偽りの兎座   作:コユルギミカン

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2羽の兎

 ──コマタナは最初、自分の身体に何が起きたのか全く分からなかった。

 

 気がつくと、彼はなぜか巨木(きょぼく)の幹の前で頭から血を流しながら(うずくま)っていたのだ。

 

「……い……一体何が……オェェッ!!」

 

 その時、激しい吐き気を感じたコマタナはそれに耐えきれずその場で嘔吐(えず)いてしまった。

 

 彼はどうやら頭に強い衝撃を受けたせいで、脳震盪(のうしんとう)を起こしてしまっていたようだった。

 

「……く……そ……あのミミロップ……俺に何を……グァッ! ……」

 

 頭を強く打っていたコマタナは、とうとう意識が遠ざかり、彼の身体は地面に力無く倒れ込んだ。

 

「コ……コマタナッ!!」

 

 眼前(がんぜん)で起こった一連の出来事に呆気(あっけ)に取られていたグラエナは、コマタナが地面に倒れ込む様を見ると絶叫した。

 

 そして、怒りと警戒を兼ね備えた唸り声を、コマタナを倒したうさぎポケモンへと向ける。

 

「て……てめぇ……やってくれたじゃねぇか……!」

 

 しかし、ユイはコマタナを吹き飛ばした技の体勢のまま、ピクリとも動こうとしていなかった。

 

 どうやら、緊張と興奮のあまり彼女は頭が真っ白になってしまっていたようだった。

 

「い……今の技は一体……? 私がやったの……? 私が、あのポケモンを倒したの……?」

 

 彼女が無意識に放った渾身(こんしん)の『とびひざげり』は、見事にコマタナの急所に命中していたのだった。

 

 彼女はコマタナを一撃で倒した自らの力に畏れを感じるとともに、どういうわけか高揚感のようなものも生まれていたことに気づいた。

 

「この力が……ママが(のこ)してくれた力……ってこと?」

 

 そう呟くと間もなく、ユイの近くにいたグラエナが、鈍く光る鋭い爪を彼女に向けていきなり振り下ろした。

 

 ユイはそれに咄嗟(とっさ)に反応し、身体を捻りながらグラエナから離れ()んだ。その動きは、まるで華麗に舞う踊り子のようであった。

 

「チィッ! ちょこまかと動き回りやがって……このアマァッ!」

 

 舎弟(しゃてい)としてかわいがっていたコマタナを目の前でむざむざと倒されてしまった(いきどお)りと、不意をついて繰り出したはずの攻撃が安易と(かわ)されてしまった焦りからか、グラエナはさらに(いき)り立つように怒鳴り声を上げた。

 

 一連の戦闘(バトル)を少し離れた場所から見ていたモルはというと、彼女の熾烈(しれつ)な攻撃と可憐(かれん)な身のこなしに、ただただ息を()んで見惚(みと)れるしかなかった。

 

 

「フッ……フフッ……ウフフフフッ!」

 

 唐突に、ユイが愉快そうな笑い声を上げ始めた。戦闘の真っ最中に、だ。

 

「なに……笑ってやがるッ!」

 

 当然というべきか、グラエナが逆上して声を荒げる。

 

「いえ……なんだか可笑(おか)しくなっちゃって……」

 

 ユイはクスクスと小さな笑いを(こぼ)しながら言葉を続ける。

 

「実はね……私、これが生まれて初めての戦闘(バトル)なの……でも……フフ……あなたたちったら……そんな私の相手に全然なっていないんですもの……野生のポケモンって、案外大したことないんだなって思ったら……なんだかとても笑えてきちゃって……」

 

 意気揚々(いきようよう)とユイが放ったそのセリフが、グラエナの怒りをとうとう限界突破させてしまった。

 

「こ……このアマァ……テキトーなことばかり言いたい放題()かしやがって……ブッ殺してやるッ!!!」

 

 そう叫ぶと、グラエナは素早い動きでユイの眼前まで間合いを詰めた。

 

