偽りの兎座   作:コユルギミカン

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2月6日

 2月6日──その夜のことを、私は絶対に忘れない。いや、決して忘れてはならない。

 

 身体を包み込むような母の温もりが失われ、冬夜の肌寒さを感じ始めたのが、私の目が覚めたきっかけだった。

 

 ふと目を開けると、普段であれば優しく私を抱きしめて眠りについているはずの母の姿が、そこにはなかった。

 

「う……ん……マ……マ……?」

 

 私はまだ寝ぼけている様子で、母の姿を探した。だが、私たち母娘(おやこ)の寝場所には、母の姿見は見当たらなかった。

 

 ユニオンの拠点、『フォート』は四角形の敷地に、2階建てで聳え立っていた。

 

 1階には、建物の入口へと続く大広間、そして戦争があった時代に砦として使われていた頃、人間たちに厨房や武器庫、倉庫といった用途に使われていた形跡のある部屋が置かれていた。

 ユニオンのポケモンたちは1階のスペースを集会や食事、あるいは戦闘訓練に活用していた。

 

 2階部分には、かつての戦時中に人間の兵たちの居室として使われていた名残のある無数の小部屋と、兵の作戦室や司令室のようなものとして使われていたであろう、大きな部屋があった。

 小部屋は、ユニオンのポケモンたちの寝場所となる居室として使われ、大部屋はガーディアンの詰所として活用されていた。

 

 私たち母娘(おやこ)に割り当てられた部屋に母の姿が見えないことを悟った私は、寝起きでおぼつかない足を動かしながら、ガーディアンの詰所として使われていた大部屋へと向かっていった。

 

 母は普段から、ガーディアンとしての打ち合わせや相談、あるいはユニオンのリーダーからの説教を受ける時に、よくその場所に行っていたのを覚えていたからだ。

 

 きっと、そこに行けば母が誰かと会って話しているに違いない。その時の私はそう考えていた。夜中の廊下は石柱で点々と灯されている松明(たいまつ)のおかげで案外明るくなっていたので、私は目的地まで迷わずに辿り着くことができた。

 

「ママ、わたしをみたらきっとびっくりするかも……フフ」

 

 無邪気にも母の驚く顔を見たいという気持ちが(たかぶ)っていた私は、両手に力を込めて大部屋の扉を勢いよく開け放った。

 

「ママ〜! なにしてるの〜?」

 

 そのまま部屋の中に足を踏み入れるが、母の返事はなかった。それどころか、部屋の中は暗闇に包まれていて、何者の気配も全く感じられなかった。私の心に、急に一抹(いちまつ)の不安と恐怖がよぎる。

 

「マ……ママ……? いないの? どこにいるの?」

 

 泣き出しそうになっている感情を必死に抑えながら、私は暗闇に向かって母に呼びかけた。しかし、相変わらず静寂のみが無慈悲に私を包み込んでいた。

 

 もしかして、母はここではなくて、他の場所にいるのだろうか。そう考え始め踵を返そうとした、その時。

 

 入り口から差し込む廊下の灯りで照らされた部屋の床に、何かが(うごめ)いていることに気付いた。

 

 それは、黒い液体だった。

 

 ゆっくりと、じわじわと、部屋の奥からこちら側へと流れて来ていた。

 

 よく見ると、光の反射によってその色は黒ではなく、濃い赤であることがわかった。

 

「え……なに……これ……」

 

 ただならない事態を察した私は、咄嗟に廊下側の部屋の入り口の梁に立てかけてあった松明を背伸びして手に取り、部屋の奥を照らし出した。

 

 

 そして、目に入った光景にしばらく言葉を失った。

 

 

 母がいた。

 

 

 部屋の中央の床に、力なく横たわっていた。

 

 

 彼女の全身は(むご)たらしく傷つけられ、赤い液体がとめどなく床に流れ落ちていた。

 

 

「……うそ……うそだよね……? ママ……?」

 

 

 叫んだり、泣いたりする余裕もなく、ただ茫然(ぼうぜん)としていた私は母の傍らまでよろよろと歩み寄ると、血に染まった彼女の身体をゆっくりと揺さぶった。

 

