の特有のピリついた空気だと分かると顔つきが変わる。
「スバルを放せ!」
鳥居のあるこの階段状の場所。ここでビジュが子供…スバルを人質にしていた。相対するのはレックスたち。
「この卑怯者め!」
「卑怯だ?ああ、そうだな。それがどうした?」
「開き直りやがって…!」
「悪いのはテメェらだ。テメェらがさっさと剣を渡さないからこうなるんだよ」
ビジュの嘲笑う顔には心底侮蔑したそんな表情が見えた。考えが足りない、危機感がまるで足りてないそんな愚か者を見下す目。
「魔剣を渡せと、隊長や副隊長がそう言ったはずだが?特にうちの副隊長がテメェらに降伏を言い渡した時はそう言ったはずだ。違うか?」
「それはっ!」
「それをフイにしやがったテメェらだ。なら、こうなるのもまぁ想定していたはずだよなぁ?」
「ヒッ」
ビジュの殺気が捕まえられていた風雷の郷の住人に向けられる。スバル以外にも人質はいたのだ。
「それとも何か?未だに話し合えばどうにかなるとでも?テメェ以外の誰かが痛い目見なきゃ分かんねぇのか?あぁ!」
凄むビジュには迫力がある、そしてその言葉には正当性があった。思わず先生が口を噤んでしまうほどの強さがあった。
「ビジュ、彼らにそんな事言っても無駄だよ」
そして心底馬鹿にしたように笑うのはイスラ・レヴィノス。どうやらレックス達に自分の正体を明かしたらしい……秘密にしておけばよかったのではなんて今更か。
正体を告げたイスラは実に楽しそうだ。
「目的のために手段を選ばず、敵の弱みをついていかに早く確実に勝つかが大事なんだ」
「そうだろ、姉さん」
あ、レックス達に気付かれた。こちらに向けられた視線には驚きとか敵意とかそんなものが色々。友好的じゃないのは明らかだ。
「あっはははは、これで僕がどうしてこんなことをしたのか理解できただろう。そうさ僕の名前はイスラ・レヴィノス、帝国軍諜報部の工作員でありアズリアの弟さ」
イスラの渾身の自己紹介!場が騒然となっている!それはそうだ今まで島の住人。特に子供たちと仲良く接していた彼が帝国側だったとは誰も疑わなかったのだから。
ちなみに俺としてはデカい顔をしてほしくない。諜報部なのでコイツは俺達の部隊にとっては外様なのである。それが指揮権握ってるってのもおかしいのだけど。
それに何より無色の派閥の諜報員だからね。これ全力でレヴィノス家潰す気じゃないか?
イスラとアズリア隊長が話をしているが、要はこの計画は秘密で行っていたと。汚れ役は自分が引き受けると。
(…はぁ)
気分としては心底、憂鬱である。イスラの場を支配したかのような口調、人質の怯えた表情、先生たちの敵意、アズリア隊長の不憫な立場、後ろから感じる控えている部下達の言いようのない動揺。
そしてビジュのこちらに一瞥しない態度に加え、ビジュについて行った部下達の悲痛な覚悟を決めた顔。
何よりも、俺自身のやり場のない無力感。
そんな事をしている間にも話が進んでいく。
レックスが魔剣を隊長に手渡して、人質であるスバルが解放されて…。
それでも風雷の郷の住人は解放されず、対価として先生の命を要求するイスラ。
イスラは驚くアズリアを強い口調で黙らせ、先生はイスラの要求を呑むことにする。
「先生っ!?」
「ごめん、自分でもバカだなぁって思うんだけど、でも俺にはあの人たちを見捨てることは出来ないから」
アリーゼの制止を苦笑するレックス。つまりは自己犠牲って訳だ。
「ふふっ 本当に君は僕の期待した通りに動いてくれる。ありがとう、そして…」
雨が降る、冷たく凍える様な雨だ。いい加減に帰らないと風邪を引くだろう。
隊長や部下達は雨具を用意していない。早く帰らせて温かい物を食べさせてやりたい。
ああ、何もかもが、
心底ッ!
「さよなら!」
うんざりだ!
