まず目が覚めて、俺はこれが夢だと気がついた。
なにせ目が覚めて1番に見えるのが黒い大きな星………いや、眼球なのだから。夢だと気が付かない方がおかしい。というかこれが現実であればSAN値チェックものなので夢であってくれと現実逃避している、と言う方が正しいのかもしれないが。
起き上がってあたりを見渡せばボロッボロの荒廃した教会のような部屋が広がっている。バカな私でも一目であれが結構な値打ちものであるとわかるくらい精巧なステンドグラスなど、かつては立派な教会だったことが伺える。
どこで聞いたか。夢ってのは現実で見た光景が映し出されるとか聞いたことがあるが、どうもこの光景に覚えはない。頭上のクソデカ目ん玉なんて尚更だ。周囲の風景は私が昔テレビかなんかで見て忘れているだけかもしれないが、あの目ん玉だけは絶対に見たことがないと言い切れるね。「あ、目ってあんな模様してるんだ」って感想を抱くくらいには見たことがない。
まあ、だから、夢なんだろうと決めつける。
「……で、お前はなんなんだよ」
夢だと自覚しているからか体は自由に動くし、言葉も喋れる。
頭上のそれは私の言葉に何か返事をすることはなく、ただジィッと見つめ続けている。一見不気味に見えるものの、それを瞳だと意識して見れば、なんとも言い難い……少なくとも私に対し負の感情を向けるような目線ではないことがわかる。だからこそもどかしい。さっさと喋れ。それができないのなら瞬きでモールス信号でもやってみせろ。そう言おうと口を開いた瞬間、それは私の視界外から現れた。
「!?!?」
頭上のそれが、殴り飛ばされる。大きさを無視して私と同じくらいの背丈のそれに殴られるという夢特有のトンチキ展開。それによって私はこの状況が夢であると確信した。
視界外から現れたそれは全身包帯ぐるぐる巻きで、不気味な衣装と仮面を身につけて、かろうじて成人女性、大人であろうことが窺える人物だった。それが聞こえないものの何か相手を怒るように喚きながらクソデカ目ん玉を蹴って殴って……あ、殴り返された。どうなってんだそれ。取っ組み合うなやめろやめろ。
くそ!無音なのに、無音なのに光景がうるさい!
私はただ静かに今日の疲れを癒したかっただけなのに。
ああ、もう!
私はかけ出す。拳に怒りを込めながら。
「うるっさい!!!声聞こえねぇけど動きがうっさい!こっちはバイトで疲れてんの!寝かせろ!!!!!!!!!」
あ、私も殴れた。
バコン!私の殴った音だけが聞こえ、目が覚めた。
上下の反転した視界。状況を把握する。ベットからずり落ち、頭から床に転がり落ちている自分。どうやら先ほどの音はその際の音だったらしい。
◇
「ヒバナちゃーん、ご飯できたよー……って、どんな格好してるのさ」
コンコン、とドアがノックされ開かれる。姿を現したのはいつも通り俺を起こしにきたコウだ。彼女の後ろからは「ねむーい」やら「ウィンナーだー!」などの声が聞こえ、朝ご飯のいい匂いも漂ってくる。
俺は戦華ヒバナ。こうして会うのははじめましてだな。いつもコウが世話になってる。今回は俺がこうして記録を書かせてもらうんだが……特に書くようなこともないし、日常を書くことにする。
ここはバチバチヘルメット団本部の元廃ビルだ。シエの店で俺を含むうちの団員が働くようになって得たお金でボロッボロだった廃ビルを買い取って、多少手を加えたこの場所を今は俺たちの拠点にしている。
ちょっと前まではこんな立派な家が手に入るなんて思ってもいなかったから、シエとのコネを結んできたコウには感謝だ。こいつは運がいいのか悪いのか、仕事に行くたびなんらかの事件に巻き込まれることが多い。そのおかげでこうやってたまにいい拾い物をしてくるんだ。俺の中ではコウガチャって呼んでる。