 その時の私は、目の前の状況がまだ現実のものとして受け入れられていなかったのだ。

 

 しかし、彼女の身体から自分の手に生々しく貼り付いた温かい血液が、目の前で起こっていることが、(まぎ)れもない現実であると、容赦なく私に突きつけた。

 

 母の身体からふと目を逸らすと、彼女の倒れている場所の近くに、もう一つの影が横たわっていることに気づいた。

 

「……ゾロ……おにいちゃん……? そんな……そんなっ……!」

 

 それは、このユニオンの頼もしいリーダーであったはずのゾロアークの変わり果てた姿だった。

 

 彼もまた、全身に生々しい傷がつけられ、鮮血の中に身体を埋めていた。

 

「なんで……なんで、こんなことに……だれか……だれかぁ!!」

 

 私は目に大粒の涙を溜め、他のポケモンを呼んでこようと大声で叫び、そして部屋を出ようとした瞬間、消え入りそうな微かな声が私の鼓膜を震わせた。

 

「……ユイ……ちゃん……?」

 

 聞き取りづらい声ではあったが、それは間違いなく、温かく懐かしい母のものであった。

 

 慌てて母の方を振り向くと、彼女は血に塗れた顔をこちらに向け、穏やかながらも力なき微笑みを(たた)えていた。

 

「マ……ママッ!!」

 

 私はそう叫びながら母の元へ駆け寄ると、手に持っていた松明を床に置き、両手で母の上半身を支えて起こしてあげた。

 

 よく見ると母の胸の辺りから、見たことのない淡く白い光が漏れ出ているのが見えた。

 

「ママッ……!! だいじょうぶ!? しっかりして!! ママッ!!」

 

「あぁ……そっか……来ちゃったんだね……ユイちゃん……ごめんね……ママ……失敗しちゃった……」

 

 私の呼びかけに、母は普段では考えられないほど弱々しい声で応えた。

 

 しかし、彼女の顔は私に慈愛に満ち溢れた微笑みを保っていた。

 

 そのいたたまれない様子が、私の心をさらに痛めつけた。

 

「ひどい……だれが……だれがこんなひどいことを……! ママ! だれにやられたの!?」

 

 私は必死に母へ問いかけたが、次に彼女の口から出た言葉は、私の質問に対する答えではなかった。

 

「ユイ……本当にゴメンね……私が不甲斐(ふがい)ないばかりに……あなたに……辛い思いをさせて……」

 

「マ……ママ……?」

 

 そこで私は、初めて母の異変に気付いた。母には私の声が聞こえていないのだ。

 

 今にして考えれば、その時既に彼女には私の声だけでなく、姿形ですらはっきりと見えていなかったのかもしれないように思われる。

 

 そして、次に母の口から出た途切れ途切れの言葉が、混乱しきった私の精神にさらにおいうちをかける。

 

「ユイ……聞いて……私はもうここまでみたい……だから……残された私の『力』を……あなたに託すわ」

 

「な……なにをいっているの? しっかりしてよ!! ママ!!」

 

 私は涙を流しながら、母に向かって決死の思いで声をかける。

 

 すると、彼女は私の頭に血に染まった右手を軽くのせた。

 

 次の瞬間、身体中に何か温かいものが流れ込んでくる感覚が私を包み込んだ。

 

「これで……よしっと……ユイ……これから私の言うことを……よく聞いて……いい?」

 

 母は私の頭に乗せた手を、私の頬に移動させると、優しくそれを撫で始めた。そして、私は母の言葉に無言で頷き返した。

 

「ふふ……偉いわ……ユイ……あなたはこれから……強くなりなさい……他のポケモンたちや……ポケモントレーナーたちとバトルして……経験を積むの……そして……私に負けないぐらいの力を……つけなさい……ゲホッ!」

 

 そこまで言うと、母は咳き込み、鮮血を口から吐き出してしまった。私は咄嗟に母に声をかけようとしたが、彼女の手が私の口を優しく覆い、それを阻止していた。

 

