青空の下翔るは我が愛車
「くお〜!! ぶつかる〜!! ここでアクセル全開、インド人を右に!」
皆様、お久しぶりです。
お元気にお過ごしでしょうか。以前の記録より、私のことを心配してくださった方もいるかもしれません。鬱になって首でも括ってるんじゃないかと思っている方もいるかもしれません。ええ、確かにそんなふうに気分が沈んでいた時期もありました。ですがなんや感やあって、私は今元気です。
えぇ、ええ。痩せ我慢だという人もいるでしょう。ですが大丈夫。この美しき青空の下でそんな悩みを抱え込むことなどできようはずがない。
そして、なにより。
「うぉぉぉぉ!?避けろコウ!スティンガー打ってきやがった!」
「くぉ〜!!!今度はエクアドル人を右に!」
「どこの誰!?」
「インドの反対側にある国らしい!!」
「インドってどこ!?!?」
それどころじゃないのですから。
「くっそ!しつけぇぞ正義実現委員会!いいじゃねぇかマカロンちょっと盗んだくらい見逃してくれたってさぁ!」
「ちょっとがちょっとじゃないからじゃないかなヒバナちゃん!!流石に店にあった分全部はやりすぎだと思うの!!」
ハンドルを思いっきり切って飛んでくるミサイルを避ける。うっわ。なんとか避けれたけれど道端の全然関係ない露店に当たった。大丈夫かなあのおっさん。
けれどすぐに私たちも他人を心配している場合じゃないとわからせられることになる。
「他のみんなは!?」
「アイツらか!?もうすぐくるはず………はぁ!?捕まった!?なんで!?どうして!?は!?なんて!?ツル───切れやがった!」
「なんて言ってたの!?」
「わからん!!!ツルなんとかがくるって!!!鶴でもくるのか!?」
「はぁ!?ツルって、貴方それ───」
車の爆走する音とそれに驚く周囲の悲鳴。そして時々後方から飛んでくるミサイルや銃弾の音の中、聞きたくもない音が聞こえてくる。
「………聞こえた?」
「あ、ああ。これは……笑い声?」
「だんだん近づいて………」
「「あ」」
突如車の運転席右の窓に現れた血染めの黒い制服を着た女。
そのあまりにも恐ろしい笑顔を最後に、私たちの意識は爆音と宙を舞うほどの衝撃によって刈り取られた。
◇
改めて、お久しぶりです皆様。
えー、私冬陽コウは元気……いや元気とは言い難いですが、なんとか今日も生きております。
「くっそー!久しぶりにゴミ箱産じゃないちゃんとしたお菓子が食べれると思ったのに!」
「……やっぱゴミ箱から漁るのはよくないと思うんだけど」
「他に手に入れる方法ねーだろ!金ねーんだから!」
……はい。まあ、うん。命あるだけ上等でしょう。
隊長たちに命を救われたあの後。私はこのキヴォトスでも治安の悪いブラックマーケットに足を踏み入れた。アリウスには劣るけどね。
なんでせっかく地獄から抜け出せたのにって思われるかもしれないけど、これには理由がある。
まずアリウスから出た地点が様々な学校の学区から外れた廃ビル群だったこと。(どうやらキヴォトスにはアリウス以外に数千もの学園が存在するらしい。)
次に情報収集に向いているのが、様々な学区から不良やらホームレスやらが集まるこのブラックマーケットだと思ったから。他のまともな学校に入るにしてもまずは情報収集が優先だ。なにせアリウスはかつてジェヘナ?とかいう学校と敵対して、しかも仲間であったはずのパネル?と、フィリップシス?とサンタクロース?だかいう三つの学園にハブにされて追放されたらしいから、警戒するに越したことはない。
そして最後に。1番の理由は──
───身分がない!!!!!
