私情により暫く更新ペース落ちます。
朝日が差し込み、旅を再開した一行はのどかな草原を歩いていた。風が穏やかに揺らぎ、ルギアは空を見上げては小さく羽ばたき、シルヴィアは道端の花を摘んでケルディオの頭に乗せていた。
その時だった。
「おーい!」
後方から聞き覚えのある声が響いた。振り返ると、前に会ったあのトレーナー──エースバーンのパートナーがいた。再会に驚いたのも束の間、トレーナーの手元からモンスターボールが弾かれ、そこから一匹のポケモンが飛び出した。
『エボルぅぅぅうう!!』
エースバーンだった。勢いよく駆け寄ると、そのままエボルに飛びつき、がっしりと抱きついた。
「わっ……お前、重いって」
エボルがたじろぐと、エースバーンは満面の笑みで彼を見上げた。
『うっひょ~、やっぱり!見た目変わっただけじゃない、力も凄くなってる!』
「……気付いてたのか」
『当たり前じゃん!オーラの密度が違うもん、燃えてきたー!』
それを見たトレーナーが苦笑しながら近寄ってきた。
「いやー、あの後からさ、こいつ、めっちゃ特訓に打ち込むようになってな。実力もだいぶ上がったんだ。多分、もう一度バトルしたくてたまらないんだよな」
エースバーンは頷きながら『うずうずしてたんだってば』と叫ぶように言った。
その時、エボルがふと隣にいるライガに目を向ける。
「じゃあ……俺は、ライガにするかな」
『……俺様か?』
ライガが一瞬驚いたような表情を浮かべる。
『へっ、まあ悪くねぇ、丁度、暴れ足りなかったからな。』
エースバーンはそのやり取りを見て、ちょっと不満げに言った。
『エボル、ボクとバトルしないの?あっちのゼラオラさんより、絶対ボクの方が戦って楽しいって!』
『…あぁ?』
ライガがビクリと反応した。
『てめぇ……今なんつった?俺様が弱そうだってか?』
『ううん、強そうには見えないって言ったんだよ』
あからさまな挑発に、ライガは腕をぶんぶんと振って怒りをあらわにする。
『おい人間!俺様にやらせろ!こいつ、舐めすぎてる!一発ぶち込んで、黙らせてやる!』
エボルは冷静に目を細める。
「……最初からそのつもりだ」
そう言って、ライガの耳元に小さく囁く。
「実力は、あっちの方が上だ。……だから、途中で指示を出す。勝ちたいなら、その通りに動け」
ライガはその言葉に驚きを隠せなかった。
『……マジかよ』
「任せとけ。やれることは全部やる」
ライガは拳をぐっと握った。火花を散らすような視線で、エースバーンをにらみつけた。
『おいエースバーン、てめぇの挑発、後悔させてやるからな!』
『言ったね、やれるもんならやってみなよ!』
火花が、次の瞬間には本物の技へと変わる。
乾いた風が草原を吹き抜ける中、ライガとフレア、二匹のポケモンが向かい合っていた。
『さあて、始めようぜ。舐めた口を叩いた報い、たっぷり返してやる』
ライガが拳を打ち鳴らし、雷光が掌を弾いた。
『フフッ、望むところだよ!ボク、あの時からずっと……エボルに認められたくて、特訓してたんだから!』
フレアは軽やかに足元を蹴ると、青白い炎をまとい立ち上がる。エースバーン特有の闘志がその小柄な体から溢れていた。
「フレア、まずは“にどげり”!一気に懐に入って!」
トレーナーが声を張ると同時に、フレアの足が地を蹴った。猛スピードで間合いを詰める。
『よっと!』
素早く踏み込んだフレアの二連撃が、ライガの胴体を狙って跳ね上がった。
『ちっ、速ぇな!』
ライガがバックステップで回避した直後、エボルが一言だけ発する。
「左、ステップ後ろ回避」
瞬時に反応し、ライガは一歩左へ。フレアの蹴りが風を裂いて空を斬る。
『……っ、避けた!?』
「“かみなりパンチ”で反撃だ、右回転しながら!」
『おうよ!』
