少し長くなったのでごゆっくりどうぞ。
「フッ フッ フッ」
「ヴォッ ヴォッ ヴォ」
「はっ はっ はっ」
「ひぃ…ひぃ…ひぃ」
「おい、なんかペース早くね?」
「気のせいだろう、どやされる前に走れ」
そう言えばと思う。結局の所レックスは2周目なのだろうかとそんな事を考えていた。
原作では2周目になると隠し要素が出てくる。主なのは2つ、イスラルートの解禁とハイネルが序盤から出てくるという事だ。
「フッ フッ フッ」
「ヴォ ヴォ ヴォ」
まずは、ハイネル・コープス。
コイツは物語における超重要人物の一人。より正確に言えばこの島の成り立ちから関係する人物だ。
ファルゼン事ファリエルの兄でヤッファのマスターでアルディラの恋人でキュウマの主リクトの親友。
…キュウマだけ随分と関係性が遠くない?主の親友ってそれって忍者的にはどんな感情?
「フッ フッ フッ」
「ヴォ ヴォ ヴォ」
と護人と関係性の深い彼は無色の実験場だった島の自由を守るため所属していた無色の派閥に反乱をする。
結果的に島の遺跡の奥で核識となり無色を追い出して死亡。…確かこんな感じのキャラだ。
ここまで印象が浅いのは出てくるのは生徒か護人の好感度高のルートしか出てこず、また2周目で出てくるにしても物語の大筋を大きく変えるようなことはせず物語の根底に強く関わるとは言えども故人なのででしゃばった真似はしないある意味謙虚な立場なので。
ゲーム的にはさほど重要ではない人だからだ。そして俺には全く関係がないのでもうハイネルに関してはここまでにする。
「フッ! フッ! フッ!」
「ヴォッ?ヴォッ?ヴォッ?」
「……っ!」
「おいペースが上がったぞ!」
「何でギャレオさん息が切れてないんだ!?」
「クソッ あのゴリラなに考えてんだ!」
「良いから走れ阿保共!」
「おまけにビジュさんもついて行けるの本当に何で!」
「知らねぇよ!」
そしてここからが本題。最終局面近くで選択できるイスラルート。イスラは帝国軍のスパイと発覚してからそれはもうすんごい勢いで画面に出ずっぱりの状態になる。
立場的にもアズリアの弟で無色の派閥に属して、結局無色の派閥を裏切って。と立場を二転三転と変える。
でも物語のラスボスではない、なれなかった。…別に良いんだけどね。
「フッフッフッ!」
「ヴォヴォヴォヴォ!!?」
「……!!」
「全力疾走!?」
「しゃ、喋んな…!」
「息が、切れる!」
とまぁイスラはサモンナイト3にとっての超超重要人物なのである。魔剣の片割れを持ってるし。
そんなイスラは1週目では何がしたいのかよ―分からんキャラになっている。散々状況を引っ搔き回しそしてそれはもう簡単にあっけなく死ぬ。
大事な事なのでもう一度!
