ビジュが捕まった場所は意外なことにあっさりと判明した。後輩や同僚に聞いて回ったが、思いのほかにあっさりで逆に驚いたほどだった。
誰かの根回しを感じるが…まぁいい、今の俺にはすべてどうだっていい些事だ。
「ちょっ!?ギャレオさん、それ勝手に持って行ったら!」
「構わん、全て覚悟の上だ」
そうして軍の物品倉庫からあらかたの武器を拝借する。見つかったら大事どころか、今見張り番をしていた後輩から真っ青な顔で忠告されている。
が、それすらもどうだっていい、厳罰か処罰を受けようが本当にどうだっていいのだ。今動かなかったら後悔するのは目に見えている。
「ついでだ、これらも持って行くぞ」
「クロッツァの実まで!?」
サモンナイトシリーズであまり使われないであろう消耗品、その中で一番回復効果の高いクロッツァの実を拝借していく。
造血作用があるらしく、高価な品だが今更だ。寧ろ応急キットは…ないな。ケチ臭い。
「それではさらばだ」
大型武器である大剣と大斧を掴み、吊り下げたバッグからは医療品をを備え、俺は即座に脱走した。
「ふむぅ……」
細かな雪が降る中、ビジュが捕らえられた拠点を見て如何したものかと思案を一つ。何てことはない旧王国の廃墟だ。
相手は旧王国を名乗ってはいるが、野盗と変わらない軍属崩れ、ほぼ全員が脛に傷を持つ輩。
「……駄目だ、思いつかん」
こういう時忍び込めたら一番いいのだが、生憎俺は巨体で目立つ。潜入や暗殺などは適性が無さ過ぎるし俺もそういう細かいのは苦手だ。
なら思いつく方法は一つ、正面突破だ。
「おい、なんだお前は!」
走ってくる巨漢である俺に驚いたのか、門番が声を荒げる。がそんなのは無視だ。
持っていた大剣を振り上げる、気分はまるで島津兵だ、なんて笑いながら
「フンッ!」
「なんっ!?」
驚いている門番に向かって一気に振り下ろす。躱す余裕や暇が無かった門番は驚いた顔のまま綺麗に両断された。
「次っ!」
門を一気に蹴り破れば、騒ぎに駆けつけた軍人崩れが蜂の巣を突いたかのように出てきた。
「侵入者だ!」
「奴は独りか!?」
「構わん殺せ!」
話している奴らに一気に突っ込む。鍛え上げた腕力で大剣を振るえばそれだけで枯れ木のように肉片をまき散らしながら死んでいく。
勿論敵だって簡単にやられるほど馬鹿じゃない、剣を持ち切りかかって来る。
「クソッ!デカブツが!」
「甘いな!」
剣戟は一合、二合と続けば相手側の剣がへし折れた。結局は正規軍の大剣と軍人崩れの粗末な剣、品質は歴然だった。
押し込むように大剣を袈裟で振り下ろせばそれだけで相手は絶命していく。それを繰り替えす事、二回三回。
「っ!?」
突如、背中が熱く鋭い痛みが走った。振り返ると高台にいる弓を持った奴が矢を番えているのが分かった、矢を喰らったのだ。
だが矢如きを受けた程度で止まるほど柔な鍛え方はしていない。
壁に張り付き腕を引っ掛け一気に力を籠め足の跳躍と合わせて体を引き上げる。
体が飛び上がるのを確認、着地と同時に弓兵へと突貫、撫で切りにする。
「これで終わりか?…まだだな」
あらかた倒し終わったかと思ったがその油断を捨てる、何せ遠くで魔力の高まり、召喚術の行使する光が見えたのだから。
「あれは……ッ!?」
召喚されたのは奇しくもサプレスの雷精タケシー。その雷が容赦なく降り注ぐ。
受ける衝撃は尋常ではない、物理には強くなっても召喚術には抵抗するほど魔力が俺には無かったのだ。
「グゥッ!?……フンッ…これくらい何とも無いわ!」
体中から走る痛みと熱さ、焦げた肉の匂い、それらをすべてやせ我慢で無視して持っていた大剣を全力で投擲すればうまく召喚兵に当たった。これで杞憂だった召喚士はいなくなった。
「……チッ」
召喚術による攻撃の損耗が激しい、ふらつく体に檄を入れ、バッグの中にあるキッカの実を口に入れる。回復薬の一種だがクロッツァの実ほどの効果はない。アレはもしもを考えて温存しておきたかった。
斧を取り出し、高台から飛び降りる。中の探索が残っているからだ。
「チッ 帝国が図に乗りやがって」
