あれは、『修行』を始めてから半年ぐらいの月日が経ち、戦闘にも慣れた頃だったであろうか。
その頃、私たちはミアレシティの南部にある町、ハクダンシティとチャンピオンロードをつなぐ道路──22番道路にて、チャンピオンロードを目指すべく通りがかるポケモントレーナーを相手に
ある日、いつものように22番道路の草むらに
その人間の女性は……何というか……一見しただけで不思議なオーラを放っており、
その第一印象に、困惑と動揺を感じながらも、私はモルを置いてその女性の前に飛び出した。
女性はまるで踊るように
「あら……珍しい……とってもかわいいポケモンね」
と
完全に甘く見られている……そう感じた私は、
その後に起こった出来事は、ほんの一瞬のことだった。
まず、彼女は
投げ出されたボールは
そのポケモンは女性が身につけているのと似たような白いドレスのようなものを身に
ほうようポケモン──サーナイト。
それが、そのポケモンの名前であることは
そして、その時は意識していなかったが今となっては、私がトレーナーに向かって突撃しながら技を
そして、女性トレーナーは右手でボールを繰り出すのとほぼ同時に、首から下げたペンダントに左手を当てると、彼女は目を閉じながら
「ショータイムよ、サーナイト」
と小さく呟いた。
すると、なんと彼女が身につけていたペンダントが神秘的な光を放ち始めたではないか。
そして、それと同時にサーナイトの身体もそれに
私はその様子を見て、まさか自分の他にも『紋章』の力を使える者がいたのか! ととりとめもない混乱と動揺に襲われてしまった。
しかし、私の繰り出した膝蹴りはそんなことはお構いなしに、光に包まれるサーナイトの身体に吸い込まれていった。
結果から言うと、私の攻撃がサーナイトに当たることはなかった。
彼女を包んでいた光が収束すると、そこにはまるで
そこで、私はそれが、自分が
「なん……なの? ……その力はッ!?」
私が突き出した右膝は、サーナイトに直撃する寸前で、何かの力に
すると、サーナイトは静かに微笑みながら、左手を私に向けてそっと添えてみせた。
「フフッ……出直してらっしゃい……キュートでやんちゃな、ウサギさん……」
彼女はその一言だけ言うと、こちらに向けた左手を
その後の記憶は、モルが
モル
──何もできなかった──圧倒的な実力の差──
その事実が、その時の私の心を深く傷つけた。
と同時に、彼女たちのような
ただならぬ強さを
だが、その時に彼女たちが使った『力』こそ、他でもない『メガシンカ』と言われるものであるということだけは、後にカロス各地を旅する中で知ることとなった。
「おい、何をボーッとしてるんだよ!」
ガブリアスの鋭い声が、
「さては、ここまで
そう言って、彼は口調と態度で強がって見せていたが、今の私にはそれが私に対する警戒と焦りの裏返し
そして、私はそのことに耐えきれず、プッと笑い声を
「な……何ヘラヘラしてるんだよ!」
私の反応が予想外で気に
「……いえ……あなたって……見た目と違ってとっても『
おっと、いけない。やはり最近の私は
だが、そう
「な……んだとォ……!? ……ブッ潰してやるッ!!」
そう叫ぶと、彼は後ろで立ち尽くしている彼の主人の方に振り向いて、チラッと視線を送った。
エリートトレーナーはそれに気づくと、軽く頷き返し左腕の腕輪に右手を添えた。そして、そのまま左腕を天高く突き上げると同時に、叫び声を上げた。
「よし……いくぞっ! 『メガシンカ』ッッ!!」
その声を聞いて、私は「来るッ!」と緊張と興奮が入り乱れた、不思議な
そして、ガブリアスの全身を
それはまるで、全身が凶器になったかのような、何とも威圧的で暴力的なフォルムであった。
「へぇ……カッコイイじゃん……」
初めて目にする、『メガガブリアス』の姿を見た私の第一声は、自分でも驚くほど純粋な
「フン……その
彼がそう言うのとほぼ同時に、その後ろに立つ彼のパートナーから声が飛んできた。
「ガブリアス! 『いつものアレ』をやるぞ!」
メガガブリアスは、その指示を聞くとニヤリと笑みを浮かべ、エリートトレーナーに頷き返した。
「グォォォォォッッ!!」
こちらの方に向き直ったメガガブリアスがそう叫ぶと、私は足元の大地がわずかに揺り動かされ始めるのを感じた。
(この揺れは……まさかっ!?)