「ゲホッ……私なら大丈夫よ……続けるわね……十分な力をつけたら……ミアレシティに向かいなさい……そこであなたは……ゴホッ! ……運命の出会いをするの……その後は、あなたの望むことをすればいいわ……大丈夫……私の言う通りにしてくれれば……きっとあなたの望み通りになるわ……」

 

 私は母の手を口元からゆっくりと退かすと、戸惑いに満ちた声で答えた。

 

「ママ……? どうしちゃったの? なにをいっているのか、ぜんぜんわからないよ!」

 

 しかし、やはり私の声が届いていないのか母は私の叫びに応えることはなかった。

 

「ゲホッ! ……あ〜あ……ユイの大きくなった姿を……見てみたかったなぁ……ゲホッゴホッ! ……『あなた』にも……もう一度会いたかったなぁ……」

 

 最期の言葉ともとれる、母の消え入りそうな声を聞いて、私の感情はいよいよ限界を迎えようとしていた。

 

「そんな……そんなこといわないで!! わたし……わたし、がんばるから!! がんばって、つよくなるから!! だから……はやくげんきになってよぉ……おねがい……おねがいだから……」

 

 すると、私の声がやっと届いたのか、母の指がとめどなく流れ続けている私の涙を優しく(ぬぐ)ってくれた。そして、彼女は(ささや)くような声で言った。

 

「ユイ……あなたは……強くなって自分のやりたい事をやりなさい……それが、あなたを導く道になるはず……大丈夫、私があなたの事をいつでも見守っているから……心配しないで……」

 

「ママ……いやだよぉ……わたし……ママといっしょにいたい……おねがい、ママ……これからもずっといっしょにいて……」

 

 私は母からの言葉に()えきれず、(かす)れきった声を出すと、私の頬を触る彼女の手を両手でそっと包み込んだ。

 

 

「あぁ……あったかい……ありがとう……ユイ……私は……あなたのこと…………いつまでも…………」

 

 

 母の言葉はそこで途切れ、私の頬に当てていた彼女の手がゆっくりと血塗(ちまみ)れの床に落下した。ポチャン、という音が虚しく部屋に響き渡る。

 

 

「……マ…………マ…………?」

 

 

 おそるおそる声をかけるが、目の前の体は微動だにしなかった。軽く体をゆすってみるが、眠ったように動かない。

 

 彼女の胸で淡く灯っていた光も、いつのまにか闇に消えてしまっていた。そこで、私はこの世で最も尊く、最も愛しかった存在がこの世を去ったことを直感で察した。

 

 しかし、ポケモンとしての本能では感受できても、私の稚拙(ちせつ)な理性ではそれを受け入れられていなかった。

 

「……うそ……だよね? ……おきてよ、ママ……ひとりにしないでよぉ……ママ……ママァ!!」

 

 私は自らの小さな体に力を込め、精一杯の力を込めて母に呼びかけ、その体をゆすった。

 

 何度も何度も、声が枯れそうになるまでそれを繰り返した。

 

 しかし、彼女は眠るような穏やかな顔のまま、再び体を動かすことはなかった。

 

「う……あ……うあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そしてとうとう、私の理性のタガが外れた。私は目の前の母の遺体を前に、ただ泣き叫び続けるしかなかった。

 

どのぐらいそうしていたのだろうか、もはや今となってはそれすらも覚えていない。ただ、涙が枯れるまでそうしていたのは覚えている。

 

 やがて、涙も枯れ果て心の中で母に別れを告げると、私はおもむろに立ち上がり母の近くに倒れていたゾロアークの体の元へとふらふらと近づいていった。

 

もしかしたら、彼だけでも無事なのかもしれない。

 

そうであれば、ここで一体何が起こったのか聞き出せるかもしれない。

 

そう一縷(いちる)の希望を胸に、ゾロと呼ばれていたゾロアークの横たわった体に私はおそるおそる声をかけた。

 

「……ゾロおにいちゃん……? ……わたしだよ……ユイ、だよ……おねがい、へんじをして……おねがいだから……おにいちゃん……」

 

 しかし、彼もまた私の呼びかけに答えることはなかった。

 

彼の体を触ると、そこに温もりはなく、代わりにひんやりとした冷たさが肌を伝ってきていた。

 

