町を離れて数日──
俺たちは、のどかで風通しの良い草原地帯に差し掛かっていた。
青々とした野草が風に揺れ、遠くまで視界が抜けるような平原が広がっている。
「……静かでいいな」
『ほんと。昨日の町とは全然違う雰囲気ね』
『でも、何か人が集まってるみたいよ?』
レイカの指差す先、丘の麓に仮設のステージが組まれ、多くの人々が集まっていた。
何かを演説しているようだ。黒いフード付きの服を着た者たちがステージを囲み、秩序を保っている。
「……なんだあれ」
近づくと、マイクを通した男の声が草原に響いていた。
「皆さん、聞いてください──!
ポケモンは人間の道具ではない!
捕まえ、命令し、戦わせる……そんな関係は歪んでいる!」
『……ポケモンを、人間の支配から解放する?』
「……はぁ。面倒くさそうだな」
俺は人混みを通り抜け、近くの通行人に声をかけた。
「なあ、あれって何の集まりだ?」
「ああ? あんた知らないのか。プラズマ団って団体さ。ポケモンを人間の支配から解放すべきだとか何とか……正直、よく分かんねぇが、変わった連中さ」
『なんか胡散臭い感じがするわね……』
演説の中心に立っていたのは、一人の男だった。
白髪混じりの長髪に威圧的な黒い衣装、そして隻眼を隠すような装飾マント。
その男が、まるでこちらを見ていたかのように視線を向けると、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「……君。そこの若者」
「……俺か?」
「そう、君だ。君の隣にいるポケモンたち……その存在に、疑問を抱いたことはないか?」
「は?」
「彼らは君のそばにいるが、それは本当に“自由な意思”なのか?
人間に従うことを前提とした絆など、真の共存とは言えない。
君が今すぐにでも、彼らを“解放”するという選択も──できるはずだ」
胡散臭さ全開の笑みを浮かべながら、男は語る。
「私はゲーチス。プラズマ団の理想を広める者だ。
……さあ、ポケモンたちを“人間の管理”から、自由にしてあげようではないか」
「……」
一拍の沈黙。
「それは──ポケモン自身が決めることだろ」
ゲーチスの表情が微かに揺れる。
「本気で離れたくないと思ってるポケモンだって、いる。俺は、あいつらの意志を勝手に決めない。解放したい奴がいるなら──ご自由にどうぞ」
淡々と、興味すら示さないように俺は言った。
『ご主人様……』
『うん、それでこそ、エボルよね』
ゲーチスはわずかに口元を引きつらせながらも、すぐに笑みを取り戻した。
「……君のような者に会えたことも、また運命の巡り合わせ。いつかまた──我々の真意を知る日が来るだろう」
そう言い残すと、彼はステージの方へと戻っていった。
俺は肩をすくめる。
「……説教くさい奴だったな」
風がまた草を揺らす。
ステージの演説は続いていたが──
俺たちは、その場を静かに離れていった。