名刀、夜を斬る   作:ラピラピ

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01 最低下層領域

 目が覚めると暗闇だった。

 

 身じろぐと地面から砂の音が鳴り、冷たい風が体をたたきつける。

 明らかな異常事態。

 いったい何事だろうか、私は自室で寝ていたはず。

 頭の中には誘拐の二文字が浮かぶが、同時になぜ私なんかをという諦念交じりの感情も湧いてくる。

 とりあえず現状を把握するために周囲を観察する。

 昔プレイした脱出ゲームでは、それが鉄則だった。

 だけど、周りにあるものは黒一色。

 なーんに見えない。

 クソゲー乙。

 これがゲームだったら炎上して低評価爆撃を食らっているだろう。

 だが、これはどうやら現実らしい。

 

 大昔のwindowsPCくらい起動の遅い私の脳みそは、ここでようやく危機を感じ始めた。

 体から心臓の音が暴れ散らかし、全身から汗が噴き出る。

 そして噴き出た汗が風にあたって体温を急速に奪う。

 寒い。

 これが誘拐なのかは知らないが、なんにせよ今の状況はやばい。

 とりあえず、辺りを見渡すために立ち上がろうとしたら──────────

 

「──────────ッッ!!?」

 

 地面があまりの急斜面で転びそうになった。

 思わず近くにあった大木の枝をつかめたから事なきを得たが、今のはやばかった。

 これがデスゲームなら開催してる奴は落第だ。

 参加者が目覚めていきなり死ぬなんて、そんなんになるならスナッフフィルムでも撮ってろってなるわ。

 せめて状況説明ぐらいしろ。

 

 頭の中でぐちぐち文句を言いながら大木くんに抱き着いて、もう一度周囲を観察してみる。

 とりあえず地面は、すげー急な斜面で簡単に人を殺せそう。

 暗くて何メートル先まであるかはわからないが、転げ落ちたら死の予感がする。

 移動は慎重にしよう。

 次に周りを見渡す。

 少しずつ暗闇に目が慣れてきたから、さっきよりは見えるはずだ。

 見えるものは草と木。

 それと切り立った崖。

 それだけ。

 

 ここで私は得た情報で、今いる場所を推理をしてみる。

 強い風、地面の土、急な傾斜、切り立った崖。

 私の頭の中のスーパーコンピューターが正しいならば、ここはおそらく山の中だろう。

 自室で寝ていた私が、なぜか山中に大ワープ。

 私は、どうやらワームホールの実在を証明してしまったらしい。

 これを学会で発表すればノーベル賞は私の物だ。

 ガハハ。

 

 なんて、ありえない妄想をするが実際は誰かに連れ去られるかしたんだろう。

 もう、この時点で大事件だが、今はそんなことよりもこの状況から生き残るのが先だ。

 どうやって、ここから脱出しよう。

 こんな場所、上っても下っても危険だし、移動のしようがない。

 早くお家に帰りたい。

 

 私は、とりあえず体から噴き出す汗を何とかするために大木に抱き着いたまま地面に座り込んだ。

 そして、しばらくして落ち着いてきたら、今更自分の格好に気が付いた。

 服がズタボロで、ほぼ裸同然の格好。

 通りで寒いわけだ。

 もしかして私は酔っぱらって崖から落ちて、そのまま記憶を失った?

 そんなはずはない。

 いくら私でも崖から落ちて、そのあとも呑気に眠り続けるなんてありえない。

 怪我の一つや二つ出来るはずだ。

 でも私の体は五体満足。

 全身に少し痛みはあるが、それだけだ。

 

 じゃあ、何者かが私をここまで吊り下げたのだろうか?

 それもありえない。

 人一人を崖から安全に降ろすなんて何かしらの機械とか必要じゃないか?

 もし私が酔っぱらっていたとしても音や振動で絶対に気付くはず。

 なにより、なぜそんなことをする必要があるのか。

 さえない一般人代表みたいなやつを捕まえて何がしたいのか、いまだに犯人の思考が読めない。

 もうデスゲームでもいいから、だれか出てきて説明してほしい。

 

