「捕まれ!」
「ひっ!?」
走行する装甲車を強い衝撃が襲う。ここ爆笑ポイントね。
冗談はさておき私たちの部隊が乗っているのは前線に設営された防衛拠点への装甲兵員輸送車。うちの生徒会が───言っていなかったが私が所属しているのは生徒会、前世でいうところの政府にあたる組織である───こんなにも立派なものを持っていたとは驚きだがそんなことに意識を割いている余裕はない。
「前方敵兵多数!これは……包囲されています!」
「このまま突破する!そのまま捕まっていろ蛆虫ども!」
前線行きが決まってやっと逃れられると思ったにも関わらずそのまま小隊長としてついてきやがった教官殿のあいも変わらずうるさい声に取っ手を掴む力を強める。入隊時「貴様らは俺が昇進するための捨て駒だ」だとか言っていたがとことん使い潰すつもりか。送り出すだけ出して自分は後方でぬくぬく、だなんてケースと比べたらどちらがいいのかはわからないが。
車両から伝わる衝撃に耐えながら小窓から外を見ればこちらを取り囲む複数のガスマスクで顔を隠した敵兵と見られる生徒たちが同じく車両でこちらを囲んでいる。
あれは……対戦車ミサイルか!?さっきのはアイツか!直撃したら装甲車とはいえ一発でお釈迦だぞ!殺すきか!?
「なんで…っ!前線が突破されたのか!?」
「そんな情報はない。どうせ敵本体から逸れたゲリラどもだ」
「ゲリラって数じゃないでしょう!?」
敵車両は2……いや3か?確かに逸れで片付けられるような数じゃない。くそ。前線の連中は何をしているんだ。穴を埋めるための補充部隊が現地に着く前に撃破されるなんて笑えない。私だってこんなところで死にたくはない。死場所が泥に塗れた塹壕の中から前線から離れた放棄された旧市街地に変わるだけだとしても。
……いや塹壕の中よりこっちの方がマシか?
「コウ!お前が迎撃しろ!」
「っ!?は、はいぃ!!」
はぁ!?こい、こいつ!?私にやれってのか!?
いますぐにその機械の顔面をぶん殴ってやりたいがそうはいかない。上官殿の命令は絶対だ。そんなことしようとしたらぶん殴られるのはこっちだってのもあるが。
輸送車の上部ハッチを開けて外気に顔を晒す。相当の速度で走っているのだろう。吹き付ける風が容赦なく私の顔を叩きつけてくる。
「あれか…!」
対して我々の後方に張り付く相手の装甲車のハッチから出されるのはクソでかい筒にメカメカしいめっちゃゴツい望遠鏡のようなものがついた物騒な代物。対戦車ミサイルだ。ジャベリンとかいったか。
そんなことはどうでもいい。私に求められていることは銃火器の解説ではなく、あれを狙い撃つことだ。
「よう嬢ちゃん。もう少しデートしたいとこだがうちの新しいボスがうるさいんでね」
「そんなの、初めからお断り…!」
ハッチから顔を出したヤツを慎重に、しかし素早く、相手が引き金を引く前に狙う。狙い撃つはあのごっついスコープからはみ出た相手さんのヘルメット。的は小さい。それに狙いを定める時間だってないに等しい。
だが────
「貴方ならいける。そうでしょ」
愛銃のマーリンはそれに応えるように私の手にずっしりと身を構える。
「フラれちゃった。じゃ、残念だけどお別れね」
「こっちのセリフだよ。それは」
引き金をどちらが先に引いたか。そんなことは知る由もない。が、結果として鋭い銃声が響いた後マーリンの銃弾は相手の防弾メットごと頭をぶち抜き、昏倒。ちょうど相手も引き金を引いていたのだろう。敵さんの装甲車内で射出された対戦車ミサイルは見事ソレを内側から食い破るに至った。
「…っしゃ!」
「気を抜くな!次来るぞ!」
「うわぁ!?」
ガァン!という衝撃音とともに車両が大きく揺れる。と同時にちょうど頭上を風を切る音とともに通り過ぎていく銃弾の数々。機関銃だろうか。ギリギリで車内に引き摺り込まれたために助かったが、どうやら私は蜂の巣一歩手前だったらしい。
