遅れてきた直接攻撃の……   作:灰色の空

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原作スタートです。
ゲームでは相手側の事情が全然分からなかったので妄想全開で行きます。


本編
出航、漂着


 

 

 

 

 聞いてくれビジュがあのビジュだった!!!

 

 

 うん、まずは弁明させてほしい。俺はあの軍学校時代…というかここまで生きててほぼほぼ原作サモンナイトを忘れていたのだ。

 

 正確に言えば忘れないと軍学校の訓練が辛かったとか下っ端働きを続けてたのもあるし…いやそもそも何十年も前のゲームの詳細を覚えているのかという事だよ!

 時がたてば忘れる事は多い、青春時代のゲームとてそれは例外なくでギャレオとしてこの世界生きてれば世界に馴染んでいき使わない知識は埋もれていく。

 

 つまり俺は悪くない。きっと歳のせいじゃないはず。なんか…似たような名前だなとかはあったけどね。

 

 そんなビジュも遂にアズリア隊長の指揮下に入った。共に苦労する仲間だと思うと嬉しいやら微笑ましいやら。

 

「所で、怪我は平気か?あの後所在を掴めなくてな心配してたんだぞ」

 

「……チッ」

 

「そうか、痛むならいつでも言え。ストラもあの時よりもずっと上手くなったからな」

 

 相変わらずの不愛想な反応。あの時の怪我から回復はしているがやはり傷跡は残ってるのだろう。

 

 特に両頬の刺青は非常に大きくあの酷かった傷跡を物語っている。刺青については触れないでいた方が良いのかそこは分からない。

 

 だけど思う事は一つだけ。

 

「ビジュ、また会えて嬉しいぞ」

 

「ケッ」

 

 そしてビジュ愛用の召喚獣タケシーも以前とは変わりないようだ。

 

「ゲレレッ?」

 

「勿論タケちゃんともだぞ」

 

「ゲレレン♪」

 

 素直ではない反応だが否定はしない所から、憎くは思ってはいないのだとそう思いたい。相も変わらずタケちゃんを連れて呼び出しているところから軍学校時代から変わっては……どうだろう? 

 

 

 兎も角、アズリア隊長。そして俺とビジュが揃ったという事は…。

 

「ギャレオ、極秘任務だ」

 

「何でしょうか」

 

「無色の派閥が確保していたという魔剣の護送だ」

 

 遂に原作が始まるという事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 帝国領アドニアス港。帝国軍人を退役しとある縁で家庭教師となる主人公とその生徒が初めて会う場所である。そうして二人は目的地ここから帝国工船都市パスティスへ向かうのだが…。

 

 何もかもが感激深い…が俺はお仕事なのです。つまり超重要品である魔剣の護送である。

 

「隊長、秘密裏に魔剣を船に詰め込みました」

 

「分かった。船の様子はどうだ?」

 

「整備が整い次第出航できるようです」

 

 俺達帝国軍海戦隊第6部隊はこの物語の超重要アイテムであり鍵となる魔剣を帝国へと護送するのが任務である。

 

 それを巡って忘れられた島で戦いが始まるのだが、今は置いておこう。

 

「…アズリア隊長、平気ですか?」

 

「何がだ」

 

「この任務、貴方の弟君も配属されていると聞いております」

 

「……イスラか」

 

 説明すればめっちゃ複雑になるのだがこの任務またもや物語的に超重要人物であるアズリア隊長の弟であるイスラ・レヴィノスも参加しているのだ。

 

 イスラ・レヴィノス、その名の通りアズリア隊長の弟ではあるのだが…その出生及び人生には中々の不幸が積み重なっている。これまた説明すると非常に長くまたややこしくなる。

 

「あの子には……」

 

 家督を継げなかった弟に思うところがあるのだろう。言葉を切り遠くを見つめ、フッと自嘲するように笑った。

 

「いや、すまん。ただ同行するだけだ。魔剣を運び終えたらそこまでだ」

 

「…そうですか」

 

 申し訳ない隊長。貴方の弟の秘密を知ってるけど何も出来ないんだ…非力な俺を許してくれ。

 

 そんな原作を知っているからこその特有の思い上がりな罪悪感をごまかす様に懐にある非常食を取り出す。

 