 でも、いくら待っても存在するものは残酷な静寂だった。

 これは本格的に、自分で何とかせんといかんらしいね。

 立ち上がって散策なんて出来るはずもなく、私はまた周囲を観察し始めた。

 またかよって思っただろうけど、それしかすることがないんだ。

 それに私が今まで見ていたのは横方向に偏っていた。

 目の前に崖があるのなら見るべきは縦。

 崖の上のはずだ。

 なんで、そんなことに気が付かなかったんだろうね。

 私は、カエルのようなあほ面で口を空けながら上方向を観察すると、私は崖の上にある転落防止のための柵と小さく光る街灯のようなものを発見した。

 人工物があるってことは、ここは整備されてる場所ってことだから、なんとかなりそう。

 希望はあったんですね。

 

 けどね皆さん、なんか摩訶不思議なことが起こってます。

 なんか頭が固定されて、あの場所から目が離せないんだ。

 ビバ、怪奇現象。

 これ、もしかしてデスゲームとかじゃなくて幽霊とか出てくるジャンルのやつ?

 じゃあ、これ私失踪するじゃん。

 早く何とかしないと。

 そう思って、どれだけ頭を動かそうとしても動かせない。

 私は、頭が固定されたままあきらめて、ぼんやり輝く崖の上の街灯を見つめていると、不意に心の中で不思議な確信が電のように走った。

 

 

 私は、あそこから飛び降りた。

 

 

 なぜだろう、あの場所を見ているとそうとしか思えない。

 いや、おかしいだろ。

 あんな場所からって絶対死ぬじゃん。

 もしかして、今の私って死んだのに気が付いてないだけで、ここはあの世とこの世の狭間?

 それとも、もう地獄にでもいるのか?

 もう自分で自分がわからない。

 誰か助けてくれ…。

 一瞬、現実を受け止めきれなくなり自己があやふやになりかけるが、その時、私の近くにあった水たまりが突然、発光し始めた。

 

 

 うおっまぶしっ。

 

 

 私は本当に幽霊に取りつかれているのかもしれない。

 またしても謎の怪奇現象に、もう思考回路はショート寸前だ。

 本当に何これ。

 もう何度目か思ったことをまた思って頭の上で疑問符を回していると、なんと水たまりが頭の中の疑問に答えるかのように点滅を始める。

 いやお前、自己主張しすぎだろ。

 怪奇現象なら、もっと趣を持て。

 そんなんじゃガキもビビらねぇぞ。

 

 私はそんな元気いっぱい水たまりに、やっぱりいたずらかと思って顔を近づけると、より深く感じてしまった。

 これLEDとかを使ったいたずらじゃない、マジのやつだ。

 明らかに水たまり自体が発光してる。

 そして、この水たまりは私が顔を近づけるとチカチカと激しく点滅する。

 それはなんだかまるで、この水たまりがここを覗けって言ってるみたいだった。

 いつの間にか頭を動かせるようになっていた私は、導きに従いこの不思議な水たまりを覗き込んだ。

 そこにいたのは超絶かわいいロリ美少女だった。

 

「は?」

 

 漏れ出した声も超激カワボイスだ。

 

「…………は?」

 

 いや、2回やらんでもええねん。

 もしかして、もしかしてだけど…。

 これが、私の顔なのか?

 私が私の顔を触ると、水面の私も同じ所を触れる。

 私が笑うと水面の私も笑う。

 これは確定ですね。

 髪は黒。

 釣り目。

 鼻は小さい。

 ちょっと気だるげな雰囲気で猫っぽい系統の顔。

 可愛い。

 可愛すぎる。

 私は、ひとしきり水面に映る自分を眺めた後、大きく息を吸って叫ぶ。

 

「やったーーーーー!!!!!」

 

 ありがとう神様。

 まさか、こんな超絶美少女に生まれ変わらせてくれるなんて。

 今まで信じてなかったけど、今日からは信心させていただきますね。

 ひとまず水たまりに2回拝んで、ケツを叩いて2回鳴らし礼をする。

 私なりの二礼二拍手一礼だ。

 そんな感じで、しばらくケツドラムを鳴らして遊んでいるとあることに気が付いた。

 頭の上になんかある。

 馬の耳だ。

 その耳は私の意志でピコピコ動き、触るとしっかり触覚がある。

 このケモミミはもしかして。

 

「ウマ娘?」

 

 疑問が喉から溢れた。

 なぜ、そう思ったのか不思議に思うだろうが、こんな特徴的な馬耳をつけている生物は私にはウマ娘にしか思えない。

 ありがちな犬や猫や狐じゃなく、馬の耳。

 これはもう、そういうことだろう。

 何を隠そう私はウマ娘オタク。

 寝る前にしていたアプリはもちろんウマ娘だし、この前発表されたフィギュアも速攻予約した。

 ウマ娘関連のイベントは可能な限り参加して目一杯楽しみ、アニメや映画なんてもう何度も見てる。

 つまり、繋がったな。

 一度そう思ったらもう、そうとしか思えない。

 ここはウマ娘の世界で私はウマ娘に転生したんだ。

 

