遅れてきた直接攻撃の……   作:灰色の空

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このお話を読む前にイスラルートのお話(選択肢分岐後)を見るのを強く推奨します。
今のご時世動画を探せばどこかにあるとは思いますので何卒よろしくお願い申し上げます…


イスラ

 

 

 

 見誤っていた。なんて言葉を使う者は誰もいない。分かりきっていたからだ。

 

 だが、流石に想像以上だとは誰もが思った。

 

「なぁ。アイツら3人で良くね?」

 

「ムゥ…」

 

 思わずボヤいてしまったのはカイルで、困ったような返事を返すのはファルゼンだ。

 

 レックスたちにとっての頼れる前衛の二枚看板。剛腕を持つ海賊船長であるカイルとその重厚な鎧によって後衛たちを護り切るファルゼン。

 

 今までずっと二人で最前線を突っ走ってきた二人だからこそ何とも言えない微妙な顔になってしまうのだ。頼りになるといえればそれまでだが。

 

「思えばアイツ等と揃って戦うのはこれが始めてなのか」

 

 ギャレオとビジュとレシィ。考えればこの3人が味方の陣営にいるのはこれが初めてだ。ビジュが無色に埋伏していた時やレシィを参戦させないなどで揃う事が無かったのだ。

 

 前回の無色の決戦はそれぞれ役割がある為に一緒では無かった。そして今回はイスラに向かうため、ほぼ一本道の階段状の道を突破する戦いだ。

 

 事前にギャレオが言ったように先陣を切るのはギャレオとビジュの帝国の二枚看板。そしてそれらを援護するレシィ。

 

 そんな3人を見て思わずボヤいたカイルだったのだ。

 

「ソウダトシテモ。我々ガ戦ワナイ理由ニハナラナイ」

 

「ああ、そうだな。すまんちっと意表を突かれただけだ」

 

「気ニスルナ」

 

 中身を知っているとなんだかなとは思うがファルゼンは頼もしい仲間だ。カイルはもう一度気を引き締めて亡霊達へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ。鍛え方が足りんな!来世で鍛え直せ!」

 

「ヒヒッ!こいつらには来世が無いってのに酷い野郎だぜ!」

 

「なら眠らせてあげましょう」 

 

 

 亡霊たちとぶつかる最前線に立つのは2人。ギャレオとビジュ。帝国軍の要でありアズリアの腹心たち。

 

 亡霊たちはその身が幽体となっておりまた装備品も生前の物で中々に高品質なものだった。それが数を群れ成して襲い掛かって来るのだ。

 

「ウォォォオオオ……!!!」

 

「恐れを忘れたか?哀れだな」

 

 斧を携えた亡霊がギャレオに襲い掛かる。その上段の大振りをするりと躱すとギャレオの右こぶしが亡霊の顔面に炸裂…どころか貫通してしまった。

 

「ヴォ!?」

 

 一撃だった。一撃で生前は屈強な兵士だったであろう亡霊はそのまま首から上を失くし、フラフラとふらついて消滅してしまった。

 

「む?」

 

 訝しむギャレオに続けて大剣を持った亡霊が襲い掛かって来るがギャレオの拳は心臓に目がけて放たれる。そして案の定体を貫通した。

 

「オォォ……?」

 

 体に突き刺さった太い腕を見て不思議そうに首を傾げ、そのまま亡霊は武器を取りこぼし消滅した。あっけなさ過ぎる消え方だった。

 

 突撃する。亡霊たちが群がるがギャレオが腕を振る度にちぎれ飛んでいく。亡霊体とは何だったのか。ギャレオはしみじみと呟いた。

 

 

「可哀想に、なんと柔な身体だ…」

 

 

「馬鹿力が阿保言うんじゃねぇよ」

 

 冷静に突っ込んでいるビジュだが彼もまた一刀一振りで亡霊たちを切り捨てていく。

 ギャレオのように立ち止まるのではなく機動力を生かしすれ違いざまに切り捨てていく。狙うは首や腕…関節などの柔い所だ。

 

