原作8話の夜会話です。
誤字報告に感想ありがとうございます。
「お身体の方はどうでしょうか?」
「…すまん、まだふらついてしまう」
隊長のお見舞いに来たがベッドで横になったままだ。まだ赤い顔には汗を掻いたのか髪が引っ付いておりどう見ても風邪の症状のそれだ。
「ではそのままお休みください。今までずっと気を張っていらっしゃったのです。これを期にしっかりと体を労わって下さい」
「ああ、そうだな。……ふふ」
「?」
少し呼吸が荒いままだが何を思ったのか、少しだけ微笑んだ。怪訝な顔をすれば少し熱っぽい声を出し薄く笑った。
「いやなに、まさかこの私が倒れるなんてな。情けなくてつい笑ってしまった」
「隊長も人間だったという事です。生きていればお腹がすき疲れたら眠くなり、疲労が溜まれば倒れる。当然の事ではないですか」
「それはそうだったな。お前達と一緒にいるとつい自分の事をおざなりになってしまう」
「それは、その申し訳ありません」
問題児の集団だからね。特に俺が隊長にかける迷惑は他の隊員の比ではなく……。
そもそもの話俺が副隊長としての責務をこなしていないというのが原因だな!?マジですみません…。
「ああ、違うんだお前を困らせるつもりはなくて、只お前たちといると」
「いると?」
「家の事を忘れてしまうんだ…」
しんみりとした声だ。普段は出さない、弱り切った声だ。
「あの子の代わりに私が頑張らないとって、ずっとそう思って…」
嫡男であるイスラは体が病弱だった。本当の所は無色の病魔の呪いに掛かってはいるためだが。まぁそれを抜きにしてもずっと隊長は気を張ってきたのだろう、今もそして恐らく学生の頃も。
それが緩んでいるときは
「どうしてなんだろう。…私はあの子にあんなことをさせるために……軍人になった訳じゃ…」
汗を掻いてぼんやりと遠くを見つめた隊長はベッドから手を出しフラフラとさせる。思わず手に取れば微かな力で握られた。
弱い、とても弱い力だ。
「ギャレオ…」
「はい」
「あの子は…違うんだ…もっと優しくて…本当に……良い子で」
夢現なのか声が途切れ途切れになる。疲労で体が眠りに入っていったのだろう。
「分かっています。…ええ、分かっては、いるんです」
「…ィ……ス……ラ……」
「おやすみなさい、どうか今だけは良き夢を」
涙を一滴零して、穏やかな寝息と共に眠った。
毛布をしっかりと掛け直し、アズリアの頭を一撫でして俺は静かに部屋から退出するのだった。
「まさか、あんな言い争いが起きるなんて思いもしませんでした」
「皆の不平不満が溜まってしまったその弊害だな」
レシィとまったりと会話する。居留守を任せたレシィが迎えたのは雨でびしょ濡れの野郎どもと体調を崩した隊長とクッソ生意気なイスラだ。
何事かと駆けつければお互いを罵り合う殺伐とした空気。衣食住すべてを担ってるレシィには大変見苦しい物を見せてしまった。
「体の痛みは耐えれても心という物は傷付くものだ」
「それで、あんな言い争いを?」
「普段は我慢できるんだがな。理性で抑えられるんだが人質を取ったというのがマズかった」
レシィには何があったのか説明はしておいた。ビジュが部隊を引き連れイスラという諜報員兼アズリア隊長の弟が起こした放火と人質作戦。
魔剣を入手した後、レックスの命を奪おうとしたと言われた時のレシィの驚きようは…何か本当にすみません。
「……でも少し安心しました」
「安心?」
「ビジュさんについて行った人たちはこの部隊を守ろうとしたんですね」
そう、部下達は任務が失敗に終わった場合の事を考えて行動してしまったのだ。この部隊が離散されてしまうという事に恐怖してしまった。
「勿論人質なんて言うのは如何なのかなって思います。でもそこに理由があるのなら…でもやっぱり駄目ですよね」
「部隊を守ろうとしたアイツらの気持ちは汲んでやれるが、人質や放火はどうしても、な」
そこまで非道な事をしなければいけないのか、そうせざるを得ない状況なのか。
「軍人としての誇りと部隊の存続。どちらも比べられないものだ」
「だからあれほど真剣に怒ってたんですね。」
しみじみとレシィは先ほどのやり取りを思い出したのか遠くを見つめた。部隊の皆はひとまず争うのは止め全員体を休めている。
起きているのははぐれ召喚獣を警戒する僅かな人数だけ。
「僕は」
「うん?」
「僕はどちらが正しいのかは分かりません」
「そうだな。どちらも正しくて間違っているのかもな」
こんな問いに答えなんてない。あるとすればさっさと魔剣を回収しろという部外者の言葉だけだろうか。
「でも皆さんが真剣に考えているんだなってわかって。僕もそんな皆さんの力になろうってそう思います」
「十分に助けられているさ」
レシィが居なければもっと酷いことになっていた。それほどまでに雑事家事炊事は大切な事だ。
「ゆっくりと休んで明日からまた頑張れるようにおいしい物を作りますね」
「ああ、有難うなレシィ」
健気で心優しい少年の頭を撫でたら、しっぽがフラフラと揺れ動いた。
「生きているか?」
「………」
悲報、ビジュ遂に口も利けなくなる。酷い一体誰がこんな事をっ!