「んぁ……なぁーんか……変な夢見た」
「どんな夢だったの?」
「コウがヘドバンしながらブレイクダンスしてヘッドスピンしてた」
「顔洗ってきたら?」
「そうする」
暗に「寝ぼけてんのかテメェ」と言われた俺は言われるがまま顔を洗って朝ごはんを食べる。今日の当番は……アイツだったか。シエのとこでバイトしてるせいかみんなの作るご飯もだんだんおいしくなっていってる。アイツ、本業はパティシエだけど他の料理も人並み以上に作れるんだよな。助かるけどその才能には嫉妬する。
朝ごはん食べた後の予定は様々だ。学校行く奴もいるし、バイトに行く奴もいる。ヘルメット団としての仕事がない限りそれぞれ自由に行動してる。俺?俺は別に退学処分は受けてないけど行ってないな。たまに気分が乗ったら行くくらい。ゲヘナ生なんてそんなもんだ。
コウの奴は「学生は学校行くべきだと思うけどね…」なんて言ってたが。アイツは変なとこで真面目なんだ。ちなみにコウのやつもそんなこと言いながら学校にはいってない。
まーそれはしょうがないっちゃしょうがない。エデン条約の件があってからアリウス生はトリニティの奴らが受け入れてるって話だが、あの陰湿鳥野郎どもがそんな簡単にテロ起こした奴らを受け入れるたぁ思えない。案の定、そう言ういじめは結構あるらしいしな。それに、コウの場合はアイツの友人だっていうあの4人が指名手配でトリニティに入学しようにもできないから、自分だけ入るわけにもいかない……ってのもあるかもだが。アイツも大変だよなぁ。
「ん、ごちそさまでした」
パンっと手を合わせてご飯を食べ終わった俺はビルをでる。今日の予定は特にない。バイトも入れてないしな。こう言う日は適当にぶらついて適当に不良でもしばいてお小遣いでも稼ぐのが日課だ。
「やっほ。忙しそうだな」
「あ!ヒバナさん!」
「ボスだ!」
「ボスが冷やかしに来た!」
「ボスー!シフト変わってくれー!」
商売繁盛なせいで阿鼻叫喚なシエの店に寄ったり。
「ひぃふぃみぃ…」
「あの……ヒバナさん?いつも私たちに変わって仕事やってくれるのは助かるんですけど……倒した不良から財布抜くのはやめてもらっても……」
「やめたら謝礼金増やしてくれんの?」
「い、いやぁ……それは……その、委員長に聞いてもらっても…」
「え、空崎ヒナ?やだよ。怖いもん」
騒ぎ起こしてた不良懲らしめて風紀委員から小遣いもらったり。
「うわ、この釘いいなぁー!くっそ!今月厳しいのに……100本くらい……」
「お嬢ちゃん大工かい?この釘の良さがわかるとは見る目があるね。どうだいこっちの釘たちも。全部おじさんが作ったんだ。安くしとくよ?こいつで立派な家建ててくれよ!」
「お、助かるぜ。大工じゃねぇけどな。弾はちゃんとこだわらねぇとダメなんだ。粗悪品なんて使ったら暴発しかねない。釘も同じだ」
「た、弾……?お、おじさんが、一本一本丁寧に作った釘を……銃の、弾に……?」
自作した愛銃、ネイルガン用の釘をブラックマーケットで買い漁ったり。
そんなこんなでブラついていればすぐに腹も減って、時計の針は12時を指す。ちょうどお昼の時間だった。
ふと目に入ったのはよく見かけるチェーン店のラーメン屋。いつも安定して美味しいこの店は俺のお気に入りだ。屋台とか、個人経営とか、たまに食べる分には美味しいけれど、結局はこう言う気軽に食べに来れる店が1番なんだよな。
「「醤油ラーメンチャーシュー追加で」」
注文が被った。
俺の声に被せるようにして発せられたその声がした方へ顔を向ければ、そこには普段なかなか会うことができないレアキャラがいた。
