文法が変かもしれませんが生暖かい目で見てください…
「すまねぇ!恩に着る!」
「これで、全員ッ!」
レックスは残っていた最後の帝国兵が撤退したのを確認し、直ぐに戦場を振り返った。
帝国軍との最後の決戦。それは最後の戦いというべき熾烈さがあったが、どうにか勝利し、隊長のアズリアと和解できた。
だがそれを嘲笑うかの様に無色の派閥が襲い掛かってきたのだ。島の結界や遺跡、考えるべき事は山ほどあるが今の優先事項はたった一人で囮になった男だった。
「ギャレオが心配だ、行くぞレックス」
「ああ、行こう!」
部下達を撤退させたアズリアは一息入れる事もなく駆け出した。殿を務めた副隊長のギャレオが心配なのだろう。
それはレックスも同じだ。敵だったとはいえ助けてもらった事や忠告もしてくれた間柄。助けたいのは当然と言えた。
仲間達もそれぞれが疲労しながらも帝国兵たちを護るために奮戦してくれた。そんな仲間たちは今はギャレオをかいくぐった無色の兵士たちと交戦している。
その場を任せレックスは駆け出した。
「いた!」
「ギャレオ!」
そして見つけたギャレオは、召喚師であろう女性へと飛びかっていた。殺気混じりの攻撃で顔が凶悪なまでに獰猛に歪んでいる。
とてもではないが今までに見た理性的で温厚な顔ではない。
「むんっ!」
「グハァ!?」
その殺意溢れる一撃だが、間に入ったシルターンの着物を着た男が切りかかった事で不発となった。体を斜めに裂かれ血を吹き出し崩れ落ちるギャレオ。
「ギャレオ!」
悲痛なアズリアの声が響く。見るからに致命傷に見えたそれは、しかしギャレオは立ち上がった。血を流し体から蒸気のようなストラを放出しながら叫んだ。
「ヌゥゥウウゥォォオオオオオ!!」
「獣が、己の力量も分からんか!」
咆哮を上げるギャレオに着物の男が刀を振るう。その剣筋はレックスでも視認できないほど鮮やかでいっそ美しさすら感じるほどだ。
「ヌッ!?ガッ!グッ!」
身体を刀で切り裂かれその度に鮮血が舞う。夥しい血の量、あの量では失血死をするのは遠くない。その筈なのに
「フゥゥゥウウ!!」
「傷が、回復している…?」
シルターンの男から飛びのき息を大きく吸うギャレオ。不思議な事にそれだけで傷がみるみると塞がっていくのだ。流石のシルターンの男も冷や汗を掻いている。
「ゴォォオオ!」
「魑魅魍魎の類か貴様は?」
ギャレオの振るう拳を男は刀でふせぐ。ギャレオは刀で拳が傷つくのも構わずその剛腕を打ち込み続ける。
目の前の男を倒そうと足掻き続けるその姿はいっそ滑稽であった。
「ウィゼル!」
「引け、ツェリーヌ。この男はお前では荷が重すぎる」
「ッ!」
刀でさばき続ける男によって法衣の女性は下がる。力量をその目で見たからだ。
「ッ!加勢しないと!」
ギャレオの気迫、ウィゼルと呼ばれた男の剣戟、虚を突かれたのは確かだがこのまま黙って見捨てる訳にはいかない。
そう判断して、駆け寄ろうとした時
「待てレックス!」
「ッ!」
アズリアの声によって反射的に体を止めた時、それは起こった。
「こいつで、くたばりなァッッ!!」
閃光、ギャレオの頭上から振り落とされるのは光の稲妻。その稲妻を振る落としたのは漆黒の体を持ち紅い魔力光を光らせる悪魔『ダークレギオン』
その召喚術がギャレオに直撃したのだ。
「ガ……グ……ゥ」
稲妻が直撃したギャレオは体中から煙を吹いて…そのままずるずると倒れてしまった。