「気晴らしにナウパの実でも食べますか?保存用ですが美味いですよ」

 

「お前はそれをどこに隠し持ってるのだ?」

 

「ミスティスフレもありますが」

 

「……もういい」

 

 甘味を食べればストレスが減るかと思ったんだけど失敗してしまったらしい。残念だ。

 

 ならばこれはどうだろうか?懐から取り出したるはきれいな貝殻。海を思わせる青い色が非常に美しい。

 

「……それをどうしろと?」

 

「土産物屋で買いました。記念にどうでしょうか?」

 

「ギャレオ」

 

「はい」

 

「お前はさっさと船に乗れ」

 

 追い払われるように船へ乗れと命令されてしまった。何故だ?土産物屋に女性におすすめプレゼントと言われて買ったのだが…?

 

 妙に気になり自分用のお土産として買った『お香のランプ』はともかくとして装飾品のセンスのない俺は少しだけ落ち込みながら乗船するのだった。

 

 

 

 

「うむ」

 

「……」

 

 船は問題なく出向された。俺とアズリア隊長にビジュ、他に数名の兵士がこの船に乗船してある。

 

 他の兵士たちは後方にある黒い帝国海戦隊専用の船に搭乗している

 

 そうあのOPに搭乗したあの黒い船!原作では出番どころか影一つ見当たらなかったあの船!

 

 アレが我が帝国軍海戦隊第6部隊の船なんです……これで長年の疑問だった帝国軍はどこから来たのかの疑問が解けました!

 

 いや、結局海賊カイル一家に襲撃に遭うんすけどね!つまりオープニングのあのシーンは詐欺ではなかった?ヤードさん無謀すぎんぜ…。

 

 

「…ぬぅ」 

 

「………」

 

 ちなみに俺の原作として知っている転生者としてのスタンスは『極力話を変えず、しかし思う通りに動く』これが俺の方針である。

 

 原作の流れを変えればどこで何が起きるか分からない、しかし我慢は良くない、何事も理不尽を鵜呑みにするほど人間出来ていないのだ残念なことに。

 

 つまり行き当たりばったりである。これが帝国軍人の姿か?

 

「うぅむ」

 

「………せぇな」

 

 さて、この後は如何しようかと思考を巡らせる。魔剣の奪取を防ごうと思えば隊長に進言し防ぐことはできると思う。

 だがそれが良い流れに繋がるかというと…良くはないな。悪くもないが。

 

 つーか民間の船を襲ってくるとか何事か。帝国軍人や魔剣があるとはいえ民間人も乗ってるわけだぞ?誰か怪我したらどう責任とってくれるんだコラ!

 

「ヌッ!」

 

「うるせぇよこのタコ!」  

 

 よく比較される海賊船長の顔を思い出し怒気を出せば隣のビジュが喚く。ゴメンて。

 

「すまん、少し緊張してた」

 

「副隊長殿、緊張なされるのは良いんですがねェ。その度に変なうめき声を出すの止めてもらえませんか」

 

 どうやら声に出してたらしい。全く以て申し訳ないので謝ることにする。懸念事項は一杯あるのだ、許して。

 

「その、溺れたらどうしようかと」

 

「はぁ?水練ぐらいやってたでしょうが」

 

「筋肉が付きすぎてな…沈むんだ」

 

「死ね」

 

 心底呆れたようにして馬鹿にするビジュ。お前俺副隊長なんだぞ偉いんだぞ?

 

「それはスイマセンでした。しかし任務の邪魔なんでどっか行っててくださいませんかね」

 

「うん?しかしそれでは」

 

「隊長構いませんよね、副隊長殿が警邏すれば治安が悪くなることはないでしょう」

 

 部屋の中行っていいぞと隊長の声がする。あれ?厄介払い?

 

「んじゃゴリラを放牧しますわ。ほらさっさと行け」

 

 シッシと追い払われてしまった。俺の扱い酷くない?別に全然良いんだけど、あれがビジュなりの気遣いってちゃんとわかってるもん!  

