冬陽コウの逃避行   作:有機栽培茶

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脱獄犯は旧友と共に〜幼女とバカ達も添えて〜

 

 私は情報屋。伊月メイであり、大流マインでもある。

 

 自分で言うのもなんですが、私は自分が天才の部類に入る人間だと思っています。

 

 エリートしか入るのことのできない今はなきSRT特殊学園に入学し、一つの小隊の部隊長を務めた経験を有します。結局退学処分を受けることになり、SRTが廃校になる以前に学園を去ることになりましたが、情報戦から実戦。もちろん勉学も。普通の学生以上の頭脳と身体能力、そして数々の作戦を成功させた実績を持っていました。

 

 その後は今の相棒と共にブラックマーケットで情報屋を1から設立。今ではブラックマーケットに置いてかなりの地位を築くことに成功しています。初めの頃は仕事に失敗したり、カイザーに恩を売りつけられ不利な契約を結ばされたりと色々ありましたが、今ではある程度ブラックマーケットに馴染んだ人物であれば知らない人がいないほどの地位を手にすることができました。

 

 もちろん、上には上がいます。越えるべき壁だってあります。けれども私は天才だ。天才のはずだった。

 

 

 故に私の考えた作戦は完璧でこんな簡単な依頼、すぐに終わるはずだった。

 

 八手シエ護衛の依頼を出した直後、スポンサーでもあるカイザーから彼女への襲撃依頼が出された時は驚きましたが、護衛依頼の方は護衛の身内らしき人物を襲撃に当てることで対処。違約金も、護衛を受け持った生徒を騙くらかして倍額以上搾り取った上で規定の金額を依頼主に渡せば、カイザー側の仲介料と護衛依頼の違約金の差額、その双方が手に入るうはうは状態。

 

 完璧だ。

 

 失敗するはずがない。

 

 

 そのはずだった。

 

 お前が。

 

 お前さえ裏切らなければ───!

 

 

「悪いけど……依頼は破棄させてもらうよ」

 

 

 

 

「悪いけど……依頼は破棄させてもらうよ」

 

 

 放たれた銃弾は幅1センチにも満たない金属板など容易く貫き、穴を開ける。その衝撃で目の前の看守───マインの手からこぼれ落ちたタブレットだったものはパリンと音を立ててひび割れ、沈黙した。

 

 

「ノナカさん!?」

「間に合ったか」

 

 

 壊れたタブレットを見つめ沈黙するマインの陰からヒョコっと姿を表したシエちゃんは私たちを見ると何かまずいことが起こったのか察したようで急いでかけてきた。

 

 

「無事か?何もされていないか?」

「無事…?は、はい。特になにも…」

「そうか。ならいい」

 

 

 サオリが彼女の体をペタペタと触り確かめるが、その様子。どうやらなんとか間に合ったらしい。

 

 

「………貴方」

「っ!動かないで!」

 

 

 と、安心したのも束の間。目の前のマインを制圧するまでは安心できない。

 

 

「……一体……どういうおつもりで?」

「契約を破棄する。それだけだよ」

「『八手シエのパティシエ人生の抹殺依頼』……それを破棄する。その意味を、理解していっているのですか?」

「えっ……?」

「……うん」

「………ああ、面倒。面倒ですね。これだからガキ相手の仕事は嫌なんです」

 

 

 何も全部言わなくてもいいだろ。嫌がらせか?

 そう言って彼女は懐から銃を取り出す。その動作を黙って見過ごす私じゃない。すかさずそれを撃ち抜こうとして───彼女の思わぬ行動に一手遅れた。

 

 

「なっ!」

「遅い」

「やっば!?いて!?」

 

 

 投げつけられた彼女のメインウェポンであるはずの銃を撃ち落とすも、彼女はその好きに私の間合いに潜り込み、足払いで私の体勢を崩す。そしてそのまま見下ろす形でもう一丁、どこに隠していたのか取り出した銃を私に構えて引き金を引こうとする。

 

 

「させるか!」

「ちっ!だが…」

「な!?」

「捕まえましたよ!」

 

 

 が、それをサオリが彼女の腕を蹴り上げることで銃口が外れる。だがそのまま黙ってやられるマインではなく、蹴り上げられたサオリの足を掴み反撃を試みる。

 

 

「させない…!」

「こいつ…っ!」

 

 

 しかしそんな彼女の腹部はガラ空きだった。私はその気を逃さないよう、体勢を戻すこともせず彼女の腹部に向けて不恰好な突進をかます。どうやら不格好でも効きはするようで距離を取ることには成功した。

