遅れてきた直接攻撃の……   作:灰色の空

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誤字報告ありがとうございます

このお話にてようやく原作12話が終わります。


戦後処理④

 

 

「しっかし無色か。どうするよ」

「島に来たって事は船で来たんだろ。沈めようぜ」

「遠距離からか?見張りに気付かれるだろ」

「…それに運よく沈めても生き残りが出てきちゃ面倒が残る」

 

 という事で、俺がレシィを抱きしめながら大泣きしてその後になります。部下達の大部屋で部下たちが好き勝手話すのを邪魔にならない所で聞いてました。

 

 クノンからはとっとと部屋に戻って寝ろ(意訳)と怒られましたが部下が生きているのを見ていたいと力説したら折れました。

 体に支障の出ない範囲で気が済んだらさっさと寝ろと全員に言い含めて去っていきました。感謝!

 

 しかしチョロイなあの看護師!気遣いできて可愛いな…部下から人気が出そう、もう出てるか。

 

「セルボルト家か…ま~た面倒な奴らだ」

「知ってるのか?」

「無色の中では大手だ。元々は名ばかりだったがあのグラサンがデカくした話だ」

「つまりそれほど、あの凸ハゲが実力持ってるって事で良いな」

 

 部下達が話しているのは、無色の事に関して。何でもいいから話をしてくれと頼んだところひとまず今後の事を話しているのだ。

 

 俺?部下達が生きているのに安堵したのか腰に力が入らなくてだな…情けないが回復するまで座り込んでいる。レシィも一緒に話を聞いている 

 

 今の内容は諸悪の根源オルドレイク・セルボルトだ。ファンからは禿だとか盛んの王だとか好き勝手言われているが実際は物理も召喚術もいける口だ。

 だからゲームで大したことがないんだが、ここは現実なので厄介な部類になる。

 

 まぁ性格が小物過ぎて脅威が伝わらないのが一番厄介なんだけどなガハハ!

 

「で、あの白い女がいたでしょ、アレがセルボルト家の女」

「あの禿は入り婿って奴か」

「あの女、召喚士としては一級品だな」

「死霊の女王だったか?あの召喚術がヤバいのだけは分かる」

 

 ツェリーヌ。オルドレイクの嫁だ。死霊の女王としてサプレスの召喚術は一級品。ヤードといい勝負だが…なるほどそのサプレスの召喚術はヤバいのは覚えている。

 

 だから、最優先で始末をしようとして…

 

「………………」

 

「ギャレオさん」

 

「どうした?」

 

「殺気が出てます」

 

 ふと見渡せば部下達がこちらを見ずに気にしている雰囲気があった。冷や汗をかいてどこか落ち着かない。

 

 …やっちまった!…疲労している部下になんて負担を…!本当に申し訳ない。

 

「すまん、アイツにお前らが殺されていたらと思うと…」 

 

「いえ、良いんです。脅威なのは間違いなので」

「ギャレオさんが警戒するやべー奴だと分かっただけでも収穫もんですから」

 

 フォローされてしまった。ああもう本当に恥ずかしいし情けない。今度ツェリーヌに出会ったら首を引っこ抜いて帰ろう。

 

「んじゃあのマフラーの女はどうだ」

「紅き手袋の奴か。暗殺者どもを率いてたから2つ名もちか?」

「すっごい美人だったな。ってーと。ああ、茨の君だ」

「なんだそれ?美人なのは間違いないが」

「綺麗だと油断して触れたら茨で死ぬ。そのまんまだ」

「分かりやすさ大事」

 

 ヘイゼルか。あの人は…うぅん。ゲームで生い立ちや事情を知っている身として今一戦いづらい相手だ。

 尤も相手はそんなことはないので普通に襲ってくるが…レックスに任せた方が良いのだろうか?しかしなぁ。

 

「でもアイツギャレオさんに滅茶苦茶苦戦していなかったか?」

「そりゃ毒とか効かない人だぞ。そんなやべーのが相手じゃ分が悪すぎる」

「んでそのまま掴んで放り投げ捨てられてたからな」

 

「え、なんだそれは?」

 

「ギャレオさん、掴んで文字通りぶん投げていました。多分地平線…はいかなくても海まで行ったんじゃないでしょうか」

 

「………お、覚えていない」

 

 えぇ~?確かになんかチクチクされた覚えはあるけど?もしかして傷つけたらマズいと殴らなかったのだろうか?