 

 

 

 

 という訳で船内を散歩中である。何だかんだで俺が歩くだけでも威圧感が凄いのでアホな真似をする人が減るって寸法よ。怖がらせてると言われたらそれまでだが。

 

「窓が多いな。景観が良い」

 

 民間の客船だからか、大きな窓が多くそこから眺める海はきれいだ。こういった所で客に配慮してるのは好感が持てる。

 

 一人ウンウン頷き、外へ。広がる視界には綺麗な晴れ空の広がる青い空に煌く真っ青な海原である。見渡すばかりの青い海は中々気持ちがいい。

 

 

「……はい、……問題なく」

 

 それもアイツを見るまではな!

 

 独り言をつぶやいている線の細い青年はイスラ・レヴィノス。アズリア隊長の弟であり帝国軍諜報員として船に乗ってるのだがアレはさらにその裏にいる無色の派閥と連絡を取り合っているのだろう。

 

 3重スパイは構わないが隠し事はもうちょっと人気のない所でやってほしい物である、

 

「……!」

 

 目が合った。ほんの一瞬だけ驚いた顔、だがすぐに戻る。どうせ姉のオマケだから問題ナイと思ったんでしょう?当たりだよ。

 

 特に話すことが無いので踵を返す。すまんな俺は依怙贔屓が激しいみみっちい男なのだ。

 

 げんなりしつつ船に戻ることにする、話しかけられても困るし相手側も嫌だろう、性格が捻りにひねくれすぎて隊長の紫電絶華が癒しに感じるほどだもん。アイツの行為が許されてるのはイケメンだからでしょー…なんて虚しい男の僻みである。

 

 嫌な物を見たのでげんなりしていると唐突にそれは起こった。

 

 

 ドッゴン!

 

 爆発と振動、船の揺れ、ふらついて壁に手をやり何が起こったのか辺りを見回し遂に始まったのかと想定より早いタイミングで驚く。

 

 

 海賊カイル一家の襲撃。客人ヤードの依頼を受けこの船にある魔剣を奪い取りに来たのだ。

 

 なら自分の行動は?無論魔剣を盗られないように行動するのみである。隊長やビジュはそれぞれ別に行動するだろうが指示を待っているだけではいけない、柔軟な行動が軍人には時に必要になるのだ。

 

「テメェ帝国軍人かぶげっ!?」

 

「何だこのゴリあびゃ!?」

 

 バンダナを被り半裸のどこからどう見ても海賊という男達をなぎ倒しながら船を爆走する。魔剣の保管場所は事前に知っているのでそこへ向かってるのだが…。

 

(……どこから情報が漏れた?)

 

 思えばカイル一家にどこから情報が漏れたのだろう?軍の機密として魔剣を運んでいるのだが…実際はこうなってる。

 

 情報の隠し方がずさんだったのかそれともカイル一家の情報収集能力が上手だったのか。ご意見番の元所属を考えれば相手が上手だったと考えておくことにしよう。

 

 

「ぶげっ!?」

「ほがっ!」

「なぐひゃ!?」

 

「存外、大したことがないな」

 

 魔剣がある場所まで移動しつつ目についた海賊を処理していくが思っていた以上に弱い。練度が低いというよりは自分が強いのか? でもカイル一家が弱いとは…うーん?

 

「お頭!ツエー奴がいるんです」

「俺等じゃ手に負えません!」

 

「……む?」

 

 ワンパンチで処理していると後ろからそんな声。海賊たちが弱気な声で助けを乞うているのは…後ろを振り向いて口角が上がるのを感じた。    

 

「へぇ 帝国軍人にも骨がありそうなやつがいるのか」

 

 金髪の男だった、黒い海賊コートを羽織り胸元を開け不敵な笑みを浮かべる。拳闘に自信があるのだろう武器は持っておらず両手をパシンと打ち付けゆらりと構えたどこか海の香りのする快男児。

 

 海賊カイル一家の船長、カイルだ。

 

 そして俺(ギャレオ)の上位互換とされている個人的な宿敵でもある。

 

「貴様がそいつらの頭だな」

 

「ああ、手下どもが世話になったな」

 

 ふてぶてしいその態度は男前な表情も合わさって実によく様になってる。惚れ惚れずる漢っぷりだ。

 

「さて、悪いがそこを通らせてもらうぜ」

 

 開口一番カイルは気っ風に見合った真直ぐなストレートを放つ。当然予想された拳を難なくガード。お返しに一歩踏み出てボディを狙う。

 

「っと やっぱそこらの奴とは違うか」

 

「どうやら賊にしては中々の様だな」

 

 放たれたボディブローはカイルの腕に当たりガードされる。やはり海賊の長をやってる男の腕っぷしはそこらの男とは違う。

 

「でりゃあっ!」

 

「無駄だっ!」

 

 そして始まる拳の乱打戦。俺の攻撃は勿論カイルの拳の当たるが一歩も譲ることはない。寧ろ気のせいか相手側の方が優勢?

