遅れてきた直接攻撃の……   作:灰色の空

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岩槍の断崖③

 

 

 場は騒然としていた。それはそうだ今まで従順だったはずのイスラがその魔剣で頭領のオルドレイクに攻撃したのだから。

 

「貴方!?」

 

「小僧、本性を現したか!?」

 

 ツェリーヌが夫に駆け寄り、ウィゼルが叫ぶ。イスラはその慌てっぷりを愉快そうに笑っていた。

 

「あのさぁ 考えても見なよ。魔剣の所有者は僕だよ?わざわざ君たちの為に使う筈がないって考え付かなかったのかい?」

 

 イスラは無色を嘲笑した、愚か者の頭領にその妻。そして傍観者を気取りながら過ちを犯し続ける者を。

 

 嗤った。

 

「こんな力独り占めした方が利口ってものじゃないか!」

 

「こ、小僧ぉぉおお……ッ!!」

 

 嗤いながらイスラは激痛に苦しむオルドレイクを一瞥した。

 

「まぁ 死んでいないのならそれでいいや。精々痛みと悔しさを胸にベッドの上でもがき苦しんでね」

 

 罵りながらイスラは興味を失くしたかのようにその場を去ろうとする。まるで道端の虫が死に瀕しているのを見て冷ややかな視線を向けるように。

 

 そうして背を向けたイスラにツェリーヌは好機とみて召喚術を放つ。

 

「報いを受けよ!死をもって!」

 

「はぁ そんなチャチな術じゃ僕を殺せない。分からないの?」

 

 死霊の女王と呼ばれるツェリーヌの召喚術もどこ吹く風、それほどの魔剣の力、抜剣者は隔絶していた。

 

 無色の派閥の中で上位のツェリーヌの術を意も介さないイスラ。その暴虐無尽な力が改めて敵になったのだと理解せざるを得なかった。

 

 

「コイツを…。この小僧を……!!」

 

 オルドレイクは血を吐きながらも無色の全部隊に命令を下そうとしていたこの裏切り者を殺せと。

 

 故に全員がこの場で最も脅威であるイスラを見ていた。

 

 

 だから、誰も気づけなかった、誰一人としてその行動を見抜けなかった。

 

 

 突如として飛来した投具の向かう先がオルドレイクだという事に

 

「殺っ!?あがぁぁああ!?」

 

「あ、貴方ぁああ!!??」

 

 イスラの抹殺命令を出したオルドレイクにその投具は深々と突き刺さった。当たった場所は肩口。

 急所に当たらなかったのはひとえにオルドレイクの悪運のせいか。

 

「誰が…お前は!」

 

 ツェリーヌは叫び、夫へ攻撃した人物を見た。それはこの島で無色へと鞍替えした帝国の裏切り者のはずだった男。

 

「貴様…裏切ったのか!?」

 

 ヘイゼルは怒りながらもどこかで納得していた、この男はやはり最後まで油断できなかった男だと。

 

 

「あークソ。用意するのならせめて即効性のある奴にしとけよクソゴリラが…」

 

 悪態をつきながら不敵な笑みを崩さないビジュは、無色の兵士に囲まれながら愉快そうだった。

 

 

 

 

 

 

「オラッ!糞共がさっさと道を開けやがれ!」

 

 刀を振るい纏わりつくように群がる無色の兵士を蹴散らすビジュ。一人一人は敵ではないがそれでも数というのは厄介だった。

 

 せめて状況がもう少し自身にとって有利になってからにすべきかとは思ったが、チャンスはあの時点でしかなかった。

 

 イスラがオルドレイクを裏切った以上、無色は自分も攻撃対象に入れるのは明白。つまりどうあっても行動に移さなければいけなかった。

 

「お前は、お前たちはグルだったのか!?」

 

「あぁ!?あの糞餓鬼と一緒にすんなやこのボケが!」

 

 ヘイゼルからの攻撃も紙一重で躱しながら、吐き捨てるビジュ。薄々そうするだろうなとは思ったがまさかもうオルドレイクを攻撃するとは流石のビジュも想定外だった。

 

 そもそも自身の為に動くイスラと目的の為に動く自分が同等の扱いにされるのは心外だった。

 

「ツ、ツェ…リーヌ…」

 

「貴方!しっかりして!」

 

(…チッ!傷が浅かったか!?)

 

 オルドレイクに投げつけた投具はギャレオが自身に向けて放った物だ。それを使って隙が出たオルドレイクに止めを刺すつもりだったが…

 

(せめて刃を研いだモンよこせよあのボケ!つーかあのドピンク色なんだよ!効き目あんのかよ!)

 

 刃はご丁寧に潰されていた。その刃先は液体が付着していたが即効性のある毒ではなさそうだ。

 つまりは、ビジュに向かって放たれた物はビジュの期待に反して殺傷力が低かったのだ。

 

 

「ツェリーヌゥ……」

 

「貴方、今治療しますから!」

 

 オルドレイクの顔は赤い。投具に付着した液体が毒だったからか、どこかぼんやりとした目でツェリーヌを見ている。

 

 治療、それよりもまずは解毒か。そうツェリーヌが判断した時だった。

 

「なんて、美しいのだ…ツェリーヌゥ♡」

 

「あ、貴方?」

 

 どこか浮ついた声で呼ばれ思わずオルドレイクを見たツェリーヌ。その口元に手を添えられ、その熱っぽい視線にツェリーヌはそんな事態ではないと分かりつつも不覚にもドキリと心臓がはねた。

 

 

「今、んむぅ!?!?」

 

 治す、そう言うことは出来なかった、何故ならオルドレイクの口によって塞がれてしまったのだから。

 