 また、さっきと同じように()りずに『ふいうち』を狙うつもりだろう。

 

 そう考えたユイは、先程と同じように彼を(ふところ)まで十分に引きつけてから地面を蹴って間合いを開けようとしていた。

 

 しかし、グラエナの行動はユイの予想を完全に裏切っていた。彼は、ユイの懐近くまで飛び込んでくると、地面を前脚で蹴り上げて、大量の砂埃を巻き上げたのだ。

 

 そして、その砂埃はちょうど後ろに跳び退()こうとしていた彼女の顔面に見事に命中したのだった。

 

「キャッ!」

 

 顔に砂埃(すなぼこり)をかけられたユイは思わず小さな声を上げ、目を閉じてしまった。その一瞬の(すき)を、獰猛(どうもう)狩人(ハンター)は見逃さなかった。

 

 彼は目潰(めつぶ)しをされ、身動きが鈍くなったユイに猛然(もうぜん)と突撃し、その運動エネルギーを鋭く生えた牙に乗せて、それを彼女の華奢(きゃしゃ)な胴体に勢いよく食い込ませた。

 

「……ッ!」

 

 ユイはここにきて初めてまともな攻撃を()らったためか、思わず苦悶(くもん)の表情を一瞬浮かべるが、大声を上げることなく瞬発的に胴体に喰らい付いたグラエナの頭を両手で何とか払い()けた。

 

 しかし、野生のグラエナはしぶとく、また貪欲(どんよく)だった。

 

 ユイに頭を払い落とされながらも、体勢(たいせい)は崩さず、そのまま全身を彼女の身体に思い切り突進させたのだ。

 

 彼が渾身(こんしん)の捨て身で()り出したその「とっしん」の威力は、先の「かみくだく」攻撃で体幹(たいかん)のバランスが崩されていたユイの身体を数メートルほど吹き飛ばすには十分だった。

 

「キャアァァァッ!」

 

 ここにきて遂に、ユイの口から盛大な悲鳴が(あふ)れ出してしまった。

 

 彼女が叫び声を上げた理由は、もちろん全身に(ほとばし)る肉体的なダメージに対しての悲鳴でもあったが、それ以上に彼女は精神的な面でもダメージを受けてしまっていたのであったからである。

 

 彼女ははっきり言って、グラエナのことを甘く見過ぎていたのである。

 

 頭に血の昇ったグラエナは、きっと全力で単調なワンパターンの攻撃を仕掛(しか)けてくるだろう。

 

 そう思い込んでいた戦闘経験の浅いユイが、弱肉強食の自然の中で生き抜いてきたグラエナの本能的かつ野性的な奇襲(きしゅう)にそう易々(やすやす)と対処できるはずもなかったのである。

 

 グラエナの攻撃によって吹き飛ばされながら、彼女は自分の『力』を過信(かしん)慢心(まんしん)していた自身を心の底から後悔し、グラエナから浴びせられたダメージの痛みを恐怖とともにひしひしと噛み締めるしかなかった。

 

 グラエナに吹き飛ばされ倒れ込んだユイには、もはや立ち上がる気力など残されていなかった。

 

 彼女が負った傷は致命的なものではなく、その気になればまだまだ余裕で戦える程度のものだった。

 

 だが、ミミロップとなり強化された彼女の肉体に問題はなくとも、彼女の精神は、まだそれに追い付いていなかったのだ。

 

「……痛い……痛いよぉ……誰か……誰か助けて……ママ……ゼロ兄ちゃん……」

 

 (うつ)ろな声を呟きながら、倒れ込んだ身体をピクピクと震わせるユイに向かって、口からユイに噛み付いた際の鮮血(せんけつ)()れ流しながら、ゆっくりとグラエナが近づいて行った。

 

 その表情には、まるで獲物を完全に仕留(しと)めたかのような余裕の笑みが(こぼ)れていた。

 

 そして、彼は左前脚(ひだりまえあし)でユイの身体を地に押さえつけながら口を開いた。

 