それは孤軍奮闘していた男のあっさりとした結末だった。
「ケッ 随分とまぁ暴れやがって」
「………」
「そう怖い顔で睨まないでくださいませんかねぇウィゼル様。俺は貴方を助けたんですよ」
ヒヒッとそう笑う「ダークレギオン」を呼び出した男はどこか小馬鹿にしたようにウィゼルに笑いかけた。
ウィゼルはギャレオが稲妻に当たるその直前に飛びのいたので召喚術には当たらなかった。
「お前は…何をしているんだ」
だが、それよりも。そんな事よりも、今人を見下し笑っている男が問題だった。アズリアが震えた声で、信じられない物を見るかのような声で呼びかける男は。
「ビジュ!貴様は何をしているんだ!」
ビジュ。帝国軍で中核を担っていた男。先ほどまで戦闘していたはずがいつの間にそちら側に移動していたのか。レックスもアズリアも分からなかった。
「何って。
驚き叫ぶアズリアを嘲笑うビジュの目は嫌に冷酷だ。その立ち位置は嫌でも彼が無色の派閥側についたという事を理解せざるを得なかった。
「無理だよビジュ。姉さんはそう言うの酷く疎いからね」
「はぁーそうかよ。ったく弟が何してるか分かんねぇ女だもんな、仕方ねぇか」
嘲笑というよりはそれは哀れみの目だ。どうしようもない愚か者を笑うのを通り越してまるで道理の分からない幼子を見るかのような目。
「イスラ、ビジュ…」
「はいはい。姉さんはそこで呆けててよ。それよりも失敗だったなぁコイツ随分と暴れてさ、予定とは大幅に狂っちゃったじゃないか」
イスラはそう言って倒れたギャレオを蹴り飛ばす。体重差のせいか動くことはなかったがその躰はピクリともしない。
「まぁいいさ。それよりこれから式典が始まるんだ」
「式典だと?」
「そうさ、病気で苦しんでいた僕に生きるための方法を与えてくれた偉大な力の持ち主。主賓が登場するのさ!」
イスラがまるで格式ばった言い方をした時、夕日の向こうから男が現れた。
「ゴミ共を始末出来なかったか。…存外手間を取り過ぎではないか?」
「申し訳ございません。予定よりも抵抗が強かったので」
「……まぁ良かろう。長い船旅で勘や動きが鈍り想定外の事が起きてしまった。そう言う事にしておいてやる」
イスラの恭しい言い方に揚々と頷いた男。
そうして現れたのは緑のマフラーをたなびかせた長髪の男だ。その仰々しいほどに相応しい胸の張り方と堂々とした立ち振る舞いはいっそ煌いて見えるほどだ。
「馬鹿な…直々に出向いて来るなんてそんな…!?」
「ヤード?顔が真っ青だよ!」
「なるほど、アイツがそうなのね…」
「スカーレル?」
仲間達も到着したのか、後ろの方で声が聞こえる。帝国軍たちは全員撤退できたのだろう。
「控えなさい下等なるケダモノたちよ!このお方こそお前たち召喚獣の主。この島を継ぐためにお越しになられた。無色の派閥の大幹部セルボルト家のオルドレイク様です!」
法衣の女性が叫ぶ。この男こそがこの島の主とでもいうかのように。
「我はオルドレイク。無色の派閥の大幹部にしてセルボルト家の当主なり。始祖の残した遺産。門と剣を受け取りにこの地へとまかり越した」
悠然と佇むオルドレイクはそう言って、レックス…魔剣の主を見た。
「さて、まずは剣の方から受け取ることにしようか」
歩みよるオルドレイクに対してレックスは…未だに倒れて動かないギャレオを見ていた。
人を護るために戦い続け、血を流し、そして倒れて動けない。誰よりも強いとそう思わせていた大柄な男。
(血……血だらけの………さ、ん?)
