──結局、彼は私の
右脚の後は、左脚、そして右腕、左腕の順で力強く踏み潰した。
左脚を潰した時、彼は僅かに声を上げたが、その後は両腕を潰しても
私は、ごろつきポケモンの最後の
弱々しい心臓の脈動が、
「へぇぇ、4本とも折られても答えないなんて……すごいじゃない」
時間と労力をかけたのに、
その私の内心を知ってか知らずか、ゴロンダはこの
「俺に期待してたみてぇだが……無駄足だったようだなぁ……ざまぁ……ねぇぜ……」
彼の巨体に
その言葉で図星を突かれたように感じた私は思わず、右脚に力を込めて思い切り踏み込みたい衝動に駆られるが、少しだけ瞳を閉じて必死に
刹那の後、私はゆっくりと目を開き、やっとのことで無機質な声を出した。
「そうかもね……でも、仕方ないわ。まさか、自分の
そう、それに気付けず私はこの日の『
本当に愚かだったのは、ゴロンダが情報源になり
なぜ、私はこれほどまでにこのポケモンに
そんな後悔と反省の念に
「……じゃ、あなたにはもう聞けることもないみたいだし、そろそろ終わりにさせてもらうわ。あなたがもし、生きて見つかって他の仲間から今日のことを聞かれたら、こう答えればいいわ」
そう言うと、ゴロンダの胸に当てていた右脚を
「『
言い終わると同時に、振り上げた右脚から最後の一発を彼の胸に叩き込んだ。
事が終わった後、私は少し離れた壁に寄りかかっていたエレザードに歩み寄った。
エレザードはゴロンダから受けた暴行によって身体中に痛々しい傷跡を付けられていたが、意識はまだあるようだ。
私の接近に気付いたエレザードがゆっくりと口を開く。
「……ゴロンダを……奴を殺したのか……?」
私はエレザードの隣の壁に寄りかかる形で座り込み、こちらに向けられた彼の顔を横目で捉えながら優しい口調で答えた。
「いえ……彼にはまだ利用価値があるから、
「利用価値……?」
エレザードは
私はそんなエレザードの視線から逃れるように、少し
「ええ……彼のような悪逆非道なポケモンは、確かに生かしておく価値はないわ。でも、彼には
「……そうか……」
エレザードは私から地面へと視線を逸らし、
「なぁ……なぜあんたは俺を助けてくれたんだ……? それに、あんたの『仇』って一体……?」
彼の純粋な問いかけに、私は冷淡な口調で答えた。
「……私は別に、あなたを善意で助けたつもりはないわ。本当にあなたを助けるつもりだったら、真っ先に彼を始末していたと思うし。あと、私のことにはもう関わらない方がいいわ。あなたと……あなたの家族のためにも……ね」
エレザードの事情については、ゴロンダと彼の会話をこっそり聞いていたので大体察していた。
大事な家族が待っている彼を、私の個人的な復讐にこれ以上巻き込む訳にはいかない。
改めて決意を固め、私は空を見上げながら力強く立ち上がった。エレザードが何か言おうと声をあげ始めたが、私の声がそれを制した。
「今日、ここで私を見たことは忘れて。あなたは、反社会的なポケモンの争いに巻き込まれて重傷を負ってしまった。それが、今日ここで起こった事。いい? わかった?」
エレザードは開けた口を一度ゆっくりと閉じ、静かに頷いた。そして、再び小さく口を開くと私に語りかけるように言った。
「……わかった。あんたが望むのなら、これ以上あんたのことは
そこでエレザードの言葉が詰まったのを察した私は、彼の方を振り返った。
すると、私は思わず
彼は、私に向かって頭を深々と下げていたのだ。そして、
「ありがとう……本当に……本当にありがとう」
「だから、そういうのいいって……もう……」
私は困惑しながらも、
その後、私は傷だらけのエレザードを背負い、誰にも見つからないように
このポケモンセンターに彼を運ぶことを選んだ理由は、ここは美術館やオフィスビルなど、ミアレシティの中でも深夜は人気の少ない
運んでいる最中、彼は何度も私にお礼を小さく呟いていたが、私は気にしないでと言わんばかりに、彼を持ち上げた手で彼をさすってあげていた。
そして、目的地のポケモンセンターの裏手にたどり着いた。時刻は既に午前0時を回ろうとしていた。
「……後は表通りまで出て行けば、ポケモンセンターの人間とポケモンが何とかしてくれるはずよ。じゃあ、
エレザードはまたもや私に向かって深々と頭を下げ、お礼を言う
「あぁ……あんたには本当に感謝している。どうか、あんたも気をつけてな……そういえば」
彼は頭を上げて私の顔を見ると、思い出したかのように質問を投げてきた。
「あんたの名前、聞かせてくれないか。大丈夫。当然誰にも言わないけど、この恩を忘れないためにも最後にどうか教えてくれ……」
私は率直に考えて断ろうとした。
