遅れてきた直接攻撃の……   作:灰色の空

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黄昏の戦場②

 

「ねぇレシィ。貴方が行く必要はないと思うけどそれは分かっているの?」

 

 時間はさかのぼる。レシィは諸々の準備を終えメイメイの店にやってきたのだ。

 

 そうして必要なものを揃えようとした時にメイメイにそう言われたのだ。その顔にはいつもある酒の赤みはない。真剣にそう言ってるのだとレシィは準備をしていたその手を止めた。

 

「ギャレオが戦う敵はね、彼が貴方を遠ざけたいほどに危険なのよ。それを分からない貴方ではないでしょう」

 

「………はい」

 

 ギャレオがレシィを遠ざけたのは理解している。あのギャレオがそこまで警戒をする相手なのだ、ただ強いだけが理由でもないのだろう。

 

 その事をレシィは理解している、しているが決めたのだ。

 

「でも僕はギャレオさんを助けに行きます」

 

「それは貴方が護衛獣だから?」

 

「それもありますけど…」

 

 護衛獣だから助けに行く。それはそうだ。だが理由はそれだけではない。レシィはあの夜見たのだ。 

 

「ギャレオさんの手、震えていたんです」

 

「え?」

 

 メイメイが聞き返すのも仕方がない話だろう。あのどう見ても強そうな、実際強い巨漢の手が震えていると言われても信じられないのは分かる。

 

「あの夜、僕に逃げろってそう言ってたのに…ギャレオさんは怖がっていたんです」

 

 視線を下ろした時目に入ったのは震えていたギャレオの手。戦う事を怖がっていると最初はそう思っていたが、考えれば考えるほどそれは違うとレシィは確信したのだ。

 

 皆が居なくなることを恐れていたのだ。死んで目の前から居なくなることを恐れた震えだったのだ。

 

「ずっと怖がって、怖がっていたのにそれを隠して自分一人で戦おうとしているんですあの人は」

 

 無色の派閥、ギャレオが恐怖している敵、それがどんなに恐ろしいのかレシィは想像することしかできない。あの強く頼もしいギャレオが恐怖する存在だ。きっと本当に手ごわい相手なのだろう。

 

「ギャレオさんは皆さんを必ず助けます。自分が傷ついても必ずやり遂げます。あの人はそういう人だ」

 

 傷つきボロボロになってもそれで彼は戦う。だって彼にとって部隊の皆はかけがえのない人達だから。

 

「そんなあの人を僕は守って支えていきたいんです。あの人は人に頼るのが下手だから…」

 

 そう言ってレシィは拳を握った。足手まといになるつもりはない、ただ自分の全力を以てギャレオの戦いをサポートするだけだ。

 

「そう、貴方も男の子なのね」

 

「すみません、折角忠告してくれたのに」

 

「良いわよ~。それよりほら、サモナイト石を出して」

 

 メイメイに微笑まれながら催促される。契約しているサモナイト石を持っている事がばれていることに驚きながら素直に出せばメイメイはウィンクを一つしてくれた。

 

「選択肢は増やした方が良いでしょ?お気に入り契約。今日は只でやってあげるわ」

 

 その顔はどこまでも頼りになる占い師の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして準備を終え呼吸を一つ。メイメイの店から出たレシィはサモナイト石を取り出す。

 

「クロックラビィさん『ステッププラス』」

 

 呼び出したのは時を操る兎の召喚獣。使った技は時を加速させるかのように行動を速める…身体能力を高める憑依召喚出だ。

 

 クロックラビィが体に憑依したのを確認し、レシィは一気にトップスピードまで体のギアを上げた。

 

 クロックラビィのステッププラスは移動能力を底上げする技。体の負担も最小限にただ足が軽やかに羽が生えたかのように動くのだ。

 

(戦場はどうなっているんだろう。…多分レックスさん達との戦いは終わっているはず)

 

 島の住人との戦いの勝敗は分からない。ただギャレオはどこまでも島の住人との戦いでは本気を出すつもりはなさそうだった位で島の住人が勝ったと思った方が良いだろう。

 

 レシィからしてみれば自分たちが負けるのは悲しいが島の住人たちが善良な人々なのでそう酷いことになるとは思ってはいなかった。

 島から帝国へ帰った後の方が大変そうだとは薄っすら思っているがそれはあくまでも生き延びれて帰れたらの話だ。

 

 無色の派閥はその戦いが終わったタイミングで来るとギャレオは語っていた。つまりどちらにしろ勝敗に関わらず皆が疲弊した状態で襲い掛かって来るのだ。

   

 準備をしていたとはいえ今絡む可能は多分そのタイミング。気を引き締め、地面を飛び跳ね木々の合間を駆け抜け

 

 

 そして上空に跳躍し、その戦場を見た。

 

 

(皆さんは軽傷、…ギャレオさんはあっち!)