 

 …流石俺!理性が無くなっても女性に優しい所は非常の好感が持てますなガハハ!!

 

「んでそのギャレオさんをもってしてヤバいのがあのシルターンの侍か」

「あの独特な服を着て刀一本でギャレオさんと渡り合うって何なのあの男?」

「アレ着流しっていうらしいぜ?」

 

 ウィゼルか…何度も拳を振っても当たらなかった覚えがある。実際には掠っていたのだろうか?兎も角ウィゼル相手ではゲームが違うと言わざるを得ない。

 

 悪人ではなくとも決して善人ではない。故にぶちのめす以外道はない。……アイツ専用の対策や戦術が必要だな。考えておこう。

 

「で、考えたくないけど言うぜ」

「言わなくても理解してるっての」

「イスラ君がなぁ。馴染んではないと分かってはいたけどさ」

「実際に俺らを裏切ってたのかと考えると…」

「何より隊長を裏切ったのがなぁ」

 

 イスラ。やはり俺達との交流はアイツには響かなかった。だがそれも仕方がない。アイツの事情は非常に根が深い。

 たった少し同じ時を過ごしたぐらいで解決するのならとっくに隊長がどうにかしている。

 

 仕方がないがこれも原作通りだ。……だから少し寂しいと思うのもしょうがない。

 

「………」

「………」

「………はぁ」

 

 沈黙が重い、理由は分かってる。部下達が何よりも気にしている事をちゃんと理解している。

 

 だが、現実はしっかりと認識しなければならない。

 

「ビジュか」

 

「……はい」

 

 レシィが凄く悲しそうに返事をした。今、この場にいないという事はつまりそう言う事なんだろう。

 

 皆が困惑で苦り切った顔で誰もが理解して、でも口に出したくないというのも分かってる。

 

 ビジュは無色の派閥へ行った。これはもう確定事項だ。

 

「ビジュさんは、無色が襲い掛かってきた時戦場にはいませんでした」

「どうしていないのかって思ってはいたんですが、まさか俺達の事を裏切ったなんて」

「…俺達が不甲斐ないからあっち行ってしまったんですかね?」

「でもまさかあの人が…俺は信じねぇぞ!きっとスパイをやってるんだよ!」

「ならギャレオさんを攻撃したのはどう説明するんだ?あれはどう見ても殺す気だったぞ」

「レシィ君を刺したのもあの人だ。……信じらねぇけどあの人がやったのは間違いない」

 

「レシィ、刺されたのか?」

 

「……はい。あの人の気配がして、どうすることも出来ませんでした」

 

 非常に辛そうな顔だ、刺されたこともそうだが、まさか自分達を裏切ったというショックが大きいのだろう。

 

 当たり前だ、レシィを鍛え上げたのは実質ビジュだ。そんな人間がまさか無色側へ行くなんて想像すらできなかっただろうしショックだったはずだ。

 

「すまん皆。ビジュの事についてだが、俺に任せてほしい」

 

「ギャレオさん」

「副隊長…」

 

「頼む」

 

 深々と頭を下げる。事実ビジュは俺がどうにかしなければならない。部下達やレシィもレックスたちは当然隊長すら本気になったビジュには荷が重すぎるからだ。

 

「頼みます、きっとビジュさんは理由があるんです!」

「裏切ったのか何か理由があるのか分かんねぇすけど、頼んます」

「俺達では、悔しいですが……あの人には」

 

「ああ、任せてくれ。お前たちはゆっくりと休んでくれ」

 

 ひとまずは体をゆっくりと休ませてほしい。今の今までずっと戦い詰め…というよりかは島でのサバイバル生活だったから、このリペアセンターでなら療養できるだろう。

 それに久しぶりのベッドはたいそう疲れが取れると思う。

 

(しかし、あの刀を抜く事が出来たのか…)

 

