──春の昼下がりの太陽が照らす、穏やかな陽だまりのもと、その小高い丘の上では2人のポケモントレーナーによる白熱したバトルが繰り広げられていた。
「行けっ! ヌメルゴン! 『かえんほうしゃ』!」
声を高らかにして、相棒の『ドラゴンポケモン』──『ヌメルゴン』に指示を出したのは、
「ヌ……メェッ!」
少年の声に合わせて、ヌメルゴンの口から超高温のブレスが
銀色に染められた髪を赤いスポーツ帽から
そして、彼は冷静に右腕を振りかざし、彼と同じように動揺を見せる様子もなく目の前で立っていたポケモンに、指示を出す。
「……『ルカ』、『しんそく』……」
「…………」
『ルカ』と呼ばれた『はどうポケモン』──『ルカリオ』は、青年トレーナーの言葉が終わるや否や、声を発することもなく素早くその
ヌメルゴンの『かえんほうしゃ』がルカリオに当たる寸前で、彼の姿は目にもとまらぬ速さで動き出したのだ。
「ヌ……ヌメッ!?」
シュバッ、シュバッ、と残像を至るところに散らしながら急速に接近するルカリオを捉えようと、ヌメルゴンは『かえんほうしゃ』を噴き出す口の向きを懸命に変えていくが、ルカリオの身体には技が掠ることもなかった。
「くっ……! 気をつけろ、ヌメルゴン! 来るぞ!」
ヌメルゴンのトレーナーである少年の声がパートナーに届く前に、既にルカリオは至近距離から放たれる『かえんほうしゃ』の軌跡を華麗に避けながら、ヌメルゴンの
「…………」
ルカリオは力むような仕草も見せず、無言でヌメルゴンの横っ腹から、極限まで加速した身体をそのまま突進させた。
「ヌメェェェッッ!!」
という鳴き声を散らしながら、ルカリオの身長よりも一回り大きなヌメルゴンの身体は、豪快に吹っ飛ばされた。
「……ヌメルゴンッ! ……くそっ! ……まだだ! がんばれ、ヌメルゴン!」
パートナーの応援に応えるように、ヌメルゴンはルカリオの攻撃によって地面に叩きつけられた身体を、決死の思いで
「……ヌ……メェ……!」
その姿を見た相手の青年のトレーナーは、それまで固くしていた表情を少し緩ませて、その様子を静かに見守っていた。
「…………」
相棒の行動に合わせるように、青年のパートナーのルカリオもまた、ヌメルゴンの方を
その一方で、体勢を整え直したヌメルゴンに、少年が勇気を振り絞って全力の指示を出し始める。
「……よし! 勝負はまだだ! ヌメルゴン! 必殺技だっ!!」
「ヌゥゥゥッッ……!!」
少年の熱い声に共鳴するように、ヌメルゴンはエネルギーを身体に限界まで溜めていく。
「…………」
その間も、青年とルカリオは動くことなく『その時』を待っていた。
そして──
「──『りゅうせいぐん』っっ!!」
「メェェェッッ!!」
少年の口から絶叫が
そのエネルギー片は、やがて隕石のような形となり、ルカリオの立っている場所へと次々と
「いっけぇぇぇっっっ!!!」
少年の叫びに呼応するかのように、数えきれないほどの『りゅうせいぐん』はその勢いを強めながら、相手ポケモンのいた周辺へと
「……はぁっ……はぁっ……やったのか……?」
『りゅうせいぐん』が直撃した場所からは土煙が立ち上り、しばらく状況が硬直する。
やがて、土煙が晴れると、そこに立っていたはずのルカリオの姿は、
「ヌ……ヌメメ……!?」
「……!! ……ルカリオが……いない!?」
『りゅうせいぐん』の威力でどこかに吹き飛ばされたのかと、少年とヌメルゴンは懸命に目を
「そ……そんな……どこに……?」
「……ヌメェ……」
狼狽える少年とヌメルゴンの鼓膜に、青年の静かな声が響き渡り始める。
「……君たち、素晴らしいよ……勝負を諦めず、最後まで立ち向かう覚悟と、お互いを信頼しあう友情……」
「……えっ……?」
「……ヌメ……?」
勝負の真っ最中なのにも関わらず、青年の口から発せられた想定外の賛辞に、少年たちは思わず言葉を失う。
「……素晴らしい
「い……一体、何を……!?」