「ありがとう、神様!!!!」

 

 私は体全体でVの字を作って神への感謝をささげた。

 神って本当にいるんだ。

 別に善行なんてしてなかったけど、こんな宝くじの一等に当たるより運がいい出来事が我が身に降りかかるとは。

 そう考えると理不尽だな。

 もっと、お前を拝んでる奴を救えばいいものを。

 でも、最高だぜお前。

 

 心の中で神を称えながら水面に映る美少女ボディを観察すると、その胸は平坦であった。

 これがどれほど慎ましいかといえば、貧乳ではなくつるぺたと表現すればわかるだろうか。

 凄まじいつるぺたボディだ。

 多分、この肉体は12歳くらいと推測するが、聞いた話では女性の胸がどうなるかはこの年でもう大体決まっているらしい。

 このボディ、この年でこのペタン具合はなかなかになかなかだが、うーむ、いいですな。

 微かに女性とわかるくらいにちょびっと膨らんでる胸!

 太ってるからではない、寸胴体系!

 小ぶりでもちもちなお尻にほっそい太もも!

 素晴らしい。

 私は、とにかく全身を触りまくった。

 ちなみに、この行為に一切卑猥な感情はない。

 

 そういえば近頃は女性の乳がインフレしてズリキチ野郎が増えたがそいつらはわかってない。

 確かに巨乳はすごい。

 でっかくてやわらかい。

 それは誤魔化しようもなくすごくすごい。

 だけどね皆さん、つるぺたってマイクロビキニとかがすごく似合うんですよ。

 ビキニがあったら普通のビキニととマイクロビキニがどっちを選びます?

 マイクロビキニですよね。

 それが全生物の本能ですよね。

 つまりマイクロビキニが似合うつるぺたすごいってなりません?

 サイレンススズカとかマンハッタンカフェにマイクロビキニ着てほしいって、そう思いませんかあなた?

 この体は、そんな我々の夢をかなえてくれるかもしれないわけですよ。

 素晴らしいですよ。

 えぇ、本当に素晴らしい。

 だから、私がこの至高のボディをこうして堪能するのも仕方がないことなんです。

 

 そうして言い訳しながら、たっぷりと時間をかけてつるぺたボディを堪能していると、まるでお前ええ加減にせえよといいたげに水たまりが点滅した後、発光現象が収まってしまった。

 ふん、お前が何者かは知らないが私ももうこんな場所に用はない。

 ここがウマ娘世界で、私がウマ娘ならいくらでもやりようがある。

 私はテンションMAXで崖の上のあの街灯を目指して、崖をクワガタのようによじよじ登って崖の上にたどり着く。

 そして、そこにある私の物と思われるきれいに並べられた小さな靴を見て、流石にちょっと冷静になった。

 

 うーん。

 これって、そういうことだよな。

 やっぱり、この体の持ち主は…。

 何が、原因なのかな

 こんな崖から身投げなんて相当な覚悟がないと出来ない。

 この娘は、どれほど深く絶望してたんだ…。

 

 まぁ、考えても私には想像もできないことなんだろう。

 正直、私はどこで誰が死のうかなんて知ったことじゃないし、そんなことでいちいち感情を動かされたりはしない人間だ。

 そんな奴に、小さい女の子の心の機微なんて、絶対わかりようがない。

 でも、そんな私でもこの娘のことはかわいそうって、なんだかそう思う。

 今からでも私に出来ることってないかな。

 言い方は悪いけど、この娘は私にこの肉体をくれた様なものだし、なにかこの娘のためにしてあげたい。

 それが、この体の本当の持ち主の供養だ。

 もし、これから機会があるならそうするとしよう。

 ありがとう、美少女ウマ娘ちゃん。

 この体は大事使わせてもらうね。

 そうして暗闇の中で立ち尽くして、この肉体の持ち主に思いを馳せていると突然、見知らぬウマ娘が私を抱きしめてきた。

 

「コガちゃんッ!!」

 

────────────────────────────────────────────

 

 これが、この世界の誰も知らない私のプロローグ。

 私は、自殺したウマ娘の体を奪って……。

 いや、違う。

 きっと私”たち”は、あの崖から夜を斬って生まれたんだ。

 

 

 

 

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