あ、いっぱい高評価ください。いっぱい。
ギリセーフ……ギリセーフか?ギリアウトじゃないか…?いやセーフだ。バレてないんだからまだセーフ。怪しまれる段階まではまだいい。
そんなこんなでなんとか刑務所初日、RTAだったら即やり直しレベルの最悪の引きをしたあの日からしばらく。私はなんとか刑務所の生活に順応できていた。
「デザートのプリンは私のものだ!」
「やらせるかよ!」
刑務所だとか矯正局だとか、前世の記憶につられてしまって堅っ苦しかったり恐ろしいイメージがあったけれど、実際はもっとゆるゆるでふわふわであった。なにせちょっと無駄口叩いただけでスクワット2000回だとか、看守の気分次第で兎跳びで校庭100周だとか、欠伸したから腕立て伏せ1000回だとか、そんな理不尽なイジメはなかった。
ちなみに上記の虐めはアリウスで実際に行われてたことだ。アイナ先輩が手でうさみみ作ってぴょんぴょんいいながら飛び跳ねてた姿は滑稽だった。
「クッソ裏切りやがった!」
「テメェもさっき後ろから殴っただろ!」
「僕のプリンだぞ!!!!!」
もちろん以前言ったようにご飯は毎日3食出る。それも素人目に見ても栄養の整ったご飯だ。缶詰やカンパン、アリウスから出た後も賞味期限切れの廃棄弁当やゴミ箱から見つけた食べかけの菓子パンなどしかまともにありつけなかった私とって、それはこの世界に生まれる前、前世ぶりに手に入れたまともな食生活であった。流石に感動ものである。あまりのおいしさに涙が出たレベルだ。寝床だってそうだ。雨風の防げる暖かい部屋で───一面が鉄格子で開放感があったとしても───前世での暮らしにここまで近づけた寝床はなかった。あと布団が想像以上にふわふわだ。マットじゃなく、竹とか木であんだ、あの習字の筆を入れるやつみたいなのに寝かされるのかと思っていた。だが出てきたのはちゃんとふわっふわな、その下のコンクリの冷たさを感じないほどの毛布だった。
「なあ、今日はどっちに賭ける?」
「そら、お前。B棟の連中だろ。まず質から違う」
「いやいや、最近A棟に来た新入りどもも侮れないぞ。特にあのサユリってやつがヤベェ」
本当に、本当に何度でもいうがここの生活は素晴らしいものなのだ。何度だって自慢させて欲しい。それくらいに感動したのだ。
けれども、そんな楽園にも不満の一つや二つ存在する。
まず一つ目。
「うおおおおお!今日こそは負けねぇ!」
「黙って床の汚れ舐めとけや雑巾野郎!」
治安がキヴォトス。
ただでさえ終わっているキヴォトスの治安をさらに煮詰めた感じなのだ。きっと前世の刑務所の比じゃないレベル。入ったことないからわからないけど。ただまあ、殴り合いなんて毎日発生するものじゃないだろう普通は。だがここではそれが毎日の日課に、しかもこの牢獄でいちばんのエンタメにまでなってる始末。囚人にとって……そして看守にとっても。
「いけーー!お前に私のチーズケーキ賭けてんだぞ!」
「勝てーーー!!!私のタダ飯のために!!!!」
喧嘩を楽しむ囚人に、賭け事を楽しむ看守。今日はなんだったか。買った方のグループが負けた方のグループに配られるはずのデザート……今日の分はプリンか……それを没収される、だそうだ。とんでもない勝負事だ。しかもそれを止める役であるはずの看守たちが盛り上がって賭け事を始めるのだから救い用がない。
「さっきからコソコソと!チラチラ見てただろ!」
「なんで見る必要があるんですか」
ほいほいっと殴りかかってきた不良の武器を弾いて回し蹴りで意識を刈り取る。私はただ静かにご飯が食べたいだけなのに。流石に危険物だからと言って銃が没収されているのが救いか。
「………」
「サユリちゃんも大丈b───うわっ!?」
突然後ろから振り下ろされた鉄パイプを既の所でよけて視線を向ければ、そこには無表情で鉄パイプを振り下ろしたサオリが。
そう、これである。二つ目の不満。
なぜかサオリちゃんが定期的に私の頭を狙って叩こうとしてくる。それもななめ45°で。
「……流石だ。昔から、お前には届かない」