ライガの拳に雷が収束。右足を支点に回転しつつ、拳を振り抜く。激しい雷撃を纏った拳が、フレアの肩を捉えた。
『ぐっ……!』
吹き飛ばされ、地面を滑るフレア。しかしすぐに体勢を立て直し、スライディングの姿勢から跳ね上がる。
「フレア、にどげりで揺さぶれ!」
フレアのトレーナーの指示に従い、フレアは地を蹴って駆け出す。
『いっくよーっ!』
軽やかなステップから放たれる2連の飛び蹴り。速度と威力のバランスが取れた見事な技だったが──
「左へ回避、腰を落とせ」
エボルの冷静な指示が飛ぶ。
『おうよっ!』
ライガは素早く左に身をかわし、腰を低く落として衝撃を逃す。フレアの足は空を裂くのみだった。
『なんで避けられるの!?』
「次、プラズマフィスト!」
雷光を拳に纏い、ライガが渾身の一撃を繰り出す。だが、フレアも一歩引きながらカウンター気味に“かえんボール”を生成。
『あっちいの、いっくよー!』
火球を蹴り飛ばすと、ライガの拳と正面衝突。轟音が弾け、周囲の草が焼け焦げる。
『やるじゃねぇか……けど、まだまだだろ?』
「右へ回れ、下から!」
エボルの声が飛び、ライガは即座に反応。炎の余韻を振り切るように下からフレアに突っ込んだ。
『うわっ……くっ、受けて立つ!』
フレアはとっさに“とびひざげり”で迎撃を試みるが──
「今だ、上へ!」
ライガはそのままフレアの膝を受け流し、反転しながら空へ跳ぶ。
『あぁっ!?』
空中からの“ワイルドボルト”。電光石火の一撃がフレアを地に叩きつけた。
『まだまだ、これからだ……!』
フレアは、まだ諦めていない。
「フレア!“とびはねる”!」
『はいっ!』
フレアが高く跳び上がり、青空の中に姿を消す。
『上かよ、めんどくせぇ技だな!』
ライガが空を睨む。
「動くな、奴の軌道を読むな。音を感じろ」
エボルの声は低く鋭い。
『音……?』
風を切る音──耳を澄ませたライガの毛並みが逆立つ。その一瞬の違和感を、感覚が捉える。
『そこか!!』
フレアが落ちてくる地点へ、ライガが素早く飛び込み、“プラズマフィスト”を掲げて上空からの急襲に備える。
激突の瞬間──
『ぐあっ!!』
ライガの拳がフレアの蹴撃とぶつかり合い、激しい火花が散る。
「よし、連続で“かみなりパンチ”!」
『おおおっらあ!!』
続けざまに繰り出された雷拳が、フレアの腹に命中。空気が振動するような一撃に、フレアは吹き飛ばされた。
『く……でも、まだまだ!!』
地面を蹴って跳ね起きる。目にはまだ闘志が灯っていた。
「“かえんボール”!前方に展開しろ!」
トレーナーの指示に、フレアは口元に火を灯す。そして、足元の小石を蹴り上げ、それに火を纏わせて燃えるサッカーボールを形成し、蹴り込んだ。
『くらえっ!』
勢いよく転がる火球がライガへ迫る。
「飛び込め。雷と共に突破しろ」
エボルの指示は変わらず静かだった。
『うし、任せな!』
ライガが雷を纏いながら正面突破を選ぶ。火球の熱風をものともせず、“ワイルドボルト”の如く突っ込む。
『うわっ!?まじかよ!?』
フレアが驚く間もなく、ライガの突進が胸元に叩き込まれる。爆発のような衝撃と共に二匹が弾ける。
数秒後、地面に崩れたまま立ち上がったのはライガだった。
『ふぅ……あのウサギ、やるじゃねぇか。けど、これで勝負ありだろ?』
フレアもふらふらと立ち上がるが、苦笑しながら頷く。
『参った……今のは完敗だよ……エボルって、やっぱ凄いんだな』
その言葉に、ライガが鼻を鳴らす。
『だろ?俺様に勝ったヤツの言葉は信じるよ』
トレーナーも肩をすくめて笑った。
「おいおい、あんたの指示、あれは反則だよ……まるでポケモンの動きが見えてるみたいだ」
「まあ、そういう訓練はされてるからな」
エボルは淡々と答える。
周囲の皆がライガとフレアの健闘を称える中、草原に再び穏やかな空気が戻っていった。