 無限界廊で手に入れたバグみたいな業物?よりによって初めて抜いたのがレシィを刺すためとはな…でもその割にはレシィ結構平気そうなんだよね。

 

 後でクノンに聞いてみるか。きっとアイツの技量と業物が揃えば……。

 

 所でふと気づく。ここにはとても重要な人の姿が無かった。

 

「そう言えば隊長は?」

 

「なんか出かけてます。赤毛…レックスが一緒だったので大丈夫だとは思いますが」

 

 隊長はどうやらレックスと一緒らしい。……ああ、『終わりなき誓い』か。あそこでイスラと戦うとすると…まぁ加勢にはいかなくても大丈夫だろ。

 レックスもそこまでひ弱な男ではない。余計な茶々は返って話を混乱させてしまうからな。 

   

    

 と、そろそろ話のキリもよかったので部下達とは分かれることにした。時間的に結構いい頃合いだ。ここはリペアセンター患者を休ませるところだ。

 

 部下達は揃いも揃ってぶー垂れながらもベッドに戻り体を休めるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「部下達を収容してくれた事、本当に感謝する」

 

「礼は不要です、私はそのためにいるのですから」

 

 クノンに礼を言ったら素っ気なく返された。うぅーんこれはコミュ失敗か?

 

「そもそも貴方は重症です。今もうろつかれるのは止めて欲しいのですが」

 

「すまん、だがじっとしていると何か心配になってな」

 

 実際未だに夢を見ているのではないかという状態だ。状況に心が付いて行かないというか、こうして起きていないと都合のいい夢を見ているのではないかとそう悪いように考えてしまうのだ。

 

「ではそこにいる人もそうなのでしょうか?」

 

「…わからん」

 

 ジトっとした目のクノンが少しばかり気遣うような目になって俺の隣にいたレシィに視線をやった。 

 

 レシィはどうにも休む気配が無く俺についてきているのだ。本人は申し訳なさそうにしているが俺的には全然構わないので好きにさせているのだが。

 

「そう、ですね。いつもと場所が違う所でしょうか。どうにも不安で…」

 

「そうでしたか…」

 

 精神的に疲労しているのだろう。話を変える事にしよう。

 

「ここの、いや島の住人は大丈夫か?無色がいる以上いつ襲撃が起きてもおかしくはないのだが」

 

「このリペアセンターには警報装置が鳴るようになっていますから安全かと。他の集落については護人たちが注意喚起を行っています。住人の方々は当分の間は集落の外に出ることは禁止されます」

 

「それがいい。安全を重ねるべきだ」

 

 流石に無色の派閥を甘く見ることはないか。ひとまずは安全と考えても良いだろう。

 

「今後とも部下達共々世話になる。ここの長は…アルディラと言ったか。彼女にも改めて礼を言いたい」

 

「了承しました。アルディラ様へは私から言っておきます。それで…」

 

 クノンの目がレシィをチラリと見たのが分かった。何か気になることがあるのだろうか。

 

 ……ああ、そうかレシィを治療したのはクノンだったのか。

 

「その」

 

「その話は俺が聞こう。レシィはそこで待っててくれ」

 

「えっと、分かりました」

 

 少し困惑していたが素直に了承してくれてたレシィを置いて会話が聞こえない位置まで誘導する。

 

 

「レシィ様…彼の傷に関してですが…」

 

 クノンの困惑とでも言いたげな声から聞かされた内容を聞いて、俺はやはりと頷いた。

 

(そうかレシィの傷はやはり思った通りか。アイツの技量と不意打ちでならできるだろう。……ウィゼルか貴様は!?サプレス使いの癖に!!)

 

 レシィの事は分かった。となると俺への攻撃については?

 

 うろ覚えだが俺へと放ったあの電撃は……タケちゃんではなくレギオンか?レギオンは憑依がメインだが一応攻撃用の召喚術もある。

 

 タケちゃんではなくレギオン、それを踏まえると?

 

 ……あーこれは全力で俺が悪いな。俺への恨み満載だな!

