冬陽コウの逃避行   作:有機栽培茶

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なんかランキングに載ったみたいです。ありがたい。感謝ァ〜
ノゾミちゃん出ました。次はヒカリちゃん、お前だ。


八手シエはパティシエ

 

 八手シエ。

 私は物心のついた頃から周囲に天才と持て囃されて育ってきた。

 

 私が一度キッチンに立てば、そこはたとえどんな寂れたキッチンでもレストランのキッチンに早変わりし、どんな安価な食材でもいくらお金を払ったとしても食べることができないほど美味しい洋菓子に早変わりする。

 

 同年代の人々はみんなそのお菓子に魅了されて私に従った。大人でさえも私のお菓子の前には皆平等に逆らえなかった。

 

 皆が皆私を称え、私のお菓子を求めた。

 

 私はお世辞にも頭がいいとは言えなかったから、みんな、お菓子を配れば幸せになると思っていた。お菓子を配ればみんな私に優しくしてくれる。みんな私の我儘を聞いてくれる。絵本に出てきたお姫様みたいだった。

 

 けれど、それが間違いだと気づいた時にはもう遅かった。

 

 お菓子を巡ってみんなは争って次々と私にお金や宝石を差し出す。それは綺麗でありながらも、恐ろしかった。自分が先だと他の人を押し除けてまでお菓子を取ろうとするみんなが恐ろしかった。私のお菓子を使ってそのお金や宝石を集めようとする大人たちが怖かった。みんなおかしくなっていた。怖かった。自分の作ったお菓子が、みんなをこうさせてしまったのだと知って。それが得体の知れないものに見えて。

 

 気づけば私はみんなのこうした方がいいああした方がいいという声のままに自分を変えて、もっとちょうだいあれもちょうだいという声のままお菓子を作って、もっと稼ごうもっと高く売ろうという声に従ってお金を稼いで、ついには牢屋に閉じ込められていた。私を邪魔だと思った人が捕まえたんだって。だけど私は逆に安心できた。一時的なものだとしても、あの恐ろしい光景から目を背けられるって。

 

 でも違った。あの狂気は、私がどこに逃げようと追いかけてきた。

 

 

「お前、八手シエだろ?」

 

 

 同じ部屋に閉じ込められた人がお菓子を求めた。私たちを監視している看守さんがお菓子を求めた。私は断れなかった。それの恐ろしさを知っていながら、それで幸せになるみんなの顔が見たかったから。少しだけなら、そう思って。

 

 でもダメだった。

 私のお菓子は、争いを生むだけだった。みんなすぐに次のお菓子を求めた。ダメだって言ってもないって言っても聞かなかった。要求は次第に脅迫に変わっていった。そして、ついには暴力に。

 

 

 いやだ、いやだ、いやだ。

 もう、あんな光景見たくない。痛いのも嫌だ。私はただみんなに幸せになって欲しかっただけなのに。みんなに優しくして欲しかっただけなのに。なのに、なんで、どうして。どうして私がこんな目に。

 

 もう、お菓子なんて作りたくない。

 

 

 その時だった。あの人たちが私を助けてくれたのは。

 

 

「仕事だ。気にしなくて良い」

 

 

 帽子を被った背の高い、ちょっと怖いけどすごく強いサユリお姉ちゃんと、すごく優しくて私を守ってくれるノナカお姉ちゃん。

 

 2人は、私がこれまで見たこともない人だった。私が何もしなくても優しくしてくれて、それなのにお菓子を求めない。ちょっとしたことで褒めてくれて、私が間違ったことをした時はダメだと言ってくれる。私を狙って襲ってきた人たちから私を守ってくれる。私は、この人たちに何もしてあげれてないのに。

 

 

「……どうして、私にこんなよくしてくれるんですか?」

「え?それは、まあ…」

「依頼だからな」

「サユリちゃん!……はぁ。違うよシエちゃん。依頼だからじゃない。子供は可愛がられて当然なんだよ。だから私たちには遠慮なく、存分に甘えるといいんだよ」

「私は子供じゃありません!」

「え!?あ、いや!その、ち、ちがうんだよシエちゃんこれは言葉のあやというかなんというか年上が年下を可愛がるのが当たり前って言おうと……それもダメか?」

「……コウは昔からそうだ。お前はいつだって人のことを子供扱いする」

「だから私はノナカだって!」

 

 

 だから私はこの人たちが好きなんだ。

 一見すると怖いけれど強くて優しくて、ちょっと嫉妬深くて面白いサユリさんに、そんな彼女に振り回されがちなノナカお姉ちゃん。

 

 2人のためなら私はいくらだってお菓子を作るし、2人と過ごせるのならここに閉じ込められたままでもいい。

 