「……フン……クソが……雑魚(ザコ)のクセして(いき)がりやがって……だが、これで(しま)いだ。いますぐ楽にして、あの世に()ったてめぇの仲間達に会わせてやる……じゃあなッ!」

 

 そう言うと、グラエナは右前脚の爪を鋭く立て、ユイの首筋をめがけて勢いよくそれを振り下ろした。

 

(あぁ……そっか……私、ここで死ぬんだ……こんなところで……何もできずに……ごめんなさい、ママ……お兄ちゃん……みんな……私も、今からそこに行くね……)

 

 ユイは目を閉じ、その時をただひたすら待つことしかできなかった。

 

 彼女にはもう、グラエナの拘束に抗い、生き抜くために戦う闘志(とうし)さえ微塵(みじん)も残されていなかった。

 

 このときの彼女の精神はまだ、戦闘の激しさに耐えられるほどではなかったのであろう。

 

 

 ──刹那(せつな)の後、自分の身体を押し付けていたグラエナの体重が突然消え失せたのを彼女は感じた。

 

 そしてその直後に何かがぶつかったかのような音が彼女の鼓膜を震わせた。

 

 一体何が起こったというのか。

 

 グラエナに予想外の事態が起こったことを察知(さっち)したユイは、(おもむろ)に目を開けた。

 

 やはりと言うべきか、仰向(あおむ)けに倒れ込んだ彼女の身体の上にグラエナはいなかった。

 

 その代わり、視界の(すみ)に何かが屹立(きつりつ)しているのが見えた。

 

 ユイはグラエナの圧迫(あっぱく)から解放された身体を持ち上げ、ゲホゲホと()き込みながら、それが何かを眼でしっかりと捉えようとした。

 

 一瞬、彼女は自分の目を疑った。そこに立っていたのは、(まぎ)れもない、今のユイ自身の姿だったからだ。そして、まもなくしてその正体に気づいて驚きの声をあげた。

 

「……まさか……モル……なの……?」

 

 ミミロップの姿をした『彼』は、ユイの声に反応して彼女の方へ振り向いた。

 

 その仕草(しぐさ)は、まるで本当の彼が別種のポケモンであるという事実を忘れてしまいそうになるぐらい、本物のユイのように可憐で華麗なものであった。

 

「あ……ユイおねーちゃん! そうだよ! ボク……モルだよ!」

 

 彼の顔や表情、声はユイそのものであったのにも関わらず、その言葉遣いは完全にモルのものであった。呆気(あっけ)にとられるユイをよそに、モルが続ける。

 

「……本当にごめんね、おねーちゃんががんはって戦っている間、ボクは怖くて見ていることしかできなくて……でも、おねーちゃんがあいつにやられそうになって、ボクも戦わなくちゃって思ったんだ! あいつを一緒に倒そう、おねーちゃん!」

 

 おねーちゃんって呼ばないで……と言いそうになる気持ちを今はグッと抑えながら、ユイは微笑みつつモルに近づきながら言葉を返した。

 

「モル……あなたまで巻き込んでしまって、こちらこそごめんなさい……でも、嬉しい。あなたが助けてくれなかったら、私は確実にやられていたわ。ありがとう……そして、よろしくね……モル!」

 

 そう言ってユイは、モルへ右手を差し出す。

 

 モルはユイと同じように微笑みながら、右手でそれを握り返した。

 

 何だか、自分自身と握手するような奇妙な感覚を感じながら、ユイの心には再び希望の光が灯ったのであった。

 

 

「グルァァァァ!!」

 

 2羽の(うさぎ)の間に流れる(おだ)やかな雰囲気をぶち壊すかのように(とどろ)き響いた(うな)り声を耳にして、ユイとモルはこれまた同じような表情を浮かべてその声がした方へと向き直った。

 

 彼らの瞳に映ったのは、身体を血で()らしながら激昂(げきこう)様相(ようそう)(あら)わにする、(くだん)(グラエナ)だった。

 

 彼が受けたダメージや状況を見る限りでは、どうやらモルの「とびひざげり」が、ユイを押さえつけていたグラエナにクリティカルヒットして、周辺に生えている木の幹に叩きつけられたようだった。