「…これはまたデカいのが来たな」
そうして最後に出てきた男はここのボスかと思われるほど大きな男だった。体格がいい俺よりもさらに頭一つ上、そして鎧に隠れているであろう身体の密度は俺よりもさらに上だ。
強敵だ、だがコイツを倒さなければ意味がない。
「死ねぇ!」
「ッ」
相手の大剣が唸りを上げ振り下ろされる。たまらず斧でガードするが衝撃により弾き飛ばされる。やはり強い。
「散々暴れてくれたようだな、楽に死ねると思うなよ…」
怒りでボスの顔が憤怒で染まっている。それはそうだ此処にいる兵は皆殺したのだから。
「……口だけは達者の様だな」
「死にぞこないがっ抜かせ!」
だからこそ挑発をする、相手を怒りで見えなくするために。案の定相手は突っ込んできた、どうにか身体を動かし回避すれば衝撃で壁が崩れた。
相手がこちらを向く前に息を整える。斧をしっかりと握りしめ、集中する。
「ぅぉおおお!!」
斧を振り上げ突貫、気勢を上げた一撃は、しかし鎧を弾かせるだけだった。
「小賢しい!」
相手の反撃に斧を打ち合わせる、今まではこちらの膂力が上だったが今回はそうもいかない、相手の方が僅かに上。
「グゥッ!?」
故に押し負ける、交わしたとはいえ俺の胸には×が付くような大きな袈裟切りの跡が出来た、血が噴き出し地面を赤く染める。
俺が出来たのは、相手の鎧が壊すことが精一杯。対してこちらは手負いの上に鎧は勿論斧がもう駄目になってしまった。
「終わりだ」
「スゥー…コォー…」
万事休す。息を整える、相手は油断しているのが目に見えた。当然だどこからどう見ても勝敗は決まったように見えるのだから。
だから
「ッ!?」
その油断の隙を狙って大剣を振り下ろした相手の脚に絡みつく。梃の原理で一気に体を引き倒す。
そのまま体勢を崩した相手の身体に乗り、俗にいう馬乗りになった。勿論相手の武器は掴めないように。
「き、貴様!」
驚く相手の顔にそのまま体重を込めた拳を食らわせる、ただの力任せの一撃、相手の頑丈さも折り紙付き、鼻が折れただけ。
「うぉぉお!!」
「ぬわぁあああ!!」
その膂力をもって俺を弾き飛ばそうと力を籠めるが、こちらだってもうこれしかなかった。相手の顔面に何度も拳を振り下ろす。
何度も何度も、その度に骨の砕ける音、肉の潰れる音、自分の拳が血と肉だらけになっていくが止められなかった。
「はぁ…はぁ……はぁ」
気が付いた時には相手は止まっていた。顔がグチャグチャになり原形をとどめていない。そんな事に気付かず俺は発狂していたのだ。
「これで…?」
「隊長!?」
「何だアイツ!?」
「見ろ!奴は手負いだ!」
震えた声で出たのはそれだけ、立ち上がり、中に入ろうとして……まだ敵が出てきたのを見て、
俺は嗤った。
「オラァ!」
「グッ!」
捕まえた捕虜の腹部へ手加減のない一撃を撃ち込む、散々切り刻まれた捕虜の男が呻くのを見て拷問官の顔が喜悦に歪む。
この捕虜はドジを踏んだ帝国軍人をかばって捕まった哀れな捕虜だ。なら同じ仲間で同じ帝国軍人、いくら冷戦状態とは言え旧王国と帝国は敵同士情報を吐かせるための拷問を強いてるのだ。
「なぁいい加減に吐いちまえよ」
捕虜の髪を掴みあげ顔を無理矢理上げさせる。拷問官によりその顔には何度も何度も執拗に殴られた跡が痛々しく残っている。
「ちーっと帝国の情報を吐けばそれでコレはしまいだ。楽になりてぇだろ?」
熱したナイフを取り出しわざと捕虜の目の前でちらつかせながらせせ笑う。これでどこを甚振るべきかこの瞬間が一番気持ちが良いのだ。
「……ぅ」
「あん?」
「……たばれ…ク…野郎」
息も絶え絶えで体中には裂傷が大きく残ってる。どう見ても瀕死それなのに目はまだ死んでいない。
それが拷問官の嗜虐心を大きく擽る。そういう奴を甚振るのがどれほど快楽を得るのか。
「そうかい、そうかい。だったら……これは仕方ねぇよなぁ!」
「グァッ!?ギィァァァアアア!!?!?」
熱したナイフを捕虜の頬に突き刺し裂いていく。切り裂かれる痛みと肉を焼かれる痛み、両方の激痛に捕虜が暴れ回るがわざとゆっくりと舐るようにナイフを滑らせる。