その姿が、その光景が。一瞬だけ。過去の映像を映し出す。生涯忘れる事の出来ないある種の自分の原点。
「お前が、そうだな」
「逃げろレックス!」
「ッ!アズリア!」
オルドレイクがこちらに向かうのをアズリアが割って入った事で我を取り戻したレックス。
アズリアはオルドレイクに向かって剣を振るったがオルドレイクもまた迎撃の為に剣を振るう。
「そう何もかも貴様らの思い通りになると思うな!」
「かしましいぞ帝国の犬が!矯正してやろう!」
オルドレイクが放った召喚術によって吹き飛ばされるアズリア。ボロボロの姿に戦える状態ではないのにそれでもアズリアは立ち上がった。
「まだだ!軍人を!私達を舐めるな!」
気勢を上げるが事実オルドレイクとの力の差は分かっている筈で…それは一時しのぎでしかない。
だが、その声に導かれるようにギャレオが…その倒れ伏したした姿がピクリと動いた。
「ギャ…!」
「うん?コイツまだ生きてたんだ。しぶといなぁ」
不思議そうにしたイスラが剣を取り出す。倒れ伏せているギャレオの止めを刺す気だろうか。
「ケダモノ風情が…往生際が悪い!」
ツェリーヌがサモナイト石を取り出す。高位召喚師であろう彼女の召喚術では今のギャレオは耐えられない。
「……セナイ」
「え?」
そんな絶体絶命の中立ち上がろうともがくギャレオの口から音が漏れた。小さな声だったがレックスには届いた。
「誰モ………死ナセ……ナイ」
声と共に立ち上がろうと力を込めていくギャレオ。意識がないのかほぼ無意識で動き出すその躰は先ほどと比べてゆっくりだが傷が回復していく。
「死ナセル……モノカ!」
(……ああ、そうだ、その通りだ)
ギャレオの小さな、されど確かなその声が、レックスに決意を抱かせた。
すなわち魔剣の解放。己の中にあり精神を蝕む力の解放。
「ウォォオオオオ!!!!」
魔剣を抜く。今回は以前とは違って力を求めての解放。解き放たれた魔剣は力の楔を解放するかのように禍々しい碧の光を放つ。
後悔はない、ギャレオと同じく誰も死なせないために解放するのだから。
「ぬぅ!何と素晴らしい!解き放たれた魔力が心地よい風を…ぬぅ!?」
「ヤメロォォオオオオオ!!!!」
抜剣覚醒し変身したレックスは己の中にある魔力を解き放つ。目の前のオルドレイクをなぎ倒すほどの力を。そして今殺されそうになっているギャレオを助ける為に。
「ウォォオオオオオ!!」
「そうか、怒りによって本来の力に目覚めたか。素晴らしい!素晴らしいぞ!これぞ出向いた価値がある!」
狂喜しているオルドレイクを無視してレックスは魔剣から魔力を解き放ちギャレオの近くにいた者達を横薙ぎに纏めて吹き飛ばす
「グッ!?」
「きゃ!」
「ウバワセナイ…モウ誰モ…ヌォォオオオ!!!」
レックスから放たれる碧の魔力光が戦場を照らしていく。それに比例して魔剣から伸びる魔力の筋がレックスの身体を侵食していく。
「先生っ!」
誰がどう見ても、己の限界以上を引き出しているようにしか見えなかった。
「引けオルドレイク!これ以上の挑発は剣その物を破壊しかねんぞ!」
「う、うむ、楽しみは後日までとっておくとしよう」
ウィゼルに促され、オルドレイクも承知した。流石に今のレックスが危険だと判断したのだろう。
オルドレイクが去るとともに無色の派閥たちも倒れた仲間たちを回収して去っていく。
ツェリーヌはオルドレイクと共に。ウィゼルはいつの間にか。イスラは溜息一つして。
「ウゥゥ……」
「先生ッ!」
「おいレックス!みんなアイツ等を回収するぞ!」
無色が去り変身を解いたレックスは倒れ、アリーゼが駆けつける。またカイル達もレックス達を運ぶために駆け寄っていった。
「………」
そしてビジュはそんな彼らを一瞥することもなく、魔力切れを起こし気絶したレックスと体力の限界で意識を失ったギャレオと、そして血を流し動かないレシィを一瞥し無色の後を追うのだった。
いつでも逃げることは出来た。
帝国第六海戦隊は最初からできた部隊じゃない。ギャレオとアズリアとビジュが居て出来上がる部隊だ。
学生の頃から真面目にしていれば逃げることは出来たはずだった。
だが俺はそうしなかった。俺が入隊しなかった場合の事が怖いと言えばそれもあったが…
ギャレオになった以上は彼が確かにこの世界にいたという存在を刻みたかったのだ。
体は得たが彼の魂はどこにあるか分からない、彼の意思はどこにいったのか俺にはわからない。
ならせめてでも原作の彼の無念であろう、部隊の全滅だけは運命から覆したかった。
ギャレオの肉体を奪った俺の出来るせめての罪滅ぼしで。
それはきっと俺にしかできない事だった。
………なんて、言い訳して。
この部隊が、皆が好きだから守りたいってそう素直に言えばいいのにね。
「……知らない天井だ」
目が覚めたら白い天井だった。清潔感溢れる白い照明がとても眩しい。
何か夢を見ていた気がするが覚えていない。分かるのは体が非常に億劫な事と頭がぼんやりしている事だけ。
はて自分は何をしていたのか?何か悲しい、楽しい夢を見ていたような?