 

 それでも、身体を起こしながらこちらへ近づいて来るその姿に、ユイとモルは戦慄(せんりつ)を覚えずにはいられなかった。

 

 もはや意識が飛んでいてもおかしくはないであろうほどの損傷を受けた肉体を怒りで震わせながら、ユイとモルの近くまで寄ったグラエナが、感情に満ち(あふ)れた声を上げる。

 

 その矛先(ほこさき)は、どうやらモルに向けてのもののようであった。

 

「……畜生が……この畜生がァァ!! ツレが戦っている間、何もできねぇ腰抜けのメタモンだと思って放っとけば……いい気になりやがってェェ!! ブッ殺すッ! てめぇら2匹とも、血祭りに上げてやるゥゥ!!」

 

 そしてグラエナは顔を上げ

 

 グォォォン!! 

 

 という地響きのような雄叫(おたけ)びを上げると、その様子を見て距離を離そうと走り出したミミロップを見るや否や突進し、一気に距離を詰めた。

 

 彼の最初の標的は、先ほどダメージを与えておいた方の本物のミミロップだった。

 

 手負いの獲物から確実に仕留める──野性の狩人としての彼の本能がそうさせたのであった。

 

 (あん)(じょう)というべきか、彼が向かうミミロップの身体には先ほどのグラエナの攻撃の爪痕が残っており、懐に飛び込んだグラエナへの反応が明らかに鈍いことが感じられた。

 

 いつのまにか、もう1匹の偽物のミミロップの姿が周囲に見えなくなっているのが気に入らないが、先ほどのように油断さえしていなければ、所詮(しょせん)(まが)い物の奴の攻撃を(かわ)すことはいとも容易(たやす)かろう。

 

 まずは確実に本物を(ほふ)ってから、偽物を痛ぶるとしよう。

 

 そう勝利を確信したかみつきポケモンは下卑(げび)た笑みを浮かべながら、傷を負ったミミロップの首に凶暴な牙を()いて襲いかかった。

 

「まずは……てめぇからだァァァ!!!」

 

 

「……へっへーん♪ 引っかかった♪ 引っかかった♪」

 

 地に倒れ込んだそのミミロップから聞こえてきたのは、グラエナが待ち望んでいた(みじ)めな断末魔ではなく、何とも気が抜ける楽観的な声であった。

 

 そして、首元を噛み砕こうとしたグラエナの首根っこを、そのミミロップはなんと両手で素早く抑え込んだではないか。

 

「バッ……バカなッ!! てめぇはさっきのダメージが残っているはず……そんなに速く動けるはずがねぇッ!」

 

 すると、今度はミミロップの方が無邪気な笑みを浮かべながら答えた。

 

「あれぇ? まだ気づいてないのぉ? キミはまんまとボクの罠に引っかかったんだよ、おマヌケさん♪」

 

 その言葉を聞き、グラエナは衝撃を伴いながらそれが指し示す意味を(ようや)く理解した。

 

「ま……まさか……てめぇはッ!!」

 

 メタモンというポケモンが、別種のポケモンの姿に『へんしん』する能力を持っていることは、かつてカロス地方の各地を渡り歩いたことのあるグラエナも知っていた。

 

 しかし、まさかこのように変身元のポケモンのダメージや傷痕(きずあと)などの見た目も完璧にコピーして再現する能力まで使うことができようとまでは、彼が知る(よし)もなかったのだ。

 

「クッ……クソがッ……放せッ! 放しやがれェェ!!」

 

 モルの拘束から逃れようと、グラエナは彼の身体に何度も何度も鋭爪(えいそう)を突き立ててもがき続けたが、彼の握力が(おとろ)えることはなかった。

 

 まるで、グラエナを絶対に放さないというモルの固い意志が、その手に宿っていたかの光景だった。

 

「……グァッ……! 絶対に……放すもんか……! おねーちゃんっ! 今だよっ!!」

 

