遅れてきた直接攻撃の……   作:灰色の空

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この物語をここまで読んだら大体予想がつくとは思われますが念のためです。

心の準備が出来たのならごゆっくりとお読みください。


人命救助

 

 

 

 

 

 

 

 イスラの本当の願いを聞きレックスの説得により和解。これで戦いが終わったと誰もがそう思った時だった。

 

「ごバァッ!?」

 

「イスラ!?」

 

 突然イスラが吐血をしたのだ。それも吐き出した血の量からして明らかにただ事ではないことが見て取れた。

 

「ち…血?…。なん、で…?ぐふっ!?ガッ!ギッ……ぐぎぁあアアアアッッ!?」

 

 傷が塞がっていたはずのイスラから血が噴き出てきたのだ。それも全身から。瞬く間にイスラは己の血によって全身が赤く染まる。

 

「しっかりしろ!しっかりして、イスラぁああ!!」

 

 弟の突然の吐血及び全身からの血の放出にアズリアは錯乱するばかりだった。ようやく素直に本心をさらけ出し和解できた弟の吐血。無理もない話だった。

 

「どいてください!」

 

 錯乱するアズリアを押しのけたのはヤード。すぐさまサプレスの回復能力がある召喚獣を呼び出しイスラの治療を試みるが…

 

「あ、が…ガ…ッ」

 

「そんなバカな!?召喚術での治癒が追いつかない!?」

 

 ヤードの召喚術でもイスラの負傷は治らない。傷は増え続け血は流れ続けている。

 

「血圧、体温、ものすごい勢いで下降してます。このままでは確実に患者の生命活動は停止いたします!」

 

 クノンがイスラの容体を視る。看護人形であるクノンの報告はイスラが今死にかけているという事を正確に把握した。

 

「……畜生!?ストラでも駄目なのか!?」

 

 ヤードに続いてカイルがイスラにストラを掛ける。がその効果は余りにも焼け石に水だった。

 

「何とかなんないの!?ねぇ!」

 

「ニコニコさぁん…」

 

「しっかりしろよ!イスラぁ!!」

 

 ソノラが叫ぶ。マルルゥが今にも泣きだしそうに気遣う。スバルがほぼ泣きながら叫んだ。

 

 余りにも急な状況に困惑するレックス達。その時だった、その慌てふためく者達を嘲笑する嗤い声が響いたのは。

 

 

 

 

「ふははははっ!無駄だ無駄だ!足掻いたところでそいつの命はもはや助かりはせんぞ!」

 

「オルドレイク…セルボルト…」

 

「部下を連れずに何しに来たんだ?」

 

 現れたのは無色の導師オルドレイク・セルボルトだった。つい先日レックス達に散々打ちのめされて撤退した筈の男だった。

 

「コイツはテメェの仕業なのか!?」

 

「ああ、そうだとも。ただし…あくまでも我はきっかけを与えたに過ぎぬがな」

 

 そうしてオルドレイクは高らかに謳いあげる。イスラに何が起こっているのか絶望するレックス達をあざ笑うかのように。

 

「説明すんのかよ…」

 

 イスラに元々掛けられていた病魔の呪い。それは無色の派閥の先師によって呪いをかけられたもの。

 

 イスラはオルドレイクに忠誠を誓ったことで病魔を鎮める事が出来た。解呪されたわけではないのがポイントだ。

 

 そしてその呪いを鎮めることができるのは死霊の女王の名を持つツェリーヌの治療があってこそだった。

 

「だが剣の力によって小僧は呪いを抑え込み、増長した挙句に我らを裏切った!!」

 

「忠誠を信じて疑わなかったのか?おめでたい奴」

「ビジュさん。言っちゃ駄目ですってば」

 

 そしてオルドレイクは待っていた。イスラの魔剣が自己修復に時間が掛かる状態…つまりレックス達に負けるその時を待っていたのだった。

 

「レックス貴様のお陰だ。剣の力が失われた今傷だらけの小僧の命は皮肉にも呪いによって保たれていた。それを解いてやればどうなると思うかね?」

 