 

 

「……流石に2体1は分が悪いですか」

「悪いね。けどこっちも時間がないの」

「それはこっちもですよ。だからぁ……」

 

 

 にやりと嫌な笑みを浮かべながら彼女が取り出すのは黒い幾つかのボタンがつけられた端末。その中でも赤く塗られ、明らかに押しては行けなそうなボタンに指をかける。

 

 

「こちらも数の暴力と参りましょうか」

 

 

 瞬間、耳をつんざくような警報音が鳴り響き、何処からか雄叫びのような、歓声のような声が響く。

 それに一瞬怯んだ私たちの隙をつき、駆け出した彼女がつかんだのは何かしらのマイク。それを見て、私はこの部屋が以前のような倉庫や空き部屋などではなく、機械がびっしりと詰まり、大小様々なモニターが設置された、所謂セキュリティルームのようなものであることに気づく。だがそれに気づくにはあまりにも遅すぎた。

 

 

「全囚人に伝えます!この監獄からの脱獄を試みた愚かな囚人3名!それらを捕まえた者には恩赦としてこの監獄からの即時釈放及び謝礼金として500万の支払いを約束します!その囚人の名は八手シエ!上崎サユリ!そして堀井ノナカ!さあ早い者勝ちです!どうかこの愚か者達を捕まえて!賞金を手にしていただきたい!」

 

 

 キィィンと鳴り響く放送音。そして一瞬の間を開け再度湧き上がる監獄内の看守達の声がこの部屋にまで聞こえてくる。

 

 

「ひっ…!?」

「……マズイ」

「これは……やられたね」

 

 

 なるほど、そうくるか。

 

 

「さあ、さあ、さあさあさあさあ!百数人にも及ぶ囚人達が解き放たれましたよ!当然!ヴァルキューレの看守達も追ってくるでしょう!さぁ逃げられるものなら逃げてごらんなさい!逃げられるならさぁ!」

 

 

 最悪の鬼ごっこが開始された。

 

 

 

 

 

「ぐへへへへ!お嬢ちゃんおねーさん達と楽しいことしない?」

「いやーーーー!?!?」

 

 

 全力で廊下を駆け回る私たちの後ろを何十人もの囚人が追いかけてくる。見方を変えればアイドルとか人気者になったような気がしないでもないが、それはそれで嫌だ。あんな柄の悪い奴らに好かれても喜びより恐怖が勝る。

 

 もちろん私たちを追いかけるのはそんな柄の悪い囚人だけではない。騒動をおさめようと私たち3人を取り押さえようとしたり、暴走する囚人達を捕まえようと動く看守達だ。だがその人達も、前者は私たちに逃げ回るついでに叩きのめされ、後者は囚人の波に消えていった。正直いないも同然であった。

 

 

「さ、流石につ、疲れてきた!」

「……ねぇ、コウお姉ちゃん」

「な、なに!?」

「お前そんな体力なかったのか…?」

 

 

 サオリは黙ってろ!こちとら所属してた小隊内で運動神経最下位だぞ!

 ブチィ!とキレながらも神妙な顔立ちで……不安を隠しきれないといった表情でこちらを見上げてくるシエちゃんに走りながらも視線を向ける。

 

 

「お姉ちゃんが……私を狙ってたって、ほんとう?」

「っ……そう、だよ」

 

 

 そうだよな。気になるよな!あのクソケモミミ野郎が。情報屋名乗るんなら顧客情報くらい守れ!あと空気読め!イラつくのはわかるけど私情に駆られんな!

 

 

「そっか……」

「ん?」

 

 

 落ち込むかなぁ!?そりゃそうだよな!裏切られたような者だもんな!そう思っていると、帰ってきたのは存外明るい声色での返事だった。

 

 

「……な、何か言いたいこととかないの?私結構酷いことしようとしてたけど…」

「え?ないよ?だって結局お姉ちゃんは私を助けてくれてるもん。それに、酷いことしようとしてたなんて嘘でしょ?だってお姉ちゃん優しいもん」

「う゛っ……!」

 

 

 嘘です、バリバリ君を売って金儲けしようと企んでましたごめんなさい!流石の私でも、子供の混ざりけのない明るい純粋な笑顔には弱いのだ。

 

 

「………」

「うっ……」

 

 

 横を走るサオリからの視線が怖い。何を考えているのかはわからないけど、多分「裏切りはお前のおはこだろ」とか「私たちは見捨てたのにな」とか「すぐそうやって逃げるんだ」とか思ってるんだろうなぁ……胃が痛い。全部その通りなのだけど…。