「なにッ!?」

 

 首を掴まれ、頭をまともに動かすことのできないグラエナが懸命(けんめい)に目を動かすと、その(はし)で何かが遠くの木々の間の茂みから、彼に向かって猛スピードで迫ってくるのが見えた。

 

 彼は瞬時に、それが本物のミミロップであるということを感じ取った。

 

 

「……私ったら、あなたに助けられてばっかりね、モル……臆病な私は、あなたを巻き込むことから逃げることしか考えていなかった。でも、あなたはこうして自らを犠牲にして、そんな私のために戦ってくれている……本当に感謝してもしきれないわ……」

 

 ユイは(あし)に力を込めて、グラエナに向かって猛進(もうしん)しながら、言葉を(つむ)ぎ出す。

 

 そして、その言葉が終わるや(いな)や、勢いよく踏み込んで(ちゅう)へと跳び跳ねた。

 

「だから……私は全力であなたの想いに応えてみせるわっ!!」

 

 そう叫ぶと、彼女は最後の力を振り絞って、モルが抑え込んでいるグラエナの胴体に向かい自分の身体を跳び込ませた。

 

「行くわよっ! モルッ!!」

 

「うんっ!!!」

 

「ウォォォォォ!!! クソッタレがァァァァァ!!!」

 

 必死に抵抗するグラエナの身体に、ユイとモルの攻撃がほぼ同時にヒットした。

 

 空中から繰り出されたユイの『とびはねる』攻撃は、彼の背中を砕き、倒れ込んだ姿勢のまま繰り出されたモルの膝蹴りは彼の腹部を()し潰した。

 

「グァァァァァアァァァァァ!!!」

 

 グラエナの口から鮮血を(ほとばし)らせながら、彼の断末魔が森に響き渡った。そして、彼の体躯(たいく)はモルの身体の上に力なく倒れ込んだ。

 

 …………終わった…………

 

 ユイとモルはしばらくの間動けずにそう考えていたが、やがてモルが動かなくなったグラエナの体を退()けて立ち上がり、へたり込んでいるユイの元へと歩み寄った。

 

 そして、彼は右手を無言でユイに差し出した。

 

 ユイもまた、無言のままモルの手を取り、立ち上がった。

 

 少しの間、2匹は同じ面構(つらがま)えをしている、お互いの顔を見つめ合っていた。最初に口を開いたのはモルの方だった。

 

「ボク達、勝ったんだね……」

 

「えぇ……そう……みたいね……」

 

 すると、モルが弾け飛ぶように喜びを爆発させ始めた。

 

「やったっ!! ボク達、勝てたんだよ!! あの獰猛(どうもう)なグラエナに!! おねーちゃんとボクの力で!!」

 

 その様子に、ユイが疲れ切りながらもやれやれといった様子で答えた。

 

「……フフッ……モル、嬉しいのはわかるけど、私のことはおねーちゃんと呼ばないでって……ッ!?」

 

 その瞬間、ユイはその場に(うずくま)ってしまった。彼女は、両手を胸に当てて苦しんでいるようであった。

 

「!? どうしたの? しっかりして! おねーちゃんっ!!」

 

 ミミロップの姿のまま、モルは(うずくま)ったユイの身体を心配そうに(さす)った。

 

 ユイは息を荒げながら、激痛の(はし)る胸を見下ろした。そこには、数刻前までは煌々(こうこう)と輝いていた光が、消え入りそうに弱々しくなっているのが見て取れた。

 

「……ハァ……ハァ……もしかして……さっきの戦闘で力を使い果たしたから……限界が来たってこと……なの……? ……ッ!!」

 

 そう呟く間にも、胸の痛みは急速に肥大していき、とうとう彼女の意識を刈り取る寸前まで追い詰めていった。

 

「……私はこの力を……まだ使いこなせていない……もっと……もっと強くならなきゃ……私はッッ!!」

 

 声にもならない声で言葉を紡ぐと、雌兎(ユイ)の身体は光に包まれて、混沌へと意識を落としていくのであった──





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