 

「何か分かったのですか?」

 

「ある程度はな。…それよりもその事だがクノン」

 

「はい」

 

「悪いが誰にも言わないでくれ」

 

 これは俺と怪我を治療したクノンだけが知っていればそれでいい情報だ。

 

「…分かりました」

 

「重ね重ね感謝する」

 

 と、言う事で一応クノンに了承を得たのでレシィにはあくる日に言えばいいだろう。

 

 不思議そうに首をかしげるレシィを見ながらそう思う俺でした。   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む、もう動けるようになったのかギャレオ!?」

 

「ええ。お陰様で。隊長の方は…何かあったようですな」

 

 クノンと別れることしばし、隊長がこのリペアセンターへ帰ってきたのだ。その躰は大丈夫そうではあるが…戦闘跡があった。

 

「ああ、レックスと話をしていたのだがそこにイスラがやってきてな」

 

「大丈夫だったんですか!?」

 

「私がここにいることがその証明さ、レシィ」

 

 レシィが慌てて聞くが、まぁうん、今ここに隊長がいるって事で。大丈夫だったのだろう…体はね。

 

「何かこっぴどく言われたようですな」

 

「……やけに鋭いなギャレオ」

 

「疲労が顔に残っています」

 

 俺の指摘に大きく息を吐いた隊長。敵わないなと呟かれて少し語ってくれた。

 

「あの子に言われてしまった。お前のせいで自分の居場所がなくなった、私がしていたことはイスラをレヴィノス家にとって不要な存在にしてしまったと、とな」

 

「アズリアさんはイスラさんの為に頑張っていたんですよね。イスラさんはその事を知ってるはずじゃ?」

 

「だが結果的に病弱だったイスラの居場所を奪ってしまったのは紛れもない事実だ」

 

 結果論ではあるがそれはどうしようもないと思うよ。病弱な弟の代わりに努力し続けた姉。だから弟は要らなくなるってのは、そんな事はないとは思うけどさ。

 イスラの本心としては姉に負担を掛け過ぎてしまったと自罰的なのだろうが……。

 

 なぁイスラそれさ、もしかして私怨も入ってない?

 

「……あの子を追いつめた原因は私にある」

 

 そうして語ったのはイスラが病魔の呪いに蝕まれていた事。その病魔の呪いは無色の派閥がもたらした事。無色の派閥を取り締まっていたレヴィノス家が標的になりイスラはそれに巻き込まれた事。

 そう言ったことを語る隊長の顔は自罰的で…非常に辛い。

 

 しかし顔を上げたアズリア隊長の目は輝いていた。不屈の意思が見えた。

 

「……だが、私は決めたんだ、無色と戦うと。諦めるつもりは、ないと」

 

「そうですか。では自分もお供いたしましょう」

 

 無色の派閥と戦うのなら俺も同行する。いいやこれは隊長がどうこうではなく俺の意志か。 

 

「ああ、頼りにしている、と言いたいが流石に今は体を休めろ」

 

「なんと?」

 

「ギャレオ、お前が頑丈なのは知っているが負担が余りにも大きすぎる」

 

 たった一人で暴れ回った事を言ってるのだろうか。それなら全然問題ないが…まぁ血足りないのは事実か。

 

「ぬぅ…無色がいる中で待機命令は歯痒いのですが…」

 

「だから今はと言ったんだ。今後頼りにする場面があるがそれは今じゃない」

 

 何だろうこの、言い聞かせるような感じは。純粋に心配されているのが伝わる為何も言えなくなる。

 

「隊長命令だ、良いから休め」

 

「………」

 

「強情な奴め。レシィ悪いがコイツを見張っててくれないか」

 

「はい!」

 

 そこで急に元気になるなよレシィ…。さっきまで様子をうかがっていたじゃないか…何で俺の事になると急に元気を取り戻すの君?

