暗部として鍛えられた子の漂流譚   作:ラン乱

37 / 42
ここまで読んで下さった方々、ありがとうごさいます。
私情により暫く更新ペース落ちます。


雷火交差(らいかこうさ)

朝日が差し込み、旅を再開した一行はのどかな草原を歩いていた。風が穏やかに揺らぎ、ルギアは空を見上げては小さく羽ばたき、シルヴィアは道端の花を摘んでケルディオの頭に乗せていた。

 

その時だった。

 

「おーい!」

 

後方から聞き覚えのある声が響いた。振り返ると、前に会ったあのトレーナー──エースバーンのパートナーがいた。再会に驚いたのも束の間、トレーナーの手元からモンスターボールが弾かれ、そこから一匹のポケモンが飛び出した。

 

『エボルぅぅぅうう!!』

 

エースバーンだった。勢いよく駆け寄ると、そのままエボルに飛びつき、がっしりと抱きついた。

 

「わっ……お前、重いって」

 

エボルがたじろぐと、エースバーンは満面の笑みで彼を見上げた。

 

『うっひょ~、やっぱり!見た目変わっただけじゃない、力も凄くなってる!』

 

「……気付いてたのか」

 

『当たり前じゃん!オーラの密度が違うもん、燃えてきたー!』

 

それを見たトレーナーが苦笑しながら近寄ってきた。

 

「いやー、あの後からさ、こいつ、めっちゃ特訓に打ち込むようになってな。実力もだいぶ上がったんだ。多分、もう一度バトルしたくてたまらないんだよな」

 

エースバーンは頷きながら『うずうずしてたんだってば』と叫ぶように言った。

 

その時、エボルがふと隣にいるライガに目を向ける。

 

「じゃあ……俺は、ライガにするかな」

 

『……俺様か?』

 

ライガが一瞬驚いたような表情を浮かべる。

 

『へっ、まあ悪くねぇ、丁度、暴れ足りなかったからな。』

 

エースバーンはそのやり取りを見て、ちょっと不満げに言った。

 

『エボル、ボクとバトルしないの?あっちのゼラオラさんより、絶対ボクの方が戦って楽しいって!』

 

『…あぁ?』

 

ライガがビクリと反応した。

 

『てめぇ……今なんつった?俺様が弱そうだってか?』

 

『ううん、強そうには見えないって言ったんだよ』

 

あからさまな挑発に、ライガは腕をぶんぶんと振って怒りをあらわにする。

 

『おい人間!俺様にやらせろ!こいつ、舐めすぎてる!一発ぶち込んで、黙らせてやる!』

 

エボルは冷静に目を細める。

 

「……最初からそのつもりだ」

 

そう言って、ライガの耳元に小さく囁く。

 

「実力は、あっちの方が上だ。……だから、途中で指示を出す。勝ちたいなら、その通りに動け」

 

ライガはその言葉に驚きを隠せなかった。

 

『……マジかよ』

 

「任せとけ。やれることは全部やる」

 

ライガは拳をぐっと握った。火花を散らすような視線で、エースバーンをにらみつけた。

 

『おいエースバーン、てめぇの挑発、後悔させてやるからな!』

 

『言ったね、やれるもんならやってみなよ!』

 

火花が、次の瞬間には本物の技へと変わる。

 

 

 

乾いた風が草原を吹き抜ける中、ライガとフレア、二匹のポケモンが向かい合っていた。

 

『さあて、始めようぜ。舐めた口を叩いた報い、たっぷり返してやる』

 

ライガが拳を打ち鳴らし、雷光が掌を弾いた。

 

『フフッ、望むところだよ!ボク、あの時からずっと……エボルに認められたくて、特訓してたんだから!』

 

フレアは軽やかに足元を蹴ると、青白い炎をまとい立ち上がる。エースバーン特有の闘志がその小柄な体から溢れていた。

 

「フレア、まずは“にどげり”!一気に懐に入って!」

 

トレーナーが声を張ると同時に、フレアの足が地を蹴った。猛スピードで間合いを詰める。

 

『よっと!』

 

素早く踏み込んだフレアの二連撃が、ライガの胴体を狙って跳ね上がった。

 

『ちっ、速ぇな!』

 

ライガがバックステップで回避した直後、エボルが一言だけ発する。

 

「左、ステップ後ろ回避」

 

瞬時に反応し、ライガは一歩左へ。フレアの蹴りが風を裂いて空を斬る。

 

『……っ、避けた!?』

 

「“かみなりパンチ”で反撃だ、右回転しながら!」

 

『おうよ!』

 

ライガの拳に雷が収束。右足を支点に回転しつつ、拳を振り抜く。激しい雷撃を纏った拳が、フレアの肩を捉えた。

 