「反動なのでしょう。病魔に蝕まれ続けてきたというイスラの身体が人並みに丈夫である訳がない。にもかかわらず彼は剣の力へと身を任せて休む間もなく肉体を行使続けてきた」

 

 フレイズの見立て。それはまさしく正確にイスラの身体の反動を物語っていた。

 

「剣がもたらす活力を失った今彼の身体はその反動で崩壊しようとしているのです。そして…」

 

「死ねない呪いが解けたことでギリギリ保たれていた彼の命も失われていく」

 

 それがイスラが今死にかけている原因だった。血を吐き散らし吹き出し、徐々に死にゆく者の末路。 

 

 

「ふはははは!!その通りご名答だ!改めて礼を言うぞレックス。貴様が紅の暴君を消してくれたおかげで裏切者を制裁できたのだからなぁ」

 

「結局嫁が居ねぇと何も出来ねぇッて話だな」

「ビジュさん呆れていないで警戒をして下さいよぉ」

 

「ふはっははーー!!はぁーーーーはははっ!!」

 

 レックスの戦いの結果がイスラの死につながる。

 それが可笑しくて滑稽でそして瀕死になったイスラにオルドレイクは満足していた。

 

 

 

 故に、油断していた。まさかそんな自分の後ろに一匹の悪戯好きな精霊がふわふわと迫っている事なんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タケシーは悪戯雷精霊である。オマケに食い意地も張っている。

 

 主であるビジュに呼び出されて絶好調気分で雷をビジュの刀に付与して。

 そうしてビジュがバッサバッサと亡霊たちを切り捨てていくのを観戦して楽しんでいた。

 

 ビジュの相手は亡霊たち。普通のサプレスの召喚術では耐性が付いており効きにくいがそこはビジュのタケシーである。

 

 デカいの*1から美味い食事を与えられビジュから信頼されている自己肯定感マシマシの雷精霊である。

 

 体が大きくなるどころか操る雷の威力、精度もマシマシの絶好調な精霊である。有象無象の亡霊なんてタケシーからすれば雑魚である。

 

 

「ゲレレ…」

 

 故にビジュが負けるなんてことはあり得るはずもなく。かといてサプレスに帰るつもりも特になく。

 仕事を終えた後勝手気ままにフラフラと散歩をしていたのだ。

 

 タケシーの感覚ではなんか変な所だなぁ~ぐらいの感覚だ。

 たまにいる亡霊なんて敵にすらならない。故に遊ぼうにも暇をしていたのだ。

 

「ゲレレッ」

 

 ビジュを手伝うかとも考えたが。なんか白いのが*2紅いの*3を振り回しているのはデカいのに勝てるわけが無いしビジュの邪魔をするわけにもいかない。

 

 そうしてなにも面白い事無いなぁとあきらめたところだった。

  

「ゲレッ?」

 

 なんかコソコソとしている前髪が後退してる男を見つけたのだ。  

 

 ふわふわと浮いているタケシーに気が付かない男は実に無防備だ。悪戯をしようかと思ったがふと思いとどまった。

 

「ゲレレ~~?」

 

 これは主であるビジュの敵だったはずだ。サプレスへの強い魔力を持ちその出力の出し方を心得ている稀有な男。

 

 だがどうしようもなく小心でつまらない小者。それがコソコソしている男、オルドレイクへのタケシーの評価だ。

 

 雷を不意打ちで放ち一瞬で戦闘不能にさせることもできる。無防備なその背中に放てばそれが出来るが…タケシーはあえてそれを我慢した。

 

 

 何故か。()()()()()()()()()というのが存在することを知っているからだ。そしてそれがいまではないという事を。

 

 

 タケシーはフラフラとオルドレイクの背を追っていく。そしてオルドレイクがなにやら楽しそうに話しているのを眺めた。

 

 背後にいる事に気が付かずに呑気にしゃべるその姿は道化である。タケシーはこの男に好感を抱いた。

 愉快な玩具という意味でだ。

 

「ふはははは!!その通りご名答だ!改めて礼を言うぞレックス。貴様が紅の暴君を消してくれたおかげで裏切者を制裁できたのだからなぁ」

 

 そんな事を玩具が宣っている時ふとタケシーは視線を感じた。

 