「タケシー」

 

「ゲレレッ」

 

 悪戯雷精霊を召喚。何も言わずとも刀にサプレスの雷が宿る。紫電の刀が鎧を越えて亡霊を切り裂いていく。その太刀筋はキュウマの忍びの技と似ていた。

 

 亡霊兵士たちは何も自分たちのいる階段状だけではない。周りにはどういった原理か浮いた足場がある。

 そこには弓や銃を持った亡霊たちが居て遠距離から攻撃してくるのだ。

 

「ハッ 小賢しい事しか出来ねぇってか?」

 

 ビジュは助走をつけてその足場に飛び乗り亡霊たちを切り捨てていく。首や胴体を躊躇なく切れば雷はその軌道と合わせて斬撃を発生させる。

 

 浮いた足場を利用しビジュは亡霊達に向かって投具を放つ。その投具にもまた雷が纏っており命中した亡霊たちが霧散していく。

 

 刀と投具に雷を纏わせ機動力を生かし数を減らしていく。

 

「サプレスの術は奴らに効きにくいのでは?」

 

「逆だ。サプレスだから効くんだ」

 

「…な、なるほど?」

 

 ギャレオと合流し亡霊を屠っていく。ふとギャレオが気にしたのは戦う敵はサプレス属性に耐性を持つ亡霊なのになぜ、タケシーの雷が効いているのかの疑問だったが。

 

 まぁタケシーとビジュだからと一人納得した。

 

 そうやって話をしている間にも亡霊達はやって来る。次に来たのは獣に似た亡霊獣だ。骨だけでありながらも四足獣の体は大きい。

 

「ぬおっ!?」

 

 そして何よりも暗黒の弾を放ってくるのだ。これには流石のギャレオも無防備に受ける訳にはいかなかった。

 

「ポックルさん!」

 

 そのギャレオが仰け反ったのを見て先ほどまで補助に動いていたレシィが前に出る。召喚術にて呼び寄せるのは自分が初めて呼び出した小さな森の精霊。

 

「『アタックナッツ』!」

 

 呼び出された小さな精霊は手に持った木の実を亡霊獣に対して投げつける。勿論ポックルは低級召喚獣であるため威力は低くレシィ自身もマルルゥほど召喚士として優れているわけでもない。

 

「GYA!」

 

 だが、それでいいのだ。ほんの一瞬だけでも気を逸らせれば。

 

「どっせい!」

 

 助走をつけたギャレオのドロップキックが亡霊獣を押しつぶす。ギャレオの巨体に合わせて助走をつけた勢いだ。そのままギャレオに押しつぶされて亡霊獣は昇天した。

 

「ふふっ さぁこのまま突っ切るぞ!」

 

「はい!」

 

 ギャレオはレシィに礼を言わない。サポートを全面的に頼っているしレシィもまたギャレオに攻撃のすべてを任せているのだ。

 

「…は。全く」

 

 その主従関係にビジュは何も言わない。勝てればそれで良いからだ。

 そもそも援護していたはずのタケシーは飽きたのか、そのままフラフラと()()()()()()()()()()()のだし。

 

 

「そろそろあの糞餓鬼だ。肚くくれよ」

 

 ビジュの一声にギャレオは亡霊たちを蹴散らしながら更に勢いをつけて走り出し。レシィは邪魔にならない様に後ろへと下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かってはいたけどさぁ…分かっていたけどお前らマジで何なんだよ」

 

 イスラは最上段の奥で理不尽なまで目の前で暴れ回る軍人達に大きな溜息と煮えたぎるような怒りを同時に出した。

 

「あ?只の帝国軍人だ」

 

「加えて問題児集団の筆頭だ」

 

「それはテメーだけだ」

 

「む?」 

 

 抜剣覚醒している以上、その出鱈目な力具合は知ってるはずなのに、それなのにふざける余裕具合。

 イスラの中で警戒度よりも怒りが湧き上がるのは仕方のない事だった。

 