 

「ではな、あと、今日はよくやってくれたな」

 

「………はい」

 

 という事で颯爽と自分に当てられた部屋へと帰っていく隊長でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、レシィ」

 

「何でしょうか」

 

「……俺は今から寝るつもりだが」

 

「? はい」

 

 そろそろ寝ようかと思って、自分に当てられた部屋へと帰ってきて。寝る準備を済ませたところで、レシィは何故か帰りませんでした。

 

 一応、一応ね。クノンは階級などを配慮して俺と隊長には個人部屋を手配してくれたのです。そこをご厚意に甘えさせてもらって使わせていただくのですが…

 

 部下達は大部屋にいます。纏めて放り込まれたというよりは纏めて面倒を見るのが楽というか、そこら辺はクノンしか分からんが兎も角を俺は個人の部屋を当てられました。

 

「自分の部屋には帰らないのか?」

 

 そしてレシィにも個人部屋を手配してくれたのです。理由は…よく分かんない。一応メイトルパの亜人として配慮されたのだろうか?

 

 ちなみに船にいた時は俺とレシィは隣部屋でした。使うのがかなり後になっていたのでそれまでは雑魚寝みたいな感じでしたががまぁそれはそれとして。

 

「いやです」

 

「んな!?」

 

「さっきアズリアさんに頼まれましたので見張っておきます」

 

 どこからか椅子を調達したレシィはそういいって椅子に座ると俺をジッと見始めた。怖い。

 

 じゃなくて!

 

「流石に今日は何処にもいかんぞ?」

 

 もう深夜になる時間です。夕飯を食い損ねたのは残念だが流石に同伴されると…その、困るというか。

 

「……駄目、でしょうか」

 

 そうしてベットに腰かけウンウン唸っているとどうにも小さな声がポツリと。ふと見ればレシィは顔を俯かせて…泣いているように見えた。

 

「その、本当に邪魔なら僕は出て行きますので…」

 

「………分かった」

 

 そうまで言われたらもう仕方ないか。断る理由も、どうだっていいことだし。

 

 とは言えこの部屋はベットは一つだけ。俺が床に寝ることを提案したが逆にレシィが床に寝るとか椅子に座ったままで良いだとか言い始めたので折檻案としてベットで一緒に寝ることになりました。

 

 犯罪じゃないよ!レシィ男の子だもん!

 

「その、寝相が悪くて潰してしまったらすまん」

 

「大丈夫です。その時は避けますので」

 

 幾分か明るい声になったレシィの声が隣から聞こえる。一応大柄な俺に合わせて大きなベッドを用意してくれたが流石に二人寝るには狭い。

 レシィが寝れるように気遣ってるので片足どころか半身がベットから出てしまったが…まぁいいか。

 

「………」

 

「………」

 

 電気を消して(消灯の仕方がテクノロジー万歳だった!)暗くなった部屋で息を整える。呼吸の仕方が完全にストラをするのと同じなのはもうそう言う癖だ。

 

 レシィの方はというと…暗いのでよく分からん、ぼんやりと天井を見ているのだろうか。

 

「僕、本当は」

 

「ああ」

 

「ギャレオさんを怒るつもりだったんです」

 

 ポツリと声が聞こえた。そこからは溜め込んでいたモノが溢れ出たかのようだった。

 

「一人で何でもしようとはしないでって。あの時手が震えて僕は助けに行かなくちゃって。でもギャレオさん血だらけで戦ってて。僕はどうにか助けないとって考えて」

 

 小さな嗚咽が聞こえる。それに俺は何も言わない。言う必要はない。

 

「あの人たちは、本気で僕達を殺そうとしてきて、僕怖かったんですけどギャレオさんがいるから何としてでも頑張らないとってそう思って」

 

 一時敵の攻撃が緩んだ時があった。その詳細を部下達から話を聞いた。

 

 それはレシィが召喚士を抑え狙撃兵たちの牽制をして暗殺者たちのヘイトを集めたからだ。

 様々な事が積み重なって俺はあの戦場を生き延びる事が出来た。レシィの援護のお陰で生きているようなものだ。

  

「でもビジュさんが…どうしてなんですか。どうしてあの人は…」

 

「レシィ、ビジュの事を恨んでいるか?」

 

 俺の問いにレシィは首を横に振ったとそう思う。隣にいるのにその顔は分からない、分からない方が良いんだろうなとそう思う。

 

「いいえ。驚きの方が強くて…それにあの人言ってたんです。『ソレは使うな』って…そして刺されて…」

 

「…そうか」

 