「―――」

 

(ゲレレ~)

 

 その視線の主はデカいのの傍にいる角折*4だ。美味い物を作ってくれるタケシーのお気に入りの一人だ。

 

 故に視線の意味は直ぐ分かった。真面目そうなのに案外悪戯好きなんだなと評価を改めながら。

 

「ふはっははーー!!はぁーーーーははっは!!」

 

 玩具が嗤う。角折がデカいのの陰に隠れながら角を光らせた。

 

「はは…かはっ!!?…かっ…はっ…」

 

 玩具の動きが止まった。目を見開きすべての動きが止まる。流石角折とタケシーは笑い。

 

 

「ゲレレレ~~ン!!!」

 

 そしてタケシーは行動に移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれタケシー!?」

「何でこんな所にタケシーが」

 

「ゲレレッ」 

 

 何やら野次が聞こえる中気にせずタケシーはオルドレイクの頭上へ移動。

 

「ゲレッ!」

 

 ブチブチブチッッ!!

 

 髪を毟り取った。髪が長いので掴みやすかったのが仇になった。

 

「うっわ…」

「なんてヒデェことを!?」

 

「――――!!」

 

 オルドレイクは声を上げられない。何故なら止まっているから。身体を動かせず遊んでいるタケシーを振りほどけない。

 

「ゲレレ~~???」

 

 嫌らしくもオルドレイクの頭上頂点の髪を毟り取ったタケシー。

 オルドレイクの前面に移動すると煽る様にしてオルドレイクのその広い額を短い手でぺしぺしと叩いた。 

 

「なんて悪辣ッ!」

「ねぇあのタケシーってさ。なんか見たことがあるような」

「我々の中でタケシーを扱うと言えば…」

 

「ゲレレレッ!!」

 

「~~~~!!!!」

 

 オルドレイクの頭上の髪を抜き取っただけではおらずタケシーはそのまま雷でオルドレイクの額に雷で焼き印を付けた。

 

「うわっ。アレ凸って書いてるじゃん」

なんて非道を…あの精霊には人の心がないのですかッ!」

「精霊なんだからある訳ないじゃん」

「どうしてヤードはそこまで反応するの?」

「で、何でオルドレイク止まったままなの?」

 

「ゲレレレ!!」

 

「アババババ!!??」

 

 最後の締めとばかりに電撃を放出。無論障壁なんてものを出せないオルドレイクは感電するしかない。

 まるで漫画のように電撃を浴び痙攣し感電した。

 

「ゲレレッ」

 

 そうしてオルドレイクが果てたのを見て。タケシーは悪戯に大満足し場を困惑させながらサプレスへと還っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【困惑】ドヤ顔オルドレイク感電して無様を晒す【お前の存在】

 

 え~現場のギャレオです。まぁね。勿論オルドレイクが来ることはちゃんと知っていましたよ。

 

 でもアイツ煽るだけで別にナニカするわけでもないから放置してたんだよね。いわゆる慈悲って奴ですよ。

 

 そしたらビジュのタケシーがまぁオルドレイクで遊びはじめましてね。抵抗できなかったところからして俺の影に隠れたレシィも一枚かんでいるな?

 

 まぁ小者はどうだっていいんすよ。この場にいるアイツはマジで何もしていないのだから。…だから何でアイツ此処に来たんだよ。

 

「死ぬ、の…?ぼ、僕は死、死ぬの…?」

 

 イスラが瀕死だ。折角レックスとの和解を得て未来に希望を持ち始めたら、全てのツケが回ってきたこの感じ。

 

 因果応報?いいえ只の運命です。俺の部下達と同じ運命って奴ですね。

 

「死なせるものかッ!絶対に助けてやる!私が、絶対にお前を殺させやしないッ!」

 

 隊長が涙を流しイスラにしがみつきながら召喚獣を呼び出す。呼び出されたのは聖母プラーマ。回復能力の高い高位の召喚獣だが…

 

 それでは治らない。イスラの身体は脆くてしかもひび割れ決壊寸前の器のような物。そんな状態で水を足そうとしても全部が流れ落ち器もろとも崩壊するだけ。

 

 

