遅れてきた直接攻撃の……   作:灰色の空

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続きです。
いつも誤字報告ありがとうございます。
ゆっくりとお楽しみください。


雨が降った後

 

 

 

 

 やっとの事で拠点に到達。流石に雨は小雨になり、黒く分厚い雲が空を覆っている。

 

 残っていた者達が迎えに来て、そしてレシィが心配した様に駆けつけて。

 

 ああ、ようやく8話が終わったんだな、と一息つきそうなときにソレは起こった。

 

「おい、テメェらどうして無断で行動したんだ!」

「何でいきなり人質とってるんだ!?」

「隊長に無断で行動しやがってどういうつもりなんだよ!」

 

 俺が引き連れていた者達が、ビジュと共に行動した者達へ怒りをぶつけていた。

 

 対して彼らも黙ったままではいられなかったようだ

 

「ああ!?そりゃ負けたからに決まってんだろうが!」

「俺達の任務を忘れたか!魔剣を取り返さなきゃいけないんだよ!」

「ただでさえ船沈めてんだ!魔剣は絶対に取り返さなきゃ俺達がどうなるのかわかるだろうが!」

 

 怒りだ。今までずっと我慢をして燻っていたやり場のない怒りが今爆発したのだ。

 

「み、皆さん落ち着いてください!落ち着いて話をしてください!」

 

 レシィが慌てて皆を落ち着けようとするが、彼らは耳を傾ける事が出来ない。

 

「そう言う領域を超えたんだよコイツ等は!隊長に迷惑をかけやがって!」

「そうやって人質とって!汚ねぇ真似して食う飯が美味いかよ!」

「プライドってのがねぇのか!?俺達は軍人なんだぞ!?」

 

「その軍人ってのが終わるかもしれねぇからこうしたんだっ!」

「お前らこそ俺達がどういう状況なのか理解してんのか!」

「任務失敗したら部隊が解散することだってあるんだぞ、俺達のこの部隊が!」

 

 収拾がつかなくなってくる。が、吐き出すもの吐き出さなければ後の悔恨になる。

 この辺のバランス調整はビジュが一番巧いのだが、当のビジュはやはり黙したままだ。

 

「そこまでにしろ!」

 

 俺が一声上げれば、強い不服の表情をしたまま部下達は引き下がる。

 

 だがこれではいけない。どうしたって信賞必罰は必要だ。さて、どうしようかというところでイスラが興味無さそうに歩き去っていく。

 

「イスラ、お前何をしている」

 

「そう言うの君たちでやってくれない?僕は疲れたから」

 

 そう言ってひらりと去っていく、あまりにも身勝手な行動に流石に閉口せざるを得ない。

 いやまぁ彼からすれば自分の目的以外は心底どうだっていいんだろうけど。

 

「……隊長、どうしますか」

 

 そうして横にいる隊長に判断を仰ぐが、俯いたままだ。

 

「隊長?」

 

 そうして、何か様子がおかしいと気が付いた時、アズリア隊長の身体がふらりと倒れた。

 

「た、隊長!?」

 

 慌ててキャッチする。触れた隊長の身体は非常に細く、そしてゾッとするほど冷たかった。

 

「だ、大丈夫だ…私は…」

 

 そして気が付く、セミロングの綺麗な黒髪で顔が全然見えなかったが隊長の顔が赤くなっていたのだ。

 

 慌てて額に手を添えればそこには強い熱を感じられた。

 

 風邪か、又は何らかの症状か。

 

 部下達も驚きの余り、険悪になり怒鳴っていた事さえ忘れて口々に騒ぐ。

 

「隊長!?どうしたんですか!」

「そうかずっと雨降ってたから体冷やしたのか」

「雨具なんて用意できなかったから!」

「直ぐに横にさせないと、ああクソ薬の備蓄はあったっけ!?」

「それよりも氷水と着替え!……男物でも文句言わないでくださいよ隊長ぉ!」

「着替えって、誰が?誰がさせるんだ?下手すれば紫電絶華だぞ?」

「そこはほらレシィ君が……い、いけるだろ!?」

 

 隊長の容体が悪くなったことで逆に頭が冷えたのか次々に騒ぎ立てそれぞれ走り出す部下達。悪いがその様子に付き合っている暇はない。

 

「隊長失礼します」

 

 ストラで風邪だろうその症状を和らげようとする。病気に対してどれだけの効能があるのかは知らないがこれで少しは…!?

 

「ムっ!?」    

 

「平気…だ…少し休めば…」

 

 隊長の顔色が変わらない!?今まで俺のストラで万事解決してきたのに!?