「ガキども遠足か?おねーさんたちがいいとこに案内してやるよ」
「余計なお世話だ!」
ギャリギャリギャリと車両を押され耳障りな音が響く。くっそ乱暴に扱いやがって。馬力でこちらの車両が負けているのか徐々に道路の中心からそれ、歩道方向へと押し出されていくのがわかる。馬鹿力が。
「対ショック!」
「りょ、了解!」
小隊長の声とともに頭部を手で守り蹲る形、対ショック姿勢をとる。教科書通り。完璧な姿勢だ。だが、一つ足りなかったとすれば実戦経験だろう。
私がその姿勢をとった瞬間、車両は前方の障害物か何かにぶつかったのか大きく揺れ、天地がひっくり香ったのかと錯覚しかねない感覚を味わう。おそらくあまりの勢いでぶつかったせいで車両が横転してしまったのだろう。いやこの場合は縦転か?とにかく、ひっくり返ってしまった車。そしてその勢いのまま舌を噛んだ。痛い。いくら体が前世より丈夫とはいえ痛いものは痛い。ちぎれているのではないかとすら思ってしまう。
が、そんなことを確認する余裕などあるはずがない。
「舌噛んでる余裕があるならさっさと出て来い!」
「ぐぇっ!?」
「テメェらも早くしろ!車両から退避!急げ!」
「は!」
首根っこを小隊長に引きずられ車両から降ろされたと思えばどこから引火したのかそれはあっという間に燃え広がり鼓膜を破られかねないほどの爆音を立てて弾け飛ぶ。眼前に届きかけたその炎が肌をチリチリと焼く。
「ひぃっ!」
「車両を盾にして後退!アイナ、貴様が殿だ!残りは俺について来い!」
ふざけてる。なぜ。どうしてこうなった。
私は、私はただそこそこの、人並みの幸せを求めただけだった。何かを求めすぎたというわけじゃない。他人にだって親切に接した。年上に席を譲るなんて当たり前のようにやっていた。信号無視だとか未成年飲酒だとか、禁止されていることだってしていない。自身が幸せになるための努力だって欠かさなかった。人一倍勉強していた自身はあるし、体だって鍛えていた。親や人の期待に答えられるように頑張ってきた。
こっちにきてからだってそうだ。自分のできる範囲で他人にも手を差し伸べてきた。一度折られたにも関わらずそこそこの未来を目指して努力を積み上げてきた。
「弾幕を張りながら後退!薄いぞ!敵が顔を出す隙を与えるな!」
「くそ!これでもくら、え゛っ」
「マユ!?マユがぶっ倒れたー!!」
「狙撃手だ!見えるか!?」
「見えません!」
「眼孔にビー玉でも詰めているのか!?貸せ!」
普通のことをやってきた。普通以上を目指した。普通の幸せを目指してだ。なのに、なのにだ。ふざけるな。ふざけるなよ。どうして私がここまでされなきゃいけないんだ!
ふざけやがってふざけやがってふざけやがって!!!
私が何をした!?何か悪いことをしたかな!?してないよな!?そのはずだ!!あまりにも理不尽だろう!?理不尽だ!理不尽極まりない!許せない!許せないよなぁ!!!でてこい!出て来いよ!私をこんな目に合わせたやつ!いるんだろ!?いるはずだ!じゃなきゃ、じゃなきゃおかしいだろう!?理由が!原因がないと!こんな理不尽な!あって、あっていいはずが!
「ひぃぃ!きてるきてるきてる!」
「弾幕を張れ!」
「無理です出たら狙撃手がーー!!!」
「うぇ……は、吐き気が……」
……ないのか?
じゃあ、私は、俺は、何に怒ればいい?何を後悔すればいい?何を……
「コウ!」
「……」
「冬陽コウ!!」
「っ!?ひゃ、はい!!」
「正面の廃ビルの5階!観測手、狙撃手どちらでもいい!お前が撃て!」
「は、はい!?む、むr」
「できなければ全滅だ!できるな!!」
ああ、理不尽だ。
なんで。どうして。どうして私ばかり!
「どうしてこんな目に……!」