 そんな折だった。遺跡自体が大きく揺れたのだ。

 

「何だ!?」

 

「島の意志の…封印が解ける!?」

 

 ……ああ、そう言えばそんなのあったな。何か封印されているのか忘れていた。ラスボスのアイツか。まぁいいや俺にとっては只の巨岩にすぎん。

 

「ああ…僕の…僕のせいだ…剣の声に従って好き放題に力、使ったから。憎しみと怒りを込めて紅の暴君を振り回し続けたから…」

 

 イスラが悔やんだ小さな声で何をしたのか話した。そうだろうと思う。憎しみと怒りこそが封印を解きやすくする鍵。

 使えば使うほど遺跡の主…ラスボスの封印が解かれるようになる、はず?

 

「グルるぅぁあああ…!!ウグラァアアア!!」

 

 澱んだ滲んだ声が聞こえる。遺跡自体が叫んでいるかのような声だ。なんて耳障り。

 

「やっと…!やっとこの時がやって来た…忌まわしき封印は砕け散った!我を縛るものはもう存在しない!ふふふ…ぐふふ…ぎゃはっはは!!」

 

「あーもううるさい」

 

 遺跡全体がスピーカーの役目を果たしているのかひたすらにうるさいのだ。封印が解けたからってはしゃぐなよ小物2号。1号はオルドレイク。

 

「我が名はディエ「黙れ愚物」!?!?」

 

 クッソ煩い馬鹿者の声は中断だ。そもそも付き合う暇も時間もないのだ。それなのに亡霊共が湧き上がってくる。

 

「ウォォオオ!!」

「グルッルウウ!!」

「フシュゥゥゥウウ!!」

 

「亡者共があちこちの地面から次から次へと溢れてきおるぞ!?」

「島の意志の復活に呼応しているんです!」

「冗談もほどほどにしてもらわないと!アタシ困るんだけどッ!」

 

 仲間たちの言葉通り亡霊共が湧き上がってくる。その数はうんざりするほどだ。……数だけは立派なトーシローどもが。 

 

「ビジュ。頼む」

 

「へいへい。んで?あのクソハゲは?」

 

 だがウチには対人型特攻のビジュがいる。先ほどの亡霊相手に無双していたことから多少の時間は稼いでくれる。

 

 そんなビジュはタケちゃんを再度呼び出しレシィを引き連れながら未だにこの場にいたオルドレイクを一瞥した。

 尤も当のオルドレイクはワラワラと湧き上がってきた亡霊共を見てハゲ散らかしながら撤退をすることに決めた様だ。 

 

「ぼ、亡霊共と心中か。貴重な時を無駄にしたわぁ!」

 

「アイツまだいたの!?」 

 

「放っておけ。ゴミに時間を浪費するのは得策ではない」

 

 そのままスタコラさっさと消えていくオルドレイク。逃がしてやるからもう2度と出てくんなよ!サイジェントで出会えたら速攻で首を捥いであげるね♡

 

「ギャレ…オ。アンタは…」

 

 イスラが死にかけの状態で俺を見てくる。酷い顔だ、ただでさえやせっぽちなのに顔が白くなってる。

 

「レックス」

 

「う、うん!?」

 

「亡霊たちはビジュが担当する。それから一時しのぎで良い。遺跡を再封印しろ。護人達の力を使え。詳細はアルディラが担当しろ」

 

「え、ええ分かったわ。ファリエル!キュウマ!ヤッファ!レックスにありったけの魔力を注ぎ込んで!」

 

 俺の声で役目を思い出したのだろう。レックスは慌てて頷いたが…その顔にはイスラの事を気遣って心配そうだ。

 

「イスラは任せろ。言ったろ全力を出すと」

 

「…ああ!頼んだよギャレオ!」

 

 俺の言葉に約束を思い出したのだろうレックスは力強く頷き駆けだしていった。

 

 そうして俺は仲間たちが奮闘している中イスラの傍へと近づいた。倒れ込んでいるイスラを抱えるようにして俺もしゃがみ込む。

 

「酷い顔だな。散々言ったではないか悪い事をすると自分に返って来るって」 

 

「アンタは…こんな時にも…お説教…がはっ」

 