 

 ここにきて俺のストラでは何の意味もないと!?

 

「た、隊長…っ!」   

 

 思わぬ結果の動揺で体に震えが走る。今までずっと信頼を置いてきたものが通用しないことに僅かなされど確かな恐怖がはしる。

 

 なら召喚術?しかし召喚術は怪我の治療には使えても病気を治せるほどのものではないはず。

 

 どうするべきか。如何しないといけないのか。このまま船で横にさせて安静にして果たして治るのか? 

 

 なら…もうこれしかない!

 

「隊長失礼します」

 

「や……ろ…横になれば…治る…」

 

 一言だけ謝罪して俺は隊長を抱き上げた。俗に言うお姫様抱っこという奴だ。

 本当ならレックスにされるのが良いのだろうがむさくるしい俺で申し訳ない。

 

 いつもは頼もしい身体が非常にか細く小さく羽毛のような軽さだった。

 

「おい、ギャレオ、お前隊長をどこに連れていくつもりだ」

 

 ここで口を開いたビジュ。その視線はずっと赤い顔で荒い呼吸を繰り返す隊長の顔を見ている。

 

「この島には機界集落がある。そこにリペアセンターがあるはずだ」

 

 俺が行こうとしているのはこの島の病院であり看護師クノンが駐在しているリペアセンターだ。

 

 あの場所なら治療に必要な薬はあるだろうし、何よりクノンがいる。クノンが居れば隊長が何故倒れたのか一発で分かる。

 

「敵地に出向く気か?」

 

「んな無茶っすよ!」

「俺達今、外道行為をしてきた所すよ!」

「受け入れてくれるはず無いっす!」

「そもそも隊長を助けてくれなんて虫のいい話を受けてくれますか?」

 

 ビジュの鋭い視線と部下達の諦めと自分たちの仕出かした事へ罪悪感が聞こえる。

 

 だが俺の意思は変わらない、確かに言う事も尤もだと思うけど

 

 それよりも

 

「隊長の命が最優先だ。その為なら土下座でも何でもしてやる」

 

 そう、アズリア隊長には生きていて欲しいのだ。その為なら土下座だろうが何だろうが、なんだってする。

 

 そう言うと部下達は口を噤んだ。誰も彼も隊長には死んでほしくはないのだ。

 

「すまんが時間が惜しい、ビジュ、悪いが後の事は」

 

「待て」

 

「奴らの事なら俺がどうにかする。お前は」

 

 そこまで声に出した時、視界に何かが映った。それと同時に首に鋭い痛み。

 

「ビジュさん!?」

「え?いつの間に投げた?」

「何も見えなかった…」

 

 ビジュが投具で俺の首筋を浅く切ったのだと理解した。現に俺の肩口の隊服は赤く染まってる。

 

「どういうつもりだ?」

 

「そのままの意味だ。待てと言った」

 

 ほんの少し殺気が漏れる。俺を攻撃するのは一向に構わないが隊長が一大事の時に邪魔をするのなら話は別だからだ。

 

 そんな俺の殺気に気にするわけでもなく、ビジュは俺に抱き抱えられてる隊長の顔を見て何かを考え口を開いた。

 

「……おい、ギャレオ」

 

「なんだ」

 

「お前が良く行く店?だったか。店主が占い師って言ってたな」

 

「ああ、それがどうした」

 

「店主は女か?」

 

 何を聞いているのか。疑問には思えど素直に答える。

 

「ああ、そうだ」

 

「……なら、流石に持ってる筈か」

 

 一人確信したようなビジュは、レシィを呼び俺の代わりに隊長を部屋に運べと命令をし始めた。

 

「ギャレオ、今からテメェは全力でその店に行って状況を説明して来い」

 

「薬を貰って来いと?」

 

「必ずあるはずだ。特に女独りで店をやってるなら」

 

 確かにメイメイさんのお店なら風邪薬ぐらいはありそうだが……いや、考えるのは良そう。

 

 ビジュが俺を殺そうとしてまで止めたのだ。その意味はきっとあるはず。

 

「分かった。お前の顔を立てよう」

 

「ならとっとと行け」

 

 言われるまでもなく。抱き上げていた隊長をレシィに任せ、俺は風のようにメイメイさんの店へと走るのだった。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてメイメイさんの店へ転がるようにしてドアをぶっ壊し、

 

「頼もう!」

 

「ぶっはぁ!?」

 

 衝撃と驚きで酒を吹き出したメイメイさんへ事情を説明し。

 

