暗部として鍛えられた子の漂流譚   作:ラン乱

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断罪の始まり

エボルは、ケルディオ達に一旦モンスターボールに入ることを提案した。敵に気付かれないようにするためだと理由を述べると、ケルディオ達は顔を見合わせてから頷き、了承する。洞窟に待機していた他のポケモン達にも「ここで待機していてくれ」と伝えた。何が起きるか分からない以上、少数での行動が望ましいと判断したのだ。

 

その時、洞窟の一角にいたドリュウズが、奴らの痕跡を見つけたと伝えてきた。エボルはすぐに案内を頼み、ドリュウズが掘ったトンネルを進む。

 

穴を抜けた先、痕跡は確かに残っていた。レイカに視線を向ける。

 

「どっちに行った?」

 

『あっちの方向です』

 

レイカが尾で方角を示すと、エボルは口元を歪めて呟く。

 

「よーし……断罪の余地はないからな、あいつら」

 

その表情を見たシルヴィアが顔をしかめる。

 

『なんて顔してるのよ、エボル……』

 

その時、エボルはルギアをモンスターボールから出すと、言い聞かせるように言った。

 

「まだ中に入ってろ。」

 

『でも、僕も……手伝いたいよ』

 

「必要になった時が来たら呼ぶ。それまでは頼む」

 

ルギアは少し寂しそうな顔を浮かべながらも、頷いて再びボールへ戻っていった。

 

暫く進むと、レイカが立ち止まる。

 

『匂いが強くなってきました……この先に、何かがいます』

 

視線の先には建造物のような影。静寂の中、突如として叫び声が響く。

 

──痛みと恐怖が混ざったような、ポケモンたちの悲鳴。

 

その瞬間、エボルの頭に激しい痛みが走った。思わず額を抑え、眉をしかめる。

 

『エボル!?どうしたの?』

 

シルヴィアが声を掛けるが、エボルは首を横に振って返す。

 

「問題ない……集中しろ」

 

身を屈めて建造物を覗き込むと、檻の中に複数のポケモンたちが押し込められ、機械に拘束されている姿が見えた。

 

『これって……ルギアの時と同じじゃない……?』

 

シルヴィアが唇を噛み締める。

 

『何がしたいのよ……こいつら……』

 

レイカも吐き捨てるように言う。その時、再びエボルに強い頭痛が走り、呼吸が乱れる。

 

『エボル、やっぱりおかしいわよ。顔色が……』

 

「いいから……今は目の前に集中だ」

 

エボルは必死に痛みを振り払いながら言い放った。

 

――

 

その後、息を殺して内部に接近すると、エボルはテラキオンをボールから出す。

 

「地ならしで揺らせるか?」

 

『造作もないことだ』

 

テラキオンは前足を踏み込み、地面を強く打ちつける。激しい地響きが建造物全体に響き渡り、プラズマ団の下っ端や研究員たちは騒然とした。

 

エボルはすかさず命じた。

 

「レイカ、シルヴィア!檻の救出を! ケルディオたちも、暴れてこい!」

 

『任された!』

『いくわよ、全部助ける!』

 

一斉にポケモンたちが突入し、戦いが始まった。

 

──

 

戦闘の最中、一人の下っ端がクリムガンを出し、「はかいこうせん」を指示。クリムガンは口から強烈な光線を放ち、エボルに襲いかかる。

 

「今日は腹が煮えたぎってんだよ!」

 

エボルは右足を振り上げ、迫る光線を蹴り上げ、空中へと逸らせた。驚愕する下っ端。

 

「ルギア!ありったけの風を起こせ!」

 

エボルの声に応じ、ルギアが現れ、翼を大きく広げてはばたくと、下っ端もろとも施設の一部を吹き飛ばす突風を巻き起こした。

 

ビリジオンが小声で言う。

 

『あの人間……私たちがいなくても戦えるじゃないの……』

 

『ビリジオン、今は機械の破壊が先だ』

 

コバルオンが冷静に返した。

 

ルギアは振り返りながら、誇らしげに笑う。

 

『僕、やれたよ!』

 

「もっと練習が必要だな」

 

笑みを返すエボルだったが、その直後だった。

 

──「ルギアちゃん、みーっけ♪」

 

突如、背後から甲高い声が響いた。

 

振り向いたエボルの目に飛び込んできたのは、一人の青年。狂気じみた笑顔を浮かべたていた。

 

「なんだお前……」

 

「俺? 観測者って呼ばれてるよ。名前なんてない」

 

男は体を揺らしながら近づく。

 

「ルギアちゃんを泥棒しちゃダメじゃないかぁ。返してくれるよね?」

 

「お前が誘拐した犯人か?」

 

「違う違う。俺は頼まれただけ。回収と……お前の始末もね♪」

 

エボルは剣を抜き構えるが、観測者は一瞬で間合いを詰め、短剣を振り下ろす。エボルは避け、受け止め、距離を取る。

 