 目の前に立ちはだかった二人に魔剣を向ける。殺気は止まらない。

 

「止めとけクソガキ。コイツ相手に常識を語るのは徒労に終わるぞ」

 

「そうだぞイスラ。今ならケツ叩きで勘弁してやる。戻って来い」

 

 あろう事か脚を止めビジュはうんざりした様子で肩をすくめギャレオに至ってはその手でブンブンと叩く動作をしていた。動作が早すぎて音を割っていた。

 

「舐めてるの僕を?」

 

「見て分かんねーのか?」

 

 ビジュは見下したように嗤い。

 

「そんな事は無いぞ。ただまぁガチでキレたレックスよりは幾分か劣るなと」

 

 ギャレオは素でそう言い切った。それが開戦の合図だった。

 

「はぁあああ!!!」

 

 魔剣紅の暴君を全力で振るう。余力や後の事を考えない相手を殺害するための力をイスラは全力で振るう。

 

「おっと。へっ 坊ちゃんにしてはまぁまぁか?」

 

 ビジュはひらりと避ける。魔剣の斬撃は紅くそして魔力を纏った物。紫電の刀で受けることはせず避けることを重視する。

 煽ってはいるもののイスラの殺意は本物であることは十分に理解してるからだ。

 

「あっちへこっちへ蝙蝠男は随分と身軽だねっ!」

 

「仕事だからな。そう言うテメェは?何がしたい?」

 

「アンタを殺したいって事さ!」

 

 剣の振りを交えて召喚術を行使する。魔剣の力を使えば白兵戦と同時に召喚術さえも両立できた。

 

「消し飛ばせ!『ブラックラック』」

 

 呼び出すのは沈黙と恐怖を司る悪魔。髑髏の集合体がその目を光らせる。瞬きと共に魔力の光がビジュを襲う。

 

「チッ 魔剣の力か」

 

 威力は以前見た物よりも格段にあがってる。それもそのはず魔剣は魔力を上昇させる魔道具として非常に優秀な品でもあるからだ。

 

「ガキ。言っておくぞ。好きなだけ暴れるの構わねぇ。テメェにはそれだけの力があるって事だからだ」

 

「何だよ。あれだけ力こそが絶対とか宣ってたのに。そんなこと言うんだ」

 

 無色に裏切ったのは力こそが絶対だからと言ってたビジュ。それを非難したイスラだがビジュは薄く笑ったままだ。

 

「だから忠告してるんだ、テメェじゃ不可能だってな」

 

「この僕のどこが不可能だなんて!」

 

 魔剣の力、その出力を上げる。流石にこの威力にはビジュも紫電の刀で相殺するしかない。魔力と斬撃の嵐を己の技量で以て防いでいく。

 

「ま、そろそろ現実を知るときが来たって事だ。貧弱な子供(ガキ)は一方的に嬲られるだけだと」 

 

「ほざくなぁああ!!」

 

 散々煽られたことでイスラの怒声が響きわたる。だがそれが大きな隙となった。

 

「そうはさせん!」

 

「チッ!」

 

 そうしてイスラの目の前のビジュに釘付けになった時横から跳び蹴りをかましてきたのはもちろんギャレオだった。

 

「アンタはそうやっていつも邪魔してきてさぁ!いい加減目障りなんだよ!」

 

「つれない事を言うな。傷つくぞ」

 

 殺意により顔が豹変しているイスラの魔剣をギャレオは全力で躱す。ストラを使いたくない現状攻撃を受けることはしたくなかった。

 

「全く困った子供だ。そろそろお灸をすえねばならんが…」

 

「馬鹿にしてぇぇえ!!」

 

 だが煽りは忘れない。馬鹿にしているわけでもないがヘイトを集めておきたかった。レックスとアズリアがやってくるその時までイスラを抑える必要があったのだ。

 

「イスラ。お前には色々と言いたいことがあるが…まぁいい。聞きたいのは一つだけだ」

 

