暗部として鍛えられた子の漂流譚   作:ラン乱

24 / 42
海神の言葉、覚悟が満ちる時

「……何だ、人だかり?」

 

次の地へ向かう途中、広い橋の前に集まる人々の姿が見えた。

ざわつく声に耳を傾けながら、エボルは近くの通行人に声をかける。

 

「何かあったのか?」

 

「昨日の夜に橋が崩れたらしくてね。通行は当面の間、封鎖だそうだよ。今、復旧作業中らしいけど、いつになるかは……」

 

「マジか……」

 

思わず額に手を当てて溜息をつくエボル。

橋を渡れなければ、遠回りをしなければならない。

 

「まいったな……。遠くなるが、岩場を回って洞窟を抜けるしかないか」

 

『それって……あの暗い場所を通るの?』

 

『うわ……また暗くてジメジメした所ね。でも仕方ないか~』

 

文句を漏らしつつも、シルヴィアとレイカはエボルの後について歩き出す。

 

───

 

洞窟の入口はひんやりとした空気に満ちていた。

蝙蝠のように張り巡らされた石の天井と、湿った地面。視界は薄暗く、光はほとんど届かない。

 

懐中ライト代わりに、レイカの炎が頼りだった。

 

「……おい、何か音がする」

 

暗がりの先から、岩が転がるような音。

地を揺らすような重低音が響いたかと思うと──

 

ドガンッ!

 

突然、通路の左右から岩タイプや地面タイプのポケモンたちが姿を現し、エボルたちに飛びかかってきた。

 

『ご主人様の前に立ちはだかるなら──私が相手よ!』

 

レイカが炎をまとい、身構える。

 

『アタシもいる!相性ならアタシの方が有利よ!来なさいッ!』

 

その威勢に一瞬気圧されるかに見えた敵たちだったが──

 

……ピタリ、と動きを止めた。

 

洞窟の奥、石壁の影から重々しい足音が響く。

 

「……何だ、あいつ」

 

現れたのは、堂々たる角と巨体を持つ伝説のポケモン──テラキオン。

 

『止まれ、貴様ら。』

 

威厳あるその声に、周囲のポケモンたちは一斉に頭を垂れるように動きを止めた。

 

テラキオンはエボルに目を向ける。

 

『人間……奴らの仲間ではないのか?』

 

「何の仲間だよ、いきなり襲ってきといて」

 

テラキオンはエボルの全身を舐め回すように見つめ、やがて言った。

 

『ふむ……お前の目は曇っていない。戦士の顔をしている。奴らとは違うか』

 

「だから、何の話だよ。こっちは橋が崩れて通れねぇんだよ。すまないが、この洞窟を通してくれ」

 

『……それは、無理だ』

 

ぴしゃりと告げられた拒絶に、エボルは眉をひそめた。

 

「理由を聞いても、教えてくれないってか?」

 

『……それは答えられん』

 

すると──奥からしなやかに現れたのは、細い髭を生やしたような顔を持つコバルオン。

 

『テラキオン、警戒を解くな。人間だぞ』

 

『だが、この者は少なくとも敵ではない。……俺にはそう見える』

 

『それでも、慎重に越したことはない』

 

コバルオンの鋭い目は、エボルだけを睨んでいた。

 

すると──

 

「戻ってらっしゃい、テラキオン、コバルオン!」

 

女性のような高く響く声が洞窟の奥から響いた。

 

『む……分かった』

 

テラキオンとコバルオンは命令に従うように、奥へと姿を消す。

 

「……おい、待てよ。通りたいだけなんだけどな?」

 

エボルが苦笑混じりに呟くと、そばにいた岩ポケモンたちの一体が言った。

 

『黙れ!誰のせいでケルディオ様が傷を負ったと──』

 

『バカ!言うなって!』

 

「……ケルディオ?」

 

エボルは表情を引き締め、静かに言う。

 

「じゃあ、ケルディオを治したら、通してくれるか?」

 

『っ……貴様……我々の言葉を……理解しているのか?』

 

ざわつくポケモンたち。誰もが驚愕の色を隠せない。

 

「奥に案内してくれ」

 

『たとえ理解しようが、ここを通す訳には……』

 

対立が激化しかけたその時──

 

ピコン、と小さな音を立てて、エボルの腰のモンスターボールが勝手に開いた。

 

「……ルギア?」

 