観測者の目が細まり、笑った。

 

「お前、エボルか?」

 

「……だったら何だ」

 

「へへっ……成程な……連絡が途絶えたと思ったら、お前の仕業か!」

 

観測者は高らかに笑い、奇妙な動きをする。

 

『なにあいつ……気持ち悪い』

 

「気持ち悪い? 格好いいの間違いだろぉ〜?」

 

高台の影から現れたのは、狂気に満ちた青年だった。

目の焦点は合っておらず、笑顔の中に隠しきれぬ異常さが滲んでいる。

 

エボルは一歩前に出て、彼を睨む。

 

「……お前、ポケモンの言葉が分かるのか」

 

「はぁ? エボル、知らねぇの? なら、見せてやるよ」

 

そう言った瞬間、観測者の両腕が肉の音と共に変化する。

骨が捻れ、皮膚が裂け、露出したその腕は鋭利な刃物に変貌していた。

 

エボルの瞳が驚愕に開く。

 

「こいつはな──ポケモンの細胞、DNAを“人間の体に融合させた結果”だよ。ポケモンの言葉が分かるのはその副産物さ」

 

「DNAの……融合?」

 

観測者は狂気じみた笑い声を上げながら答える。

 

「そうさ、俺に組み込まれたのはキリキザンの細胞。だからこそ、俺は強く、美しく、完璧な存在となった! 剣であり人間であり、ポケモンでもある……ッ!」

 

その言葉に、エボルは息を呑む。

 

「……じゃあ、俺は……」

 

「その通りだよ、エボルぅ! お前にもあるんだよ、力がな!」

 

観測者の顔が歪むような笑みを見せる。

 

「お前の中にいるのは“ゾロアーク”。人間の姿で化け物と化す、幻影の使い手だ。俺とお前は、選ばれた存在……ただし──」

 

彼の声が一段低くなる。

 

「“適応した”のは運が良かっただけ。融合実験でどれだけの命が失われたか知ってるか? 屍を越えて手に入れた力を、ありがたく思えよ?」

 

言葉を失ったエボルは、その場で沈黙する。

 

観測者はさらに続ける。

 

「だが見た感じ、力の片鱗も見せちゃいない。ってことは……“卒業試験”、失敗だったんだな?」

 

その単語に、エボルの身体がびくりと震える。

 

「卒業試験の内容、覚えてるか?」

 

「やめろ……喋るな」

 

エボルが低く呟くが──観測者は止まらない。

 

「甲高い声で泣き叫ぶ、あの音を思い出せよ。ポケモンをなぶり殺し、斬り刻む。それが──お前の卒業試験だったんだよ!!」

 

『……っ!?』

 

シルヴィアの目が大きく開き、レイカ以外は息を呑んだ。

 

『レイカ……アンタ、知ってたの!?』

 

レイカは俯いたまま、小さく頷く。

 

『……でも、ご主人様はそれをしなかった。私は今、こうして生きてる。それは……ご主人様が、拒んでくれたから』

 

「ふん、だからお前は不合格。そして今──ここで、死ぬことになる!」

 

観測者が刃となった腕を振りかぶり、突進してくる。

 

『ご主人様! 起きて!!』

 

『エボル! 何してるの、立ってよ!!』

 

エボルの心の中に、怒涛の思考が駆け巡る。

 

(俺がポケモンの言葉を理解できる理由が、これ……?

 ゾロアークの細胞?

 “選ばれた”んじゃない……ただのモルモットだったのか……)

 

(……特別なんかじゃない。俺は──ただの犯罪者だ)

 

観測者の刃がエボルの身体を斬り裂こうとした、まさにその瞬間──

 

「──ッ!?」

 

割って入ったのは、小さな銀色の翼。

 

ルギアだった。

 

観測者の攻撃が直撃し、ルギアの身体から赤い鮮血が飛び散った。

 

『る、ルギア!!』

 

『やめてっ!!』

 

レイカとシルヴィアの叫びが響く中、ルギアは倒れながらも、なおもエボルを見上げて言葉を紡ぐ。

 

『人間さん……負けないで……』

 

そのまま、力尽きるように意識を手放した。

 

「くそっ! 報酬が下がっちまうじゃねぇかよ……!」

 

観測者が舌打ちしながら後ずさる。

 

だが──その瞬間。

 

エボルの中で、何かが弾けた。

 

ズズ……という音を立てて、周囲の空気がどす黒く変化していく。

 

エボルの身体を包むように、深い影のようなオーラがうねり始めた。

 

瞳孔は細く鋭く、獣のような光を宿し、髪の毛は赤黒く染まり、背中まで届くほどに伸びていく。

 

異様な気配に観測者がたじろぐ。

 

「な……なんだ、てめえ……っ」

 

立ち上がったエボルの目には、怒りしかなかった。

 

「……貴様を──殺す!!」

 

地の底から響くような怒声が、辺りを震わせた。

 

そして、覚醒した力が今、放たれようとしていた──。

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