『ぐっ……!』

 

吹き飛ばされ、地面を滑るフレア。しかしすぐに体勢を立て直し、スライディングの姿勢から跳ね上がる。

 

「フレア、にどげりで揺さぶれ!」

 

フレアのトレーナーの指示に従い、フレアは地を蹴って駆け出す。

 

『いっくよーっ!』

 

軽やかなステップから放たれる2連の飛び蹴り。速度と威力のバランスが取れた見事な技だったが──

 

「左へ回避、腰を落とせ」

 

エボルの冷静な指示が飛ぶ。

 

『おうよっ!』

 

ライガは素早く左に身をかわし、腰を低く落として衝撃を逃す。フレアの足は空を裂くのみだった。

 

『なんで避けられるの!?』

 

「次、プラズマフィスト!」

 

雷光を拳に纏い、ライガが渾身の一撃を繰り出す。だが、フレアも一歩引きながらカウンター気味に“かえんボール”を生成。

 

『あっちいの、いっくよー!』

 

火球を蹴り飛ばすと、ライガの拳と正面衝突。轟音が弾け、周囲の草が焼け焦げる。

 

『やるじゃねぇか……けど、まだまだだろ?』

 

「右へ回れ、下から!」

 

エボルの声が飛び、ライガは即座に反応。炎の余韻を振り切るように下からフレアに突っ込んだ。

 

『うわっ……くっ、受けて立つ!』

 

フレアはとっさに“とびひざげり”で迎撃を試みるが──

 

「今だ、上へ!」

 

ライガはそのままフレアの膝を受け流し、反転しながら空へ跳ぶ。

 

『あぁっ!?』

 

空中からの“ワイルドボルト”。電光石火の一撃がフレアを地に叩きつけた。

 

『まだまだ、これからだ……!』

 

フレアは、まだ諦めていない。

 

「フレア!“とびはねる”!」

 

『はいっ!』

 

フレアが高く跳び上がり、青空の中に姿を消す。

 

『上かよ、めんどくせぇ技だな!』

 

ライガが空を睨む。

 

「動くな、奴の軌道を読むな。音を感じろ」

 

エボルの声は低く鋭い。

 

『音……?』

 

風を切る音──耳を澄ませたライガの毛並みが逆立つ。その一瞬の違和感を、感覚が捉える。

 

『そこか!!』

 

フレアが落ちてくる地点へ、ライガが素早く飛び込み、“プラズマフィスト”を掲げて上空からの急襲に備える。

 

激突の瞬間──

 

『ぐあっ!!』

 

ライガの拳がフレアの蹴撃とぶつかり合い、激しい火花が散る。

 

「よし、連続で“かみなりパンチ”!」

 

『おおおっらあ!!』

 

続けざまに繰り出された雷拳が、フレアの腹に命中。空気が振動するような一撃に、フレアは吹き飛ばされた。

 

『く……でも、まだまだ!!』

 

地面を蹴って跳ね起きる。目にはまだ闘志が灯っていた。

 

「“かえんボール”!前方に展開しろ!」

 

トレーナーの指示に、フレアは口元に火を灯す。そして、足元の小石を蹴り上げ、それに火を纏わせて燃えるサッカーボールを形成し、蹴り込んだ。

 

『くらえっ!』

 

勢いよく転がる火球がライガへ迫る。

 

「飛び込め。雷と共に突破しろ」

 

エボルの指示は変わらず静かだった。

 

『うし、任せな!』

 

ライガが雷を纏いながら正面突破を選ぶ。火球の熱風をものともせず、“ワイルドボルト”の如く突っ込む。

 

『うわっ!?まじかよ!?』

 

フレアが驚く間もなく、ライガの突進が胸元に叩き込まれる。爆発のような衝撃と共に二匹が弾ける。

 

数秒後、地面に崩れたまま立ち上がったのはライガだった。

 

『ふぅ……あのウサギ、やるじゃねぇか。けど、これで勝負ありだろ?』

 

フレアもふらふらと立ち上がるが、苦笑しながら頷く。

 

『参った……今のは完敗だよ……エボルって、やっぱ凄いんだな』

 

その言葉に、ライガが鼻を鳴らす。

 

『だろ?俺様に勝ったヤツの言葉は信じるよ』

 

トレーナーも肩をすくめて笑った。

 

「おいおい、あんたの指示、あれは反則だよ……まるでポケモンの動きが見えてるみたいだ」

 

「まあ、そういう訓練はされてるからな」

 

エボルは淡々と答える。

 

周囲の皆がライガとフレアの健闘を称える中、草原に再び穏やかな空気が戻っていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。