ポケットモンスター、通称ポケモン。
この世界に生きる者なら誰もがその名を知っている。
だが──そんなもの、俺には関係ない。
この世界に転生して、もう十二年が経った。
前の世界では、ごく普通の男子高校生だった俺が、ある日突然、通り魔に襲われて命を落とした。
気づけば、目の前には見知らぬ大地。気づけば、名前はエボルとなり、ポケモンが存在する世界に生まれ変わっていた。
理由?そんなもの、知るか。
生まれ変わった俺は、幼い頃から戦闘技術を叩き込まれて育った。親はロケット団──いや、表向きはそうだが、実際には裏社会で暗躍する多重スパイ。そんな連中が親で、2歳の頃から暗部としての訓練が始まった。
遊ぶ時間なんてない。学ぶのは殺しの技術、逃げ方、尋問、拷問、隠密行動。
感情は不要、個性も不要。道具として生きるのが“価値ある存在”だと刷り込まれた。
何に興味も抱かず、ただ機械のように命令をこなすだけの日々。
だが、そんな俺の運命を変えたのは──一匹のポケモンとの出会いだった。
───
『ご主人様、たまには外で遊んだら如何ですか?』
枕元に置いていたモンスターボールが光を放ち、一匹のバクフーンが現れる。
だが、その姿は通常のものとは少し違う。体のフォルム、目つき、佇まい。
明らかに何かが違う。
「……ほっといてくんないかな。寝てんだから。」
無視する俺に構わず、バクフーンは言葉を続ける。
『今は家に誰もいませんから。……聞こえてますよね?』
そう。俺にはポケモンの言葉が理解できる。
なぜか?そんなの、分かるはずがない。
ただ、気がついたときからそうだった。
だからこそ、何も考えず受け入れた。
このバクフーン──後に『レイカ』と名付けるポケモン──は、俺のポケモンではない。
三年前、父親がどこかの売人から買ってきたらしい。
「お前にも玩具が必要だろう?この地域じゃ見かけないポケモンだから、痛めつけるなり犯すなり、好きにしていいぞ。」
そう父親は言った。反吐が出るような言葉とともに、俺の前に差し出された存在。
レイカは怯えていた。体にはいくつもの傷痕。明らかにまともな環境では育っていない。
『ひっ!? 虐めないで…!』
思わず俺はビクッとする。
その時、父親が現れ、例の“従属首輪”について話し始めた。
「首輪には雷と同等の痛みを与える装置がある。さらに火力調整も可能で、威力を倍にすることもできる。」
そう言って、笑いながらリモコンのボタンを押す。
レイカの絶叫が部屋に響き渡った。
「やめろよ……!」
「煩いから倍にしてやろうか♪」
狂ってる。あの男は、人の形をした悪魔だ。
思わずリモコンを奪い、赤いボタン──停止ボタンを押す。
悲鳴が止み、父は不満そうに笑う。
「壊れたら困るもんな。好きにしろ。」
そう言って出ていった。
レイカは怯え、震えていた。俺の動き一つにビクつくほどに。
だが俺は、静かに言った。
「押す気はない。……それと、俺は君の言葉が分かる。」
驚きの表情を浮かべるレイカ。
その後、彼女は話してくれた。
故郷の森が焼かれ、家族と引き離され、捕まって実験に使われたこと。
何もしていないのに、傷つけられたこと。
「……災難だったな。」
『何も知らないくせに!』
反射的に反論してしまったが、俺のリモコンを見て再び怯える。
「騒がないでくれ。押す気はない。」
信じられないといった顔。
だが、俺は注射器を取り出し、万能回復薬を注入した。
『……痛っ!?……でも、体が……傷が……』
効果は抜群だった。
「君、名前は?」
『ない……』
「なら、レイカだ。今日からそう呼ぶ。」
彼女の目が潤む。
「君がいれば、俺は変われるかもしれない。」
そう、本気で思った。
───
そして現在。
明日が俺の十三歳の誕生日。そして卒業試験の日。
レイカの上に寝転がりながら、俺は呟く。
「この家を焼く。」
『えっ……?』
「全部、終わらせるんだ。あの親共ごと、な。」
レイカは震えながらも、力強く頷いた。
───
当日。父親が祝いの言葉をかけてくる。
「どうだ?バクフーン、よく従ってるな。」
「調教したからな。」
会話の後、母親も現れ、何やら父親と小声で会話。
その直後──
「卒業試験は免除だ。旅に出ることを許す。」
だが、条件が提示される。
「その代わり、バクフーンの胴体を切断しろ。」
「は?」
何を言ってる?こいつをプレゼントしたのはお前らだろ?
だが、彼らは狂っていた。何のためらいもなくそれを命じてきた。
……カチッ。
奥歯に隠していたスイッチを作動。
爆発音が響き、家が燃え上がる。
「……黙れ、ゴミが。」
驚愕する両親に、俺は告げる。
「これが卒業試験の代わりだよ。死んでくれ。」
「レイカ、百鬼夜行!!」
業火が両親を飲み込む。
だが、最後の抵抗。
父親の手から毒針が放たれ、俺の足に刺さる。
「……ちっ、毒か……」
視界が霞む中、レイカが泣きながら俺に縋る。
『エボル!エボル!!!』
最後の力を振り絞り、レイカの首輪を砕き、放り投げる。
爆発。
「……解除方法が分からなかったんだよ。無理やり外すしかなかった。」
そして──俺の意識は暗闇に包まれた。