アイツは死ぬ。それはもう惨めに。何も語らず語れずゴミのように。
そんな重要人物のイスラが何を願ったのか何をしたかったのか、事の真相が判明していくのがイスラルートだ。
「おい、いったん止まれこの糞クソクゴリラ!!」
「む?もうそんな時間か?」
「誰しもがテメェのように体力バカじゃねぇんだこのボケッ!」
汗を流しキレたように怒るビジュに蹴られてようやく走るのを止めた。背中に背負っているタマヒポ君を背負いなおしながら後ろを見ると部下達が汗を垂れ流し肩で息をしている。
「はぁ…はぁ…ふぅ」
「早すぎるッス副隊長」
「もうちょっと手加減しては、くれないっすよねぇ」
「流石ギャレオさん……体力は無尽蔵…です、ね」
一生懸命に後ろについていたレシィも疲労困憊そうだ。
今現在、俺達は暁の丘という広場で合同訓練をしています。以前レックスたちと戦った場所だね。
訓練内容は徹底した体力トレーニングと筋トレという基礎を充実した内容になった。
負け続けであることを反省して基礎から根性を叩き直していこうという事になったのです。
ひとまず午前は体を苛める方面で。午後は実戦を交えた訓練となっている。
「ンヴォ?」
「まだ始まったばっかりだ。悪いがもう少し付き合ってくれないだろうか?」
「ヴォ!」
俺が声を掛けたのはメイトルパの召喚獣タマヒポ君。強烈な口臭で攻撃し毒を与えるいぶし銀な召喚獣。
これでも家族仲が良く俺が召喚したこの個体は子煩悩パパ?らしい。最近子供たちがやんちゃ盛りで可愛いのだとか。
そんなタマヒポ君だがトレーニングの重しとして協力をしてもらってる。最近重しがないとどうにも体が鈍ってるような気がしてビジュに相談したら召喚獣を呼べと冗談交じりに返され、呼び出すことにしたのだ。
タマヒポ君は攻撃として呼ばれたのでは無くて困惑していたが事情を説明すれば快く協力してくれた。
匂いがきついが慣れればそれも愛嬌と思えるので、こうやって背負って走ってたのだ。
なお、当のビジュや部下達はげんなりしていた。何でや!可愛いやろうが!
とまぁそんな感じでだがトレーニングを続けている。
部隊のほぼ全員が強制参加となったこのトレーニング。久しぶりという事で中々みんな辛そうではあるが脱落したものが居ないのは流石というべきか。
レシィも自分から参加をして頑張っている。
隊長は勿論お休み。まだ本調子ではないらしい。
イスラはサボって逃げた。恐らく拠点内のどこかにいる。後で捕まえに行こう。
「んじゃ始めんぞ!気合入れろ馬鹿共!」
「「「「「「ウィッス!!」」」」」」」
ビジュの掛け声と共に腕立てをする。カウントの数はビジュが言い、どれだけの数字で終わるかはビジュの機嫌次第という精神と根性を鍛える体力重視の腕立てだ。
「ゲレ~~?」
そんな腕立てをする俺達をビジュのタケシーが見張りをしている。姿勢が正しいか正しくないかちゃんとやっているのかという抜き打ちチェックだ。
しかも姿勢が正しくない場合は…
「ゲレッ!」
ビリリッ!
「アババッバッ!!」
雷が降ってくるという始末。しかもカウントもまた一からだ。
「テメェら腑抜けてんじゃねぇぞ!!」
「「ういっス!」」」
そうしてまた始まる腕立て。タケちゃんは悪戯好きなので偶に面白がって雷を落とす理不尽な事があるがそれ込みの筋トレだ。
これぞ本当の根性鍛錬。なお不満があると更に内容が増える。酷い。
さて、話を戻そう。
そんなイスラルート。レックスは辿っているのかどうかだ。辿っていればイスラがレックスに対し意味深な事を喋ったりわずかに態度が柔らかくなるなど、変化が訪れる。
そうして最終局面の選択肢で『君の願いを教えてくれ』これでイスラが何を思い行動していたのか真実を吐露するのが始まるのだが…。
俺、実はイスラルート一回しかやってなくて内容ほぼうろ覚えなんだよなぁ。
「ゲレレレッ!!」
バチチチッ!
「アバッバババ!?」
「また最初からか!?!」
「フンッフンッフンッ!」
「ギャレオさん無視してやってるよ…」
「背中に召喚獣乗せてるのに?」
「あの人頭おかしいんじゃねぇの?」
勿論重要な事は覚えている。イスラが何を願い何をしようとしていたのか。でもそれだけだ。
正直他の個性豊かな仲間キャラの夜会話やENDの方が俺には楽しくて面白くって魅力的で。
恋愛から友情まで幅広いキャラの個性と魅力が詰まったそっちの方が印象に残ってしまったのだ。
「ゲレレレッ!」
バチバチバチッ!