 言葉と同時に距離を離すために魔剣を振るうイスラに無理矢理蹴りを一撃放つ。流石にこれにはストラを纏い割り込ませた。必ずイスラに聞かせる為に。

 

 

「お前の願いとやらで俺の可愛い部下達が死にそうになった。……その事についてだ」

 

 ふぅと息を吸い、そして言い放った。

 

 

「自分の願いとやらで他者を巻き込む事に対しての申し開きはあるか?」

 

 

 その声と共に瞬間的に殺気が放たれる。無色と相対した時のような圧がギャレオからにじみ出る。

 というより明確な怒りがあった。返答次第では今後の対応を変えると物語っている。

 

 

 

「答えろイスラ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

「……」

 

 その問いにイスラはほんの一瞬だが瞑目した。戦いにおける僅かなソレを見たギャレオはふぅと息を吐いた。

 

「……部下達はお前の裏切りを若気の至りと。それだけだった。大人だな。俺には無理だ」

 

「僕には関係のない話だ」

 

「ああ、そうだ。襲ったのは無色であってお前ではないのだからな」

 

 だが手引きしたのはお前だろう?とギャレオは口に出しそうになったがやめた。これ以上責任の追及をしても今は何も答えないと分かっているからだ。

 

 今目の前にいるのは帝国諜報部員イスラ・レヴィノスでも無ければ無色の構成員イスラでも無い。

 ただ自分の思い通りならずに癇癪を起している只の子供なのだから。

 

 

「全力で来いイスラ。そしてその無力さを知れ」

 

「言われなくても…!!」

 

 

 イスラの力が高まる。ギャレオの問いに答えるかのように魔剣が紅く轟き輝く。  

 

 

 イスラの渾身の必殺技『邪剣・凄火燎原』

 

 それが魔剣の力によって『覚醒剣・暴君蹂躙』へと変貌した。イスラの切り札のうちの一つ。

 

 

 ギャレオはそれを正確に見抜き受けようとして防御を固め、

 

 

 

 

 

 イスラは魔剣を振り切った。

 

 

 

 

(獲った!…いや、何の感触も…)

 

 振り切ったその魔剣には憎いアンチクショウを切った手ごたえがなく何か素通りしてしまった気配があった。

 

 

「うむ。素晴らしい振り抜きだ」

「ありゃー奥の手だろうな」

 

(…?)

 

 何か呑気な声が下から聞こえる。先ほどまで同じ場所にいたのに。

 

 そしてなによりも視界が高い。遠くでカイル達が驚いた顔をしている。

 

 

「んな!?」

 

 そしてイスラは気が付いた。自分の足元に人の背丈ほどもある巨大な拳のような物があって。*1

 それが踏み台の要領になって自分の位置が高くなり剣が空振りしてしまったことを。*2

 

 

「当たれば致命傷だったな」

「流石のテメェでも無理か」

「うむ。あえなく両断されて終わりだ」

「へぇー案外無敵じゃないんだな」

 

 そして眼下にはこちらを見て馬鹿みたいな呑気な声を出している馬鹿2人が居てギャレオの拳にはきらりと光る無色のサモナイト石があって…

 

「ま、当たらなければどうという事は無いな」

 

「だな。で、盛大に空ぶった所を見られてどんな気分だ」

 

 盛大に煽られていることに気が付いた。

 

 

「~~~~!!!!」

 

 遠くからレックスや姉に自分の盛大な空振りを見られたイスラ。湧き上がる羞恥心と眼下の馬鹿共への怒りによって無意識にもう一つの切り札を使うことにした 

 

 

「は、はははは……消えろぉおおお!!!」

 

 イスラの叫びによって赤黒い魔力がサモナイト石へと注ぎ込まれる。

 

 それは魔剣を持つ適格者と限られた高位召喚士(オルドレイク)のみが出来る限界を超えた召喚術『暴走召喚術』

 従来の召喚術の威力を無視した技術であり絶大な威力となるように底上げする代わりにサモナイト石が砕け散るという奥の手だった。

 