銀髪の青年の発言に戸惑う少年が、ふとヌメルゴンの方に焦点を移すと、目を疑うような光景が彼の網膜に焼き付けられた。
──呆然とするヌメルゴンの目の前には、いつのまにかルカリオが立っており──そして──
「──『インファイト』」
青年の口からその単語が
[newpage]
「いやぁ、負けちゃった。まだまだだなぁ、オレ」
目をぐるぐる回して倒れ込むヌメルゴンに、おつかれさま、ゆっくり休んで、と声をかけてモンスターボールに戻すと、先ほどまで僕とポケモンバトルをしていた少年は、こちらの方まで歩み寄ってきた。
「やっぱり、スッゲー強いんだね、にいちゃん。オレ、メチャクチャ楽しかったよ!」
白い歯を見せながらこちらに満面の笑みを浮かべる少年の顔を見て、不意にこちらも頬が
「……僕の方こそ、君とヌメルゴンの熱い戦い方を見せてもらって、とても感激したよ」
うわべだけのお
「……ううん……にいちゃんとルカリオの強さに比べたら、オレたちなんて全然……もっと強くならないといけないんだ……」
表情や声色は
そんな少年の頭に、僕は優しく手を乗せると、
「……ポケモントレーナーの強さっていうのはね……ただ戦いを重ねて強くなればいいというものではないと思うんだ……」
「……えっ……?」
純粋な目を向ける少年に、穏やかに
「……ポケモンを想い、ポケモンに想われる強い絆……そして、どんな困難な状況でも決して挫けることなく、前に進み続ける信念……そういったかけがえのないものを大切に育み、パートナーと共に成長していくことで、最高のポケモントレーナーになれる……って、僕は信じてる……」
僕の言葉が彼には難しかったのか、少年は頭を傾げながら考え込む
「……ポケモンとの『絆』と、進み続けれる『信念』……正直、まだオレにはよくわからないけど、絶対に忘れずに覚えておくよ! ありがとう! にいちゃん!」
再び陽のように明るい笑顔を僕に向けながら、少年はお礼を言った。
「……どういたしまして……大丈夫、君ならきっと『頂点』までたどり着けるよ……えっと……」
そういえば、この少年の名前を聞けていなかったな、と思い、言葉を詰まらせてしまう。
「……あっ! もしかして、オレの名前? オレは『セイ』! よろしくなっ!」
どこか懐かしく、力強いその声に、自然と笑みが溢れてしまう。
「ふふっ……こちらこそよろしくね、セイくん。いつか必ず、『
そう言うと、僕は右手を彼の前に差し出して握手を求めた。彼は
「うんっ! 絶対……絶対に届いてみせるからね……『カルム』にいちゃん! ……」
最後の一言がセイくんの口から放たれる直前、僕の右手を握りしめる彼の右手に一瞬だけ力が込められたような気がした。
「──『チャンピオン』のにいちゃん!」
[newpage]
またね〜っ! と、こちらに向かって元気に手を振りながら走り去るセイくんの後ろ姿を見送ると、僕は
「……おつかれ、『ルカ』。悪いね、道草食っちゃって……」
その声に、フゥッと一息
「……気にするな。ポケモントレーナーは、ポケモンバトルを通じて互いを高め、成長することが
いつも通り、『
──はどうポケモンである『ルカリオ』は、『波導』の能力で人間とポケモンたちの思考や、離れた場所にいる存在の行動を読み取ることができるといわれている。
だが、ルカの『それ』は特別だった。ルカは、『波導』の力で相手の思考を読み取るだけではなく、自分自身の思考や、至近距離にいる第三者の思考を、人間やポケモンに関わらず、パートナーである僕に正確に伝えることができるのだ。
『ルカ』のこの能力によって、僕は色々なポケモンたちの心や考え方を、まるで人間と会話するかのように自由に感じ取ることができるようになった。
ルカによると、彼がそのような特別な『波導』を扱えるのは、彼の胸に刻まれた『
「……ははっ、そう言ってもらえると嬉しいよ、ルカ。ありがとう……」
ルカの方を真っ直ぐに見つめながらお礼を言うと、彼は照れ隠しのように顔を横に向けコホン、と咳払いをしながら『