 

(おかしな…ああ、そうか海の上だからか)

 

 そこで気付く、カイルは船の上特有の揺れに自分の力を乗せ拳を使っているのだ。いくら大きな船といえども揺れはある。

 

 海賊特有の海戦を想定した拳闘。なるほど、どうやら一筋縄ではいかないようだ。

 

 

 さて、どう対策をするか、そう考えた時だ。

 

「ヌッ?」

 

「っと!?海が荒れ始めた…?」

 

 急に船が傾き始めた。バランスを崩しふらりと壁に手を突く。対してカイルの方は辺りを見回しているが体幹がぶれていない。…流石は海賊船長、やはり船の揺れはお手の物か。

 

「……嵐?」

 

 外を見れば先ほどまで快晴だったのが分厚い雲に覆われしかも強風で海は大いに荒れている。どう見ても普通じゃない。

 

 そしてこの事態が起きた原因は一つ。

 

「海賊…!貴様らが」

 

「おい流石にこれは俺達関係ねぇぞ!?」

 

 大ありなんだよこのバカチンが!カイルで忘れていたがヤードさんの事を忘れていた。流石影が薄いと言われてるのに重要なお人、カイルを囮にしてそつなく魔剣を回収したか!

 

 ……あれ?違ったっけ?

 

「ぐっ…むおっ!」

 

「あ」

 

 そんな事を内心で浮かべたからか大きく船が傾き足が廊下から離れ身体が一瞬浮かんだ。大荒れで船体が傾いている中少しでもバランスを崩れれば転がるのも当然で。

 

「うぉぉおおお!?!?!?」

 

 パッリーンッ!

 

 先ほどまで大きい窓だと感心していた、その場所へ体ごと突っ込み……一瞬で船体から投げ出されてしまった。

 

 

 身体が浮遊感を感じ、どうにかするにも力が入らず、そして次の瞬間、冷たさと肌に纏わりつく水の重み。海に落ちたのだ。

 

「がぼぼっぼぁ!?ぶくぶくぶく……」

(海に落ちた!?仕方ないか……)

 

 喋った所で海水を飲む訳だが…ツッコミだけは止まらない。アホなこと言ってないで助かる方法を模索、筋肉は重いのだ。このまま海底紀行なんて御免だ。

 

「がぼっ…べべれれーん……」

(契約の儀式……セイレーン)

 

 土産物屋で買って置いた綺麗な貝殻で手持ちのサモナイト石で召喚。緑の光は術者の呼びかけに素直に応じてくれる。

 

「?…!?」

(すまんが緊急事態!たすけてー)

 

 呼び出されたセイレーンは流石に荒れ狂う海の中で困惑していたがすぐに察してくれた。序盤から支えてくれる実に有能召喚獣だ。  

 

 差し出された手を掴み、さて浮上と言った所で俺は見つけた。

 

(……子供?)

 

 視界が濁って良く見えないが…苦しそうにもがく一人の小さな影、恐らく子供……()()()()()()()

 

 見回しても暗い水中では他に助けに来る人はいない、泳ぎが下手な自分では助けられない。ならするべきことは一つ。

 

 

「……がぼぼぼ。がぼ」

 

「!」

 

「ぼ」

 

 一瞬迷ったがセイレーンは願い通り、女の子を抱きかかえ浮上していく。これであの子は大丈夫だろう。

 

(……終わりか)  

 

 肺に水が入り苦しいを通り越してもはや何も感じない。

 

 体が沈んでいく。暗い視界の中、思考ももうじき消える。不思議と恐怖はなく、後悔はないが申し訳なさが残る。

 

(アズリア隊長、どうか先生と共に)

 