彼に私の本当の名前を伝えたとして、万が一にも彼が何かの拍子にその名前を誰かに言ってしまうだけで、私の『
しかし、傷つきボロボロになっていた彼が私に感じている恩義を、
少し悩んだ末、私はゴロンダに名乗った『
これであれば、色々と都合がいいと思ったからだ。
「『
そう言い終わると、目を丸くするエレザードを尻目に、私は天高く跳び上がり彼の視界から消え去った。
エレザードと別れた後、私は再びゴロンダの元へ戻った。虫の息の状態の彼を、このまま人目のつかない路地裏に放置していては誰にも見つからずに
そう考えた私は、彼の『仲間たち』が倒れているであろう、表通りの『施設』の中へと彼を運んでやった。
エレザードの時とは違い、巨体を両腕で乱暴に引き
私の期待通り、彼の意識は完全に飛んでいるようで、そのような扱いをしても彼の体は微動だにしなかった。
後は、運良く誰かに見つけてもらって私の存在を広めてもらえれば、それでいい。
私は再び夜闇に染まった裏路地に歩いていくと、ホッと一息を吐きながら、建物の間を天高く昇る満月を見上げた。
「さてと……次はどうしようか……なっ!?」
突然、胸に鋭い痛みが
「うっ……そぉ……今日はもう……時間切れってことぉ……?」
私は鈍い痛みが響き続ける胸を片手で抑えながら思わず弱々しく呟いてしまった。
普段であれば、この時間でも何の問題もなくまだまだ動けるはずなのに……いや、でも冷静になってみれば今日のところはこれが限界かもしれない。
ゴロンダとその仲間、裏社会の連中との戦闘。
何十匹と相手していたのだから、相当消耗してしまったはずだ。
『この力』は、非常に強力な分、本来ならば慎重に扱わなければならないはずなのに……
──全く……
つくづく考えると今日の私は
皮肉めいた
ミアレシティにはプリズムタワーを中心として、5つの広場が正五角形を描くように配置されている。
その中でも、真北に位置する広場、ルージュ広場の方角に向かって私は建物の屋上を跳び渡っていた。
胸の光が弱まるとともに、そこから
「……ハァ……ハァ……やっと……ついた……」
私が目的の建物の前に着いた時、既に胸の痛みは張り裂けそうな勢いまで達していた。
痛覚の源にある光も、私の
「……ぐっ……本当に……もう限界……はやく……戻らないと……」
残された最後の気力を振り絞って、その建物の2階にあるベランダに跳び乗った。
そしてそのまま体勢を低くしながら、
部屋の明かりは
私の期待通り、部屋の隅にあるベッドや部屋の床には誰もおらず、部屋の中心に置かれたソファに小さな影が横たわっているだけだった。
「……あぁ……よかった……『まだ』帰ってきていない……っつぅ!!」
私は急いで、
「ただいま……私よ……今、戻ったわ……今晩もありがとう……『モル』」
すると、ソファに横になっていた影は勢いよく体を持ち上げ、ソファの腕かけ越しにこちらへちょこんと姿を晒した。
ちょうど真っ暗闇だった部屋に満月の月明かりが差し込み、はっきりとその姿を視認することができた。
それは、体の割に長い片耳を可愛らしく丸め、つぶらな瞳でこちらを見ている。耳の先と
種族名は……そう、ミミロルだ。私に『モル』と呼ばれたミミロルは、笑みを浮かべながら元気な声で答えた。
「おかえり! おねーちゃん! 今日は早かったね……って、大丈夫!? ……うわ、顔色がすごく悪そうだよ!?」
痛みに耐え切れず、思わず
「……おねーちゃんって呼ばないでっていつも言ってるのに……ごめん、しくじっちゃった……今夜はここまでで大丈夫だから、もういいわよ……」
モルは小さな鼻をヒクヒクとさせ、少しホッとした様子で言った。
「……うん、わかった……今日は大変だったんだね……おつかれさま……いっぱいお喋りしたかったけど、また今度一緒に話そう、おね……いや、
「……ええ……必ず……また会いに行くわ……さぁ……行って……」
私は弱々しくそう答えながら、徐にソファへ倒れ込み、体を投げ出した。
ほぼ同時に、掃き出し窓が閉まる音が背後から聞こえた。
モルが帰ってくれたのだろう。
ソファの上に横たわった体勢で、意識を刈り取ろうかというほど肥大した痛みの
そして、私は祈りと共に小さく呟いた。
───
すると、私の全身が神秘的な光が包み込み始める。
その光の
復讐をほとんど進展させられなかった自身の
家族のために、自らを犠牲にして立ち向かったエレザードへの
そんな勇敢で優しい父親を持つ、彼の家族への
一歩間違えれば自らを滅ぼすこの能力を使い続けることでしか先に進むことができない自らの非力さへの
そして、愛する亡き母への安らかな祈り。
それらの感情が私の中でドロドロに混ざり合い、私の瞳に水晶のような
それが小さな