 

 

「っ!コウ!まずい、前からもきたぞ」

「な!?」

 

「おらぁよ!考えたんだ!テメェらの逃げ脚がいくら早かろうが挟み撃ちしちまえば意味ねぇってよぉ!!」

「ノォーベル賞はお前のモンだぜぇぇぇぇ!」

「ノーベル賞ってなんだ?」

「しらね」

 

 

 くっそ!正面には馬鹿ども!後方にも馬鹿ども!バカのサンドイッチの完成だ!なんだよ結構考えるじゃねぇか!ヴァルキューレなんかにとっ捕まるような馬鹿どもだと侮っていたが結構やるじゃん!

 いや敵を褒めている場合じゃない。どうする。他に、逃げ道はないのか。

 

 

「ダメだ。ほとんどの通路にロックがかかっている。おそらく情報屋のやつがさっきのとこで弄ったんだろう」

「あの変態ロリコンサディスト野郎…!」

 

 

 ふと、その時だった。

 前後からの騒音とは違う、また別の声がどこからか聞こえてくる。小さかったそれは聞こえにくいながらもだんだんと大きくなり……

 

 

「と、とめろ!」

「奴らを通すな!」

「馬鹿なのか!?」

「うわああ!助けてくれ!」

 

 

「ヒャッハァァァ!バチバチヘルメット団!参!上!」

 

 

 どごーん!と施設の外壁をぶち破り、一台のトラックが前方のバカどもを轢き飛ばしながら突っ込んできた。それも、あまりにもバカみたいな口上に、聞き覚えのある団体の名前を載せて。

 

 

「お!見つけた!おーい!コ……じゃなかった!ノナカ!助けに来たぞ!」

「ボスボス!あんな名乗りあげちゃったら先輩が偽名使ってる意味ないですって!」

「うぇ!?そうじゃん!?」

 

 

 バチバチヘルメット団、団長戦華ヒバナ。そしてその仲間達の乱入。圧倒的ピンチに仲間達が駆けつけてくれる展開は非常に熱いものだ。

 だが、だが!流石に目を逸らして現実逃避したくなった私を責めるものはいないだろう!

 

 

「仲間か?」

「認めたくないけどそう!」

「愉快な人たちですね…」

 

 

 やめて!そんな目で見ないで2人とも!

 

 

「なんで来たの!?」

「今回の仲介人の情報屋は有名だが悪名も高い連中だからな!つてに頼んで調べてみたら悪巧みしてることがわかったんだ!あとあいつの護衛ボコして吐かせた!」

「酷い!?」

「いいから早く乗れ!囚人の数が多すぎる!そもそもこれどういう状況!?こいつら倒していいよな!?そもこれお前がやったの!?」

「違う!囚人敵!この2人救助対象と味方!おけ!?」

「おーけぃ!」

 

 

 ヒバナちゃんが私のGOサインを受け取ると同時に彼女の後輩達がトラックの荷台に設置されたミニガンで囚人達をハチノスにする。ゾンビ映画みたいだ。だがそんな風に感心している場合じゃない。いくらミニガンだろうとこの数の生徒相手にトラックを守り抜くことはできないのだ。早く乗らないとまずい。

 

 

「コウ!手を!」

「ありがとう!サユリちゃん!シエちゃん!早く!」

 

 

 ヒバナの手を取ってトラックに乗り込む。そのまま後ろを走っているはずの彼女達の手を取ろうと振り返るも、そこに彼女達はいなかった。

 

 

「きゃぁ!」

 

 

 その理由にもすぐ気づく。シエちゃんが転んでしまったのだ。足がもつれたのだろう。倒れ込んだシエちゃんは痛そうに足を押さえている。そんな彼女のすぐ後ろにはすでに囚人達の波が迫っている。

 

 だがそんな彼女のピンチに駆けつけるヒーローが1人。そう、サオリちゃんだ。彼女はすぐさま彼女に駆け寄ると彼女を抱えあげ、そしてそのまま─────……ちょ、ま、何をするつもり…!?