「フンフンフンフン!!」
「ヴォヴォヴォ!?!?」
「ゲ、ゲレレッ!?」
「喰らっても平気でやってる…」
「乗ってるタマヒポはちゃんと痺れてるのに!?」
「あの人なんか耐性でもついているんじゃない?」
「そこの馬鹿はほっといて真面目にやれ糞共!」
なのでイスラルートの感動とか俺にはとんと鈍くて。
『色々とやらかしているのにそうなるんだ、それは…無いだろう?』ぐらいなもので。
だからイスラがどうしようと俺自身とは関係がないのだ。上官の弟で部隊から距離を置いているひねくれもの。
それだけの関係性で、でも別に死んでもどうでもいいやと思えるほど他人な訳でもなく。
「ぬぅぅぅ…」
「ゲレレェ~~」
「タケシー泣いちゃった!」
「見ろよギャレオさん遂に足が浮き始めたぞ」
「なんかもうあそこまで行くと気色悪いなッ!」
俺としては生き残れるなら生き残った方がまぁ後味スッキリじゃん?その位の心持ちなのだ。
うん?イスラの過去を知ってそんな薄情な事を言えるのかって?
言えるさ。だってアイツは、アイツはね。
そうなってしまった過去は同情するが、結局姉と自分以外はどうだっていいんだろ?
だから口ではどれだけ言えてもお前の本性はそれなのさ。
そうして休憩時間になり、拠点で昼食を摂ってる時、飯の匂いを嗅ぎつけたのかどこからか現れたイスラをまじまじと観察する。
「何さ」
「……似ていない奴だな」
「顔を見合わせてそれ?どこまでも失礼な奴だな」
これがなぁ姉と同じように愛嬌があって敬意が持てれば色々と優遇したいのだが、似てないんだよなぁ。
文句の一つでも言えたらいいんだけどなぁ。現状目の前にいるのはクッソ生意気な糞餓鬼なんだよなぁ。
ケツでも叩いて修正してやろうか?……ケツから魔剣が出てくるからダメか。
「何を考えているのか知らないけど、そろそろ姉さんに言うよ」
「……似すぎているのも問題だ」
「は?」
いいや、妙な所で拗らせてるのは姉弟両方とも似ているか。
つーかなーにが姉じゃい!こっちはアズリア隊長に怒られてるのは慣れてんじゃい!…紫電絶華は勘弁してほしいけどね!
そもそもコイツがここまで尊大なの何で?別にお前は俺の上司じゃないから怖くないんだけど?
それともあれか?結局この部隊の皆無色に殺されるからどうだっていいってか?
うーん!極・刑☆
じゃなかった。落ち着けひっひふーヒヒッフ!
「ぬぅ…やはり躾か」
「人の顔見ながら唸るの本当にやめてくれない?」
「………」
「黙って着いて来るもやめてくれない?怖いんだけど!」
こいつがここまで糞餓鬼でいるのは、まぁ願いが関係しているのだろうけど。
うぅぅうぅううん。
魔剣を持ってるからってのもあるだろうけど…うーーーん。
ぃ良し!!決めた!
「店に行くぞ。イスラ貴様も手伝え」
「……は?」
「レシィ、お買い物リストは持ったか?」
「準備万端です」
「さぁ行くぞ」
「は?」
結論☆ コイツを尊重するのは止めました!好き勝手振り回しちゃいまーす!!
「あらまぁいらっしゃい。さぁ覚悟はいいかしら?」
「何故サモナイト石を取り出す」
「まさか、自分がしたこと忘れているわけじゃないわよねぇ~」
入店早々滅茶苦茶いい笑顔で赤いサモナイト石を握りしめながら出迎えるメイメイさん。
その顔にはおっそろしい事に青筋が浮かんでいた。あれ?マジオコ?