真っ黒なスーツに同じく真っ黒なゆで卵みてぇな頭に亀裂が入って変な炎みたいなのがが漏れ出てる怪しい風貌のおっさん。明らか悪役な格好のおっさんだが、意外といいやつだってことを俺は知っている。人は見かけによらないんだぜ。
「お、久しぶりだな。黒服のおっさん」
「クックック……お久しぶりですね。戦華ヒバナさん」
まあこの人の場合は見た目だけじゃなく喋り方とかも直したほうがいいと思うが……。
「相変わらずかってーな!ヒバナでいいって!」
「であれば私のことも黒服、と……」
「だから黒服のおっさんだろ?」
「………クックック」
さっき言った通りこのおっさんは見た目によらずいいやつだ。なんか毎月少なくない量のお小遣いをくれるし物資とかの支援もしてくれる。シエに世話になるまでバチバチヘルメット団が形を保っていられたのも彼のおかげと言える。それに金や物資だけじゃなくいろんな情報や依頼もくれるのだ。前の刑務所での騒動の際情報をくれたのもコイツだったし、その後情報屋から依頼がもらえなくなった際にいろんな依頼を斡旋してくれたのもコイツだ。
「これが今月の支援金です。いつも通り、このカードの中に入っています。他にも物資などで欲しいものがあれば今言ってください」
「お、ありがとよ。いつも思うんだけどさぁ。なんで黒服のおっさんは俺ら助けてくれるんだ?」
「貴方達、ではなく貴方を、ですけどね………そう言う取引をしたんですよ」
「ふーん」
「興味なさそうですね」
「や……チュルチュル……ラーメンが美味しいから……ん、で?その取引相手ってのは誰なんだよ。そいつが俺の恩人ってわけだろ?あ、もちろんおっさんにも感謝してるけどよ」
「ついにただのおっさんに……」
やっぱここのラーメンうまいな……。安いしうまいし、最強か。あ、汁とんだ。あ、おっさんの服についた。やっべ。まあバレないだろ黒服だし。
「クックック……きっとヒバナさんも彼のことは聞いたことがあるでしょう」
「ん?有名人なのか?」
「ええ。特にブラックマーケットでは」
「ふーん?で、誰なの?」
「掃除屋、といえばわかるでしょうか」
「清掃員のおっさんってこと?」
トイレ掃除のプロフェッショナル的なのかな。こう、その人が磨いた後の便座は鏡として使えるレベルで綺麗みたいな。
「……クックック」
「えー、清掃員のおっさんに感謝されるようなことした覚えないんだけど………あ、もしかして惚れられたとかか?」
「クックッkブッホ」
「困っちゃうな。おっさんは対象外っつーか。あ、ご馳走様でした。んじゃ、今度その人にあったら『ごめんなさい』って伝えといてくれ」
「あ、ちょま」
あー、食った食った。次はみんなも誘ってこよう。貸切ってできるのかな。それも電話で聞かないと。
と、まあこんな感じな毎日だ。普段は特に面白味のない日常だが……コウだったら『それが1番なんだよ』だなんて達観したようなこと言うんだろうな。たまには刺激的なことも起きて欲しいが……まあ、俺も、こんな日常が続くことを願ってる。
ちなみにこの後団員に『ボスニンニクくっっさ!!!!』って爆音で叫ばれて泣いた。
黒服
先日の騒動の際ヒバナに情報屋の怪しい動きなどを伝えたりお金に困ってる時に依頼をくれたりする親切なおっさん。流石に全面的に信頼してるわけじゃないけど。(ヒバナ談)
掃除屋との取引で彼女を援助しているだけで、掃除屋が彼女に注目していると言うこと以外でヒバナに興味はない。
掃除屋
ブラックマーケットに名を馳せる有名な傭兵。何でも屋。伝説的存在であったが、便利屋68と戦闘し負けたと言う噂が流れている。
『引き篭もりアーカイブ』及び『絶対にデレない敵役生徒』の登場人物。オリキャラ。
夢の二人(?)組
『絶対にデレない敵役生徒』の登場人物。半オリキャラ化した原作キャラ(?)。