「…サモンナイト、だ」
そうだサモンナイトだ。サモンナイト3の夢だ。古き良き大事な思い出のゲームだ。
そこで自分が登場人物になって島にいるという夢を見たのだ。良い夢だ。出来れば女性キャラといい雰囲気になりたかったが…。
「そう、出来ればアテ……じゃない!」
幸せを振り返ろうとして突如記憶がよみがえった。白い天井は現代文明とよく似ている、つまりここはラトリクスのリペアセンターだ
「そうだっ!呆けてなんか…ええい!」
億劫な体を無理矢理起こすとベットに寝かされていた俺の躰に何やらチューブが各種張り付いていた。チクリとする痛みからしてナニか薬液でも投与されているのか。
「ぬぅぅぅう…むん!」
申し訳ないと思いつつチューブをあらかた引きちぎる。治療用だとは理解しても今は只邪魔で仕方がなかった。これは後でお説教コースだがそれも割り切ろう。
想像以上に血を流しすぎたのか立ち眩みに似た眩暈が起きてベットから文字通り落ちたが、それでも這って扉まで進む。
ストラは傷の治療に関しては一押しの効果なのだが、血を増やす造血作用がある訳ではない。血を失ったらそれまでなのだ。
震える手で壁に手を付け扉から出て、さて困った。
「……知らん場所だ」
ここはラトリクスでリペアセンターだという事は分かる。しかしそれだけだ。内部の図面なぞ原作に存在するわけでもないし、そもそも知ってるだけで初めての場所だ。
立ち止まる訳にもいかず、勘で動くしかないと壁に張り付きながらゆっくりと動いていたらトタトタと足音が聞こえてきた。
「貴方は何をしているのですか!?」
「…む?君は…あの時の」
白い看護師の少女が焦った表情でこちらにやって来る。この子は…クノンだ。以前のジルコーダの時とは違って随分と表情が出てきている気がする。レックスとの交流は良い刺激を与えたという事か。
俺の前に立ちふさがったクノンは怒りが6割心配が4割のそんな声でこちらを説教してきた。
「動かないで部屋に戻ってください。自分が重い傷を受けていた事を理解しているですか」
「分かってはいる。だがすまんがそこをどいてくれ」
怒ってる理由は尤もだが、俺には後回しにしなければいけない。自分の目で見なければいけないのだ。
「出来ません!そもそも一体どこへ行こうと」
「帝国軍…俺の部下達はどこだ?場所を教えてほしい」
「!」
俺が守るべき、俺の最も大切な人達。頼もしく可愛く愚かなほどに愛嬌のある部下達は、無色の派閥との戦いで一人残らず全滅するのが原作の運命だった。
それを覆すために、生きていてほしいために俺はここまでやって来た。今彼らはどこにいるのか、無事なのか?それだけが今の俺を突き動かす。
「あの人たちは…」
「教えてくれ、俺の部下達は生きているのか?隊長は?レシィは?……俺の居場所は無くなってはないのか?」
彼女の声が尻すぼみになった事でおもわずクノンの方を掴んでしまった。本当はそう言う事をしたくないのに、どうしても焦りが出てきてしまう。
「場所を知っているんだろう、頼む案内してくれ」
「…分かりました」
クノンに肩を貸してもらいリペアセンター内を移動する。ふらつく体が実にもどかしい。
(大丈夫だよな…?俺は守った、護れてたはずだ)
もどかしさのせいか考えが悪い方に寄ってるのを自覚する。
無色の派閥と相対するために俺は自身に狂化を施した。自身の理性を犠牲に戦闘能力を上げるという浪漫技だ。…正確に言えば思考の殆どを戦闘用に切り替えて暴れ回るっていうのが正しいんだけど。
そのせいで俺は無色と戦っていた時の事を正確には覚えてはいない。ただやたら滅多らと切られまくったのは覚えている。それはもう体中だ、だから血が足りないのだろう。
倒れる前までは只兵士の数を減らすために暴れ回っていたはずだ。ただがむしゃらに己の腕力とストラにすべてを任せて数を減らしたはずだが…
……部下達はレックスに任せた。部下の命を蔑ろにする漢ではない。ああ、だけど原作では部下の一人も救えなかった。そこに含むものはあるが今はそれどころでは無くて
「この部屋です」
入院患者を収容するための大部屋だろうか?そうクノンに促されて、震える手を抑え込んで意を決して
扉を開けた。
「チッックショーー!!あの職無し共次見かけたら全員ぶちのめす!」
