「みんな、たっだいま〜」
ゼロとゾロと共にユニオンの拠点である廃墟……『フォート』と呼ばれる場所に戻ると、リンは勢いよく声を上げた。
「おっ! おかえり〜、リンちゃん、ゼロくん!」
「遅かったじゃないか、心配したんだよ!」
「ゾロも一緒か! またゾロに怒られたのか? ハハハ!」
ユニオンのポケモン達が次々とリンの元に集まり、言葉を交わしていく。その様子を彼女の後ろから見ながら、さすがの人気ぶりだな、とからゼロは感心していた。
「これだけ、多くのユニオンのポケモンがお前たちを待ってくれていたんだ。彼らを心配させたり、悲しませるような真似だけは絶対にやめろ。いいな?」
ゾロが静かな声でゼロに話しかける。ゼロは視線をリンの後ろ姿に向けながら答える。
「……ああ、わかったよ。これからは気をつける……あいつにもそう伝えておくさ」
そうこうしているうちに、一際元気な声がフォートに響き渡った。
「ママ〜!! おにいちゃ〜ん!! おかえりなさ〜い!!」
その場にいたポケモンたちが声の元へと振り向くと同時に、リンが一目散にその方向へ駆け寄った。そして、勢いよく小さな影を抱きしめた。
「ユ〜イちゃ〜ん!! ただいま〜!! ちゃんと良い子にしてた〜?」
リンが抱きしめていたのは彼女の
「うん! ユイね、きょうもちゃんとママたちのことしんじてずっとまってたよ!」
ユイの小さな口から発せられたその言葉を聞いて、リンは大きく口を開け狂喜の叫びを上げ、ユイに頬擦りをし始めた。
「キャ〜〜♡なんって可愛いこと言うのよこの娘は〜! あ〜ダメダメ! もう大好き!! 一生離さないわ♡」
いつものこととはいえ、やはりあの母親は娘のことを
リンはゼロやゾロの前では、娘に対しての想いをひた隠しにして強がってはいるのだが、最愛の我が子を目の前にしてしまうと、それも抑えられなくなってしまう節があった。
そういえば、リンが以前『反省部屋』に入れられた時も、ユイに会えないことが相当
ゼロがチラッと横に立っているであろうゾロの様子を覗くと、彼もまたゼロと同じことを考えているようで、やれやれ、といった表情を見せていたのであった。
このまま放っておくと、リンがユイを本当にエンドレス頬擦りしかねない勢いだったため、見兼ねたゼロが母親の激しいスキンシップに困惑している様子のユイの元へと歩み寄った。
「こんばんは、ユイちゃん。ごめんな、ママの帰りを遅くさせてしまって。寂しくなかったかい?」
すると、ユイは絡みつくような母の頬擦りからするりと抜け出し、とてとてとゼロの元へと駆け寄ってきた。リンは一瞬ショックを受けたような顔をするが、ユイが駆け寄っていく姿を見て「クゥ〜〜〜♡」という何とも意味不明な声を出した。
いや、どんな情緒だよ……と、ゼロだけでなく、おそらく周りで様子を見守っていたポケモンたちは一斉にそう思っただろう。
「ううん、だいじょうぶだよ! きにしないで! ユニオンのポケモンさんたちがいっしょだったから、ぜんぜんさびしくなんてなかったもん!」
「「「ウォォォ! ユイちゃ〜ん! なんていい子なんだ!」」」
今度は、周囲にいたユニオンのポケモンたちが一斉に声を上げた。このユイというポケモン、もしかしたら末恐ろしい才能を秘めているのではないか……ゼロは微笑みかけながらもユイの母親譲りの何者も
落ち着きを取り戻した様子のリンが、ユイに歩み寄り、優しく頭を撫でながら言葉をかけた。
「えらいねぇ〜、ユイ! 全然寂しくなかったなんて言えて! あれれ? 誰かさんはユイが寂しがって心配していたって言ってたような〜?」
そう言うと、リンはジト〜とした視線を、それまでの出来事を
「そんなことないもん! ユイ、がんばってママとおにいちゃんのことまってたんだもん」
これまた可愛らしくうるうると涙を溜め始めたユイの目元をリンが優しく拭うと、視線を逸らさないまま皮肉全開の口調で続けた。
「うんうん、そうだよねぇ〜……まさか、こんなに健気な子どもの気持ちが理解できないような
おそらく、ライバルとのバトルを邪魔された挙句、娘のことを知ったかのような口を聞いたユニオンリーダー様への