 隊長を想う。今後を考えると自分が居なくなっても問題はないだろうがある程度の救いはあって欲しい。先生さんならどうにかしてくれるはず。

 

 そろそろ限界が近い。思考が途切れる。

 

 

 さらば人生 さらばリィンバウム

 

 すまんギャレオ 俺はここまでだ

 

 

(……ュ……生きろ…よ)

 

 

 

 

 

 

 そうして何にも考えられなくなって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると綺麗な白い砂浜、快晴というべき青い空。聞き心地の良い波の音

 

 

 

 砂浜で目を覚ましました。

 

 

 

 いや、生きてるんかい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事?忘れられた島原作サモンナイト3の舞台に到着しました。島の景観ははっきり言って素晴らしいであります!

 青々しい緑の森に晴れ渡る空、綺麗な海!ぜひバカンスへ!

 数々の萌えキャラが貴方を待ってます!一番かわいいと噂の女性主人公を攻略できないっていう致命的なバグがあるけど!

 

「……ひっひっふー」

 

 深呼吸一つ。落ち着いた。動揺しているときは深呼吸が良いねストラの修行にもなるし。

 

 

 さて、見渡したところで人の気配はなし。流れ着いた物もなし、そして現在地が分からない状況ときている。

 

「歩くか」

 

 まずは隊長及び部下達との合流が急務である。部隊と合流し生存者の把握と負傷者の手当て、物資の状況を確認後そして島の捜索だろうか。 

 

 状況的に言えば割かし絶望的なのに足はどこか軽い、理由は分かってる。なんだかんだ悲惨な事が多いサモンナイトとは言え原作の舞台へとたどり着いたのだ心が浮かれるってもんよ。

 

 今後を考えると鬱になりそうだがな!ガハハ…はぁ。

 

 

 そうして海岸沿いを歩けば漂着物を発見!

 

 見るところによると帝国軍の服を着たワカメが漂着しているであります!

 

「ビジュ?」

 

 ワカメではなかった、緑髪で刺青をしてるビジュが漂着していた。駆け寄り様子を見ると当然のごとく生きていた。

 

 が、気を失っている?……溺れたのか?あれほど俺を馬鹿にしたのにー。

 

 ならするべきことは…うむ!

 

「気道確保ヨシ!」

 

「……?」

 

 鼻を掴み口を開かせる。確かこれで良かったはず。後は大きく息を吸って……ビジュの口へ全力で息を吹き込むのだ!

 

「スゥウウウ!!」

 

「止めろこの馬鹿!」

 

「あおん!」

 

 顔に衝撃、転がる俺、大きく後退するビジュ…そんなひどい、俺は助けようとしただけなのに。

 

「うるせぇ!寝起きにテメェのむさっ苦しい顔が迫ってんだぞ!殺さなかっただけマシと思えこの糞野郎!」

 

「フッ やはりビジュ。そう簡単に死ぬとは思わなかったぞ」

 

「やっぱり死ねこのボケナス!」

 

 蹴りをかましてくるビジュは今日も元気いっぱいだ。善かった良かった。

 

  

 

 

 

「んで、どうするんですかい?副隊長殿?」

 

「むぅ……」

 

 ビジュと一緒に浜辺を歩く事数分、運が良い事にアズリア隊長を発見したのだ!気絶している状態でな!

 

 人工呼吸をすればいいと分かっているのだがアズリア隊長は女性だ。緊急を要すると言えでもやはり腰が引ける。

 

「ビジュぅ…」

 

「やりませんぜ?紫電絶華を喰らいたくないんで」

 

 頼みの綱としてビジュを見たが鼻で嗤われた。嫌よく見ると薄っすら冷や汗をかいている。…そうだよね紫電絶華を偶に喰らってるもんね。誰だってアレ喰らいたくないもんね、俺なら何とか耐えれるけどビジュは肉片になるかもしれないからね。

 

「……!タケちゃんはどうだ?」

 

「気絶している人間に召喚術をぶっ放す発想とか頭がおかしいんじゃないですか?」

 

 ドン引きされた、解せぬ。お前の加虐心一杯の反抗期はどこいった?

 

「タケシーやれ」

 

「ゲレッ!?ゲレレェン…」

 

 流石にタケシーも味方である女性に電撃をくらわすのは気が引けるらしい。あれ?俺が可笑しいのか?