再び私に悲哀と絶望の感情が押し寄せるが、既に涙は枯れ果て憔悴(しょうすい)しきっていた私は、目を(つぶ)ってこれが現実ではなく、夢の出来事であることを必死に祈るしかなかった。

 

しかし、目を開けて見渡しても無惨な2匹の遺体だけが私の視界に映っていた。

 

「そうだ……みんなに……いわなくちゃ……」

 

 段々と理性を取り戻しつつあった私は、ユニオンの他のポケモンたちに、この部屋で起こったことを伝えようと大部屋を出ようとした。廊下の明かりを頼りに出口に近づいた、その時だった。

 

「……え……? ……なに……このにおい……」

 

 私の嗅覚に、どこからともなく異臭が襲いかかったのだ。それは、まるで何かが焦げているような、そんな強烈な匂いだった。

 

 そして、部屋の出口に辿り着いた時、その答えが私の視覚を刺激した。

 

「…………うそ…………でしょ…………」

 

 フォート2階の廊下が、前が見えないほどの煙に覆われていたのだ。そして、周りを見渡すと、大部屋の近くの小部屋から轟々(ごうごう)と火柱が立っているのが見えた。

 

火事だ。

 

ポケモンたちのいた部屋が、燃えている。

 

私は咄嗟に他の小部屋を見て回った。

 

しかし、私の悪い予感は的中してしまった。

 

なんと、ポケモンたちが寝室として使っていたすべての小部屋から火柱が上っていたのだ。

 

もちろん、私と母のいた部屋も例外ではなかった。

 

これは、明らかにただの火事ではなかった。

 

何者かが、火を放ったのだ。

 

ユニオンのポケモンたちが寝静まっていた部屋に向かって。

 

「だれか!! だれかいないの!? おねがい!! だれかいたらへんじをして!!」

 

 私は煙の充満する廊下に向かって必死に呼びかけた。しかし、聞こえてくるのはパチパチと火の粉を散らして燃え上がる火柱の音だけだった。

 

「そんな……みんな……ゲホッ! ゲホ!」

 

 悲嘆に暮れる暇もなく、私の気管を煙が刺激した。

 

おそらく、ここまでは私の身体が小さかったので、空中に漂う煙の影響をあまり受けずに行動できたが、いよいよそれも限界がきていたのであろう。

 

「ゲホッ……はやく……そとにでなきゃ……ゲホッゲホッ」

 

 私は両手で必死に鼻と口を抑えながら、1階部分へと続く階段へと急いで向かった。

 

きっと、みんな外に避難しているに違いない。

 

大丈夫、みんな無事に決まっている。

 

その時の私はそう信じながら建物の出口に向かう他なかった。

 

 1階部分に辿り着くと、さらに酷い光景が私を待ち受けていた。

 

あちこちから火の手が上がり、煙も2階部分とは比にならない勢いで立ち込めていた。

 

「……ひどい……どうして……こんな……」

 

 その光景に一瞬躊躇(ちゅうちょ)し歩を止めてしまいそうになるが、はやくみんなの無事を確かめたかった私は逡巡(しゅんじゅん)しそうになった自分を(ふる)い立たせ、一目散に出口の方へと駆けて行った。

 

しかし、大広間から出口につながる道は無情にも激しく燃える炎で閉ざされていた。

 

「……そんな……ここまで……なの……?」

 

 もはや、これまでか。私の心が諦めで覆い尽くされようとした時、不意に母の言葉が脳裏(のうり)をよぎった。

 

(大丈夫、私があなたの事をいつでも見守っているから……心配しないで……)

 

 そうだ。母は死の間際に私のことをずっと見守ってくれると言った。だから、こんなところで立ち止まってはいられない。母のためにも、私は全力で生きなければならないのだ! 