「ヒィーヒッヒ!テメェが悪いんだぜ使えないゴミを庇って無様に捕まったテメェがなぁ!」
「あがっ!グゥウウウ!!!」
「痛てぇか?苦しいか?それはテメェが只のゴミ屑だからなんだよ!」
苦痛に歪む姿にナイフが躍る。捕虜の頬を通り越してこめかみまで火傷をつける。捕虜のグズグズになったその顔に拷問官の加虐心は最高潮だった。
「さて、フィナーレと行くか…」
気絶した捕虜を見そう呟く。散々甚振ったが、そろそろ終わりの時がくる。結局情報は吐かなかったがそこに興味はなかった。
別に帝国なぞどうだっていいのだ、上の方も特に諜報員一人の情報に期待なぞしていないだろう。
ナイフを軽く握りしめ、さて終わらせようとした時扉が勢いよく開け放たれた。
「おい、馬鹿なことやってないで手伝え!」
「あ?今からお楽しみなんだよ邪魔すんな!」
扉をあけ放ったのは仲間の一人だ。どうでも良い事に舌打ちするが慌てているそいつはさっさと来いと半ば狂乱していた。
「うるせぇ!さっさと来ないと俺等が全滅するぞ!」
「は?」
「なんだありゃ……」
そうして拷問官はそれを見た。屍の山を築くその男の姿を。
巨体だった。筋肉だった。山のような男に見えた。
傷だらけだった、赤黒い血で上半身が真っ赤に染まっていた。
その腕から赤い血が垂れていた。肉片がこびりついていた。
手にはピクリとも動かない仲間の一人が引きずられていた。
――ヤバイ!そう直感で悟ったのも時すでに遅し
「ウォォォオオオオ!!!」
咆哮、それだけで足が竦んだ。本能的に勝てないと刻まれる。
「ひっ 止め」
命乞いをした仲間がその丸太のような腕で砕かれた。
「誰か助け」
這いつくばり逃げようとした仲間が太いその足で顔を踏みつぶされた。
腕を振るう、それだけで屈強な男たちが紙屑のように吹き飛んでいく。
機敏な動きが逃げるものを逃さない。剛腕が確実に一つの命を消していく。
気が付けば自分一人だけ。見るからに悪夢だ。
「あ……あ……」
腰を抜かしたが無慈悲に掴み上げられた。凄まじい握力で顔から音がするのが嫌にはっきり聞こえる
「捕虜はどこにいる?」
血だらけで傷だらけの大男は顔面を掴みあげそう言ってくる。
静かな声だ、どこまでも低く、どこまでも無感情。
「……地下の…」
震える声で居場所を言う。だがその太い腕は力を緩めない。
「そうか、では死ね」
声を上げる事すらできず頭蓋の砕ける音が聞こえたのが最後の音だった。
頭蓋を砕いた男を放り投げふと息を吐いた。思ったよりも手間をかけ過ぎている。
正面突破をできたは良いが、傷を負いすぎた。
「脳筋ここに極まれり」
なんてそんな冗談を言うのだが。満身創痍としか言いようがない。大きな傷をこさえてしまったのは未熟者としか言えなかった。
だがそれもこれも、後回し、このギャレオの身体はまさに要塞の如く頑健で強靭だ。鍛え上げた肉体はその成果をいかんなく発揮している。
「見つけたぞ…ビジュ」
そうしてフラフラになりながら探し回り見つけた部屋に、探していた人物はいた。
緑髪で不遜な態度のチンピラ。しかしその実態は面倒見の良い青年。諜報部に入ると言いそして会わなくなった親友。
その姿は痛々しい物だった。はりつけにされて何度も鞭打たれたのか体中に裂傷が見える。所々皮が剥がれているのか赤い筋肉が見えてしまう
何よりひどいのはその顔、両頬がグズグズになっており見るからに重傷だった。火傷跡なのかそれとも抉られているのか、医療に疎い自分では判断がつかないがこのままでは命にかかわるというのだけは分かる。
「ビジュ、大丈夫か。しっかりしろ」
声をかけても反応がない。ただ微かに息をしていることから死んでいるわけではないのだけは確かだ。
だがそれだけだ。今生きていても1秒後1分後10分後には死ぬかもしれない、そんな状況。
(治さなければ、だがこの道具では)
Fエイドでは何の慰めにもならない。ジュウユの実やクロッツア実は意識を失ってるビジュの口に入らない。
(どうする…どうすれば!)