 左手でイスラの頭を優しく抱きかかえる。しかし軽いな。とても軽くて脆い身体だ。…今まで本当に良く頑張って来たな。

 

「ギャレオ!イスラが!イスラが死んでしまう!」

 

「ギャレオさん!キユピーの召喚術でも!何もっ何も効果が無くて!」

 

「キュピピ……」

 

「隊長。大丈夫です。全部俺に任せてください。アリーゼにキユピーよくやってくれた。後は俺がする」

 

 隊長やアリーゼはひたすらイスラを治そうとサプレスの召喚術を行使していたのだろう。

 魔力が少なくなり疲労と助けれらないのではという絶望で顔が真っ青だ。 

 

「…イスラ」

 

 改めてイスラを見ると酷い状況だ。顔に血の気が無くて真っ青を通り越してただひたすらに白い。

 傷も絶え間なくあって服は真っ赤。支えている俺の腕も血が滲んで来ている。

 

「ギャ……レオ…僕は…死ぬ…の?」

 

「下らん。我が部下達に謝ってもいないお前を俺が死なせると思うか?」

 

 俺の声に反応したのか。イスラが目を開いて苦笑するかのように口角が上がった。

 

「酷い…ね…ああ…あの人たちにも…悪い事を…」

 

「そうだ、お前は生きねばならん。死ぬことも…ましてや逃避も俺は断じて許さん」

 

 誰かのルートでは必ず死ぬイスラ。イスラルートで生き残ったとしても記憶を失い精神が退行して幼児になってしまう。

 

 下らぬ運命だ。そしてその運命を俺は覆す。我が部下達を助けたかのように運命を変えるのだ。

 

 

「イスラ。俺がするのは原初のストラ。奴を助けようと足掻き生まれた奇跡だ」

 

「スト…ラ…?」

 

 あの日の事を思い出す。生きていてほしくて我武者羅で生み出したあの光を。

 あの力があったから俺はここまで来れた。

 

 当の本人は今誓鳴覚醒をして元気よく亡霊共を屠っている。

 そのストラを生み出してくれた者へ心より深い感謝を込めて。

 

 

「ストラ…?でもカイルさんのストラは効いていなくて」

 

 ああ確かにカイルのストラは効かなかっただろう。だが俺のストラは違うのだ。

 

 俺が使うのはバリストラ。回復能力を凝縮させた人を治すために生みだした究極奥義のその片割れ!

 

 イスラを治すにはひび割れて自壊していく器の修繕と恐ろしく頑丈なほどの補強。

 そして器をずっと保全させるための生命力が必要なのだ。バリストラにはそれが出来る!

 

「運命に抗えイスラ」

 

 左手で支えていたイスラの顔を俺の方へと持って行く。体中に巡回させ溜まりに溜めて練りに練った俺のストラ。

 

 

 きっと俺は、このためにこの世界へと。

 

 

 

「ギャレオ…?何を」

 

「ギャレオさん?」

 

 そうして俺はイスラの顔を俺の方へと持って行って… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生きてくれ イスラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、はい。あの時の事ですか?…確かに皆さん亡霊たちを相手にしていたので間近で見ていたのは私ぐらいですね」

 

「分かりました。あの時何が起きたのは話しますね。あ、ギャレオさんが具体的にイスラに何をしたのかはフレイズさんに聞いてくださいね。

 私はあくまでも状況の話だけなので」

 

 

「それで、ギャレオさんがイスラにキスをした時からですね!」

 

「そうです。見間違えるはずもありませんし貴方も見たのは間違いないですよね。そうです。

 しっかりとイスラを抱きしめ壊れ物を扱うが如く優しくまるでお姫様にキスをするようなあの熱いキス…

 

「何故か湯気だっていたギャレオさんがイスラに口づけをした時、ええしっかりとこの目で見ていました。

 イスラさんの身体が仄かに光ってそれから傷が徐々に塞がっていくのをはっきりと見ました」

 

「キユピーは小さいけれどちゃんと人を癒す天使なんですよ。何度イスラの傷を治そうとしていても駄目だったあの時ギャレオさんのストラは確かに効いていたんです」

 