 

「あ、マズ」

「はぁ」

 

 それをギャレオとビジュに当てようとして…サプレスの高位天使の盾が召喚術を遮った。

 

 

「待たせたなギャレオ。ビジュ」

 

「イスラ。君を止める。――必ず」

 

 現れたのは聖天使ロティエルを呼び出したアズリアと抜剣覚醒したレックスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 煽って煽って煽りまくってちょっとヤバかった時絶好のタイミングで駆けつけてくれるのは流石主人公とヒロイン。

 いや隊長がヒロインかどうかまでは俺は知らないけどね。おせっかい焼くけど。

 

 抜剣者同士の激突、それに負けじと食らいついていく隊長。これはもう勝ったも同然ですね。悪いけど慢心しますわ。

 

 

「さて。悪いが俺は戦線離脱するぞ」

 

「あ?」

 

「ストラを練り上げる。この時の為に備えたストラを」

 

「……好きにしな」

 

 説明すれば何故か頬の刺青を触ったビジュ。ふと懐かしくなり声が明るくなる。

 

「ありがとう」

 

「何がだ」

 

 これから起こすことは巡り巡ってビジュがいたからできる芸当なのだ。

 

「お前のお陰だ」

 

「……はぁ」

 

 心底馬鹿を見たような溜息を吐かれたのを尻目に俺は後退。

 他の仲間たちは…まぁ気にしなくても良いか。それなりに頑張ったんだし納得してほしい。

 

 

 という事で敵地のど真ん中ではあるが目を瞑り集中集中っと。ちなみに亡霊たちはカイル達が根こそぎ倒してくれました。感謝!

 

 

「スゥ――……ハァーーー」

 

 丹田に魔力を籠め練り上げる様に……全身の血液が巡り回り循環するかのように…… 

 

 呼吸の一つ一つを丁寧に……俺の中の魂を心臓のようにポンプ代わりにして……

 

 

 時間をかけてもいい。俺のストラを高め…そして信じる為に。

 

 

「君の本当の願いを教えてくれないか?」

 

 レックスの声が聞こえる。気が付けば戦闘音は何も聞こえなかった事からして決着がついたのだろう。

 

 という事はイスラの魔剣は壊れてはおらずともボロボロか…

 

 しかしそうか。それを言えたって事はちゃんと積み重ねてきたんだな。感心感心。でもここからが本番だ。

 

「遺跡の力を手に入れるなんて本当は君にとって、どうでも良い事なんだろう」

 

 レックスの声が聞こえる。薄々感づいている言い方だ。根拠は同じ魔剣に選ばれた者。同じ魂の輝きを持つ者その表と裏部分でしかない。

 

「不愉快だよ!何で僕がお前みたいな偽善者と一緒にされるんだよっ!」

 

「同じじゃないか。本音を隠すために笑いの仮面をかぶっている所なんてそっくりだ」

 

 それを自分で言うのか…似た者同士だと思うからそう言えるのか。

   

 そこまで言い切ったからだろう。イスラはなんかどうしようもなくひとしきり笑ってから、漸く己の目的を話し始めた。

 

「…僕の望みは好き放題使える力でも人並みに暮らせる肉体でもない。ずっとずっとベッドの中にいた時から願い続けてきたことは一つだけ……」

 

 

「僕がこの世界から消えてなくなってしまえばいいって事だけなんだよ!!」

 

 自分が死ぬこと。それがイスラの望みだった。

 

 

 

 魔剣を持たないイスラは誰かの手を借りなければ一日を無事に過ごすこともできない要介護者だった。

 病魔の呪いによって回復する見込みなんてなくずっとベッドで寝た切り。

 

 勘違いしてはいけないのだがイスラはそれで死にたくなったのではない。

 

「…消えてしまいたかった」

 

