ルギアを助け出してから、数日。
あいつの体調も回復し、俺たちは次の目的地──“海”へと向けて歩き出していた。
「……風が、気持ちいいな」
朝霧が消えて、太陽の光が野原に差し込んでいる。
俺たちの足元には、柔らかな草が広がり、遠くには白い花の群れ。
風に揺れるたび、小さなポケモンたちが跳ねるように姿を見せた。
『ねぇ見てご主人様、あそこにホーホーが集まってる』
レイカが四足の姿で俺の隣を歩きながら、空を指し示す。
枝の上にはホーホーが何匹も寄り添って羽を広げ、日光浴をしていた。
「のどかすぎて、眠くなるな……」
『エボル、見て!あそこ、フラエッテが花冠を作ってる!』
肩に乗っているシルヴィアが嬉しそうに草むらを指さした。
そこでは何匹ものフラエッテが仲良く輪を作り、花を摘んで並べていた。
中には、ルリリやキレイハナ、メェークルなんかも混じって楽しそうに跳ね回っている。
俺たちはそんな光景の中を、ゆっくりと歩いた。
小高い丘に出ると、広がる大地の先にキラキラと光る水面が見えた。
まだ遠いが、海へと続く川の始まりだろう。
ルギアは俺の背後──モンスターボールの中で静かにしていた。
まだこの世界に馴染んでいないのか、あまり長く外に出ようとはしない。
「……無理もねえか。何もかもいきなりだったしな」
思わず独り言のように漏らすと、レイカが横目で俺を見た。
『でも、ご主人様。あの子、夢で海の音を聞いてるって言ってたわ。きっと、帰れる日を楽しみにしてるのよ』
「あぁ……だろうな」
どこか懐かしげな、望郷の想い。
あのルギアの目には、そんな気配が確かにあった。
「……なら、必ず帰してやるさ」
『うん。私も、協力する』
『アタシも!ちゃんと送り届けたいし!』
シルヴィアも元気よく手を挙げる。
空を見上げれば、ムクバードやポッポたちが群れを成して飛び、
地を見れば、ヒマナッツやナゾノクサ、ニャースたちが走り回る。
ここには、争いも騒ぎもなく──ただ、平和な時間が流れていた。
いつかこの時間が壊されるかもしれないという、不穏な気配は俺の中にある。
だがそれでも──今だけは、この静けさに身を委ねたかった。
草の匂い、風の音、ポケモンたちの鳴き声。
全部が、俺たちを包み込んでくれる。
この旅の終わりがどこにあるのかは分からない。
でも、きっと大切な何かに近づいている。そう思えた。
──ルギアを、必ず、帰す。
そんな約束を胸に、俺たちは野原を越えて、また一歩を踏み出した。