剣が振り抜かれるよりも早く動く影。響く甲高い音。
「っ!?」
レックスを凶刃から守ろうと動いた隊長と。
「ぬんっ!」
「アズリ、うわっ!?」
そのレックスを掌底でカイル一家の所まで吹き飛ばした俺だ。
「姉さん、そしてアンタもどういうつもりだい?」
それは、俺の望みの為…ですかねぇ。
「もうやめて、いくら任務の為でも、これ以上私は…お前のそんな姿を見ている事なんてできはしない!」
その、騒然となった場にアズリアの声の悲痛な声が響く。
対してギャレオはレックスを突き飛ばしてから何も語らない。ただ厳しい目でレックスを見るだけだ。
「レックス、たとえそれしか選択肢が無くても。自己犠牲は止めろ」
「う…ギャレオ?」
吹き飛ばされ、意外にもダメージはなく肩を貸されながら立ち上がったレックスを待っていたのはギャレオの重い声。
「生徒の…子供の前で死ぬつもりか?トラウマでも植え付けさせる気か?」
「皆を助けるにはそれしかないって」
「そうしてお前を見殺しにしてしまった者の気持ちを考えたことが?」
指を指され、後ろを向けばそこには涙を溜めたアリーゼ
「もう一度問おう。お前は、人の命を何だと思ってるのだ?」
「……ごめん」
「せっかくのチャンスを一体アンタは、っ!?」
イスラの問い詰めは最後まで出なかった。風向きが突如帝国兵たちを突き飛ばす様に変わったのだ。
冷たい雨が暴風に変わる、まとわりつくように帝国兵たちを押し飛ばしていく。それはイスラも例外ではない。
「隊長、これは奴らの風です。撤退を」
「…すまん」
アズリアが魔剣を持ち撤退する。
この風は風雷の郷の鬼姫ミスミの操る風だ。結界から竜巻まで自由自在に変化する白南風の鬼姫ミスミの技。
これで風雷の郷の住人たちの安全は保障された。人質から解放された住人達はその場から安全な所へ逃げ出していく。
「重ね重ねの非道の数々、もはや見捨ててはおけぬ」
凛とした声が響く。郷の者に手を出され怒りに満ちた声。
「白南風の鬼姫ミスミこれより参戦仕る。覚悟しやれや外道共!」
「人質がいなくなっても何も問題はないさ。アイツ等はもう剣の力を頼ることは出来ないんだからね。さぁ返り討ちにしてやるんだ!」
イスラが開戦の命令を出す。ビジュが引き連れていた兵たちが動く。
ギャレオは兵たちに混じることはなくアズリアの後に続くように去っていった。
こうして俺と隊長は元のいた場所へ。ちょうど戦場を俯瞰できる場所へ。
思わずというよりは体が勝手に動き出してしまった。レックスを守るためという大義名分があるつもりだが…誰も俺を責めてはいない。
無抵抗の相手を殺そうとしていた事に思う事があるのだろうか。
「隊長、ここは俺が引き継ぎます。後は」
「いいや、最後までいる」
どうやら隊長は隊長としての責任を取るためにこの場から動かない模様。雨に濡れて体を冷やしかねないが…レシィに温かいものを作ってもらう様にしよう。
「ギャレオ、貴様は何故あの時動いた」
横で呟かれたのでチラリと見れば憂いた表情で戦場を見る隊長。
「さて、どうしてでしょうね。隊長は?」
「……言葉通りだ」
重い言葉だ。病弱な弟を心配してその代わりとして頑張ってるのに、今一結果は振るわれない。
今アズリア隊長の目の前のイスラは人を騙し、蔑ろ見ながら命を奪おうとするそんな少年。
今まで頑張っていた努力が報われない時こそ人は一番大きなダメージが入る。
「私は、イスラに…あんなことをしてほしいわけじゃ」
消え入るような小さな声が漏れている。姉の想いは弟には響かず、その弟の本心も姉に伝わる筈がない。
ああ、悲しい姉弟愛だ。
まぁ一番酷いのは、まるでゴミのように
殺される部下達なんだがな。
戦闘は案外あっさりと終わった。そもそも魔剣を使わずとも強いレックスだ。そこにどう育てても強いミスミ様が加わればもうね、所詮イスラはかませよ。
そして始まる、イスラの奥の手。召喚術の一斉射撃。この為にまだ兵を忍ばせていたのだ。
「召喚術の一斉攻撃!?」
「あははっははっ!分かった所で手遅れさ!」
アイツ、人ん所の部下を自分の駒のように使いやがって。そこまでやりたいのか?
「なっ!剣がっ?」
その時、レックスから緑の光がほとばしったのと同時に隊長が持っていた魔剣が光り輝き、フッと消えたのだ。
「ウォォオオオ!?」
そして魔剣を無理矢理引き寄せたレックスは変身し膨大な魔力を使い障壁を構築、召喚術を見事に防いでしまったのでした。
「ここまで、ですね」
「……ああ」
どうやら隊長は言う気力もなさそうなので、代わりにて大きく息を吸う。
「総員撤退せよ!貴様ら全員だ!」
俺の怒声にまた負けてしまった兵たちが戻って来る。流石に海賊及び護人達は追撃するつもりはないようだ。
そうして、森の中を進んでいく。誰も彼もが沈黙している重い空気。
独断で動いた部下達は、結局魔剣を回収できなかった。
俺が引き連れた部下達は、そんな彼らに怒りを覚えながらも我慢しているようだ。
ビジュは黙ったまま。イスラはどこ吹く風
隊長は、俯いて歩いている。
最悪な状況、これが負けた軍隊の姿だ。
次の話は早めに投稿します。
陰鬱な話はもう少し続きます。