まぁ俺なんすけどね。でもかなり手加減して威力が弱い掌底で体が飛んでいくようにしたんだが…?
「察しろ」
「なるほど」
ジト目で横になりながらこちらを見るビジュにストラを掛ける。今回はどうやら普通に効いたようで治ったと同時に大きな溜息を吐き出された。
「…はぁ」
「すまん」
「うるせぇ」
ビジュの溜息にも先ほどの演技にも理由がある。部隊のひいては部下達の分裂を防ぐためだ。
先ほどの諍いは結局隊長の風邪でなぁなぁになったがあのままでは表面上は収まっても内情では不平不満がたまる一方だった。
しかしビジュが責任を取る形で処罰を受けたのだ。
上官が刑罰を受けているのを目の前で見たら流石に己の行動に反省をする。部下達はそう言う奴らでそうなると分かってビジュは俺の掌底を受けた。…流石に船に激突するとは思わなかったらしいが。
おかげで隊長が行動不可能な今ビジュが動いたので部隊はまだ分裂することなく行動できているのだ。
感謝しかないが、それを口に出せば怒られるのは明白。よって口には出さず今後の事を話すことにした。
「……隊長が休んでいる間は俺が指揮を執る。ひとまず隊長が回復するまで作戦は停止する」
「ああ」
お互い終わったことについて話す程殊勝ではない。そして今この状態で任務の為に動く気もない。
「取りあえず部下達には合同でトレーニングを行わせる。無論俺達もだ」
「そうしておけ。内容はこっちで適当に考えておく」
作戦を停止したからといってでは訓練は無しかといえばそうではない。今回はその停止期間を使って合同訓練という訳だ。
内容は過酷にして俺達ももちろん参加。嫌な事は全員で共有だ。連帯責任ともいうかもしれんが。
本当はレックス達も何だかんだで休日を作るんだから俺達も同じように休みたいが……休みなんてねぇんだよなぁ~役所勤め?の辛い所よ。
「で、あのガキをどうするつもりだ」
「む、イスラか」
イスラか。アイツホント好き勝手動くんだよな。一応帝国軍人だけど俺達の部隊ではないんだよなぁ。
諜報部ではあるんだが個人で派遣されているので同じ軍人でも派閥…所属が違う。
それに加えてアイツ自身が無色の派閥のスパイであり更に実際は自分の願いの為に動くイレギュラーであり…
ようはめんどくさい!
「どうにかなるさ」
「じゃねぇよ。テメェが躾しろ」
躾?あのめんどくさいガキを?大人ぶってる子供を?関わるの嫌なんですけど…
という訳で困った時のビジュ、お前に任せた!
「人を締め上げるのはお前が適任だろう」
「はぁ?ガキの子守りなんざ反吐が出る」
「そこをなんとか」
今更1人増えたところで…負担が増えるか。でもなぁアイツなぁ本当の本当にメンドイから…レックスに全部丸投げしたい。
同じ魔剣に選ばれた者同士積もることもあるだろ。そのまま鍔迫り合いでもしてくれ。
…でもなぁアイツの最期なぁ。うぅ~ん。
「そもそもテメェの尻拭いで手一杯だこのボケ!」
「ご、誤差の範囲だ」
「誤差じゃねぇ!アイツからメンドクセェ匂いがするんだよ!やってられっか!」
「頼む。アストラルパイをやるから…」
「くたばれ!」
とまぁこんな感じでビジュと馬鹿みたいなことを言いあうのでした。
「痛い……お尻が、割れる」
「む?丁寧に一回優しくビンタしただけだぞ」
「アレはビンタってレベルじゃないよ!?」
ケツを押さえながらみっともなく喚くのはイスラだ。ハハッイケメンが尻を押さえるのは中々の絵面だな。
「おかしいよアンタは…正気じゃない」
「ケツたたき一発で弱音か、なんとまぁ」
「お尻を叩いただけで人は飛ばないからね!?」
結局あの後部下達を引きずりながらイスラに追いつき加減をしてケツを一発柔らかく叩いただけで終わりにしたのだ。
しかしケツを叩いたら余りにも体重の軽さで吹っ飛んでいったイスラ。部下達が慌てて駆け付けたのが少し面白かった。
「嘘だろ…コイツあんな事して笑ってる…!?」
「そもそも信賞必罰だ。やられたぐらいで喚くな」
「何が罰だ。大体僕の作戦途中までは上手く行ってだろ」
ようやく痛みが引いてきたのか不貞腐れたように喚いた。
なーにが上手く行ったじゃわい!考えたらガバガバ過ぎんかお前の作戦?