「え?なぜストラを手でやらなかったか、ですか?さぁ分かりません。確かにカイルさんもやってたんですが患部に手を当ててストラを使うのが一般的ですよね。

でもギャレオさんはイスラに口づけをしていました。何というかアレはストラを直接送り込んでいたんだと思います」

 

「……そもそもの話イスラは瀕死でした。多分ですがあのまま早急に手を打たなければいけなかったのは間違いないです。

ギャレオさんもそれを分かっているから負傷箇所すべてに行き渡る様に口づけをしたんじゃないでしょうか」

 

「ええ。それでイスラは目を覚ましたのは知っていますね。酸素が足りなくなったのかギャレオさんが口を離した時…銀糸が二人の口元から見えた時、

まるで眠り姫が目覚める様にイスラは目を覚まして不思議そうにしていました。それはそうですよね目の前にギャレオさんの上気した顔があるんですから」

 

「何をされたのか分かってなくて徐々に何をされたのか理解し始めて…顔が蒼くなって紅くなって色とりどりの表情をした時。

思わずギャレオさんから逃げようとして。その時に吐血をして……」

 

 

「ギャレオさんが襲い掛かる様にしたキス。野獣の如き二度目の接吻は強烈でしたよね

 

 

「ズキュウウウンと音が出てくる以上に…いいえ。アレはもはや貪るような強烈な口付け。逃げようとするイスラの頭を手でしっかりと掴み貪るその姿。アレを野獣と言わずして何と言うのか」

 

「素晴らしく…そしてアレは綺麗でした。勿論その行為自体にストラの意味合いがあったのでしょうが私はからすればそれは後付けです」

 

「アレはなんですよ分かりますか!?」

 

「愛を伝える如くあの暴力的ながらも直接的な伝え方!感銘を受けました!啓蒙が開けました!ああ、思えば私の傍に素晴らしい題材がいっぱいいたのに

私は目を背けていました!ギャレオさんとイスラのお陰で目が覚めました。私はきっとあの光景を目に焼き付け世界に伝える為にあの場にいたんです!」

 

「ふふふ。お陰でネタの宝庫には困りません。屈強な天然巨漢軍人を筆頭に不良刺青世話焼き軍人に病弱捻くれ諜報員。生ものは駄目だと怒られましたがちょっと加工すればいいんですよ。寧ろあの宝庫に手を付けないのは世界の損失です!ふふふふ天然人誑し先生に快男児船長、陰のある艶やか青年に実は肉食系いぶし銀。ナイスミドル獣人忠義の侍忍者イケメン堕天使……この島は楽園だったんです」

 

「こうしてはいられません!キユピー!新刊を…え?そろそろ休ませてほしい?何を言ってるの?休む暇なんてないよ?ネタが新鮮なうちに…あ、待ってくださいまだ話が終わって…!」

 

 

「兎も角アレはなんですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ。今でも覚えています。いいえあの光景は私の魂に刻み込まれました」

 

「アレは。私が知ってたいいえそれ以上のだったんですよ。あの献身を越える唯々人を助ける為だの…なんて美しくそして厳かな光景だったのでしょうか。

私が今まで見て来たものの中で一番…は言い過ぎですが人は可能性に満ちていると思い知りました。あぁ出来るなら私もアレを…♡

 

「あっ!?ちょっと!拳を握るのはやめっ……ア”ッ!!

 

 

「失礼しました。浮かれていたのは。はい。仰る通りです。ですが弁明をさせてもらうと天使というのは魂の輝きに魅了されてしまうものなのです。其処だけはどうかご理解を」

 

 

「有難う御座います。それではあの時ギャレオさんが何をしていたのかについてですね。そうですね先に言っておきますがイスラの容体についてはクノンが詳しいのでそちらの方に聞いて頂ければと思います」

 

「エホンッ。そうですねまず真っ先に彼が口付けをしていた事ですが、あれはイスラの肉体を修復したとみていいでしょう。

真っ先に壊れていく器の補強…いいえ文字通りの再生という言葉が正しいのかもしれません。それが最初に彼がやった事です」

 