 ビジュはもしかしてレシィの魔眼が普通ではないと気が付いていたのだろうか。 

 

「イスラさんも…あの人はお姉さんの事をずっと大切にしているのにそこは絶対に嘘じゃないのに、どうして裏切ってしまったんでしょうか」

 

「姉を大切に思うが故に。…いいや只の自己満足だろうさ」

 

 滅茶苦茶バレてるやんけ…イスラの演技って分かる人にはあっさりとわかるんだよね。俺は分からない方だった。

 

 今は何となくわかる。そんな安い同情はアイツが嫌いそうだが本当にそう思う。

 

 まぁ今はビジュもイスラもどうだっていい。大切なのはあの戦場で俺を助けに来てくれた健気なこの護衛獣の事だ。

 

 

「レシィ。俺はユクレス村かメイメイの店へ避難してくれとそう言ったはずだが…」

 

「…ッ」

 

「助けに来てくれてありがとう。お前が居てくれて本当に良かった」

 

「……。ぅぅ…」

 

 強張っていたレシィが小さな嗚咽を漏らした。それがまぁ何だか申し訳なくて。でも本当に嬉しくて、その小さな頭を撫でた。

 

「お前のお陰で部下達は助かった。隊長もだ。MVPとはお前の事を言うのだろうな」

 

「それはッ、…レックスさん達に…言ってくださいよ…」

 

「そうだな。だがお前の奮戦のお陰でもある」

 

 実際レシィが来てくれなかったら危なかった面があったのは事実で、巡り巡って皆が生きているのだ。

 

「お礼を言うのなら…もうやめてくださいよ。僕がどれだけ心配をしたのか…ちゃんとわかってるんですか」

 

「泣きながら怒るのは、分かった分かった。もう一人では突っ込まん」

 

 ベットで横にいるのにポコポコと叩き始めたので謝ったらやめた。代わりに腕をつねられた。とても痛い。

 

「ふぅー兎も角反省会は終わりにしよう。レシィこれからの話をするぞ」

 

「……はい」

 

「無色はこの島を手にしようと動くだろう。俺はそれを止めるつもりだ」

 

「ギャレオさんはまた戦うんですね」

 

「無論だ。無辜の住人たちを護ってこその軍人だ。悪いがそれだけは絶対に譲れん」

 

 レックスたちが戦うから放置なんてする筈がない。最後の最後まで戦い抜くさ。

 

「だが一人で戦うつもりはない。無謀な事もせん」

 

「でも無茶や無理はするんですね」

 

「………」

 

「否定して下さいよぉー」

 

 なんかすっごい呆れられた気がする。クスクスと笑われている様な気もするが。

 

「その時はレシィお前も協力してくれ」

 

「はい、遠慮なく言ってください」

 

「戦うのは控えるようにはするが、まぁ色々とな」

 

 何処まで出来るかはわからないが、やれるだけはやろう。なーに戦力は沢山だ、悪いが皆を巻き込んでハッピーエンドをもぎ取るのだ。

 

 

「それで、お前には…寝たか」

 

 気が付いたらレシィは穏やかな寝息を立てていた。疲れる事ばっかりだったし精神的にも疲労が限界に来たのだろう。

 

 誠に申し訳なく想いながらも俺も瞼を閉じる。

 

 

 

 今夜は月が見れないが、綺麗な月なんだろうなとふとそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 煌く月の光を浴びながら船の看板で投具の手入れをしていた。己の持つその武器は鈍い光を跳ね返した。

 

 武具の手入れをしている男の名はビジュ。その横顔には何も色が無かった。

 

「ここにいたんだビジュ」

 

「…テメェか」

 

 そんなビジュにイスラは気安く近づいて来る。無色の構成員達が乗っている船だ。大型でそれなりの設備がある船だ。

 

 そんな所へやってきたビジュは己の部屋が与えられたが夜中に此処で武具の手入れを行なっていたのだ。

 

「眠れないのかい?案外繊細なんだね」

 

「そう言うテメェはおしゃべりか?それとも…」

 

 鋭く突き刺すような殺気を放つビジュにイスラは嗤って手を上げた。戦闘をする意思はないという表明だ。

 

