『ぐうっ……!』
倒れていたゼラオラが、突如として呻き声を上げ、ゆっくりと上体を起こす。
目を開いたその瞬間、鋭い黄金の瞳がエボルを捉える。
「……起きたか」
エボルが短く声をかけると、ゼラオラは勢いよく跳ね起き、その場で数歩下がりながら低く構える。
『おい、てめぇ……何しやがった……!』
レイカが一歩前に出る。
『落ち着いて。あなたを助けたのは──』
『寄るな!信用できるか!俺様は騙されねぇ!』
シルヴィアが焦ったように両手を振る。
『ちょっと!ほんとに落ち着いてってば!私たちは──』
だが、ゼラオラの鋭い視線は緩まない。
その時──
『……あっ』
モンスターボールが光り、ルギアが姿を現す。
その姿を目にした途端、ゼラオラの表情が変わった。
『……海神様!?』
『うん……僕だよ』
ゼラオラは息を呑み、ほんの少しだけ肩の力を抜く。
『どういう……ことだ?あんたが、俺様を助けたのか?』
『違うよ。助けてくれたのは、この人間さんだよ』
そう言って、ルギアはエボルの方を見た。
『このガキが……?』
ゼラオラは鼻で笑う。
『海神様でも、冗談が過ぎるぜ。人間なんざ信用できるわけが──』
言いかけて、ゼラオラは黙った。そして、低く挑戦的に言う。
『……だが、海神様の言葉を無下にはできねぇ。俺様を助けたっていうなら、確かめさせてもらおうじゃねぇか』
エボルは腕を組んでいた。
「……いいだろ」
『条件がある。戦うのはそこの奴らじゃなく……てめぇだ、人間!』
その言葉に、レイカがため息まじりに微笑む。
『ふふ……またご主人様の強さを知らない子ね』
シルヴィアはすでに察していたかのように呟いた。
『あの子、もう終わったわね……』
ケルディオは真剣な目で見つめる。
『勉強させてもらいます……!』
ゼラオラは周囲の空気に違和感を感じつつも、構えた。
『な、なんだこの反応は……誰も止めやしねぇ……?』
「どうした。試すんだろ?かかってこいよ」
エボルが片手で挑発するように手招きをした。
『……舐めやがってッ!』
ゼラオラの全身から電撃が走る。スパークが草を焦がし、稲妻の音が弾ける。
瞬時にゼラオラは駆け出し、プラズマフィストを繰り出すが──
「遅い」
エボルは、ひらりと動きを読んで後ろに跳ぶ。
ゼラオラは連続で拳を振るうも、すべて空を切る。
『チッ……なんでだ!?攻撃が当たんねえ!』
「見切ってるだけだ。お前、速さはあるが動きにクセがある」
『っざけんなああああッ!!』
怒りのあまり突進するゼラオラ。拳がエボルの顔面に直撃する。
『へっ、ざまぁみやがれ!』
ゼラオラは勝ち誇ったように言った。だが──
「……満足か?」
拳を引いたゼラオラは、目を見開いた。
『な、なんだと……!?』
そこには無傷のままのエボルの顔。衝撃もなかったかのように平然としている。
「じゃあ、こっちの番な」
エボルはゆっくりと右手を前に突き出す。
「“あくのはどう”」
影の波動がゼラオラを包む寸前、ゼラオラは咄嗟に防御の構えを取る──
が、次の瞬間、視界からエボルが消えた。
『……っ!?背後──!』
振り返った時には、遅かった。
すでに後ろに回ったエボルが、ゼラオラの背に手を置いていた。
「…終わりだ」
ゼラオラは静かに肩を落とし、拳を下ろした。
『……降参だ。あんたには敵わねぇ』
───
戦闘後、ゼラオラは静かに問いかけた。
『……なぁ、“人間”』
「…なんだ」
『あんた、本当に俺様を助けたのか?あの時の苦しみ……全部、あんたが取ってくれたってのか?』
エボルは無言で頷いた。
『信じられねぇな……だが──』
ゼラオラは少しだけ目を細めた。
『あの“爆発音”が聞こえた時、確かに、俺様の中にあった何かが……消えたんだ』
「……取り付けられてた機械はもう壊した。お前を道具にしようとした連中は捕まった」
『ああ……そうか。ありがとよ、“人間”』
そう言ってゼラオラはふいっと視線を逸らしたが、その頬がほんの少し赤らんでいたのを、レイカとシルヴィアはしっかりと見ていた。