何かを察した私は、すかさず地を蹴って空中に
次の瞬間、私が立っていた場所の地面に
「やっぱり……『じしん』だったのね……」
メガガブリアスが放った大技、『じしん』を、私は容易に
正直に言うと、私にとっては『ガブリアス』というポケモンと戦うのは、これが初めてというわけではなかったからだ。
どのガブリアスも、この大技を使ってくるものだから、嫌でも警戒するし、対策もできる。
しかし、マッハポケモンの次の
「なっ……!?」
このままでは直撃する! そう予感した私は、咄嗟に両腕で
ドガァァン
私の身体は、ビリヤードのように
「ミ……ミミロップッ!!」
モルが私のことを心配して呼びかけるのが聞こえた。私は体をヨロヨロと起こしながら、それに応えた。
「え……へへ……大丈夫……ちょっと油断しちゃっただけ……!?」
余裕を見せようと返事をしている最中に私の言葉は、いつの間にか眼前まで迫ってきていたメガガブリアスの姿に
「……は……速いッ!」
私は思わずそう口走ってしまった。流石、限界まで鍛え上げられた『マッハポケモン』というだけあって、その速さは私の予想を大きく超えていた。
「ほぉ……俺の『ドラゴンダイブ』を
どうやら、彼らのいっていた『いつものアレ』とは、この『じしん』と『ドラゴンダイブ』のコンボのことであったようだ。
最初の『じしん』で攻撃を仕掛け、空中などに避けられた場合もその後の『ドラゴンダイブ』で
……なるほど、素晴らしい
流石は、
だが……
「……最後に1つだけ……教えておいてあげる……」
ハァハァと息を荒げる素振りを見せながら、私はメガガブリアスから
「あぁ……!?」
メガガブリアスが追い込まれた私にギロリと
「……あなた……いや、あなたたちは確かに強い……けどね、それだけではダメなの……先に断言しておくわ。あなたは……『絶対に』私に勝てない……」
私はメガガブリアスに向かって、真剣な眼差しで言葉を発した。すると、彼はその言葉に対して怒るどころか、
「……お前もしかして、そんな言葉で俺を挑発して動揺を誘って、反撃を仕掛けるつもりか? 悪ぃけどな、ここまでお前を追い込んだ以上、最後まで気を抜くつもりはねぇんだよ……っと……そうだ。その前にこっちも1つだけ良いことを教えておいてやるよ。お前、さっき俺のことを『おくびょう』な性格だとか抜かしてやがったよなぁ……?」
そこで口を止めると、彼は
「残念だが俺の性格はなぁ……『
そして彼は、そのご自慢の武器を私の
「……でしょうね……そんなの、とっくに知ってたわよ……バカね……♡」
私が小さく呟くのと同時に、メガガブリアスの体が時間が止まったかのようにピタリと静止した。
振り下ろしていた彼の右腕の大鎌も、私の
「なっ……何ィィッ!? なぜだ! なぜ俺の体が……動かねぇんだ!?」
彼は
と同時に、彼が受けたダメージも、ここにきて初めて感じ取れたようだった。
「こ……これは!?