 ひとしきり嗤って、呟かれるのは彼の本音。ずっと心の奥底に閉じ込めていた彼の心の本質だ。

 

「他人に迷惑だけをかけながら生きている自分。何の役にも立たない出来損ないの自分。…もう嫌なんだっ!僕のせいで、誰かに辛い思いや迷惑をかけるのは…!!」

 

 介護を受けなければ生きていけない。罪悪感が募るだけの毎日。恐らくだが影で陰口なども言われたのだろう。

 まだ若い身の上で生涯そう言われ続けると思えば嫌な人生だなと思う。安っぽい同情でしかないがな。

 

 それぐらいなら自分を殺したいとイスラは自殺を何度も図ったが、それは苦しいだけで無駄に終わった。

 短剣で心臓を刺し血を流し猛毒を飲んでも、死ぬことは無い。 

 

 病魔の呪いとは断末魔の苦しみを永遠に繰り返し与える事。だから自殺しようとも無理矢理回復させ苦痛だけが残る。

 外道の所業だ。

 

「だから僕はずっと考えたよ。如何すれば楽になることが出来るのか。そんな時にあの男は現れた」

 

 ベッドの上に縛られ続けているイスラに接近したのはオルドレイクだ。自分で思うように体を動かせられる様にする代わりに無色の手先になる様にイスラを誘い込んだ。

 

 ………帝国のそれなりの名家レヴィノス家に堂々と入ってのけるオルドレイクとか想像するとめっちゃ嫌なんですけど! 

 

 おい警備体制どうなってんだよ!テロリストが普通に入り込んでいるじゃねーか!!しかもその無色を取り締まる家にセルボルト家の長が入っちゃってるし!

 

「ああそうさ知っているさ!病魔の呪いをかけたのは無色だってね!だけどそう言われて断れる人間が本当にいると思うのか!?」

 

 無色がかけた呪いを解く代わりに無色の手先になれ。酷いマッチポンプだ。 

 

「実際にあの苦しみを味わったことのない奴にはわかる筈がないんだ!」

 

 それはそう。俺はずっと健常に動けてきたから。他の奴らだってそうだろう。これは生まれた時からずっとベッドに縛られた者にしかわからない苦しみだ。

 

「行きたい所に自分の脚で行ける自由。食べたいものを食べて死の発作にも怯えずぐっすりと眠ることができる自由…君達にしてみれば当たり前であることが僕にとっては全部幸せだったんだ!!」

 

 

 ……俺は何も言えん。たとえ理不尽にこの世界に呼ばれた者だとしてもそれとはまた別の苦しみなのだから。

 

 

 そうしてイスラは無色の手先となったが変わりに失うものだって大きかった。ずっと自分を心配してくれている家族…特に姉を騙すという事。ばれてしまうのは本当に恐かったのだと。

 

 積み重なる罪悪感に苦しんだイスラは死ぬことを探し続け、そして見つけた。それが魔剣だった。凄まじい力を持つ魔剣なら呪いを打ち破って死ねるとそう判断した。

 

 実際カルマルートでは死ねたのだからその判断はあながち間違いではなかったのだろう。…だが魔剣で死ぬのには障害が多すぎた。

 

 その一つが魔剣が意思を持っており使い手の命を守ろうとする事だった。適格者となった事で増々死ねない躰になってしまったと。

 

 そしてレックスと出会い、魔剣同士の戦いなら適格者の命を奪うのも不可能ではないと知ったが…

 

「そうだよっ!僕は最初から君に殺してもらおうと思ったんだ!……なのに何なんだよ…君とは戦いたくないなんてさぁ…」

 

 そして二つ目がよりによって魔剣に選ばれたのは人を殺したくない生粋の善人であるレックスだったのだ。

 

 だからイスラは裏切り憎まれるような口を開きずっと挑発をし続けた。ただレックスに殺されるがために。

 

「姉さんのことだってそうさ…ああやって裏切ればきっと僕を憎むって思ったんだよッ!徹底的に嫌われれば僕が死んだところで姉さんは泣かなくて済むじゃないかッ!」

 

 悲痛な声でそう叫ぶイスラ。姉想いの弟は自分が嫌われてしまえば姉は泣かなくて済むとそう判断してしまったのだ。

 

「なのにさぁ…なのに!レックス!君はどうして僕を殺してくれないんだよぉお!!」

 

 ……泣き叫ぶなよ。俺の中のストラが…自分でも怖いくらいに精度が高まってくるじゃねぇかよッ!