「…?」
「え?本当に覚えていないの?」
覚えが無さ過ぎるので、困惑しかないのだが当のメイメイさんも驚き呆れたような顔。ハァと酒臭い溜息を吐いて店の壁を指さした。
「店の壁。思いっきり壊したでしょ」
「……あ!」
「アレ直すの私がどんだけ苦労したのか、理解出来るかしら~」
そう言えば隊長の薬を貰いに来た時、勢いつけ過ぎて店の壁をぶっ壊しながら入店したんだった。
てへ☆はんせーい。
「うふふ」
「待て、そのサモナイト石を離せ。お前のソレはシャレにならん」
握ってるあのサモナイト石、鬼神将ゴウセツじゃないか?シルターンの単体最強召喚獣じゃないか!
「本当に、直すのにどれだけ苦労したのか、おかげで結界もまた再構成しなくちゃならなくなったの。お分かり?」
「あの時は必死過ぎて何も考えられなかった。すまなかった」
酒臭いとかそう言うのが消えたメイメイさんが笑顔でやって来るの怖いんだが。控えてください龍神様。好きなお酒の供給源が無くなっちゃいますよ!
「はぁぁぁ… もう分かったわよ。あの時の貴方死にそうな顔をしてくるんだもの。それほど大変だったという事で納得してあげるわ」
「申し訳ない」
「そう思うのなら一杯お酒をちょうだい。そうしたら許してあげる」
やはり酒。酒しか勝たん。……冗談は置いておいてメイメイさんには頭が上がらないというこういう事か。
レシィに今度メイメイさん好みの料理を作って貰おう。それぐらいなら別に良いはずだ。
「それで、後ろにいる子は?」
メイメイさんが俺の後ろを見れば。酒の匂いに顔をしかめながら店の中を興味深そうにキョロついているイスラが居た。
なんてことはない、イスラが暇そうだったからこの店に遊びに来たのだ。後レシィの食材購入や運搬などの手伝いをさせる為でもあった。
少しは働けニート!というつもりで連れてきたと言えばいいのか…
「イスラだ、うちの隊長の弟でな。島の住人に記憶喪失を偽ってスパイをしていたこまっしゃくれたガキだ」
「あらまぁ若いのに諜報員なのね。苦労している顔だわぁ~」
「えッ!?何勝手に僕の事喋ってる訳!?」
「反応が良いだろ。これが若さだ」
「若いっていいわねぇ~」
メイメイさんと一緒に羨むような目でぷんぷんと怒るイスラを見る。遥か年上相手に怒っても無駄だぞイスラ。
「イスラ。この人はメイメイさんだ。この店の店主で凄腕の占い師だ」
「うふふ~そんな褒めたって何にも出ないわよ~~~」
「美人だが見ての通りアルコール依存症だ。日がな一日中酒をかっ喰らってる。そのうち内臓関連をダメにする女性だ」
「たまに思うけどアナタ、私に対して喧嘩売っていない?」
「そして俺達に装備や食料を提供している恩人だ。俺を見習って敬うように」
「敬ってるつもりだったの貴方!?」
「え?島の住人なのに帝国軍に協力しているの?島の住人じゃない?無所属?駄目だ、ツッコミどころが多すぎる」
イスラ、ドン引きである。そうだよね島の住人?なのに俺達に協力してくれるとか闇の商人のそれでしかない。
俺達は助かってるけど。
という事で顔を合わせは無事に済んだので、これからは商談というより交換タイムとなる。
「あ、メイメイさん。これちょっと作ってみたんですけど味を見てもらっても良いですか?」
「レシィ君は良い子ね~。これは…タコ刺し?」
「おつまみにちょうどいいかなって。ギャレオさんがタコは食べれると言ったので作ってみたんです」
以前釣りをしていた時にレシィが釣り上げたんすよ。でも食べ方が分からなくておまけに部隊の皆も嫌そうな顔をするので俺のあやふやな知識でレシィが造ってくれたんです。
要は在庫処分でもあるのだが、お酒を飲むメイメイさんにおすそ分けって奴である。
「うふふふレシィ君が造る物って美味しい物しか無いのよねぇ~後でご賞味させてもらうわ」
嬉しそうなメイメイさんは、大事そうに奥の方へと持っていた。どうやら自室でまったりと摘まみたいらしい。
「この店、本当に何でもあるんだね…」
「うむ。大抵の物はあるし、聞けば奥から出してくれるかもしれん」
イスラはというとしげしげと店の中を散策している。商品を露骨に触らない辺りはよく教育されている坊ちゃんという所か。
「何か欲しい物があれば言え。交渉してみよう」
ある程度の物なら大丈夫。俺の懐にはもはや1バームもないが、そこはまぁメイメイさんに頼むって事で。ガハハ!