「頼む!」

 

「うにゃー!?何事ー!?」

 

 店の床に罅を入れながら土下座をして頼み込み。

 

「お薬を!」

 

「うん?ん、んん?ああ!()()()()()()

 

 事情を分かってくれたメイメイさんが慌てて薬を取ってきてくれて。

 

「あざしたっーー!!」

 

「ひぇーー!!お店がぁ!?」

 

 店の壁を壊しながら俺は猛ダッシュで拠点へと大急ぎで帰って来た。

 

 

 

 

 隊長は部屋で横になっているらしく薬をレシィに渡し、薬を飲ませて症状が安定したのを確認したとの報告を受け。

 

 ようやく一息つくことになったのだ。

 

「隊長は、一体どうしてしまったのだ?」

 

「……雨風で体が冷えたってのが一番だろうが。精神的な疲労もあったはずだ。お前なら想像つくだろ」

 

 恐らくだがとビジュは一言添えたその言葉は確かにと頷けるものだった。

 

 簡単ではなくても遂行できたはずの任務は、海賊の襲撃からすべての予定が狂った。

 慣れない島での生活に部隊長としての責任、どうあっても必ず追及される船の護衛失敗及び沈没責任。

 そして旧友との再会戦闘、魔剣の所有を巡っての戦闘に敗北すること多数。

 

 止めに優しかったはずの弟が行った仄かな恋心を寄せる友人への殺害行動。

 

 なるほど、これは確かにいつ何時ぶっ倒れてもおかしくない状態だった。

 

「それに、恐らくだが……」

「他にあるのか?」

「ケッ 他の奴はともかくテメェには縁のない話だ」

「???」

 

 ビジュには何かしら心当たりがあるらしい?ともかく隊長も女性の身でありながらよく頑張った方だったのだ。

 

 今は、何もかも忘れてぐっすりと休んでほしい。後でレシィに体に良いものを頼んでみよう。

 

「うん?皆、濡れた格好で何やってるのさ」

 

 とまぁそんな事をしていたらイスラがちゃっかりと着替えて呆れたような顔でやって来た。

 

「隊長が、倒れた」

 

「…姉さんが?」

 

 一瞬、目を見開いたイスラ。だがそれが見間違いかと思うほどにすぐに平坦な顔になっている。

 演技が上手いが俺には筒抜けだクソガキめ。

 

「今は安静にしている。後で見舞いに行け」

 

「……ああ、そうするよ」

 

 姉が絡めば案外素直なのがまためんどくさい。だが今はそれでいいのだろう。

 

 

 

 

 と、言う感じで諸々が終わったので、背筋を伸ばす。ちょうど全員が揃っているようだ。

 

「さて、皆が知っての通りだが、隊長は今容体が悪く安静にしている状態だ。よって今現在部隊の指揮は副隊長である俺が引き継ぐことになる。異論はないか?」

 

 見回すが全員異論はないようだ。一人だけ雰囲気が変わった事に僅かに戸惑っているイスラがいるだけだ。 

 

「では、先ほどの戦いについてだが」

 

「待ってください!あの人質については理由があるんです」

 

 先ほどの戦いについて聞こうとすればビジュを庇うように部下が声を上げた。その顔は必死だ。これから俺が何をするのか知っているからこその顔。

 

「聞こう。思いの丈を吐き出せ」

 

 そうして語った部下の話では、先日の戦いで正面から負けたことで不安になっていた。これからどうなるのか、任務が失敗したらこの部隊の存続は難しいのではないのか、隊長は降格されてしまうのではないのか、そう話し合っていた時ビジュに縋ってしまったのだと。

 

「ビジュさんは悪くありません!俺達が勝手に落ち込んでそうさせる様に誘導してしまったんです!」

 

「いや、アレは僕の作戦…」

 

「なるほど、確かに部隊を思う気持ちのほどはよく分かった。だがそうだとしても独断専行をした事実は間違いはない」

 

 なんかイスラがほざいているが無視。

 

「思いついたのなら隊長には報告する義務が、言えなくてもせめて俺に相談をするべきだった。違うか?」

 

「……それは、その通りです」

 

 歯を食いしばる部下達。彼等は彼らなりに動いたのだが……。

 

「そしてビジュ。貴様には部下達を率いた責任がある。勝手に部隊を動かし指揮系統を混乱させた責任が」

 

「ああ、そうだ」

 

 ビジュは反論はしない。自然体で真っ直ぐに俺を見ている。

 