そう、今の私には戸籍も学歴も何もかもないのだ。
どうやらアリウスは学校として認められているいない以前に存在を認知されていないらしい。故に私は存在しないヘンテコな学校の出身と名乗る素性不明な圧倒的不審者であるというわけだ。こんなのどこの学校でも受け入れてくれるわけがない。たとえどんな弱小学園でも。生徒が入学してくれないと潰れかねないって学園があるのなら話は別だけれど、残念ながら私はそんな学園には出会えなかった。
どうしろっていうのだ。のたれ死ねってか?ああいいよ!死んでやるよ!ちょうど死にたい気分だったんだ!なんて自暴自棄になっていた私を拾ってくれたのが今現在一緒に牢屋に閉じ込められている───
「いい加減出せよ!それかカツ丼奢れ!」
「ヒバナちゃんそれは取調室で出るものだと思うの」
「あ、すみません。ああいうの実際は出ないみたいです…」
──粗暴な感じの不良、ヒバナちゃんと彼女の仲間達、バチバチヘルメット団の皆さんである。
ボロボロで血塗れの装備で呆然としていた不審者同然の自分に臆することなく話しかけてくれた上、身の上を聞いた上で仲間に引き入れてくれた。私はそんな彼女たちに返せないほどの恩がある。
ただ……
「あ、あの、静かにしてもらえると…」
「るっせぇ!出せェェェェェェェ!」
治安が悪い……!
アリウスのみんなより活気がある分より悪いかもしれない!
けれども思ってしまうのだ。これではアリウスを出た意味がないのではないか。本当の意味で幸せを手に入れることができていないのではないか。小隊長、私たちが目指したアリウスの外は、毎日廃棄弁当を巡って他のヘルメット団や不良たちと争ったり安い賃金でこき使われるような生活なのでしょうか、と。
思ってしまうのだ。この薄汚れたブラックマーケットの外。笑顔で友達と談笑しながら登校する生徒たちをみて。
───ああ、私もそうなりたいな───
と。
「消灯の時間です」
「ちっ!俺たちの夜はこれからだってのに!」
「ミラーボールはないのかー!?」
今の生活も十分幸せだ。笑い合える仲間がいて、碌なものではないながらも共に食卓を囲めて、一緒に仕事をして汗を流す。悪くないと思う。アリウスの時よりよっぽどだ。
けれどそれで本当に良いのだろうか。
もっと安定した生活を、よりより生活を求めるべきじゃないのか。もっと生活に余裕があって、学生らしく勉強ができて。学生らしく青春が楽しめる。
「はぁ……寝ようぜ。こんな真っ暗闇じゃ何もできないや」
「…そうだね」
「えー、私たちはまだ元気っすよボスー!」
けれどそれだけじゃ足りない気がするんだ。多分。私は食事に困ることがなくなっても、雨風を凌げる家に困らなくなっても、どんな幸せな生活を送れるようになっても。
私の心はどこか欠けたままで満たされることはないのだろうと、なぜか確信をもって言える。
「どうしたコウ?しけた顔して。暗いのが怖いのか?」
「……ううん。大丈夫」
「そうか?抱きしめてやろうか」
「それはいらない」
「そんな拒絶しなくてもいいじゃないか……傷つくぞ……。まあ、困ったら俺たちに言えよな。なんたって俺たちは────」
─────“家族”なんだから。
胸の奥底がチクリと痛んだ気がした。
それから数日経ったある日の昼下がりのことだった。
出所投獄からの出所。依頼の合間に犯罪に何度も手を染め、犯罪すれすれというかドボドボびちゃびちゃな依頼もこなすいつも通りの日常を送っていたある日のことだった。
「コウコウ、こりゃすごいぜ」
「んー?」
いつも通り依頼とかがない暇な時間。ヒバナちゃんをはじめとする何人かの仲間たちが暇つぶしに見ていたテレビにそれは映っていた。
「すごいっすねこいつら」
「派手なことやるなー」
「そう言えばコウさん、ここ出身って言ってませんでした?」
『───ーレの協力の元、エデン条約の襲撃を行った謎の勢力、“アリウス分校”は撃退されました。ヴァルキューレは当学園の情報を集める他実行犯とされるこの青髪の生徒を始めとした4名に指名手配を───』
「───サオ、リ……?」
手から滑り落ちたコーヒーカップが悲鳴をあげて砕け散る。
テレビの液晶に映し出されている少女は殺意を感じさせるほど鋭い目つきでこちらを睨みつけている。
ああ、忘れるはずがない。
それは紛れもない、私があの時アリウスに置いて行ってしまった罪そのものなのだから。