暗部として鍛えられた子の漂流譚   作:ラン乱

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静けさの中の鍛錬

賑わいと温かい空気が残る町で、俺たちは人とポケモンの共用宿──「ほしのやど」へと足を運んだ。

 

「一泊、三人と……二匹分で」

 

受付の女性はにこやかに笑い、宿帳に名前を記していく。

 

「ようこそ、“ほしのやど”へ。ポケモンと一緒のお部屋になりますので、お布団も大きめを用意しております。」

 

『お布団……ふかふかなのかな?』

『アタシ、ベッドっていうの、初めてかも!』

 

興奮気味な二匹を横目に、俺は渡された鍵を手に取り、部屋のある二階へと階段を上がった。

 

中は、思ったよりも広く、窓からは街の夜景が静かに広がっていた。

 

「……悪くない」

 

ベッドが二つ。片方に俺、もう片方にレイカとシルヴィア。文句はないだろう。

 

『わぁぁ……ふかふか~!』

『すごい!跳ねても沈まないけど柔らかい!』

 

跳ねて転がって、感動を爆発させてる二匹。

……少しうるさい。

 

「風呂、行ってくる」

 

『私たちも入っていいの?』

「ポケモン用の浴場があるらしい、入ってこい。」

 

それから約一時間後、三人とも風呂上がりで部屋に戻った。

 

レイカの毛はさらさらで、尾がふわふわに膨らんでいる。シルヴィアは葉のつる部分がしっとりと整っていた。

 

『……ねぇご主人様』

『今日のことだけどさ──』

 

ポケモン姉妹を助けた話、イーブイのキス、それを庇った姉たち──そんな全部を思い返しながら、俺たちは夜の静けさの中で、それぞれの枕に頭を置いた。

 

「……明日は特訓するぞ。街の外に広場がある。軽く身体を動かすにはちょうどいい」

 

『えっ!?特訓!?』

『ううっ……早起き、がんばる……』

 

───

 

翌朝、朝日が町を染める頃。

 

宿のすぐ近くにある広い広場には、俺たち三人の姿があった。

 

「今日やるのは、それぞれの課題の洗い出しと反復練習」

 

俺は両手をポケットに突っ込みながら、レイカとシルヴィアを交互に見やった。

 

「レイカ、お前は“百鬼夜行”の制御。発動の範囲、火力、霊体の数──一つずつ意識して出してみろ」

 

『了解。……いきます』

 

レイカが一歩前に出ると、紫の炎が身体の周囲に瞬き、狐火のような霊体がふわりと浮かび上がる。

 

「霊体三つ。出し過ぎると反動が来る。今日は一体ずつ、的を狙って順に放て」

 

『わかった』

 

レイカは指示通り、1体1体の霊火を小さく練って、設置した木製の的に向かって撃ち出す。霊火は追尾し、曲がりながら命中──軽快に的を燃やした。

 

「いいぞ、集中切らすな」

 

『はいっ……!』

 

その後も、エボルの細かい指示に従いながら、レイカは百鬼夜行の霊火たちを自在に動かす訓練を続けた。

 

一方、シルヴィアの前には、重りのついた丸太が三本。

 

「お前は“つるのムチ”の強化。射程の把握と、打撃の速度を上げろ」

 

『了解!行くわよ……っ!』

 

葉から伸びたツタが地面を這い、瞬時に前方の丸太をしならせた。

 

「甘い。もっと肘から力を抜いて振れ。次は三連打──突き・薙ぎ払い・打ち下ろし」

 

『う、うんっ!』

 

バシッ、シュッ、ドンッ!

 

繰り返される動作に汗がにじむが、シルヴィアは真剣そのもの。

 

「その調子で、目を閉じてやってみろ。感覚に集中しろ」

 

『っ、わかったわ!』

 

──

 

時間が経つにつれて、炎の精度、ツタの動き、すべてが洗練されていった。

 

俺は腕を組んでその様子を見つめながら、微かに頷く。

 

「……悪くない」

 

特訓を終えた頃、レイカもシルヴィアも地面に座り込んで息をついていた。

 

『はぁ……っ、きつかった……けど、少し分かった気がする……』

『わたしも……ムチのしなりを感じられた気がする……!』

 

「上出来だ。継続すれば、実戦で生きる」

 

俺がそう言うと、二匹の顔がぱっと明るくなる。

 

『えへへ……ご主人様に褒められた……』

『へへっ!もっと頑張ろうって思えちゃう!』

 

朝の光の中、広場に響いた笑い声と、俺の小さなため息。

 

次の町に向かう前の、小さなけれど大切な一日だった──。

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