「まぁまぁそう怒らないでよ。新しい職場はどんなものかと心配して顔を見に来たんだ」

 

 ニコニコと無害そうに笑うイスラにビジュは殺気を収める。そしてイスラの後ろ…正確には周囲の気配に向けて凶悪な表情を浮かべた。

 

「まぁ悪くはないな、チラチラとウザったいのがクソムカつくがな」

 

「仕方ないよ。新参者を信用なんてする訳がないんだからね」

 

 ビジュを監視する様に暗殺者が息をひそめているのだ。一手一挙を只何をするわけでもなく、だが即座に始末できるような配置と人数。その中においてもイスラはどこ吹く風だ。

 

「監視が嫌なら実績を上げる事だよ、そうすればまぁ僕みたいに自由に動けるからね」

 

「へいへい、貴重な助言をどうもありがとうよ先輩殿」

 

 ウザったくはありつつもその監視はまた必要な物。イスラからの助言通り実績があれば少しは緩むだろうと溜息を吐くビジュ。

 

 そんなビジュにイスラはふと思いつたかのように笑いかけた。

 

「それにしても驚いたよビジュ」

 

「あ?」

 

「君が僕の誘いにのるなんてね。姉さん達を裏切ることはないとそう思ってたんだけど」

 

 どこか不思議そうに、あるいは訝し気なイスラの言葉にビジュは黙っている。その目が話を促したのでイスラは続けた。

 

「実は誘いにのったのはフェイクでこっそり姉さんやあの馬鹿に情報を流すと思ってたんだよ。あのゴリラに召喚術を撃つまではね」

 

「………」

 

 イスラの目からしてもアレは躊躇もそして葛藤すらない見事なまでの召喚術だった。それであのゴリラが生きているのは本当に頑丈だとしか思えなかったが。常人ではあの威力で蒸発している。

 

「で、どうして誘いにのったんだい?」

 

「……力だ」

 

 わざわざ暗殺者達がいる中でそれを聞くイスラの悪辣さに辟易しつつもビジュは答えた。

 

「力、かい?」

 

「ああ、そうだ。言ってなかったか?」

 

 ニヤリと笑うその顔は凶悪なまでに歪んでいた。刺青も相まって悪魔にすら見えた。

 

「俺の行動、生き方。それらはな。力こそが全てだ」

 

 そう、それはビジュのすべての指針となる真理だ。それを人に話すのは…始めてか。

 

力こそが絶対だ、それはこの世の絶対でいつの時も変わらない絶対的不変の理だ。過程や結果もすべて関係ねぇ。だから俺は強い方についたのさ」

 

「……ま、そう言うのもありか。なら精々頑張ることだね」

 

「ケッ。そう言うテメェこそよくもまぁ姉を裏切れたな。あれだけべったりしていたくせによォ」

 

 意趣返しになるビジュの皮肉にやはりイスラはにこにこと笑うだけだ。

 

「そりゃ油断を誘うために近づいたからね。姉さんたら簡単に騙されて本当に可笑しかったよ」

 

「見てて哀れだったな、惨めにもほどがある」

 

「でしょ」

 

 イスラの表情は変わらない。まるで笑顔が張り付いたようだと誰かならそう言っただろうか。少なくともビジュからの目には顔色一つ変わらないイスラの顔があった。

 

「それじゃ、僕は行くよ。またねビジュ」

 

 そう言ってイスラは闇へと去っていく。ビジュもまた自身の得物の手入れを行ないつつ…刀をすらりと抜いて切っ先を向けた。

 

「監視をするならせめて気配を消せ。それとも何か、俺を舐めてんのか?」

 

「…………」

 

 影に向かって殺気を向けたのは人の気配がしたからだ。その気配は他の幹部たちではない。

 

 

 それは並みの暗殺者達とは違って洗練された気配の隠し方。

 

(……?)