 

「嫌なんだよ…僕のせいで周りの皆を辛い目に遭わせるのは……姉さんだって、僕さえまともなら軍人になんてっ…きっと…」

 

 自分のせいで軍人になってしまった姉。所々軍人には向いていないのはこの島に来てから証明されてる。ボロが出てしまったともいえる。

 

 

 

 あの?さっきも聞いたけどその君の目的のせいで死にそうになった部下達は?原作では死んでしまった帝国軍人の方々が浮かばれない……ア、ハイ。すみません黙ってますね…。

 

 

 

 

「僕を殺してくださいっ!僕は皆を不幸にするだけなんだよっ!呪われた要らない子供なんだよ!」

 

 

 

「生きてちゃいけない存在なんだよぉおおおっっ!!」

 

 

 

 ドゴンッ!!

 

 

 あ、なんか凄い音がした。恐らくレックスが鉄拳制裁した音。目を開ければイスラが可哀想なぐらいに吹っ飛んでいた。

 

「もう一度言ってみろよ。生きてちゃいけない?呪われた要らない子供だって?」

 

 あ、レックスが本気でキレてる。表情は素面なのに滅茶苦茶怒ってますやん。絶対に手を上げないそんな普段温厚な人が怒ると迫力あるって本当だよね。チビりそうな圧があるんだけど!?

 

「誰かが君に向かってそう言ったのか?違うだろ!そんなの君が勝手に思い込んでるだけの事だろう!」

 

「う……あ…」

 

 実際は使用人の誰かが陰で思っててもおかしくはないと思う。看護疲れとかでね。でもそう言う話じゃないよね。

 

「イスラ。残念だろうけど俺は君を殺したりはしない。それが気にくわないというのなら何度でもぶつかってくればいい」

 

 何というか父親みたいな叱咤だな。怒りがあるのなら受け止めようとするところが。…確かアティだったら憎んでも嫌っても良いというんだったか?

 

「だけどこれだけはちゃんとわかってほしいんだ。君がどれだけ迷惑をかけても、憎まれ口をたたいても…君がいなくなったら悲しむ人はこうしてここにいるっていう事を」

 

「うぅ…っ……うう」

 

 レックスとイスラの見る先には滂沱の涙を流す隊長が。……隊長に泣かれると俺非常に辛いんですが。

 

「ムッ!?」

 

 あ、隊長の涙を見たせいでまたストラの練度が高まった。そろそろ溢れそう。おもらし厳禁!丁寧に丁寧に練る。

 

「ねえ…さん…泣かないで…お願いだから…」

 

「やり直そうイスラ。今度は俺達も手伝うからさ」

 

「レックス…」

 

「一緒に見つけるんだ。君に掛けられた呪いを解く方法を…もっとたくさんの幸せを見つけだしていけるように」

 

「う……ん…っ」

 

 こうして話はまとまりました。思いのたけを吐き出しイスラの本当の願いを聞いてレックスは手を差し伸べることができるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごバァッ!?

 

 なんてイスラがいきなり吐血するまでは完全にハッピーエンドだったんですがね。

 

 

 

 さて。正念場はもうすぐ。

 

 

 

 

 

 

*1
『巨像の拳。高さ3段の踏み台を作る』

*2
『イスラの横切りは下2段までしか届かない』




声を聴かないと彼の隠していた本音が上手く伝わらない様な気がするのです。
そんな声優さんて本当に凄ぇ!と思ったあの頃。今聞いても凄いとしか思えない。
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