 

 一瞬で戦場を俯瞰したレシィ。想像していた通り帝国軍の皆は誰も彼もが怪我や重傷を負っていた。その帝国兵を攻撃しようとする見慣れない軍隊、そしてその軍隊と戦っている島の住人達。

 

 そして探しているギャレオは遠くで一人で戦っていた。最前線で独り敵を引き付けがむしゃらに動いている。その動きに理性があるようには見えない。

 

 負傷している帝国兵の傍に降り立ったレシィは今一度サモナイト石を握り駆けだす。今は只ギャレオの援護をするだけだ。

 

「シャァ!」

 

「…遅いッ!!」

 

 足止めをしようとしたのか近づいてきたバンダナを巻いた爪を持つ獣のような動きをしている敵、暗殺者の攻撃をレシィは潜り抜ける。

 

 立ち位置を入れ替わる様に潜り抜け、その脇に拳を入れる、ギャレオのように威力はないが鋭さはあった。

 

「…ッ!」

 

「坊主!こいつは任せな!」

 

「すみませんお願いします!」

 

 怯んだ暗殺者に追い打ちをかけるようにフーバスの亜人ヤッファが爪を振り下ろしていた。その言葉に後押しされレシィは戦場を飛び回り。

 

 

「ギャレオさん!」

 

 そうしてギャレオの近くまでやってきたのだ。

 

 声を掛けるが、しかしギャレオからの返事はない。ただ敵を倒す動きしかしてない。その目には理性が無く突き動かされている。

 

 以前話していた切り札を使っているのか。

 

(…でも敵味方の区別はついている。なら僕は)

 

 ギャレオより少し離れた位置取りでレシィは魔力が込められた岩をこちらに向かって召喚術を放とうとした召喚士に向かって投げた。  

 

「ぐわっ」

 

 岩を当てられた召喚士はサモナイト石を取りこぼしてしまう。その隙を狙ってレシィはサモナイト石で召喚する。

 

「スライムポットさん『モットマトワリン』」

 

 呼び出されたのは緑色のスライム。壺から出てきたスライムポットはレシィが示した遠くにいた召喚士とその周りにいる兵士たちに憑依する。

 

「!」 

「!?」

 

 その粘液の通りスライムポットの憑依は動きを遅くするという効果がある。憑依された兵士たちは機敏な動きは出来ず、そして今この現状動けないという事は…

 

「ウォオオオ!!」

 

 狂化したがギャレオの前に差し出された獲物同然という事だった。回避することも出来ずに一瞬で近づかれ纏めて薙ぎ払われる兵士たち。

 

 その光景を見てレシィもまた脅威の一人と判断されたのか銃を持った兵士たちが遠距離から攻撃してくる。

 

(…うん見える!)

 

 その弾丸。矢の軌道。レシィは自分の動体視力が以前よりもはるかに鋭敏になったその視力で軌道を見抜き最小限の躰の傾きで銃弾を避けたのだ。

 

(ビジュさんの投具よりもずっと遅い!)   

 

 シゴキという名で受けた至近距離での投具による回避行動。遠距離から放たれる銃弾よりもずっと近く急所を狙って放たれるビジュの投具はもっと速いのだ。

 

 シゴキよりずっと遅くまた軌道が読みやすい銃弾は避けるには随分と容易かった。

 

「シャァ!」

 

 少し遠くの兵士に注意を向け過ぎた様で暗殺者の強襲がレシィを襲う。だがレシィはどこまでも冷静だった。本来のレシィなら慌て涙目になるその攻撃、しかしレシィは冷静に体をかがめる。

 

「ウォォオオ!!」

 

「シャッ!?ゴベァ!」

 

 レシィを狙えばその分注意が疎かになる。その隙を狙ってギャレオのドロップキックが放たれ暗殺者はその重量をモロに食らい意識を失った。

 

 

(これでいい、僕の役割はこれだ!)

