暗部として鍛えられた子の漂流譚   作:ラン乱

23 / 42
空と大地と、歩く旅

ルギアを助け出してから、数日。

あいつの体調も回復し、俺たちは次の目的地──“海”へと向けて歩き出していた。

 

「……風が、気持ちいいな」

 

朝霧が消えて、太陽の光が野原に差し込んでいる。

俺たちの足元には、柔らかな草が広がり、遠くには白い花の群れ。

風に揺れるたび、小さなポケモンたちが跳ねるように姿を見せた。

 

『ねぇ見てご主人様、あそこにホーホーが集まってる』

 

レイカが四足の姿で俺の隣を歩きながら、空を指し示す。

枝の上にはホーホーが何匹も寄り添って羽を広げ、日光浴をしていた。

 

「のどかすぎて、眠くなるな……」

 

『エボル、見て!あそこ、フラエッテが花冠を作ってる!』

 

肩に乗っているシルヴィアが嬉しそうに草むらを指さした。

そこでは何匹ものフラエッテが仲良く輪を作り、花を摘んで並べていた。

中には、ルリリやキレイハナ、メェークルなんかも混じって楽しそうに跳ね回っている。

 

俺たちはそんな光景の中を、ゆっくりと歩いた。

 

小高い丘に出ると、広がる大地の先にキラキラと光る水面が見えた。

まだ遠いが、海へと続く川の始まりだろう。

 

ルギアは俺の背後──モンスターボールの中で静かにしていた。

まだこの世界に馴染んでいないのか、あまり長く外に出ようとはしない。

 

「……無理もねえか。何もかもいきなりだったしな」

 

思わず独り言のように漏らすと、レイカが横目で俺を見た。

 

『でも、ご主人様。あの子、夢で海の音を聞いてるって言ってたわ。きっと、帰れる日を楽しみにしてるのよ』

 

「あぁ……だろうな」

 

どこか懐かしげな、望郷の想い。

あのルギアの目には、そんな気配が確かにあった。

 

「……なら、必ず帰してやるさ」

 

『うん。私も、協力する』

 

『アタシも!ちゃんと送り届けたいし!』

 

シルヴィアも元気よく手を挙げる。

 

空を見上げれば、ムクバードやポッポたちが群れを成して飛び、

地を見れば、ヒマナッツやナゾノクサ、ニャースたちが走り回る。

 

ここには、争いも騒ぎもなく──ただ、平和な時間が流れていた。

 

いつかこの時間が壊されるかもしれないという、不穏な気配は俺の中にある。

だがそれでも──今だけは、この静けさに身を委ねたかった。

 

草の匂い、風の音、ポケモンたちの鳴き声。

全部が、俺たちを包み込んでくれる。

 

この旅の終わりがどこにあるのかは分からない。

でも、きっと大切な何かに近づいている。そう思えた。

 

──ルギアを、必ず、帰す。

 

そんな約束を胸に、俺たちは野原を越えて、また一歩を踏み出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。