 

「知らねーよ。全部コイツのせいにしろ」

 

「ゲレッ!」

 

 そして俺の責任にすると急に元気になるのどうなの?悲しいんだけど?え、それが信頼の証?…許す!

 

「ぐわっ?……ここは?」

 

 そしてびりっとしたアズリア隊長ご帰還である。スゲーなこの人タケちゃんの弱めたとはいえ電撃喰らってもピンピンしてるなんて。

 

 

 

「海賊の襲撃、部下たちは行方不明に船は恐らく沈没、か」

 

 状況説明後、流石にアズリア隊長も頭が痛くなったようだ。考えてみれば詰んでいるとしかいえない状況だ。

 海賊の襲撃を許し、護送するはずだった魔剣は紛失、しかも客船は恐らく沈没は免れない被害が出てる。

 

 考えたくもない状況だ。

 

「ひとまずは捜索をしましょう。運が良ければ同じように流れついている筈です」

 

「そうだな。わかった捜索を開始するぞ、ギャレオ、ビジュ続け」

 

「了解しました」

 

「へーい」

 

 ひとまずは気を取り直したようだ。しかしこれからの不幸の連続を考えるともう本当にお辛いので悲しさしかない。

 

 

 俺が支えねばならぬ!先生どっちかは知らんけど貴様も同罪だぞ! 

 

 

 

 

 

「隊長!ご無事ですか!」

「ギャレオ副隊長にビジュさんも!ああ、本当によかった」

 

「へっ 運が良かったなてめーら」

 

 そしてさらに島の奥へと続く浜辺を歩いたらそこには見るからに損傷している軍船が漂着していた。周りには部下達もそれぞれ途方に暮れながら、みんな揃っている。

 

「疲れているだろうが、まずは状況を報告しろ」

 

「ハッ!それではまず我々の現在地からですが……」

 

 それからの部下の報告は、まぁ原作通りというか…割かし悲惨な状況だった。

 

 現在地は不明。恐らくどこかの無人島の可能性がある。

 部隊は全員生存している。しかし装備品が悉く紛失しており物資も心もとない。

 船は嵐で島のどこかの岩場にぶつけたのか破損が酷く修理をしなければとてもではないが海へ行けない。

 

「……あまり声を大にして言えませんが酷い状況です」

 

 そうボヤくのも無理はない。当初の予定では剣の護送自体それほど危険性が無かったはずで、あくまでも陸路で襲撃が来ると思っていたのだから。

 それがまぁ無人島に漂流だなんて、踏んだり蹴ったりである。

 

「皆が生きていた。まずはそこを喜ぼう」

 

「ギャレオ副隊長…」

 

 だが幸いにも部隊全員が無事だった、そう言えば何やらジーンと感動した目を向けてくる。やめんかそれはアズリア隊長へ向けろ。

 

「だがこのままって訳にもいかないでしょう。どうしますかアズリア隊長」

 

「まずは野営地を設置。それからもう一度物資や装備品の確認をしよう」

 

 ビジュのどうするという問いにアズリア隊長は即決した。まぁまずは生きる為に行動ですよね。

 

 

 

 そこからひとまず急ごしらえではあるが野営地を設立した。船はボロボロでまともな部屋は少なかったがひとまず船長室だけは使えることが判明、そこをアズリア隊長の部屋にすることにした。

 

 女性であるし何より隊長が部屋無しというのも非常に不味いのである。

 

 

 俺やビジュは部下達と一緒に雑魚寝。雨風がしのげるようテントも設置した。軍人としてサバイバル科目は必須技能であるがまさかこんな所で使う事になるとは、と部下がぼやいていた。

 

「……まぁ秘密基地を作ると思えばいいだろう」

「それはギャレオ副隊長だけですよ」

「そうか?そうかもしれんな」

「子供っぽいですね副隊長は」

「ロマンを忘れていないだけだ」

 

 と、部下達と雑談しながら作る夕飯はまぁ全然量が足りなかったが少しばかり楽しかった。

 

 

 と、そんなこんなで夜になった。船の修繕行動やらなんやらで時間が足りねぇってのはこういう事なんだよね。

 

「隊長、お身体の方は平気ですか?」

 