 

 これがレシィの戦い方だ。ギャレオの攻撃を活かすために、召喚士を妨害し敵の囮になる。それでよかったのだ。

 

 ギャレオは白兵戦や銃弾や矢にはめっぽう強いが召喚術には非常に弱い。あくまでもこの無双は召喚される前に潰しているに過ぎない。

 

 だからレシィは召喚士を岩で狙い、そして暗殺者たちの標的になるのだ。

  

(ギャレオさんが攻撃、僕は補助!)

 

 敵からの囮になればその分敵はギャレオから注意を逸らす。その注意を逸らした瞬間がギャレオの標的になる。

 

 あくまでもギャレオが主体で自分は支える、ギャレオの一手を増やすために動くのだ。

 

 

 

 

 

 

「ギャレオさん、あともう少しで皆撤退できます!」

 

「フゥゥゥウウウ………!!」

 

 駆けつけたギャレオに声を掛ければ聞こえてはいるのか静かに呼吸を整え始めた。それによって傷が回復していく。血まみれではあったが動けるようではあるようだ。

 

 ……とはいえそれがどこまで続くのかはレシィにはわからない。ギャレオがどこまで戦闘できるのかは未知数だからだ。

 

 それに無色の派閥と呼ばれる者達が雑兵だけで構成されているとは思えない。必ず頭が居るはずだ、この派閥のトップやそれを支える幹部たちが。

 

「ドライアードさん『ラブミーウィンド』」

 

 状況的に言えば囲まれている現状、少しでも一手が欲しい。その為レシィは花の妖精であるドライアードを呼び出す。ドアライアードの得意技は魅了の召喚術

 

 近くにいた兵士の一人に魅了を掛ければ、途端に味方に向かって襲い掛かる。そのまま応戦するために殺し合いが始まるがギャレオはまとめてなぎ倒していった。

 

(ギャレオさん…)

 

 そのまま魅了にさせておけば楽になったはずだが、まぁ倒してしまった物は仕方がない。それよりも本当に倒すべきは召喚師たち。

 

「セイレーヌさん『スリーピングコール』…効かないか」

 

 召喚師たちにセイレーヌの眠りを掛けるが…流石にこれは耐えられてしまった。召喚師としてはレシィの方がはるかに劣っているのだ。 

 白兵戦も召喚術もどちらも中途半端な自身の才能のせいだ。直ぐに切り替えそのまま召喚士たちに岩を投げつける。

 

 数は減っただろうか、部隊の皆は撤退できたのだろうか。前に出ているギャレオと共に敵と戦いながら少しづつ消耗していくのを感じるレシィ。

 

「…ッ!」

 

 その瞬間ほんの少し甘い匂いを感じ、そして猛烈な殺気が後ろから迫るのを感じて咄嗟に身をかがめた。

 

「ッ!」 

 

「貴方達、一体何なの…!」

 

 身を捻り躱し転がりながら殺気をぶつけてきた相手を見る。その姿は女性だった。マフラーで口元を隠しているが身軽そうな姿でその手には黒光りするナイフが握られていた。静かな声だがその声からには 困惑とこちらへの殺気があった。

 

「!?スライムポットさ」

 

「遅いわ」

 

 軽装な所から見て機動力に特化している。とっさの判断で召喚術を行使しようとしたが、見抜かれていた。サモナイト石を腕ごと切断するかの如く滑らかな動き。

 

 だがレシィはこれを辛うじて回避した。

 

(あ、ぶな…!?)

 

 早い斬撃を回避できたのはほぼ思考ではなく体での反射だ。それが出来たのはレシィが殺気を感じそして嗅ぎ分ける事が出来るように鍛え上げられたからだ。

 それに合わせてこの戦場で濃密に漂う殺気、特に目の前の女性は特に鋭く冷たい殺気は分かりやすい。

 

 ビジュとの訓練では殺気について教えてもらっていた。曰く特有の強者は分かりやすいのだとか。

 

(この人、他の兵士よりずっと強い!)

 

 そう教えてもらったからこそ分かるほかの暗殺者たちとは違った違和感。他の暗殺者は実に解りやすく何処を狙うのかが非常に匂うのだ。

 だが目の前の女性は質が違った。困惑のせいもあるのか、妙に…ぬるい様な。

 

「早く死んで」

 

「ッ!ッッ!!」

 

 振り抜かれるそのナイフ、どれもが一度でも当たれば非常に不味い。何か特別な毒でも塗ってあるのだろうか非情に嫌な匂い、ビジュのシゴキが無ければ今頃刻まれていたそれを紙一重で切り抜ける。

 

(はん、げき…無理!)