「さて、では
歩き出したルカについて行くように、僕も足を動かし始める。
「うん、そうだね……久しぶりで楽しみだなぁ……」
そして、まだ遠くから微かにしか見えない『
「……ミアレシティ……」
[newpage]
──『魔術師』(マスカーニャ)と戦った、あの夜から2週間の時が過ぎた。
私はあれから、昼間はハンサムハウスの(自称)マスコットのミミロル、ユイとして──そして、夜は
そして、夜は
昨晩の獲物のゴロンダも、有力な情報源になるかと思われたが、結局のところは期待はずれの結果に終わってしまった。
マスカーニャと対決してからのこの2週間、ほとんど何の進展もなく、ハンサムハウスの一員としてゼロにぃやマチたちと
ゼロにぃたちの前では、何とか
頭痛で吐きそうになる頭をおもむろに持ち上げながら、私はいつもと同じ時間に起き上がった。
「「「あ……おはよう! ユイちゃん!」」」
──朝食が置かれたテーブルを囲むようにゼロにぃ、マチ、ニャオニクス(私はニャオさんと呼んでいる)が椅子に座り、その周りをディアンシーのディアがゆらゆらと浮遊する光景……これも、この2週間で見慣れた光景だった。
そして、私の方も『いつも通り』に彼らに向かって『偽りの笑顔』を作り、応える。
「……おはようございまぁ〜す♡」
いつもと同じ定位置……テーブルを囲んでゼロにぃとマチが座る間に置かれた、人間の赤ちゃん用のベビーハイチェアに私が登り、姿勢を整えると、皆で一斉に声を上げる……当然、これも『いつもと同じ』ことである。
「「「いただきまーす!!」」」
[newpage]
「……ねぇ、ゼロ。昨日の夜のことなんだけど……」
食器をカチャカチャと鳴らす音や皆がモグモグと朝食を
「……お、それについて、今ちょうどテレビニュースでやってるみたいだぞ……」
そう言うと、ゼロにぃはテーブルの上に置かれていたテレビリモコンを手に取り、器用にリモコンのボタンを押す。
すると、テーブルの前に置いてあったテレビの音量が上がり、人間のニュースキャスターの音声が
「──今日未明、ミアレシティ、サウスサイドストリートに面するビルで、多数の人間とポケモンたちが何者かに襲われ、重傷の状態で倒れているのが発見されました」
そのニュース音声に無意識に耳をピクピクッと反応させながら、私はテーブルに置かれたポケモンフーズに視線を落とし、それを
「──警察の発表によりますと、被害者はこのビルの関係者で、いずれも反社会的勢力とのつながりが疑われていた組織や団体の人間やポケモンたちとのことです。警察による被害者への聞き込みの結果、『胸に光るアザがあるミミロップに襲われた』などという
スラスラと読まれるニュース原稿を耳にした私以外の一同は、その間誰一人として口を開くことなく、テレビの画面に釘付けになっていた。
私はというと、テレビニュースなど意にも介さないという様子で、テーブルの上の皿に盛られたポケモンフーズをひたすら貪っていた。
しばらくの沈黙が続いた後、ゼロにぃはテレビリモコンの電源ボタンを押し、テレビの電源を落とした。そして、食事に夢中になっている(ふりをしている)私越しに、マチへと声をかける。
「……また、やられたな。『
「なんとむごいことを……」
ゼロにぃとディアの言葉に対して
「うん……私たちの『パトロール』の
すると、ゼロにぃは突然握りしめた右手をドンッ、とテーブルに叩きつける。その衝撃で、テーブルに置かれた皿や食器が小さく揺れ飛ぶ。私は半分演技、半分本気でゼロにぃの方に驚いた顔を見せた。
「……クソッ!! 奴め! 毎度毎度、俺たちの警戒をまんまとすり抜けやがって!」
怒りを
「……すまねぇ。悔しくて情けなくて、ついキレちまった……」
マチエール……いや、夜の『エスプリ』の行動パターンは、ハンサムハウスに住まうミミロルの『ユイ』として事前に探っていれば全て筒抜けだったのだから、ゼロにぃが悔やんだりする必要はないのに……と、私は心の中で呟いた。
ゼロにぃの