 ずっと、こんな時間が続けばいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜帯。

 私がここにきてサオリと対面した時と同じくらいの時間に廊下を歩く音が響く。相変わらず私の布団を巡った争奪戦により布団から弾き飛ばされた私は眠りも浅くそれにすぐに気がつき目を覚ます。

 

 コツ、コツ、コツ。その音は私たちの牢屋の前で止まり、カチャリと小さく金属音が鳴る。

 

 

「んあ……?」

「起きろ」

 

 

 小さく、他の人を起こさないほどの音量でその人物は話しかけてくる。目を開けて見てみれば、そこに立っていたのはお化けなどではなく白いヴァルキューレ特有の制服に身を包んだ看守と思われる人物。

 

 

「……なんです?」

「来い」

 

 

 その言葉に従うまま、私は彼女の後について牢屋を出る。

 格子窓から差し込む月の光が照らし出す夜の監獄は、普段の倍以上に暗く冷たく、寂しい雰囲気を醸し出している。普段の喧騒が嘘のように静かで、それがかえって恐ろしい。幽霊とかそういう不可解なものが現れそうで、そもそも私の目の前を歩きこの人物が本当に生きた人間かどうかも怪しく感じてしまう。

 

 

「入れ」

 

 

 ひ〜怖い怖いと思いながらも後に続いた先に辿り着いたのは、おそらく看守以外立ち入り禁止であろう区域の部屋。押収品置き場と書かれた部屋のドアが開かれ、灯りがつけられる。

 

 そしてその部屋のドアは、私が入ったのを見計らったかのように閉じられ、私はその謎の看守と部屋に2人きりという形になった。

 

 

「さて…」

「っ!」

 

 

 ビクッと震える。まさか「よく呑気についてきたな!呪ってやる〜!」とかなるんじゃないだろうな!?と身構えていると、彼女は帽子とマスクをとって素顔を表した。帽子の下からぴょこんとケモ耳が姿をみせる。

 

 そこに現れたのはまだ記憶に新しい顔だった。

 

 

「あ の さ ぁ!いつになったら終わるわけ!?」

 

 

 そう、私が今回引き受けた依頼の仲介人こと、情報屋のマインさんである。私は依頼を引き受けてから実に2週間が立ってのご登場であった。

 

 

「ひぃぃーーー!?」

 

 

 別の意味で恐ろしい人物の登場に私は恐怖する。

 

 

「そんな難しい依頼でしたかねぇ!?ただターゲットに動画見せて心を折るだけでしょう!?こんなの2、3日あればちょちょいのちょいでしょうが!?」

「こ、これにはわけがあって……」

「あ゛!?なに!?」

「そのぉ……ターゲットと同じ牢獄に入れたはいいのだけど、その護衛まで付属でついてきちゃって……」

「護衛?ああ、上崎サユリですか?……知り合いだと聞いてたから好都合だと思ったのですけど……違ったか?

「なにかいった…?」

「いえこちらの話です」

 

 

 彼女は苛立ちが治らないのか爪を噛み噛みしている。

 

 

「あのぉ……どーして仲介人のあなたがここに…?」

「貴方の仕事が遅いからでしょうが!!!」

「ひぃん!?」

「依頼主さんは激おこぷんぷんまるですよ!あのクソジジイめ!雇い主とは言えあんな偉そうに…!最近自分は大ポカして失脚したくせに相変わらず下に対しては偉そうな…!お偉いさんっていつもそうですよね…!」

「大変そうだね…」

「貴方のせいでね!!!!」

 

 

 はぁーーーーっと数秒にも続く大きめのため息をつく。

 

 

「まあいいでしょう。これからは私も依頼に参加します。と、いうよりこれ以上呑気な貴方に任せては置けないので私が主導で動きます。貴方はサポートに徹しなさい」

「あ、はい」

「本当にわかってるのか…?まあいいです。決行は明日の昼休憩。タブレットは私が見せます。貴方はターゲットの拘束と、護衛の対処をするように」

「りょーかい」

 

 

 まったく、と言いながら止まらないため息と舌打ちを吐く彼女を見ながら、私は憂鬱な気分に襲われる。

 

 嫌だなぁ。

 

 私も、ここでの生活は気に入っていたのに。それにこの数日間でターゲットであるシエちゃんとも仲良くなりすぎてしまった。情がうつるとはこういうことなんだろう。彼女を傷つけるようなことをしたくないと思ってしまう。

 

 そして何より。サオリに、家族に銃を向けることになるかも知れない。それが1番嫌だった。

 

 ああ。こんなことになるなら、こんな依頼受けなければよかった。

 

 

 今すぐにでも逃げ出してしまいたい。




冬陽コウ→逃避行
八手シエ→パティシエ
大流マイン→ All mine
伊月メイ→ It's me

オリ生徒の名前、結構無理な当て字も多いけれど地味に気に入ってます。
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