 

 そう力強く決心した私は、覚悟を決めて炎炎と燃え上がる火柱の前に立った。

 

「みていて、ママ。わたし、あきらめないから!」

 

 そう独り言を言うと、私は目を(つぶ)り一呼吸おいてから、顔を両腕で覆いながら火柱の中へと駆け込んだ。

 

 一瞬の灼熱を感じながらも、私は何とか建物の外へ出られた。しかし、その代償として私の体は炎に包まれていた。

 

「うぁぁぁぁぁ!! あつい!! あついよぉ!!」

 

 体を覆う熱さに耐えきれず、私はそのまま地面で転がり回った。生まれてから今まで、ほのおタイプのポケモンの攻撃など受けたことのない私にとって、それはまさに生き地獄にいるかのような感覚であった。

 

地面をひたすら転がり回ったのが功を奏したのか、やがて私の体にこびりついていた炎はその勢いを弱めていき、気づいた時にはすっかり消火していた。

 

「ゲホッ……ゲホッ……ハァ……ハァ……やった……そとにでられた……」

 

 私は束の間の安堵(あんど)に浸かりながら、ボロボロになった体をなんとか起こした。

 

きっと、みんなも無事でいるに違いない。そう確信していた私は、炎に包まれたフォートを背に大声で叫んだ。

 

「みんな〜! ユイだよ〜! いるんでしょ〜!? …………おねがい……おねがいだから……だれかへんじをして!!」

 

 私は必死に鬱蒼(うっそう)と生い茂る木々に向かって呼びかけたが、反応はなかった。もうとっくに枯れ果てたと思われていた涙が、再び私の瞳から(こぼ)れ落ちた。

 

「そんな……だれも……だれもいないの? ……ママ……みんな……どうして……どうしてこんなことに……うぁっ!!」

 

 突如として、私の胸に突き刺さすような鋭い痛覚が迸った。

 

「……なに……これ……どうなっているの……?」

 

 咄嗟に自分の胸を見下ろすと、そこから淡く白い光が灯っているのが見えた。それは、母の死の寸前に彼女の胸から漏れていた光と全く同じ輝きのように思えた。

 

光の元を目で追っていくと、どうやら私の左胸元についていたアザが光源になっているようであった。そのアザは、六角の星形をなしており、母の胸元にもそれと全く同じ形をしたアザがあった。

 

よく、生前の母に「お揃いだね♡」と言われていたのを不意に思い出した。しかし、それまでこの星形のアザがこのように異様に発光することなど一度もなかった。

 

 ドサッ……

 

 心も体もボロボロになり、さらにおいうちをかけるように突然の異変に襲われた私は、力なくその場に仰向けで倒れ込んだ。

 

「ママ……いたいよぉ……くるしいよぉ……」

 

 私は思わず弱音を吐いてしまうとともに、これまでの記憶が走馬灯(そうまとう)のように蘇る。

 

 

母と共にユニオンで過ごした日々。

 

ユニオンのポケモンたちと家族のようにふれあい、楽しかった日常。

 

ゼロやゾロに憧れ、彼らを羨んでいた心。

 

そして、私からそれらの全てを奪っていった轟々と燃える炎……

 

 

「……ゆる……さない……」

 

 その瞬間、私の心の中に何かの感情が芽生えたのを感じた。

 

徐々に痛みを増す胸の光も、その感情の増幅とともに輝きを強めていくように見えた。

 

「ママに……みんなに……こんな……こんなひどいことをしたやつは……ぜったいに……ゆるさない……つよくなる……かならずつよくなって……」

 

 そして、私は疲労と痛覚でもはや途切れそうになっている精神を振り絞って、決心を口にする。

 

 

「そいつを…………ころしてやる…………!」

 

 

 その決意の言葉を呟きながら、仰向けに倒れたまま開けた木々の間から見える星空を見上げると、そこにはかつて母に教えてもらった『兎座』の星々が煌々と輝いているのが見えた。

 

その光は、まるで私の胸の輝きとまるで共鳴しているかのような美しさであった。

 

 

 いつの夜か、母と共に夜空を見上げた記憶が蘇った。

 

「あの星座はねぇ、『兎座』っていうの。ほら……私たち、うさぎポケモンでしょ? あのお星さまは、きっと私たちがこうして生きていることをキラキラ光ってお祝いしてくれてるんだよ♡」

 

 

──そう無邪気に語っていた母は、この世にもういない。

 

──夜空に浮かぶ兎座の星々を見上げながら、私の意識は夜闇よりもくらい底の果てへと誘われていった──





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