「え?別に要らないよ。持って帰っても邪魔でしょ」
「素直じゃない奴め」
そっけなく断られたが、お前物欲しげな顔をしていたのに気づいていないのか?
全く…これだからクソガキは物の頼み方を知らん。
しょうがないので他の事で代用する。決して断られて落ち込んだとかじゃないぞ!
「メイメイさん、すまんがあそこのダーツをやらせてもらってもいいだろうか?」
「いいわよ~」
店主からの許可が出たので、ダーツの場所へ。勿論イスラも誘う。強制参加という奴だ。
「さぁイスラ。存分に遊ぶがいい」
「はぁ?あのさぁ、こんなもん僕がするとでも思ってる訳?」
ルーレットの準備はOKだ。後ダーツは一回だけ。……中々にケチ臭いな。言わないけど。
「何だ、当てる自信がないのか。情けない奴だな」
「挑発のつもり?残念だけど、そう言うのには興味がないから」
「フッ 言いおるではないか」
そう言う割にはチラッチラッと随分と興味深そうに見ているではないか。素直じゃない奴~。
だがいきなりの初見の店で遊ぶのには確かに勇気があるのもまた事実。
今回は俺が手本を見せてやろうではないか
「それじゃルーレットスタート!」
メイメイさんの掛け声と共にルーレットが回り出す。ふふん、では俺の妙技を見せてやろう!
指先の筋肉を使いダーツを挟んで…狙いを定め…
「……フンッ!」
ズドムッ!
そう音を立ててダーツはルーレットを突き破った。フッ流石は我が力、ビジュの様にはいかんがこれもまた俺の技術力の勝利よ!
「……あのねぇギャレオ。どうして貴方は何かしら私の店の備品を壊すの?嫌がらせ?」
「怒るのは止めて頂きたい。脆いのが悪いのだ」
鉄板で作ればいいのに、んな柔な備品で作るから悪いのよ。
「……どうしてそう何でも筋肉で解決しようとするのかしら?貴方達知ってる?」
「僕は被害者なんだけど?」
「本当にごめんなさいメイメイさん」
外野がざわついているが、よく見てほしい、突き破ったダーツの場所を!
「特賞だッ」
「…確かに特賞の場所を突き破ってるけどさぁ」
「景品は?」
「…図々しい奴」
イスラ煩いぞ。貴様はこの特賞が当たった喜びが分からんのか?可哀想な奴め!
「はぁ…もう何かしら言っても無駄な気がしてきたわ。ちょっと待っててね、今日の特賞品はっと。うん?」
諦めたように溜息を吐いてカウンターの奥をゴソゴソとして、出してきたのは封筒?