『やめて……争いはダメ……人間さんを、連れてってあげて……』

 

小さな体のルギアが、震えながらも前に出た。

周囲のポケモンたちがざわめき出す。

 

『まさか……あれは……』

 

『あの御方は、海神様……!?』

 

『し、しかし……』

 

ルギアは震える声で言った。

 

『僕、この人に助けてもらったの。きっと……この人なら、ケルディオのことも、助けてくれると思うの……』

 

しばしの沈黙の後、ポケモンたちが一歩、後ろへ下がった。

 

やがて、洞窟の奥へ案内が始まる。

テラキオンとコバルオン、そしてもう一体──ビリジオンが姿を現し、険しい顔をしていた。

 

そして、重症を負って横たわるケルディオの姿が現れた。

 

「……これは……」

 

エボルはすぐに腰のポーチから回復スプレーを取り出し、患部に慎重に吹きかけていく。

徐々に色を取り戻し、ケルディオの目がゆっくりと開いた。

 

『……う……』

 

「よかった、間に合ったな」

 

ケルディオは目を見開き、起き上がると周囲を見渡した。

 

『ルギア様……?それに……君は、人間……?』

 

『この人が、君を助けてくれたの。安心して』

 

ルギアの声に、ケルディオは頭を下げるように頷いた。

 

『ありがとう、僕……命を助けられたんだね』

 

テラキオンとコバルオン、ビリジオンもそれを見て静かに目を伏せた。

 

その際、エボルは静かに問いかけた。

 

「一体、何があったんだ?」

 

テラキオンが前に出ると、重々しく語り始めた。

 

『数日前のことだ。……我々がこの地の守護として過ごしていた時、突如“白と黒の模様を持つ者たち”が襲撃してきた』

 

『彼らはこう叫んでいた。“ポケモンを解放せよ”とな』

 

その言葉に、エボルの目が細くなった。

 

「……プラズマ団か」

 

『ああ。お前も知っているのか。彼らの意志は偽りに満ちていた。解放などではない……。支配だ。』

 

ビリジオンがその続きを語る。

 

『私たちはポケモンたちを守るべく、四剣士として立ち上がった……だが、彼らの放った奇妙な武器が周囲を吹き飛ばした』

 

コバルオンが重く口を開く。

 

『その衝撃は、我らでも耐えがたいものだった……そして、ケルディオが我らを庇って飛び出したのだ。』

 

『……身を挺して、あの一撃を受け止めた』

 

その場に沈黙が落ちた。

 

ケルディオは俯きながらも、声を絞り出す。

 

『……僕、怖かった。でも、皆を守りたかったんだ……あの時、僕は初めて、“戦う”って決めたんだ』

 

静かに語るその言葉を聞いて、エボルの表情は変わる。

 

「……ふざけやがって」

 

静かに吐き出された言葉とは裏腹に、全身から刺すような気配が放たれた。

笑っているような口元だったが、目には明らかな怒気が宿っていた。

 

「ポケモンを解放するとか言ってた連中が、何をしてやがる……まるで、反対のことじゃねぇか」

 

その気配に、テラキオンも、ビリジオンも、一瞬、呼吸を止めた。

レイカもシルヴィアも、声をかけられずにいた。

 

「……通る前に、一発ぶっ潰してやらねぇと気が済まねぇな」

 

その声に、ケルディオが瞳を見開く。

 

『僕も行く!もう……じっとしてるのは嫌だ!お返ししないと、気が済まないんだ!』

 

その瞬間、ケルディオの体が淡く輝き出す。

 

『これが……』

 

眩い光に包まれ、ケルディオのたてがみが伸び、姿が凛々しく変化していく。

 

──そう、それは“かくごのすがた”だった。

 

テラキオン、ビリジオン、コバルオンがその変化を見て、わずかに微笑んだ。

 

『ようやく、真の覚悟に至ったか』

 

『立派になったわね、ケルディオ』

 

『お前の想い……我らが支えよう』

 

四剣士、再び並び立つその姿はまるで、英雄たちの帰還だった。

 

エボルは静かに口元を吊り上げた。

 

「だったら、こっちも行く準備をしねぇとな。」

 

『ええ、いつでもいけるわ、ご主人様』

 

『アタシも!派手にやってやるんだから!』

 

『ぼくも、がんばるよっ』

 

新たな決意が交錯する中、エボルたちと四剣士の戦いが、今まさに始まろうとしていた──。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。