「これだからテロリスト共はいやなんですよ。野蛮極まりない」
「あの紅き手袋共もだ。あんだよシャァ!って獣の振りか?人を舐めんな糞が!」
「不意打ち奇襲!?上等だアンの糞ボケども!定職付きの怖さを知らねえってのか!!」
そこにいたのは、包帯を巻き、ギプスを嵌め、青痣やらチューブに繋がれながらも元気よく罵詈雑言を吐く部下達がいた。
「お前達……」
あんまりのあんまりな光景に思わず呟いて部屋に入れば、皆がこちらを向く。
皆が満身創痍だ、それでもギラギラと輝く目を持つ男達。
「あ、副隊長!大丈夫っすか!?」
「ギャレオさんもう動けるんですか!?」
「お身体の方は?ヘイッ看護師さんその人平気なのか」
「重体です。普通は動けずに昏睡している…その筈です」
こちらを心配してクノンに話しかけ、クノンは呆れたように首を振れば部下達は一斉に笑い出した。
「ハッそりゃそうだ。俺達の副隊長だぜ!常識なんぞケツ捲くって逃げらぁ!」
「頑丈さではこの島一番だからな。タフって言葉は副隊長のためにあるんだ」
「流石副隊長です、あれだけ暴れ回ってたのにもう動けるだなんて」
バカみたいなことを言って笑いあって傷に障ったのか何人かはそのまま辛そうに顔を歪めて、それでも無理矢理笑っていた。やせ我慢をしていた。
そんな、そんな部下達に俺は馬鹿みたいに口を開けて呆けて
「生きているのか?本当に……夢じゃないのか」
「そんなヒデェ!今いる俺達どう見ても生きてるでしょ!?」
「全員生きてます。勿論無事とは言いませんが」
「アイツらに助けて貰わなくちゃ危なかったですがね。アテテ…」
ボロボロだ。怪我も大怪我、だけど生きているのだ。しかも全員だ、中には話せない奴や寝ている奴もいるが…生きているのだ。
「皆さんさっさと寝て安静にしてほしいのですが、まだ起きているのですか」
「悪いけどそう簡単にお陀仏しているわけにはいかんのよ」
「我々は軍人ですからね。せめて情報共有はしないと」
「休憩もまた大事だって隊長には言われたがそう言う訳にもねぇ」
苦笑してそれでもまだ目はギラついて、…いつもの部隊だ、守りたかった何でもない日常がそこにはあった。
だから…
「うぉっ!?副隊長どうしたんスか!」
「え、怪我本当は酷かったんすか?」
「痛むんなら注射です。ほら看護師さん。ぶッといのを」
「もう打っています」
気が付けば目から涙があふれていた、流すつもりなんてなかった涙だ。…親の死に目にも流さなかったこの俺が流すなんて。
溢れ出る涙を乱暴に拭って、ふと気が付いた。
「……レシィは如何した?」
この部屋は大部屋だ。大量に重症者が出てきた時に使う部屋だったとして、その中にレシィの姿は無かった。部隊の全員はいるのに。
戦っている時レシィの援護があったのは覚えている。結局言い聞かせていたつもりではあったがレシィは聞かないだろうななんて少しは思っていた。
戦って、そしてレシィがどうなったのかまでは俺は知らないのだ。
「レシィ君ですか、彼は」
「ただいまです。…あれ、ギャレオさん!?」
部下が説明しようとしたところでレシィが何食わぬ顔で戻って来た。手をハンカチで拭いている所からしてトイレにでも行ってたのだろうか。
いつもの格好ではなく病院義に着替えており、包帯も巻いてある。
だが無事だ。
「ギャレオさん大丈夫だったんでうわぁっ!?」
思わず近寄ってきたレシィを抱きしめてしまった。怪我はある、だが生きている部下達と同じように息をして生きている。
「ギャレオさん?」
「良かったッ…生きていてよかった…!」
抱きしめたその温かさから生きているのは間違いなくて涙は止まることなく溢れ出てくる。大の男が実に情けなかったがもうどうでも良かった。
「お前たちが無事で…本当に良かったッ!」
「んな泣かないでくださいよ副隊長…そんな」
「俺達が死ぬ訳ないじゃない、ですか」
「ああもう、だいの男が涙を流すんじゃねぇよ」
「そう言うお前だって」
部下達の話している声が聞こえる。何人かは俺につられて少し涙声だ。ああ軍人で体は誰よりも大きくて頑丈な癖にこんな所で涙を流してしまうなんて情けない。
でも、それぐらい皆が無事だったのが。
嬉しかったんだ。
12話の戦闘は終了ですが戦後処理が続きます。