「ギャレオか。ああ平気だ」

 

 アズリア隊長とは明日の行動を話していた。一応決まったのが島の捜索班と、船の修繕班。そして食料調達班の3つに割り振りをするとかそういう話だ。

 

「まさかこうなるとは思いもしませんでしたね」

 

「全くだ。…襲撃の予想をしておくべきだったな」

 

 少し俯いたその顔は疲労からか影が差していた。今日1日の疲れが溜まっているのだろう、早めに休んでほしい。

 

「こればっかりは分かりませんよ。海賊からの次は嵐なんて」

 

「私たちが乗っていた船は……」

 

 沈んだ可能性がある。原作では分かりようがなかったが体験して分かる、あの嵐では船は沈んだ可能性が高いと。

 

 船は襲撃され、沈没。剣は紛失。これだけでも失態の数が多いのに…気が重い。せめて確定事項の一つでも出そう。

 

「……多分ですが弟君は大丈夫ですよ。恐らく直ぐに合流できるはずです」

 

「……顔に出していたか?」

 

「いえ、きっとアズリア隊長なら心配してるとそう思っただけです」

 

 実際イスラは島に流れ着いているはずだ。まだ合流できていないが、恐らく記憶喪失のふりをして島の住人へ溶け込むのだろう。

 慰められてると分かったのだろう、隊長は苦笑を浮かべると礼を言った。

 

「すまんな、隊長として弱気な所を見せる気はなかったのだが」

 

「お気になさらず。では、お早めにお休みください」

 

「ああそういうギャレオもな」

 

 一礼して部屋から出ていく。せめて少しでも隊長の不安が軽減してくれればいいが。

 

 

 

 

「ビジュ、そういう事で明日は島の探索を頼んだぞ」

 

「へいへい。了解しましたよっと」

 

 ビジュは疲れと呆れの混じった顔で薄く小馬鹿にしたように言うだけだ。何だかんだでビジュも遭難したこの状況に参っているのだろうか。

 

「副隊長殿は随分と落ち着いていますねぇ」

 

「…ああ、非常に不謹慎だが未知の島という事でワクワクが抑えられないでいる」

 

 素直に心情を吐露すればいけ好かない様に舌打ちをした。そりゃそうか遭難したのにまったく気にしていないなんておかしいと思うしかない。

 

「そういう事言ったら軍法会議物ですよ。つーかアンタがそう言ってどうするんですか」

 

「すまん。ビジュの前ではどうにも口が軽くなる」

 

「ケッ」

 

 馬鹿を見るような目で見られた。しゃーないやんけ自分でも驚くほど俺は頭が悪いのだ。良くこれで軍人名乗れるよね。

 

「それとビジュ。前からずっと思ってたのだが」

 

「あんですか」

 

「俺と二人きりの時はため口で良いぞ」

 

 そもそもビジュからの丁寧語なんて痒くて仕方がない。部隊として行動しているときはまだ我慢できるが、せめて二人の時ぐらいは楽にはしてほしかった。

 

「……副隊長殿は本当に成長しておられないようで」

 

「全くだ。自分でも嫌になる」

 

「チッ!」

 

 今度は舌打ちと共に蹴りが飛んできた。膝に当たって痛いが蹲るほどではない。眉を動かす程度だ。ガハハ。 

 

「…精々野生に帰らないでくださいよ」 

 

「善処する」

 

 大きな溜息と共に自分の寝場所へと去っていくビジュ。迷惑しかかけていない気がして本当に申し訳ない。

 

 

 

 

 

 

 

 月を見る。地球では考えられないようなきれいで大きな月。

 

 今頃先生さんは生徒か海賊一家の誰かと夜会話でもしてるのだろうか?

 

 そんな主人公サイドの敵として漂着した俺は如何すべきか、どう関わるべきか。

 

 捨てられたような状況の帝国軍海戦隊第6部隊はどのような道を往くのか。

 

 思えば敵だった帝国軍人の人らはこう考えると中々の悲惨な状況だったんだな。

 

 

 なんてそんな事を考えながら忘れられた島での1日を終えるのだった。

 

 

 

 




帝国軍は魔剣を回収した後どうやって島から出る予定だったんでしょうかね?
本当に謎だらけなので捏造させてもらいました
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