「……気持ちはわかるよ、ゼロ……それにしても……」
一呼吸置いて、マチが続ける。
「……最近、『
その言葉が耳に入った瞬間、飲み込もうとしていたポケモンフーズを思わず喉に詰まらせそうになってしまった。
マチの発言は、まさに
「……確かにな。初めはユイを
私も、『
その心の声が聞こえたのかどうか定かではないが、ゼロにぃがドキッとするようなことを言い始める。
「……あいつ、
またまた図星を突かれた私は、ここまできたら、もうこれはゼロにぃと以心伝心の関係になっちゃっているということなのではないかと思ってしまい、つい変な笑みを浮かべてしまいそうになる。
そんな私の
「……よし! これ以上この話を続けても仕方ないし、さっさと朝ごはんを食べちゃおう! 大丈夫! 『
ポケモンたちを心配させまいとする健気なマチの姿に口を挟む者がいるはずもなく、私にとって
[newpage]
「……ところで、今日はこの後何をするんだ?」
マチとポケモンたちが朝ごはんを食べ終え、食器をキッチンに運び、各自で分担しながら皿洗いを進める中、ゼロにぃがマチに
「……う〜ん、今のところ急ぎの仕事とか依頼の相談の予定は入ってないから、とりあえず『
シンクに置かれた洗い終えた食器皿を、器用に耳でつかみ、キッチンのシンク下部に備え付けられた食器乾燥機へと運びながら、私はその声に耳を傾けていた。
「……そうか、わかった。俺も手伝えることがあったら、任せてくれ、マチ」
まず真っ先にゼロにぃが胸をポン、と右手で叩きながら答え、
「でしたら、わたくしも微力ながら助力させていただきますわ、マチエール様!」
その後にディアがくるくると身体を回しながら続け、
「やれやれ、では必要になったら僕も力を貸しますよ……」
と、ニャオさんも声を上げた。
改めて彼らの見事なコンビネーションに心を打たれつつも、これ以上『
そんな彼らに、マチは穏やかな笑顔を見せながら、
「ありがとう! みんな! 頼りにしてるよ!」
と応え、キッチンに皆のほのかな笑い声が響き渡った、その時だった。
ピンポーン♪
ドアチャイムが、皆の笑い声を打ち消すように鳴り響いた。
「……あれ? 誰だろう? 今日は特に来客の予定はなかったはずだけど……は〜い! 今行きま〜す!」
マチは戸惑いを口にするが、チャイムが鳴らされたドアに向かって返事をして、足早にそこへ向かって行った。
ガチャ……
ドアを開ける音が聞こえた後、マチの驚く声がハンサムハウス中に響き渡る。
「……えっ……!? ……うそっ……!?」
なにごとかと、私を含め皿洗いをしていたポケモンたちが一斉にドアの方を振り向く。
ドアの前には、1人の人間の青年と、1匹のポケモンが立っていた。
その青年は、銀色の髪に赤いキャップを
どこかで見たことがあるような気がする、と思っていたが、優しげなその雰囲気から、前にマチエールが見せてくれた写真に写っていた少年と同一人物だということに、程なく気づいた。
そして、その隣に立つポケモンは、青と黒のコントラストが印象的な四肢と頭部、それに胴体からは
カロス地方では見たこともないポケモンだったが、なぜかその姿を見て、私の心がキュッと引き締められた気がした。
「おい……誰だ、あいつ……?」
ゼロにぃが、
「……いえ、わたくしは存じませんわ……」
ディアが首を横に振りながら小さく答える。
「あれ……ひょっとして、彼は……!」
ニャオさんは何か心当たりがあるのか、何か言おうとした。だが、その続きはマチの大声によってかき消された。
「──『カルム』ッ!! 『カルム』じゃないっ!! 久しぶり〜!!」
『カルム』と呼ばれた青年は、恥ずかしげにはにかむ仕草を見せながら、マチに言葉を返す。
「……久しぶり、マチエール。元気にしてたかい?」
「うんっ! カルムの方こそ、各地を旅しているって聞いていたけど、ミアレに来たんだね!」
「ああ、昨日の夜、こっちに着いたんだ。君とは、もう2年ちょっとぶりだったかな……また大きくなったんじゃないか? マチエール」