「何処がだ。お前が欲を搔いたから最終的にレックスが魔剣を引き寄せてしまっただろうが」
「あれは、僕の責任じゃないだろ。まさか剣を引き寄せるなんて分かる筈がない」
魔剣の性質を知る知らない、これは確かにイスラにとっては予想外だったかもしれない。
知れないけどさぁ。
「そうではない。魔剣と人質の交換。これで終わらせとけば奴らは納得し俺達も余計な戦闘をすることはなかった」
そこで終わっとけば、それでそのまま魔剣の回収は出来たのだ。イスラがレックスの命を狙わなければ。
「欲を掻いたら風で妨害され、そして無駄な開戦。結果手に入れたはずの魔剣は奴らの手に元通り、結果的に俺達のアドバンテージである貴様の潜伏だけがばれてしまった」
「……余計な茶々が入るとは思わなかった。そもそもアンタが邪魔をしたからだ」
「あそこで隊長や俺が介入し様がしまいが、あの鬼姫の風を防ぐ手立てがない以上元から失敗だったのだ」
俺が入った所でも結果は変わらない。隊長が庇いそしてミスミ様が出てくる。
「貴様は島の住人と良好な関係を築けていたのだろう?ならせめて住人の戦闘能力ぐらいは調べておく必要があったのではないか?」
「スパイだからって何でもできる訳ないだろ。そもそも記憶喪失をやってたんだ、下手な探りは身を亡ぼすってわからないのかな?」
「ならなおの事お前が前面に出てくる必要はなかったと、そうは思わんか?」
イスラの皮肉も何のその。コイツを前にするとどうしても憎まれ口が止まらなくなる。
「そもそも人質作戦はビジュに任せてお前はもっと潜伏出来たはずだ」
「その潜伏もアンタ達が負けたから出てこざるを得なくなったんだけど?」
「なら連絡位しろ。報連相も出来んのか」
「そんな事していたら機を逃す。それに僕は諜報部だ、計画を実行に移すまでは誰にも言う必要はないんだよ。分かるかい?」
「その守秘義務とやらを誇る割に実際はスケベ心を出して計画を失敗をさせたと。何の為の諜報だ?」
戦闘能力はあって計画の立案や諜報としての能力などはそれなりにあっても実際の現場の判断能力があれではなぁ。
結局失敗したのは変わらない。
「「はぁ…」」
そこまで言ってイスラも俺も、どちらともなく溜息をついた。
いくら話したところで結果論で終わってしまった話なのだ。
「……終わった話を蒸し返すのはここまでにするぞ」
「同感だね。全く、一つも益の無い話だったじゃないか」
お互い、相手の責を追及してもこれっぽちも意味がないと分かっただけでも良しとしよう。
「まぁいい。兎も角イスラさっきも言ったが。貴様はこの部隊では外様だ」
「ああ、僕もこの底辺部隊がここまで甘ったれだとは思わなかったからね。仲間意識はしないでくれないかい」
うーんこのひねくれ小僧。次はケツドラムするぞ?良い音鳴らすぞマジで?
ウンコの代わりに抜剣覚醒しながら『紅の暴君』をひねり出す羽目になるぞ?……地獄絵図だな!
「だがここにいる以上、貴様もこの部隊の一員だ。不本意だがな」
「はぁー ま、確かにそれは仕方がないか」
年上に糞生意気なこの餓鬼をどうしてくれようか。そんな事を想いつつ手を差し出す。
「なんだいそれ?」
「知らんのか?握手という物だ。何だかんだではあるがこれからよろしくという奴だ」
「……ハッ 全く姉さんは可哀想だよ。こんな馬鹿が副隊長なんて」
そうして俺の差し出した手を見て鼻で嗤うイスラだった。
バチンッ!
「あいたっ!?デコピンすることはないじゃないか!」
「やかましいっ!」
焦らずゆるゆるとお話を進めます。