「その意気や良し。なら責任をもって拳骨一発で勘弁してやろう」

 

「子供の反省会?」

 

「待ってください!せめてビンタで、拳骨ではビジュさんが死んでしまいます!」

 

 部下が必死で止めてくるが、諭すように首を振った。

 

「止めろ、ビジュに恥をかかせるな」

 

「うっ…うぅ」

 

 部下達を思っての行動だとしても勝手に部隊を率いた責任を取らなければいけない。

 俺達は仲良しこよしのグループじゃなくて駄目駄目だったとしても軍人なのだから。

 

「いやでも結構甘くない?何この茶番?」

 

「さぁビジュ。歯を食いしばれ。……死ぬなよ」

 

「ケッ さっさと来い」

 

 イスラがさっきから煩くてかなわないが、深呼吸を一つ。そうして全力で腹に力を込めたビジュを確認し。

 

 

 掌底を叩きこむ。

 

 ボゴッ!! 

 

 

「うごっ!?」

 

 人の身体から鳴らないような音を立て、10メートルは軽く吹っ飛ぶビジュ。飛んで飛んで、船に激突して、潰れたカエルのような音を立て、地面に落下し…動かなくなった

 

「……は?」

 

「衛生兵ーーーッ!!」  

 

 部下が慌てて駆け出し、ビジュを助け起こす。召喚術の光も見えた。恐らく回復させるのだろう。

 

「駄目だ!白目をむいて気絶している!」

「口から泡を吐き出し始めた!」

「うわっ!?ビクンビクン振動している!」

「おいコレ内臓グチャグチャなんじゃないのか!?」

「死ぬなーーー!!ビジュさん生きて――!!」

 

 ふむ、流石はビジュ。割かし細身に見えても体はかなり鍛え上げた男だ。

 

 そしてその後も大したものだ。俺の掌底を受けわざと大ダメージのように見せる演技力…え?アレ演技だよね?俺そこまで威力を出したつもりは…。

 

 まぁいいや。

 

「ねぇ、アレ何?何で味方同士で処刑しているの?」

「俺達の部隊の名物。ギャレオさんの指揮だとああいうのが良く起きる」

「手加減はしてくれる。喰らった日はロクに飯食えなくなるけど」

 

 何やらイスラが部下達とコソコソとしているが、次はお前の番だが?

 

「さて、イスラよ」

 

「ちょっと、僕はアズリアの弟だよ。まさか手を出そうって訳じゃ」

 

「貴様はまぁハッキリ言えば外様だ。だが部隊を引き連れた者の責任があるのは事実」

 

「ねぇ人の話聞いていないの、このゴリラ?」

 

「今回は初犯という事で()()()()で勘弁してやろう」

 

「は、はぁ?」

 

 困惑しているイスラの前で平手をブンブンと素振りをする。うむ今日は素晴らしい快音が響き渡りそうだ。

 

「やっべーーー!副隊長のケツ壊しが来た!」

「完全に人のケツを壊す気のアレが来る!」

「逃げろイスラ君!諸々が垂れ流しになるぞ!」

 

「……は?」

 

 部下達の悲壮な声を聴いたイスラはまさしく宇宙猫状態。そんな顔すら姉とそっくりだなと思ってたら部下達が俺に飛びついてきた。

 

「む、何をしているお前達。信賞必罰は必然だぞ」

 

「人のケツを壊すのは違うと思いまぁす!」

 

 何をそんな事を。ただちょっとビンタの要領でケツを叩くだけだ。誰かってオイタをした子供を叱るときにする物だろう?

 

 拳骨をするより断然優しくて気を使っているのだが?

 

「イスラ君逃げろ―――ッ!!」

「ウンコが出来んくなっても知らんぞ!!」

「アレは座るたびに激痛が走るんだよォぉおお!!」

 

「……ッ!?!!」

 

 あ、イスラが凄い形相で逃げた。なんて奴だビジュは覚悟を決めたのに責任から逃げるなんて。

 

「ふむ、どうやらよほど激しいのをお好みの様だな。感心だ」

 

「ヒィイイ!?副隊長には慈悲ってもんが無いんですか!」

 

 喚く部下達を体に巻き付いたままイスラを追う。逃げ足の速い奴だが、さて俺のケツ叩きから逃げられると思うなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バッチッ―――ンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて、そんな風にいつの間にかグダグダとした空気になりながら今日の戦闘任務は終了したのであった。

 

 




これにて陰鬱なお話はしばらくの間終了です。
次回は夜会話でその後は原作9話のお話になります。
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