「ふふっ……カルムの方こそ、カロスの『チャンピオン』として、より一層たくましくなったんじゃない?」
とめどない会話を続ける青年カルムとマチエールの様子を、ハンサムハウスのポケモンたちは
「積もる話もあるし、中に入ってもいいかい?」
「ええ、遠慮せずどうぞ入って!」
そうマチに
[newpage]
「マチエール、そこのポケモンたちは……」
台所の前で立ち尽くす、私たちポケモンの姿を見たカルムは、ふとマチに
「あ……そっか。そういえば、カルムは会うのが初めてだったっけ。紹介するね、まずそこの黄色い……」
ゼロにぃの方を振り向きながら、マチがポケモンたちの紹介を始めようとした、その瞬間。
カルムの隣に立っていたポケモンが急に大きく目を見開いた。その視線の先にいたのは、この私、ミミロルの『ユイ』だった。
そして、そのポケモンはカルムに向かって
小声で喋っているため、こちらには内容がわからないが、そもそもカルムという人間に彼の言葉が理解できるのか……と疑問が頭に浮かんでいる私の耳に、カルムの動揺した大声が唐突に押し寄せる。
「……なんだって!? ……」
「えっ? なに? いきなりどうしたの、カルム……?」
予想外の展開に、ついさっきまで喜びの笑顔を見せていたマチの顔が一気に強張る。
「……ごめん、マチエール……そこの、ミミロルの
カルムは、何かに
「……あ、この
バタンッ!!
その音は、カルムの隣に立っていたポケモンが、
──どういうこと?
訳もわからず、言葉を失う私をよそに、カルムという青年は顔を青ざめさせながら、マチに言った。
「……マチエール……あのミミロル……『ユイ』を……少しだけ……借りてもいいかい……?」
マチも、何が起こっているのか全く理解できていないようで、明らかに様子がおかしいカルムの言葉に従うしかないようだった。
「う……うん……ユイちゃん……」
おもむろに私の方を振り向きながら、名前を呼ぶマチに促され、私は何も言葉を返せずに身体をブルブルと震わせながら、カルムとその隣にいるポケモンの方へと歩み出した。
その身体の震えは決して演技などではなく、本能的に何か嫌な予感を感じ取っていたからなのであった。
カルムの元に何とか辿り着くと、彼の口がゆっくりと開かれる。気のせいか、彼の目には涙が浮かんでいるようだった。
「……ユイ……頼む……『ルカ』について行ってくれ……」
『ルカ』とは、彼の隣で膝をついたまま、こちらを
私は
『ルカ』というポケモンは、一言、
「……ユイ……」
という
そして、ハンサムハウスの入り口の方へとゆっくり歩き始めた。カルムに言われるがまま、私もそんな彼の後をついて行く。
[newpage]
『ルカ』は、私を誰もいない近くの路地裏まで連れて行くと、そこで立ち止まった。まるで、誰にも見られたくないかのようだった。
「………………」
彼は、後ろ姿をこちらに向けたまま、全身をピクピクと微かに震わせながらしばらくの間立ち尽くしていた。
「……えっと……あの……」
そんな彼に気を遣って、何か声をかけようたした
彼は
「……ユイッッ!! ……ユイなんだなっっ!!」
そう叫びながら、彼は私の身体をきつく抱きしめた。彼の目からは、大粒の涙がこぼれ落ち、それが私の身体に次々と当たって
「……えっ……? ……なに……?」
混迷を極めるこの状況に全く追いつけない私の心を、彼の次の絶叫が鋭い刃物となって襲いかかった。
「……生きていたんだなっっっ!!! ……ユイッッッ!!!」
──え?
──いま
──かれは
──なにを?
「……あ……あな……たは……」
──だれ?
「……そうか……まだ思い出せていないのか……私は……」
──ま
──まって
──まさか
「……私は……お前の父だ──!」
──その──
──瞬間──
──私の──
──脳が──
──完全に──
──焼き──
──切れる──
──音が──
──頭に──
──響き──
──渡った──