「そして次に驚き慌てながらの二度目は再生した器に水を入れる事。つまり生命力を直接イスラに注いだのです。ええあの方法で、ですが」

 

「………なるほど確かに貴方の言う通り魔剣【紅の暴君】を呼び出し抜剣をさせればイスラは自動で回復できたでしょう。

だがあなたも知っての通りレックスとの戦いで魔剣はボロボロになっていた。そんな状態で無理矢理呼び出せば彼の身体にどんな負担が現れるのか…いいえ。私こそ少し嫌な言い方をしてしまいました」

 

「話を続けます。ギャレオはアレをストラだと言ってましたが私はそうだとは思いません。イスラは…あなたの目の前でいうのは憚れるのですが

どうあれあの場で死ぬとそう思ってしまったのです。それなのに無理矢理にでも体を治し魂の補強までやってのけるとは…」

 

「アレはサプレスの天使たちが使える『豊穣の恵み』に近いと言えるのでしょうか。自分の魂の過剰分を相手に渡し得るなんて…」

 

「聞きたいのですが彼はどうやってあそこまでの技能を?いえ私もある程度は彼の事情を知っているのですがそれにしても些か異常で。何か特別な訓練でも積んでいたとか?」

 

「…え?ある?召喚獣のお菓子をムシャムシャと食べていた?それも日常的にですか?……なら確かにあり得るのか?」

 

肉体はリィンバウムの人間で魂は名も無き世界。…それに各世界の要素を取り入れた…キメラ?…失礼しました。この話はやめましょう」

 

「兎も角です。色々と要素はあったのでしょうが結局は彼のアレは愛。純愛なのです。違います。今度は真剣に言ってます」

 

「そもそもの話付き合いがあるとはいえ相手を認め許し、無償の奉仕を行なう物。そして相手の幸せを只純粋に祈り続ける。これがどれだけ難しいか。

この領域に至れるのはそれこそレックスぐらいで…?」

 

「…いいえ、貴方が悪いとかそう言った話ではなく。何というのでしょうか。ただ一人の人間の為にあそこまで深い入れ込みはきっとそれこそ長い年月をかけて……」

 

 

「彼はひょっとして最初からイスラの事を案じていたのではないでしょうか?」

 

 

「島であったのが初めての出会いだと本人が言ってた?…それは確かにそうかもしれませんが、アレは元から人を治すただそれだけを追求した技能……」

 

 

「彼は、初めから人を治すそれだけのためにストラを鍛えたのでは?そう思えてならないのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。イスラ様の身体についてですね。以前話したとは思われますが…」

 

「ええ構いません。ギャレオ様の突然の奇行に貴方が強いショックを受けていたのは理解していますので」

 

「それでイスラ様ですが…はい。私の目から見ても彼は完全なる健康体そのものです。以前のように脈拍や鼓動が定期的に止まることはありません」

 

「オルドレイクが言っていたように病魔の呪いは解かれていますので…それに関しては確かに貴方の言う通りですね」

 

「むしろ通常の人と比べて非常に健康…?健康どころか今後風邪や体調不良に悩まされることは無いですね。免疫力が上がったのでしょう」

 

「そうですね。私自身何故イスラ様があなってしまったのか分かりません。いいえギャレオ様の口内粘液接触によるものだとしても…ストラ?カイルさまが仰ってました。アレをストラと認めるには抵抗があると」

 

「…フレイズ様が愛と?………愛とはああいうものなのですか?私には…あ、違うのですか。そうでしたか」

 

「ええ。分かります。世の中には理不尽がまかり通っているのだとギャレオ様を見ているとよく理解する様になりました」

 

 

「…でしたら。私と一緒にアレを叫びませんか?心の内を叫ぶことによってストレスはある程度の削減が出来ます。私も都合の悪い事から目を逸らしたいので」

 

 

「はい。では呼吸を整えて…」

 

 

 

 

 

 

 

「なんでやねん!」

 

 

 

 

 

 

「なんでやねん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なんでやねーん!?!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
『ギャレオ』

*2
『イスラ』

*3
『紅の暴君』

*4
『レシィ』




優しき導師は扉が開いた
堕天使は魂に魅入られた
看護人形は理解を放棄した
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