──彼の身体は胴体を中心に
その原因たる冷気は、彼の腹部に突き出された私の左拳から流し込まれていたのだった。
そう……私が彼に繰り出した技の名前は……
「……れ……『れいとうパンチ』……だとォォ!?」
──どんなポケモンでも、戦闘と勝利を繰り返していけば、経験値が積み重なっていきレベルが上がり、より強力な技を使えるようになる。
この世界では
ポケモンの『技』を覚える方法は、レベルアップ以外にも人間が造り出した『わざマシン』なるものを使用する、誰かに『教えて』もらう、親からの『遺伝』で技を覚える……といったものが
だが、その多くはあくまでトレーナーのパートナーとして選ばれたポケモンのみが使える手段であるということを忘れてはならない。
多くの野生のポケモンたちは、皆限られた『技』しか扱えないのである。
しかし、私の『紋章』はその
本来の『ミミロル』の姿で扱える技が、せいぜい体を『はねる』ことしかできないのに対して、胸の『紋章』の力を行使している間は、本来レベルアップするだけでは覚えられないような技でも、
例えば、今この瞬間私の眼前で口をぽかーんと開けてマヌケ面を
この能力のおかげで、私は──いや、私たちは2年間で幾多ものポケモンたちに打ち勝つことができたと言っても
「なっ……なんで、そんな『技』を……お前ごときが使えるんだ……っ!」
凍りついた体を動かそうと必死にもがきながら、メガガブリアスが声を振り絞った。
そして、私はそんな彼の体を左手で押し当てながら、ゆっくりと石壁から背中を離していった。
「さぁ? なんでかしらね? でも……言ったでしょ? あなたは私に『絶対に』勝てないって……」
私は口の
正直なところ、メガシンカの力を解放しメガガブリアスとなった彼には最初、私が確実に勝利できるという自信はどこにもなかった。
ただ、彼の
そこで、私はあえて壁際に追い詰められる展開を誘い込み、彼が私の『
そして、彼はまんまと『そこ』に足を踏み入れた。
それが、私に勝利を確信させてくれたのだ。
「クソ……クソッ……こんなところで……ッ! 俺は……
流石と言うべきか、メガガブリアスは燃え上がるような
しかし──
「戦ってくれてありがとう♡おつかれさまでした♡」
私は目一杯の笑顔を彼に向け、そしてその表情とは裏腹に
本来であれば、技との相性を考えれば先ほどの一発目の『れいとうパンチ』でとっくに倒れていてもおかしくないのに……
やはり、彼が見せていた自信も、あながちただの
と心の中で呟く刹那の間に、私の技が彼の
ドゴォッ……という鈍い音が鳴り響くと、メガガブリアスは
そして、その身体は不思議な光に包まれながら、そのまま元のガブリアスの姿へと戻っていったのだった。
私は姿勢を楽にしてフーッと大きく一息
「そ……そんな……バカなッ! 俺の……俺のガブリアスが……こんな……こんなッ!!」
そして、彼はピクリとも動かないパートナーポケモンの
「ヒィッ! ……ば……バケモノだ……こんなの普通じゃないッ!! うわぁァァッッ!!」
そう喚き散らかすと、エリートトレーナーはエリートらしからぬ
「まぁ! ……こんなにキュートなポケモンに向かってバケモノだなんて……失礼しちゃうわね……」
近くの岩陰で様子を伺っているであろうモルを心配させまいと、そう軽口を叩いてみるがやはり身体へのダメージ大きかったためか、私は無意識にフラフラと不安定なバランスになりながらモルの方へ向かって行った。
「ユイねーちゃんッ! 大丈夫ッ!? 痛くなかった!?」
大声を上げながら私を
「……もう、モルったら……まだ、周りに他の野生ポケモンがいるかもしれないのに……それと、私のことをおねーちゃんって呼ぶのはやめなさいよ……」
すると、モルは照れ笑いを浮かべながら言った。
「あ……いけない……ごめんなさい……でもでも、本当に大丈夫なの? すごく強かったよね、あのガブリアス……」
「えぇ……ダメージは受けちゃったけど、『紋章』の力で何とか……ね。たしかに、あのガブリアスは今まで戦ってきたポケモンの中ではトップクラスに強かったわ。でもね……」
そこまで言い終わると、私はモルの顔から視線を
「あれぐらいの実力をもったポケモンにも、確実に勝てるようにならないとダメなの、私たちは。私の
その言葉を聞いたモルは、ただただ息を
私は顔を上げて
「でも、今の私たち……2匹の力を合わせれば、きっとどんなポケモンにでも勝てるはずよ。もうあれから2年経った。私はこの『紋章』の使い方も十分マスターできたし、モルの『へんしん』の能力も完璧に仕上げることができたわ……だから……」
その続きを察したのか、私の声が終わる前にモルが真剣な
「いよいよ……行くんだね……」
「えぇ……ついに……ついに、その時が来たのよ……」
そう……この2年間、私たちが闘い続けてきた理由……それは、母の遺言に従い『ある場所』に行き
「行くわよ……『ミアレシティ』へ!!」──