「んむぅぅうう!?!?」

 

「なんて愛い奴よ…お前はここまで美しい女だったとは…」

 

 状況にそぐわない余りにもあんまりな行動に抗議をしようとするが、口元を塞がれそれはもうねっとりと蹂躙され、息継ぎの為に離れたらそれはもう

熱っぽい声でなんか口説かれていた。

 

 元々夫婦仲の良い男女だ。そう言う事はあったとはいえ戦場での突然の行為。思うところはあったが流石に場を弁えて欲しかった

ツェリーヌはオルドレイクに抗議しようとしてようやくその目を見た。

 

「ツェリーヌゥゥ…我の…寵愛を…授けてやろう…ぞ♡」

 

「み、魅了に掛かってる!?」

 

 目がハートマークになって、しかもだらしなく涎を垂らしていた。完全にオルドレイクは発情していた。頭が性欲でピンク一色になっていた。 

 

「なん、で。あのナイフに毒が…んむ!」

 

 原因に思い当たったがそれさえ言えずに口元を塞がれる、オマケに胸元を弄られる。発情したケダモノが一匹そこにはいた。

 

「「「「………」」」」

 

 無色の兵士たちと言えども頭領のあまりの行動に場の空気が居た堪れない空気になっていた。

 

 ちなみにレックスたちはさっさと退避しており、イスラも用がなくなったとばかりに消えていた。

 

「ええい!正気に戻れオルドレイク!」

 

「プハッ」

 

 流石に見かねたのかウィゼルがオルドレイクを引きはがす。その顔は発情しているが、オルドレイク自体それなりに深手を負っているのだ。

 

「コイツは俺が連れて行く貴様は指示を!」

 

「は、はい!」

 

 頬を赤く染め、急だったとはいえオルドレイクの情熱的な口付けにツェリーヌの思考は滅茶苦茶だ。 

 

 何をするべきかどうするべきか、その考えに頭が回らない。

 

(えっと、そう兵たちに指示を。そう、指示を…)

 

 そんなツェリーヌの前では事の原因となったビジュがただ一人無色の兵士と戦闘をしていた。脱出を図ろうにも数のせいで拮抗していたのだ。

 

(あの男…!)

 

 ツェリーヌはその姿を見て怒りがわいてきた。そもそもが不遜な男だった。それがまさか裏切るなんて、資料を回覧する許可をくれてやったのに。

 

 色々な感情が渦巻く。異質な召喚術への嫉妬であり侮辱された事への憤怒ともいえた。

 

「おいオルドレイク何をしている…!?」

「ウィゼルよく見ればお前もまた愛い奴…」

「なにをして、止め、手を離さんか!!」

「愚か者め♡その素っ気なさが我の情欲を滾らせるのだ♡」

 

 後ろで何か聞いてはいけない声が聞こえてきた気がした。ツェリーヌは兵士たちに指示を出そうとするがどうしても後ろの声が気になった。

 

「さぁ我が魔剣を研ぐがよい…おっと大剣になってしまったなぁ♡」

「脱ぐなぁああ!!こすりつけるなぁあああ!!!」

 

「お前達、今すぐあの愚か者を殺すのです!」

 

 詰まる所、ツェリーヌもまた混乱しているのだった。

 

 

 

 

「ヒャーハハハッ!!あの野郎!ウ”ァァッカじゃねーーか!!?」

 

 ビジュは遠目でその様子を見て笑いながらあの投具を投げつけたギャレオに悪態をついていた。

 

 ナイフの毒は詰まる所媚薬だったのだ。魅了の効果も過ぎれば毒というがそれにしたって何故あんなものをチョイスしたのか。

 

 それを突っ込むのも罵るのもまずはこの状況を切り抜けてから。だが状況が悪化する一方。

 

「我が夫になんてふしだらな真似を!死になさい下郎!」

 

「知らねーよ!元からだったんじゃねぇのか!」

 

 怒りで般若の如く顔が険しくなったツェリーヌがやって来たのだ。あんな女でもサプレスの召喚士としては一級品。

 

 特にその秘伝となる召喚獣『砂棺の王』これを問答無用で喰らえば消し飛ぶのは明白だった。

 

 それを撃たせてはならない。しかし肝心の自分の投具はもう尽きた。

 

 

「来たれ、冥界の死霊よ…!!」

 

 その召喚獣は棺と化した身体を持つ死霊の王。数多の亡霊を率いる死の体現者。

 

 その威力はビジュでは防ぎきれない。奥の手を発動する魔力は底をついている。

 

「チィ! うぉぉおおお!!」

 

 ビジュはその召喚術の範囲から逃げる為に絶壁から跳んだ。そして空中で無理やり体を捻り、そのサプレスの高位召喚獣と向き合った。

 

 

 懐からサモナイト石を取り出す。それは長年付き合いのある相棒。

 

 自身が絶大な信頼を寄せる無二の存在。

 

 

「タケシィィイイイイ!!!」

 

「ゲレレェェンン!!」

 

 光と紫電が衝突する。本来の世界戦ならその光で死霊のエサとなるはずの運命は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛ぇ!?」

 

 衝撃で吹き飛ばされるという結果に覆ったのだった。

 

 

 そんな事も知らない当人は、海に叩き付けられると判断し身構えたが。

 

「フンッ!」

 

「うぉっ!?」

 

 突如として大きな影に捕獲されてしまうのだった。呆れるほど知っている声がすぐ近くから聞こえ

 

「任務御苦労…ビジュ」

 

「……黙れ馬鹿野郎」

 

 今にも泣きそうなその男に悪態をつくのだった。

 

 

 




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