「だから何回言ったらわかるの!?私はそのコウって人じゃなくて、ノナカ……っちょわ!?あのさぁ!?人が喋ってる間に殴りかかるのは非常識だと思わない!?」
ひょいひょいっと避けながら、若干イラつきながらも言い返す。
「だが、今だけは……一度だけ、一度だけで良い。私に殴られてくれ」
「なんで!?」
「きっと思い出すはずだ。姫も斜め45度で叩けば大体治ると…」
「ブラウン管テレビと一緒にしないでくれないかな!?」
くっそ、痺れを切らしたのかなりふり構わなくなってきやがった。初めは上から斜め45度だけだったのに今じゃ45度、135度、225度、315度全ての方向から殴ってきやがる。
おそらく彼女は私が記憶喪失か何かだと思っているんだろう。くそ、初日の行動でセーフになったかと思ったけれどアウトだったか?今からでも入れる保険はないのだろうか。
「っと、ん?」
すると突然サオリの鉄パイプを振る手が止まり、私ではなく別の方向へと視線を向けていることに気づく。
そちらに私も釣られて目を向けてみれば、いつも通りの喧騒の中で3人くらいの不良に追われる茶髪ロリっ子の姿が。
「……?どうしたの?もしかして正義心にでもからr」
「チッ」
「!?!?!?!?!?」
舌打ち!?舌打ちしたわよこの子!?貴方昔はそんな子じゃ……そんな子だったかもしれないけど!そんな子に育てた覚えはありません!
と、内心ビビり散らかしているとサオリは私の元を離れてあの幼女に駆け寄っていく。あのイケメンフェイスで舌打ちは流石にビビり散らかしても仕方がない。
おっとっと、私も彼女の後をつけてみよう。サオリは確かに優しい子だが、それは家族に対しては優しい、程度で赤の他人に世話を焼くほどじゃなかったはずだ。あの頃は余裕がなかったってのもあるが………もしかしたら彼女も変わったのかもしれない。彼女の幼少期を知るものとして、彼女の成長具合みたさに近づいていく。
「ああ?なんだてm」
「殴りやg」
「一人で3人に勝てるわk」
ワンツースリー。あっという間に不良たちはK.O.された。
「あ、ありがとうございます」
「……構わない」
「ぴぇ」
幼女が半泣きになり、すぐ近くにいた私の足の後ろに隠れる。どうやらサオリの顔が少し怖かったらしい。
「案外優しいじゃない、サユリちゃん」
「……依頼だ」
「依頼?」
「ああ、私が今回ここに来たのも、その子供を守れという依頼を遂行するためにきたんだ」
「はえー」
依頼。そうか。依頼か。どうやらサオリもちゃんと仕事をしているらしい。スラム街でみんな揃ってボロ小屋で暖をとっていたあの頃を知る私としては感傷深い。あのサオリが……立派に仕事を……。
依頼……。
「……依頼?」
依頼?なにか、忘れているような気がする。そもそもどうして私はこの刑務所にいるのだろうか。それは簡単だ。私もまた彼女と同じく依頼を受けてここにきたからだ。その依頼とはなんだったか。“ピンク髪”の幼女に特製トラウマ級ビデオを見せること。他にも何か注意事項があったはずだ。ああ、そうそう。私以外にも同業者が敵対組織に雇われて潜入しているという話。その人物は青髪で、特徴的なマスクとキャップ───……
「………まさかね」
「どうした?」
ふとサオリをみればキャップに、特徴的なかっこいいマスク。そして彼女のトレードマークとも言える美しい紺色の髪が靡いている。
「あ、あの……助けていただきありがとうございます」
「仕事だ。気にしなくて良い」
「そういうわけにはいきません。何かお返しを……あ、自己紹介がまだでした!」
幼女は思い出したようにパンっと手を叩き、笑顔で名乗りあげる。
「私は八手シエです!よろしくお願いします!お姉ちゃん!」
“茶髪”の幼女の声と共に、私の意識は一瞬暗くなった気がした。そして過去の記憶が走馬灯のようによぎる。ああ、そういえばターゲットを示すあの写真、ピンク髪の中に不自然に茶髪が混じっていたな、と。
「ウィッグかよ……」
「コウ!?」
「お姉ちゃん!?」
ばたんきゅー。
この天国の不満要素三つ目。
どうやら仕事がかなりややこしそうなこと。