 

 だが妙にその気配の消し方が雑だったのだ。それゆえ簡単に気配を察知したのだが。

 

「……貴方が裏切者なのね」

 

 女の静かな声だ。しかし妙にはっきりと聞き取りやすい声だ。艶やかしく、しかし気を許せば一瞬で命を刈り取るような色気のある声。

 

 そんな声をするものは独りしかいない。そもそもこの船に女性は2人しかいない。

 

「ヒュウ♪アンタが俺を見張るのかい、そりゃ何とも有り難いねぇ『茨の君』さん」

 

 口笛を吹き下衆た視線を影へとむける。影が動き姿を現し…ビジュは一瞬固まった。

 

 

「……なに?」

 

 女暗殺者ヘイゼルは全身が濡れていた。所々に海藻が張り付いており、気がついていないだろうが髪にはサンゴらしきものが張り付いていた。

 

 水滴を吸った長い髪がぽたぽたと水を垂らし垂れさがっている。

 

「あーそうだ。お前投げ飛ばされてたな」

 

 紅き手袋の中で2つ名を持つ者はそれ相当な実力者だ。そんなヘイゼルが何故こんな濡れ鼠になったのか、ふとビジュは思い出した。

 

 ヘイゼルは戦場でギャレオに相手にされなかったばかりか思いっきり投げ飛ばされていたのだ。

 

 成人男性であるビジュを手加減付きの掌底で吹っ飛ばす威力だ。あの怒り狂っていた状態で投げ飛ばされたのなら地平線まではいかなくても相当遠くに投げ飛ばされたのだろう。

 

 落ちた場所が海だったのは運がいいのか悪いのか。受け身が上手かったから海の藻屑にならずに済んだのだろう。多分。

 

「…何あの化物」

 

 それはビジュに聞くと言うよりは思わず出てしまったような呟きだった。投げ飛ばされた方からすればそう言う言葉が出てくるのは無理もない。

 

「さてな。それよりテメェ運がいい方だぜ」

 

「…どういう意味?」

 

「アイツに握りつぶされなかった。幸運にもほどがあるぜ」

 

 素早い奴は殴るのではなく、握られて地面に叩きつけられるか投げられるか振り回され武器となるか。それが怪我もなく投げられるだけだったとは幸運以外の何物でもない。

 

「……あんな奴がいるのにこちらについたの?」

 

「ああ。なんだ?『茨の君』さんは俺に興味があんのかい?」

 

 濡れた肢体を舐め回すように見れば不愉快極まりないのか殺気を向けられる。それを心地よさそうに嘲るように笑えばイラつきが限界に来たのか踵を返された。

 

「部隊の治療が終わったらオルドレイク様がはぐれ召喚獣の収集をする。貴方も精々邪魔にならないようにね」

 

「ほぅ…んじゃ俺は実働部隊にでも入りますかね」

 

「好きにして」

 

 そのまま去っていくヘイゼルに笑みを深くしたビジュはヒヒと声を掛ける。

 

「『茨の君』さんよぉ」

 

「……」

 

「さっさと着替えな。そんな冷たい身体じゃ誰も抱きに来ねェからなァ。ヒヒッ」 

 

「ッ!」 

 

 怒りの余りか、振り向きざまに投げられた投げナイフ。それをビジュは難なくキャッチする。

 

「っとそう怒んなよ。心配してんだぜぇ」

 

 嘲笑えば今度こそヘイゼルは闇に溶けるように消えていった。そして残されたのはビジュ独り。

 

 

「………」

 

 監視の目はあるが数は多くはない。雑魚独りどうとでもなると思われているのか…ただ単に動かせる人数が少ないのだろう。

 

 ヘイゼルが言ってた様に部隊の大勢は今治療を受けている。軽傷なものも多ければ重症なものも多い。捨て置くのが無色の派閥のやり方ではあるが島の遺跡や魔剣の掌握となるとやはり雑用をこなせる数が欲しいのだろう。

 

 

 だから誰も分かってはいない、誰一人理解はしていない。あの神剣の匠は感づいているかもしれないが。

 

 

 

「………()()()()()()ねぇ」

 

 

 

 あの戦場では誰も死者が出ていないという事を

 

 

「ククッ」

 

 

 独り嗤うビジュを月だけが見ていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から終盤戦に入ります。

オリジナル要素を追加しながらも好きなようにさせていただきます。
感想あればお願いします。投稿の力になりますので何卒…
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