方法を考える、ビジュが死ぬか生きるか今その瀬戸際にいる、親しい人の死が目の前に迫っている。
「そうだ、召喚―――あ」
瞬間思い出す、先日のあの言葉が
『召喚術の適性がない?そんな言い訳がここで通じるとでも思ってるのか』
召喚獣の中には治癒の魔法を使えるものが居る。瞬間的な怪我の治療にはもってこいの奇跡と呼ばれるものを召喚獣は扱えるのだ。
だがその召喚獣を呼び出すその土台が俺にはできていなかった、魔力不足もあれば何より召喚術を使う事を俺が忌諱していたから。
――どこかでこの世界に染まるのを俺は嫌っていたから
「グッ……ふぐっ」
自分への情けなさ、不甲斐なさ。それらが今になって押し寄せる。この世界で生きていくには絶対に覚えていた方が良いはずなのに俺はそれらを自分の私情で拒んでいたのだ。
「俺は……俺は…」
召喚術が使えないという事はこれほどまでに無力感。目の前の友人を助けれないという絶望感、ビジュとの思い出が走馬灯のように駆け巡り……
「まだだ!まだ手はある!」
思い出す、召喚術が不得手な自分が出来る一つの方法を。丹田に力を籠める、己の魔力とやらを渦巻かせる様に溜め上げる。
ただひたすら、目の前の命を救う事にすべてを賭ける。
その願いが通じたのか、扉が開いたのか、両手が緑の光に包まれる。
淡く温かい生命の輝き。
「これがストラ…ビジュ!今こそ約束を守るぞ!」
緑に光ったその腕を掌に集めるようにして優しく押し当てる。それで使い方があってるのかどうかわからず本能のままだった。
まずは一番怪我の酷い身体に押し当てる。緑の光はビジュの身体に伝わり僅かな傷を治して消えた。
「練度不足かッ…まだだ!」
消えたストラをもう一度作り出す。丹田を練る様に腹に力を籠めればもう一度出てきた。今度は消えないように、注意をする。
腹に押し当てれば傷が消えた、今度は顔だ、傷跡が残るかもしれないが、それすら後だ。
「ビジュ!おい、生きているのか!目を開けろ!」
声が届いたのか、うっすらと目が開いた。ぼんやりと遠くを見つめる目、生きている証拠だ。
「お前……何…どう…?」
その目がこちらを見た、夢を見ているかのような目がハッとしたようだった。
「喋らなくていい、今治療を…ぬぅ!」
両手でビジュの頬を掴んでいたが、流石に体力が尽きそうだった。膝から崩れ落ちてしまう。案の定ストラの光は消えてしまった。
「離せ……気持ち…悪りぃ…」
「馬鹿を言うな、今連れ出してやる」
いつまでもこの場所にいることは危険だった。全滅させたとは言え治療をいつまでもするような場所ではない。そもそもここは拷問部屋だ。不衛生にもほどがある。
ビジュを担ぎ、来た道を戻る、幸い帰り道は静かだった。
「ストラ…出来たのか…」
「ああ、お前のお陰だ」
一歩一歩を踏む締めるように歩けば背中からビジュの声。意識がハッキリとしているのは僥倖だ、後は自分の陣地にまで連れ戻すだけだ。
「自分の怪我を治せ…クソ野郎…」
「お前の方が先決、だ」
「動ける奴が…優先……」
随分と饒舌だなと驚き、ある意味夢心地なのかもしれないと判断した。忠告通りバッグに入れたジュウユの実を放り込み嚙み締める。
「お前の分も用意してある、口に入れろ」
「うるせぇ……死人に、あぐごごっ」
担いだビジュを下ろし持ってたクロッツァの実を遠慮なく何個も口に押し込む。重病人に酷い横暴だが、もうこれしか方法はなかった。
今の俺ではストラをする体力さえ残されていない。もう一度担ぎなおし今度こそゆっくりと歩く。
「後は俺に任せて、寝てろ」
「…チッ」
死体で出来た廊下を歩き、死屍累々と化した広場を死体を踏みつけながら歩き、着実に歩みを進める。
外は雪が降っている、赤くなった血を洗い流すようで肌寒い。
だが、背中の確かな温かさが心強い。
「ビジュ」
「…あ?」
もう寝ているだろうと思った戦友に言葉を送れば、
「生きていて良かった」
「……そーかよ」
小さな返事が聞こえた。
次で原作前のお話が終わります
感想あればお願いします。やる気に直結しますので何卒…