「あれ?私特賞の場所にこんなもの置いた覚えないんだけど…?」
「店主が分からないんじゃ僕に聞いても分からないよ」
「酒をかっ喰らってる時に用意したんじゃないのか?」
普段からアルコール漬けの脳味噌をしているんだ。気が付かないうちに用意した可能性があると言えば難しい顔をしていた。
「それより、封筒の中身は何ですか?」
「それもそうね。ん~まぁいいか。はい、ギャレオ。これ貴方が読みなさい」
「良いのか?店の機密事項が書かれていても困るぞ?」
「良いんでしょ多分。そう言う大事な物は奥にしまっておくから」
一応店主からの許しを得たので封筒を開けたら中に入っていたのはごく普通の手紙。
丁寧に開け、手紙の内容を見て、綺麗な字で書かれたそれを3回ほど読み直して。
「メイメイさん」
「どうしたの」
「流石に、これは悪趣味すぎるぞ」
封筒に書かれてたのはたった一文。
『これを持ってる貴方の僕として頑張っちゃいま~す♪』
「これは、ない」
「僕?下僕?」
「うわぁ……」
俺、イスラ、レシィ、三者ドン引きである。妙齢の美人が、達筆な字で阿保な事を書いているのだ、流石に引く。
「あにゃにゃ~~!?ちょ、これ流石に私が書いた覚えは無いわよ!?」
「だがこのふざけた文面はお前しかいないだろう」
「そりゃ、確かに店の証印があるからそうかもしれないけど、僕って何よ!?」
「下僕?いくら酔ってるとは言え自分を景品にするのは…どうかと思う」
「あの、本当に書いた覚えは無いんですか?」
うぅうんとまるで二日酔いのように唸り声を上げるが、まぁ無いのだろう、唸り声を出しているし。
「はぁ。もういい、これは無しにしてくれ」
「そうしてくれると助かるは助かるけど~~~」
自分が書いた覚えのない自筆の手紙。無かったことにすればいいと言ってもそこはメイメイさん、どうやら店主としてのプライドがあるようだ。
「流石に壊しながらとはいえ特賞をふいにするのは沽券にかかわるわ」
「沽券…?」
「ちょっとそこ!黙りなさい!兎も角、これ以外の物を上げることにするわ」
なんか自棄になってる。ミニゲーム一つで随分と大袈裟だ。そもそも目的が違うのに~。
「無いのならいらん、それならそこのスクラッチでもイスラにやらせてくれ」
「スクラッチ?」
「知らんのか。そこの隠されたマークを削って同じマークが2つ出たら当たりのゲームだ」
どうやらスクラッチ事態を知らない様なので丁寧に説明することにした。ダーツといい意外にも遊ぶものがあるとは流石メイメイさんの店。
「ふーん、こんなの何が楽しいの?」
「やってみれば分かるもんさ。それより良いだろうか?」
「良いわよ。何個かあるから、好きにやりなさいな」
という訳でイスラは俺が誘導したと全く気が付かず?にスクラッチを開始。
スクラッチは今更説明するまでもなく単純なゲームであるが…単純故に奥が深い。
「あら、またまた三等ね。はいスルメ」
「いらないよっ!これ本当に特賞あるの!?」
イスラ、さっきから三等しか当たらず自棄になる。マジで当たんねーのプークスクス。
…所でこれ三等のスルメとか釣りの餌、もしかしてメイメイさんのつまみだったりしない?
「あ、僕当たりました。二等です」
「二等ね。ならこの食材セットを上げちゃうわ」
レシィもちゃっかり参戦。そしてレシィが一番喜ぶものを当てている。…ちゃっかりしているというか上手いなぁ。
「ほら、どうしたイスラ。貴様の勘は信用にならんと証明できてしまうぞ」
「クソッその顔で煽られているとなんか腹が立つなぁ!」
特賞を当てた者特有の上から目線は楽しぃのお~~!!
そんな俺の煽りにイスラ目を瞑り、カッと開いたかと思えばごしごしとマークを削る。…シュールだ。
「……ぃ良しっ!」
「お、おめでとう~~!!大当たり~~!」
「おめでとうございますイスラさん」
イスラ渾身のガッツポーズ。メイメイさんはどこからともなく取り出したベルを鳴らしレシィはパチパチと控えめな拍手をしている。
そして俺は後方師匠面である。ヤルではないかイスラよ…演技は如何した?素のお前が出ているぞ。ニチャ…
「ま、僕に掛かればこんなもんさ。それで特賞は?もちろん良い物だよね?」
ドヤ顔イスラが期待を隠し切れない様子でメイメイさんに催促する。勿論メイメイさんも特賞の棚を漁り…笑顔で取り出したのは!