当事者もそのことに気づいたらしく、大きくため息を吐いてみせた。そして、その『
「よーし、今日はもうここまででいいだろう! 明日は特別な日なんだ! 寝坊したりしないよう、各自解散して早めに睡眠をとるように! いいな!」
その号令を聞いて、その場にいたポケモンたちが一斉にゾロの方に向き直り、口々に答える。
「「「はい、リーダー!!」」」
そして、リンたちの帰りに沸き立っていたポケモンたちは、あっという間にその場から、各々の寝場所まで散っていき、その場に残されたのは、リンとゼロとゾロ、そしてユイの4匹のみとなった。
ゼロも自分が寝る場所まで戻ろうとした、その時、リンが近寄って来て彼の耳元にヒソヒソと小声で話しかけ始めた。
「ねぇ、明日は特別な日って言ってたけど、何かあったっけ?」
その問いかけを聞き、ゼロは腕を組んで佇んでいるゾロの方にさりげなく視線を向けると、彼はゆっくりとゼロに頷き返した。それを見て、ゼロも小さな声でリンに向かって返答をした。
「あ〜……そういえばまだ聞いていなかったのか。ほら、前にユイちゃんの誕生日がいつなのか、あんたがみんなに話していたことがあっただろ? それで、明日はその日になるってことで、ユニオン総出でユイちゃんのお誕生日パーティーをしようって話になったんだ」
すると、リンは動転した様子でやや声のトーンを上げて言った。
「えぇ!? 何それ!? 私そんな素敵なこと聞いてないよ!?」
ゼロは膨れっ面になった彼女の反応を面白がるかのような微笑みを浮かべながら、静かに答えた。
「このことを伝えていたら、あんたのことだしユイちゃんに口を滑らせていたかもしれないだろ? そうなったら、せっかくのサプライズが台無しになる。だから、今日まで秘密にしておくようにって、ゾロから
「そうかもしれないけど……ひどいよ〜」
リンは口を尖らせながらも、ここ最近ユニオンのポケモンたちが妙にソワソワしていて、何やら大量のきのみやら綺麗な花やらを集めていたことを思い出し、その理由がわかったような気がして得心したらしいようであった。リンが続ける。
「でも……みんなには感謝しなきゃだね。いつも娘のために……いや、私たちのために、まるで本物の家族のように支えてくれて……私、本当にこのユニオンのみんなと出会えてよかったと思ってるわ」
ゼロはいつもらしからぬ、リンの真っ直ぐな言葉に一瞬驚きの表情を浮かべるが、やがて静かに目を閉じて言葉をかけた。
「……そういうことは、俺じゃなくてみんなに言ってくれればいい。きっと、ユニオンのみんなだって、あんたと同じことを考えてるぜ」
リンが何かを言おうと口を開けようとした瞬間、ユイが2匹に向かって声をかけた。
「ママ、おにいちゃん、どうしたの? なにをおはなししているの?」
リンとゼロは一瞬ギョッとした顔でお互いの目を見合わせると、慌てた様子で取り
「べ……別に大したことじゃないの。ほら、明日のご飯何食べようかな〜って話していただけよ」
「そ……そうそう。最近似たようなきのみしか食べていなかったから、たまにはもっと違うもの食べたいよな〜とか、そんなこと話してただけだよ」
2匹の目も当てられないような不器用な反応を見て、ゾロはやれやれといった様子で首を振り、2匹の様子に不思議そうな顔をしているユイと、情けなく慌てふためいているリンとゼロのもとに歩み寄った。
「ほら、みんな明日のことがあるんだから早く寝る準備をするんだ」
「「「は〜い」」」
ゾロの呼びかけに救われた思いでいたリンとゼロとともに、ユイは元気よく返事をした。
「じゃあ、また明日なゾロ、リン、ユイちゃん」
ゼロは片腕を上げて別れの挨拶をすると、その場を離れて行った。
「うん! また明日〜! ゼロく〜ん!」
「おにちゃん、おやすみなさ〜い!」
リンとユイは、ゼロの後ろ姿に向かって勢いよく挨拶を返した。
「さて……と、私たちも帰ろっか。ゾロくんもおつかれさま!」
「うん! ゾロおにいちゃん、おやすみなさい!」
リンとユイが声をかけると、ゾロは優しく微笑んで言葉を返した。
「ああ、また明日な。おやすみ、リン、ユイちゃん」
そして、