 

 

「コウ!受け取れ!」

「え!?ちょ!?ま!?」

「ぴやあああああああああ!?!?!?」

 

 

 投げ飛ばした。

 幼女1人投げ飛ばすとかどんな腕力だとビビり散らかしながらも彼女は曲線を描きながらも見事に私の胸に直撃、私をクッションにしてトラックの荷台に積み込まれた。

 

 だがそうなると、取り残されるのはサオリだ。

 彼女はシエちゃんを投げ飛ばしたのちすぐさま体制を立て直して駆け出すが────

 

 

「コウ!もうダメだ!脱出するぞ!」

「ま、まだサユリが!」

 

 

 だが、すでにミニガンでは押さえきれないほど囚人たちは肉薄しておりこれ以上耐えられないと判断したヒバナちゃんがトラックを発進させる。それでも彼女は飛び乗ろうと走るが、いくらキヴォトス人の運動神経が良くとも人間は車の速さには勝てない。

 

 トラックを掴もうと伸ばされた彼女の手は────

 

 

「サオリ!!!!」

 

 

 空を切ることなく、しっかりと、二度と離さないよう私の手が握りしめた。

 

 

「───っ!コウ…お前…」

「っ!はぁ…はぁ……………サオリ」

 

 

 もう、私は逃げない。

 もう二度と間違った選択肢を選びたくないから。

 

 もう二度と何も失いたくないから。

 

 私は、彼女達から逃げないと、裏切らないと決めたから。

 

 二度と目を逸らさない。

 そう決めたから。

 

 

「これが終わったら、ヒヨリとミサキ。皆んなでいちごクレープを食べに行こう。美味しい店を、知っているんだ」

 

 

 疲れ切って上手く作れない不恰好な笑顔で、彼女に笑いかける。不恰好で、とてもじゃないが綺麗とは思えない笑顔だろう。だけど、それは私の嘘偽りのない。心の奥底からの笑顔だった。

 

 

 ───だが、現実はそんなハッピーエンドで綺麗に締めくくられることはない。

 

 

 

「舐ぁめぇるぅなぁぁぁぁぁ!」

「んな!?」

 

 

 突如私の体に絡みつくワイヤー。衝撃に流され、そのまま後ろを向けばそこには、鬼の形相で私に巻きつけたワイヤーを引っ張る情報屋マインの姿があった。

 

 

「義、義手!?ワイヤー!?」

「仕事をバックれてハッピーエンド!?ふざけるな!そんなことがあっていいわけがない!貴女だけは!貴女だけは道連れにしてあげますよ!」

「くっ、そ!」

 

 

 ワイヤーにかかる力は強力で逃れられず、複雑に絡まったワイヤーもまた金属製で切れそうにない。

 

 私はそのまま、マインとの綱引きに負け、ワイヤーに引っ張られるまま宙を舞って走行するトラックから引きずり下ろされ─────ることはなかった。

 

 

「邪魔をするな」

「なっ!?バカな……ありえな、い」

 

 

 鳴り響く銃声に、銃口から放たれる蒼き軌跡。それは私とマインを繋ぐワイヤーを貫き、そのまま彼女の頭を強く叩きつけた。意識を失った彼女がゴロゴロと転がり、囚人の波に消えていくのが見えた。

 

 そして同時に隣から強く感じた悪寒。

 

 本能が叫んでいた。今すぐこの場から逃げろと。

 

 しかし私の体は鋼鉄のワイヤーに囚われ逃げることなど許されるはずがなく………なぜか冷たく感じ、綺麗なはずなのにどこか恐ろしさを感じるサオリの白い白魚のような手が私の顔を持ち上げる。

 

 

「ようやく会えたな……冬陽コウ」

 

 

 ───もう、逃さない。

 

 

 

 

 ああ、神様。私は無事明日の夜明けを見ることができるのでしょうか。

 

 

 

 

 

『冬陽コウの逃避行』fin




これにて『冬陽コウの逃避行』は完結とさせていただきます。
完全オリジナルストーリーにしてほぼオリキャラだけの今作をここまで読んでいただけた方には感謝しかございません。一次でええやろと思うかと思いますが……いや私も思ったことはありますが、ブルアカの設定と世界観が好きすぎることと、何よりサオリちゃが好きになっちゃって……書きたくなってしまったといいますか……その割にはあまり登場していないのは『推しを自分で書くと解釈違いが殴りかかってくる』現象のせいです。
たくさんの評価、お気に入り、誤字報告などありがとうございました。
おそらくこれからもぼちぼち気が向いたら後日談などを投稿することもあると思いますのでよろしくお願いします。
それと私、有機栽培茶は過去作のキャラをそれとなく登場させたりするタイプの作者ですので、過去作も読んでいただけると嬉しくなって裸踊りします。

どうぞこれからもよろしくお願いします。
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