「まぁ見なさいって、特賞は…じゃじゃーん!真っ青になる首輪!」
「は?」
「真っ青になる?」
「首輪?」
取り出したのは…首輪だった。それも真っ青という言葉が示す様にどうにも首に嵌めたら窮屈で息苦しそうに設計されてる首輪そのものだった。
「首輪って…えぇ…」
イスラ本日何度目かのドン引きである。そりゃそうだよ!俺に煽られながらようやく念願のスクラッチの特賞を当てたら首輪を渡される羽目になったんだから!
「真っ青…ですか。これ着けるんですか?」
「首輪とは流石に趣味が悪すぎないか?」
俺とレシィのささやかな非難をメイメイさんは不思議そうに首輪を見つめて宣った。
「え、でもこれが特賞の景品なのは間違いないわよ?」*1
「首輪はちょっとどうかと思います…」
レシィが完全に困った顔でイスラが持つ首輪を見ている。勿論イスラは非常に嫌そうだ。
「メイメイ、貴様がどんな趣味をしていようと口を出すつもりはないが客に性癖を押し付けるのは止めておけ」
「ちょっと人聞きの悪いこと言わないで頂戴!」
そうは言われても、美女がいたいけな少年に首輪を送るのは事案でしかないだろうが!
「事実だ。そもそも軍人の前でよくプレイ用の大人の玩具を渡せるな?」
「だからそんな物に使うためのものじゃなくて!」
じゃあ何のための首輪なんだよ…どう考えてもその手の趣向持ちしか喜ばんぞ?メイメイさんそういう趣味あるの?ただでさえ酒臭い駄目駄目美人なのに?
「……いいよ」
「イスラさん?」
「僕にはこんなろくでもない首輪が似合ってる、そう言う事だったわけだ」
うわっ、急にシリアスモードになりやがった!?阿保な首輪を見てそれに自分の人生を重ねるとか胸糞すぎるぞ!
「おいっメイメイ。他の景品は無いのか。ああなるとめんどくさいんだぞ!」
「そんな事言われても……」
「貴様もそれなりの歳を重ねた占い師なら、アレが地雷だってわかるだろうに」
イスラの人生って病弱でベットで寝ている幼少期から、呪いの解放の代わりに無色の派閥の傀儡と化して、暗躍せざるを得ない今現在そのもの!
息苦しく、自由がなく、誰かに操られるまま!
命を握られて自由がない首輪だなんて完全に地雷じゃねーか!このボケェ!
「うぅ分かったわよ。もっと後に出すはずだった奴にするわ」
流石に未来を視えるかは知らなくてもイスラの地雷をぶち抜いたことには気が付いたのだろう。
メイメイさんはようやくまともそうなものを取り出してきた。
「それは返品してもらうわ。貴方に渡すのはこれ」
「……カンテラ?」
メイメイさんが取り出してきたのは中々オシャレなカンテラだった。*2
そんなオシャレのカンテラの中には黒い炎がゆらゆらと揺れている。
「それがどんな原理で動いているかは知らないけど、まぁさっきのよりはマシでしょ」
「この黒い炎は何なんでしょう?」
「サプレスの炎か?」
「メイトルパ…は関係ないですね」
レシィと一緒に黒い炎をまじまじと見つめるが、よく分からない。燃料はどうなってるのか?消える時はあるのか?そもそもカンテラとしての役割を果たせているのかとか。
だが先ほどの首輪より真っ当なことには間違いは無くて。
「そう言うのを含めてアンティークとして飾ったら?」
「アンティークか。それはおしゃれだな」
「実用性を意識し過ぎるのも考え物よ。たまにはこういう物があっても良いでしょ?」
俺とレシィが興味深そうにしてしてメイメイさんが胸を張り、ようやくイスラはふっと笑った。
「……ま、そう言う事ならもらっておくか。どうにも僕に似合ってそうだし」
「腹グロだからか?」
「黒い物が好きなんでしょうか?」
「……お年頃か」
「シッ 言っちゃダメよ」
俺達の言葉が聞こえてるのか聞こえないのか。イスラはもらったカンテラを見ながらほんの少しだけ口角を上げるのであった。
まだまだ9話のお話は続きます~
見辛くはないでしょうか?心配です