 

 躱すことで精一杯、召喚術も遠距離の岩も。籠手で防ぐなんて言うのは愚行極まる。攻撃手段が乏しいというのが自分の弱点そのものだ。

 

 焦りで体の体勢が崩れそうな時それは起こった。

 

 ガシッ!

 

「え」

 

「あ」

 

「ヌゥゥウウウ…!!!」

 

 いつの間に戻って来たのか、ギャレオはすさまじい表情で女性の服の一部を掴んでいた。力が込めすぎているのかその腕は血管が浮き出ており拳が震えている。

 

「フンッ!」

 

「ちょっ!」

 

「あ」

 

 多分投げたんだとそう思う。そう思うのは振りかぶった姿のギャレオとちぎれた服の一部がギャレオの手にあるだけで女性がいつの間にか消えていたからだ。

 

 あんな馬鹿力で投げられてどこかぶつけたら死んでしまうのではと思うが…怒気を全開にしているギャレオに気が付かなかったのが悪いという事で納得したレシィ。

 

 少し居た堪れないと思いつつ、思考を切り替え兵士たちが自分達を囲むようにして下がっているのが分かった。

 戦場の所々には無数の倒れた兵士たちがいるのでどうやら戦い方を変えるようだ。

 

 

「いい加減、遊び過ぎたな」

 

「ッ!」

 

 そうしてぬるりと出てきたのはシルターンの着物を羽織った壮年の男だ。戦うにしては少し動きづらそうだが、その佇まいには一分の隙も無い。後ろ別格。

 

(アレは…僕では敵わない…!)

 

 その発する圧もまた、周りの兵士とは比べ物にならない。ソレに当てられて僅かに体が震えていた。今まで感じたことのない威圧感だったからだ。

 あのシルターンの剣、刀に手を添えられただけでこちらの首が飛びそうな圧。

 

 本能的にレシィは目の前の男がこの戦場で一番の強者だと理解した。

 

「あの人が来るまで場を掃除するはずだったのですが…獣がいたようですね」

 

 そう、切り出すのはまた白い法衣を纏った女性の召喚士だ。こちらを見下す物言いは冷酷冷徹。素面のギャレオが見れば嫌がりそうなほどこちらを人としては見ていない目だ。

 

 酷く怖気のする女性だった。目を合わせたくない視界に入れたくないと思うほどだ。

 

(どうする…?僕は如何すれば)

 

 新たに出てきた男女はこの無色の派閥の幹部。強さも兵士とは比べ物にならない。 

 

 

「ヌゥゥウウウウ……!!」

 

 前にいるギャレオは低く構えをとった。今までの様に兵士を蹂躙するためのか前ではなく強者と相対するかのような警戒の仕方。

 気のせいか体が震えているようにさえ見えた。

 

 

 なら自分は?体力も魔力もそろそろ限界が来ている自分は?知れた事、最後までギャレオと共にいるだけだ。

 

(魔眼を使おう…あれなら、少しは止めれる!)

 

 狂化を使ったギャレオと同じく自分の奥の手を使う時が来ただけだ。

 

「ウォォオオオ!!!」

 

「……全部、止ま」

   

 だからギャレオが爆発するような跳躍で白い法衣の女性に飛びかかろうした時。

 

 その援護の為に魔力を解放し、折れた角が光り始め、視界に映る全てに干渉をしようとした時。

 

(……え?)

 

 嗅ぎ慣れた匂いがした。それはこの世界に来てから自身の主ギャレオと同じくらい時間を共にした男の匂い。

 

 

 認めてはくれないだろうけどギャレオが主ならば、その男は自分の師。弱い自分を鍛え上げてくれた恩人。

 

 何故か戦場に見えなかった男の気配と匂いが背後からして加勢に来てくれたのだと無意識に安堵して

 

 

 

 

 

 サクリ

 

 

 

「……?」 

 

 体が縫い留められたかのように動けなくなって、どうしてかと見下ろした時に、胸から血塗られた刃物が生えていて…

 

 

「――――」

 

「あ…ビ…さ、ん?」

 

 後ろを振り向く事さえできず、その男の名を呼ぼうとして崩れ落ちる身体を支えようとしたが力が入らず…

 

 

 

 レシィの視界は黒く染まっていくのだった…。

 

 

 

 




もう少し続きます

レシィ君は補助特化させた方が使い勝手がいい。
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